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105/166

105.狙撃手はよく狙われるようになった

俺はソロで狩りをすべく、久しぶりにシカ山に赴いていた。

最近はリコッチと一緒のことが多かったが、何か目的がない限り、俺は基本的にソロプレイが主体だ。


思えばこのシカ山もずいぶん久しぶりの気がする。

遠くにシカやハゲワシと戦っているプレイヤーがいる。

おあつらえ向きだ。

モンスターとプレイヤーを両方いただくことにしよう。


「あっ、97位がいたぞ!」


突然の声に俺が振り返ると、PKプレイヤーと思しき数人がこっちに突進してきた。

マズい。

相手がPKかPKKかは知らないが、いずれにせよいきなり見つかるとは不運と言う他ない。

俺は慌てて逃げ出すが、鈍足なので程なくして追いつかれる。


「くたばれ97位!」


あっさりと惨殺された。




・・・運がなかったが、まあこういうこともある。

PKとは一方的なものではなく、することもあれば当然されることもある。

気を取り直してもう一度シカ山に足を運んだ。


先程とは別の狩場で、岩陰に身を潜める。

やはり狙うのはモンスターとプレイヤーの漁夫の利だ。

だが――。


「あっ、こんなところに97位がいるぞ!」

「誰だ?」

「街までドラゴンをトレインしたカスだよ」

「何! 許せん!」


うぐぐぐぐ!

俺は逃げながらライフルをぶっ放して応戦するが、多勢に無勢で勝てるはずもなく無残に斬り殺された。




今日はツイていないな・・・。

狩りはやめてのどかな湖の別荘に癒やされにいこう。

まあこんな日もある。

人生焦ってもいいことはないのだ。


森林エリアに足を踏み入れる。

ここは相変わらず見通しがよくないな。

とはいえ嫌いな場所じゃない。

森の中というのは、何というかこう・・・自然の息吹を感じられるというか、心が落ち着くものだ。


「おい、みんなあそこだ! 97位のおっさんがいるぞ!」

「本当だ! やっちまえ!」

「うおおおおお!」


おかしいだろ!?

