159.狙撃手とケイオスドラゴンの最期
レイドボスのラストアタック。
それはあらゆるプレイヤーが望み欲する最高の栄誉の一つである。
何故か?
理由は単純だ。
レイドボスにトドメを刺したプレイヤーは、ラストアタックアイテムを得られる権利を有するからである。
俺は以前のペンタくんバッジを集めようイベントで、極めて幸運にも、レイドボスのジャイアントイノシシのラストアタックを取った。
そして得た頭蓋骨で、強力な白銀のライフルを作成できたのだ。
振り返ってみれば、俺にとってあの出来事は一番の幸運だったといえよう。
レイドボスはそう頻繁に出没するモンスターではない。
それこそ各地のエリアボスより何倍も希少なモンスターである。
少なくとも俺は、公式イベント時以外にレイドボスを見かけたことはない。
『ゴアアアアアアアアアア!!』
ついに正門を粉砕したケイオスドラゴンは、始まりの街へと一歩を踏み入れる。
しかしそのHPゲージは残り10分の1ほど。
もはや瀕死だ。
だからこそ皆が狙っている。
万を超えるプレイヤーたちが、欲望に目を光らせて狙っている。
自らの手であの巨体にトドメを刺す瞬間を、虎視眈々とだ。
無論、俺も同様だ。
最後にワイバーンを撃ち落とし、ついでに遠くのプレイヤーを適当に狙撃してから、ドラゴンの頭へと銃口を向ける。
ヘッドショットならば多少は狙いやすいだろう。
とはいえレイドボスのラストアタックは、ほぼ運だ。
何せ今回は万を超えるプレイヤー軍が、一斉に攻撃する。
個人の攻撃力の多寡など誤差に過ぎない。
幸運の女神(たぶん運営のことだ)に微笑まれた一人だけが勝者となるのだ。
『ゴアアアアアアアアアア!!』
苦悶の雄叫びを撒き散らすケイオスドラゴン。
めちゃくちゃに暴れる爪や尻尾に巻き込まれ、不運なプレイヤーたちが消滅する。
そのうち復活するにしても、奴らはもう間に合うまい。
不運なことだ。
そして、正門を破壊して数多の勇者を屠った凶暴なドラゴンも、ついに限界を迎えた。
HPゲージはもう残量が目視できないほど僅かである。
欲に目が眩んだ亡者たちが、我先にとドラゴンに群がる。
まるでサバンナでライオンの死骸に集るハイエナのごとくといえよう。
大変醜い。
人間ああはなりたくないものだ。
俺は雲霞に集られるドラゴンの頭に照準を合わせ――トリガーを引いた。
ターン。
そして同時に、ズシィィン!と地響きが鳴り、ケイオスドラゴンの巨体が地に倒れ伏した。
どうだ?
倒したか?
タイミングとしては、俺が攻撃した瞬間に討伐したように見えたが・・・。
こればかりは狙ってトドメを刺せるものではない。
【レイドボス:ケイオスドラゴンを討伐しました】
運営のアナウンスが表示される。
俺はすかさずアイテム欄を確認する。
他のプレイヤーたちも一斉に同じことをしている。
アイテム欄に、ラストアタックアイテムは。
・・・。
・・・。
・・・。
ない。
俺は膝をついた。
なかった。
無念である。
だがまあ、確率を考えれば当然だ。
なくて当たり前である。
残念だが気を取り直そう。
「うおおおお! やった! やったぜええええ! ざまあみろおおおお!!」
何かあっちのほうで、一人のプレイヤーがガッツポーズを取っていた。
全身で喜びを表現している。
もしやラストアタックアイテムを入手したのだろうか?
そうかおめでとう。
しかしアホなの?
そのプレイヤーはガッツポーズをしたまま、即座にグシャアと他プレイヤーに叩き潰されて死んだ。
「ぬおおおお! 俺のだああああ!」
「ふざけんな俺のだああ!」
「よこせ雑魚ども!!」
「クソが死ねええ!」
あのへんで阿鼻叫喚の虐殺が始まっていた。
ラストアタックアイテムはPKされるとドロップするわけで、そりゃああなるよ。
もはや誰が持っているかもわからない地獄絵図が展開されており、俺は巻き込まれないようにそっとその場を離れた。
あっ、でも一人くらい殺っておこう。
ターン。
残念、ラストアタックアイテムは手に入らなかった。




