156.狙撃手、精悍なPKKプレイヤーと戦う
ふはははははは!!
俺は高揚していた。
ノリノリでPKを続けていた。
トリガーを引く。
引く。
とにかく引く。
多少外れても構わない。
プレイヤーがごった返しているおかげで、とにかく撃てば誰かしらに(あるいはモンスターに)当たるのだ。
入れ食いとはこのことか。
PKプレイヤーたちが目の色を変えている理由がよくわかる。
俺も目の色を変えているからな。
ターン。
ターン。
ターン。
他の武器ではこうはいかない。
キロ単位の超遠距離攻撃を可能とするライフルにしかできない芸当だ。
まあライフルの唯一にして最大の強みが射程なのだから、逆にこうしたプレイができないとただのゴミ武器に成り下がるわけだが。
ともかく俺は草原エリアの丘から、1km以上離れた正門目掛けてひたすら狙撃を繰り返した。
プレイヤー軍対モンスター軍の戦闘は、いよいよ激しさを増していた。
万を超えるプレイヤー軍に対し、モンスターは数千の群れが断続的に押し寄せている。
最初は初心者でも倒せるようなハムスターの群れだったが、狼やイノシシ、シカなど徐々に強さが上がり、今ではアイアンゴーレムの大群がのっしのっしと正門に殺到している。
ゴーレムは総じて動きが鈍いが、代わりに攻撃力と防御力が高い。
そして物理攻撃に耐性があることが多い。
それが千匹以上だ。
いかなプレイヤー軍が万を超えていても、そうやすやすと駆逐できるわけがない。
それにPK軍とPKK軍は、モンスター討伐には全く貢献していないからな。
あいつらは完全にイベントそっちのけで、プレイヤー対プレイヤーという不毛な争いを続けている。
やれやれ、これだから脳みそまで殺戮に染まったバーサーカーどもは困る。
何かの拍子に正門が突破されたらどうするつもりだ?
俺はそんなことを考えながら、一般プレイヤーどもを延々とキルし続けた。
アイテム欄にはガッポガッポとアイテムが溜まっている。
美味すぎる。
笑いが止まらん。
何だこの神イベントは。運営様ありがとう。
まあ、とはいえ。
スコープ越しに見える一般プレイヤーたちの表情は、皆生き生きとしている。
彼らは彼らで、防衛プレイを楽しんでいるのだ。
いや、本来的には彼らのような楽しみ方が正当であり、俺のような楽しみ方は邪道であろうが。
ちなみに生産職も思ったより活躍している。
各所に設置された馬防柵などはバラバラに破壊されている。
破壊されているということは、つまり役に立ったということだ。
それに地雷もところどころで爆発してはモンスターを吹き飛ばしている。
むしろ果敢な生産職は前線に出張って、自ら爆弾を投擲して奮戦している。
なるほど、戦闘能力はなくとも攻撃アイテムを放り投げれば多少の戦力にはなるわけか。
生産職も侮れんな。
しかし・・・。
俺はふと気になった。
このモンスター襲撃イベントは、いったいどういったストーリーなのだろうか?
というのもこの運営は、やたらと細かいところにまでこだわりを持つ運営だ。
たかがエルフの服という一アイテムにまでバックストーリーを付加させているくらいだからな。
だからこの襲撃イベントも、何も考えずにただ押し寄せてくるモンスターを倒しましょう、という類のものではない・・・というのが俺の考えだ。
何らかのストーリー性があるイベントではなかろうか?
だとすればどんなストーリーか?
まあ気にはなるが、それはイベント後半でおいおい判明するだろう。
今はそれより、そろそろジャガイモの群れにしか見えなくなってきたプレイヤーどもを殺戮することに注力すべきだ。
こんな機会は滅多にないしな。
・・・ん?
スコープの端に何か映ったような?
俺は身を起こして、肉眼で前方を注視する。
む、マズい。
一人の男がこちらに向かってきている。
ごつい鎧に身を包んだ精悍な男だ。
モーニングスターを振りかざしている。
雰囲気でわかる。
奴は百戦錬磨のPKKプレイヤーだ。
俺の存在に気づいて、外道なPKは許しておかんと正義感を発揮しているのだ。
接近されたら負けである。
俺は素早く銃口を男に向けると、トリガーを引いた。
ターン。
――外れた!
奴は脳みそまで筋肉に支配された猪武者ではなく、飛び道具を持つ人間に対してジグザグ移動で距離を詰めるという賢い脳みそを持っていた。
俺の頬を汗が伝う。
このままではマズい。
残り500mくらいしかない。
逃げるか?
いやだが、ここは見晴らしのいい草原エリアだ。
鈍足の俺が逃げ切れる公算は低い。
ならば攻撃だ。
接近される前にあのベテランPKKプレイヤーを仕留めるのだ。
ターン!
・・・また外れた。
駄目だ、大きくジグザグ移動をされるとヘッドショットでは埒が明かない。
奴はスナイパーとの戦い方を熟知している。
ならば――。
ターン!
ガイン!!
ごつい鎧に銃弾が命中し、男の表情が歪む。
HPゲージが4分の1ほど減少する。
よし。無理にヘッドショットを狙わず、ボディなら命中する。
しかし頭ではないので威力が低い。
やはりヘッドショットのダメージ倍率は偉大だ。
男が接近する。
俺はもう一発ボディにぶち込み、男のHPゲージが半分になる。
あと2発。
しかしここからだ。
男が近接距離に踏み込んできた。
あのトゲトゲしたごついモーニングスターで殴られれば顔面が陥没すること請け合いである。
死にたくはない。
「プレイヤーたちの頭が次々と弾けた! やはり貴様か97位! いざ尋常に勝負だ!」
精悍な男が吠える。
俺は覚悟を決めた。
いいぞ、やってやるぞPKKプレイヤー。
俺とてPKプレイヤーの端くれ。
背中の傷は戦士の恥。
一騎打ちだ。
男がモーニングスターを振りかぶる。
俺はエルフの服のステルスを発動し、透明になる。
「何・・・!?」
男が動揺する。
俺はその間にこそこそと男の横を抜けて、背後に回り込む。
ライフルのクールタイムはあと少し・・・よし、開けた。
ステルスが解除され、俺の姿が露わになる。
「・・・そこか!」
男が野太い声で叫び、振り返る。
だが遅い。
俺は銃口を男の頭に向け、トリガーを引く。
「させぬ」
男は咄嗟に反応して横ステップ。
銃弾は男の肩に命中し、HPゲージを減少させた。
あと一発で倒せることは間違いない。
だが。
俺は胸中で歯噛みをした。
今の一発はヘッドショットで決めたかった。
ライフルは再びクールタイムに入った。
どうにかしてあと一発を捻り出さなければならない。
男がモーニングスターを振りかぶる。
俺は大きくバックステップをして距離を取る。
ふむ。
この男は大きな鈍器とごつい鎧装備だけあって、動きは鈍いようだ。
俺は考えを改めた。
これは行ける。
このまま逃げ回って距離を取り続ければ、あのノロマは一生追いつけまい。
あとはライフルのクールタイムが明ければズドンだ。
この男には速さが足りなかった。
残念だったな誰とも知らぬPKKプレイヤーよ。
パワー型はスピード型に勝てないことを学習しながらあの世に旅立つがいい。
「ぬうん!」
男がモーニングスターを振り回した。
だが甘い。
俺は充分に距離を取っている。
わかるか?
いかなごついトゲトゲ武器といえど、当たらなければ痛くないんだよ。
これがパワー型の限界よ。
じゃあなノロマな亀さん。タァァイムリミットだ。
「エクステンドスウィング」
メキャァ!!
モーニングスターが2倍くらいに伸び、俺は顔面陥没して死んだ。