いったい何が起きているんだ。

俺は慌てて逃げ出すが、ソロプレイヤーの悲しき宿命。

戦いとは数なのだ。


「リア充死すべし!」


ボコられて死んだ。




******




「そういうわけで緊急会議を始める」


場所は別荘。

俺の対面にはクッコロが困った顔で座っている。


「何で私が呼ばれたんだ・・・?」

「暇そうだったからな」

「確かにやることはなかったが・・・リコッチはどうしたんだ?」

「今日は部署の送別会とかでログインしないそうだ」

「そうなのか」


クッコロは周囲をきょろきょろと見回すと、口元を綻ばせた。


「ケンタロ、いい場所に家を建てたな。素敵な別荘だ」

「リコッチの趣味がいいんだ」

「謙遜するな。2人の愛の結晶だ」


恥ずかしいことを臆面もなく言うクッコロ。

まあ・・・褒めてくれるのは悪い気はしない。


「それでケンタロ、相談事とは?」

「ああ。実は、最近よく狙われている気がする」

「誰に?」

「不特定多数のプレイヤーにだ。以前よりも間違いなく、俺とわかって殺しに来るプレイヤーが増えている」

「まあそれは不思議じゃないだろう」


当たり前の顔で告げるクッコロ。

俺は嫌そうな顔をする。

心当たりがなくはないからだ。


「俺が武闘大会で準優勝して知名度が上がったからか?」

「そうなんだが、たぶんケンタロが考えてるよりも遥かに有名になってる。注目プレイヤーと言ってもいい」

「・・・そうなのか?」


あれだけ多くのプレイヤーが集う公式イベントで準優勝。

そりゃあ知名度も上がるだろうとは思っていたが、クッコロの言い方ではそれだけではないらしい。


「私もPKKギルドに所属してるから知ってるが、ケンタロは今やPKプレイヤーとPKKプレイヤーの両方からかなり注目されてる」

「何故だ?」

「注目される要素が揃いすぎてるからだ」


クッコロが説明してくれるところによると、こういうことらしい。

まず前々回のペンタくんバッジを集めるイベントで、スナイパーライフルが初のランクイン。

それもしばらく前まで初心者だったおっさんがだ。

この時点ですでにそこそこ注目株だった。


そこにギルド戦で負け確かと思われていたジャッティを見事勝利に導いた。

しかも誰もがゴミだと思っていたライフルの力を遺憾なく見せつけてだ。

難易度の高いソロプレイで、なお難易度の高いライフルで、的確にPKプレイを続けるおっさん。

注目度はうなぎのぼりだ。


そこに来て前回の武闘大会だ。

ただの準優勝ではなく、戦力差、相性の不利を覆しての準優勝。

なおかつ有名プレイヤーのリコッチとタッグを組んでおり、仲の良さを存分に見せつけていた。


極めつけはエリアボスのドラゴンを、遠路はるばる火山からトレインするという暴挙で一躍有名人。

ここに至ってはこのゲームで最も注目されているPKプレイヤーの一人になっていても不思議ではない。


「・・・ということだ」


クッコロの説明に、俺は難しい顔をして腕を組む。

俺としては武闘大会で準優勝したからちょっと目をつけられた、程度に考えていたのだが・・・どうもそんなレベルではないようだ。

このゲームで最も注目されているPKプレイヤーの一人、というのはあくまでクッコロの所感なので、そのまま鵜呑みにするわけではない。

しかし予想以上に知名度が上がってしまったのは事実のようだ。


「・・・」


俺は眉間にシワを寄せる。

正直あまり面白い話ではない。


普通のプレイヤーなら有名になれば喜ぶところだろうが、俺のようなソロ活動をするPKプレイヤーはそうではない。

知名度が上がるということは手の内がバレるということで、かつ狙われる確率も格段に上がるということだ。

そして貧弱で鈍足のスナイパーは、狙われたらすぐ死ぬ。

取りも直さず俺のPK活動に支障が出るということだ。


「クッコロ、俺の知名度を下げる方法はないか? 可及的速やかにだ」

「そんなのあるわけないだろう・・・」


まあな。

そりゃそうだ。


人の噂も75日という言葉がある。

つまり俺がしばらく何も活動をしなければ、自然と俺のことは話題に上がらなくなるはずだ。

しかし知名度が上がったから休止するというのはあまりに馬鹿らしい。

俺はこのゲームにハマっているし、自分の意思に逆らって活動をやめる気はさらさらない。


となればゲーム的な解決方法を模索すべきだ。

ポジティブに考えれば、それも楽しみの一環といえなくもない。


・・・。

・・・。

・・・。


俺は思考する。

これまでより慎重に行動すれば、他プレイヤーに発見されてキルされる確率は下がるかもしれないが、俺の狩り効率も極端に下がることになる。

それに慎重な行動が根本的な解決になるわけでもない。

もっと何か・・・例えばアイテム等で、他プレイヤーの急襲を凌げるようなものがあれば。


「おいクッコロ、そのクローゼットはミミックだから触るな」

「ひい!?」


暇を持て余してうろうろするクッコロに注意する。

クッコロはびくっとして大人しく席に戻ってきた。

まあフレンドは警備アイテムの対象外なんだけどな。


「そうだな・・・。クッコロ、短時間でもいいから自分をステルスにするようなアイテムはないか?」


俺の言葉にクッコロが考え込む。

大体どのRPGにも使用者を透明にするアイテムというのが出てくる。

杖だったり服だったりマントだったり、あるいはポーションだったりと色々だ。


「確かエルフの服という超レアアイテムがあったと思う。ステルスが発動できるようになる」

「いかにもな名前だな。シーフのステルススキルと似たような仕様なのか?」

「ああ。数秒たつか、攻撃やアイテム、スキルの使用でステルスが解除される仕様だった」

「・・・ほしいな」


すごくほしい。

数秒とはいえステルス状態になれれば、非道なPK・PKKプレイヤーたちに狙われてもやり過ごせる確率が格段に上がる。

それに加えて狙撃対象に気づかれずにスナイプする用途にも使える。


「しかし・・・。そんなステルスになれる防具なんて、凄まじく人気があるんじゃないか?」

「そうでもない。ケンタロのような特殊なプレイスタイルのプレイヤーにはマッチしてると思うが・・・」

「何か問題があるのか?」

「ドロップ率が低いのと手間がかかりすぎるのと・・・何より防御力がゼロなんだ」

「あー・・・」


なるほど。

俺は遠距離からの狙撃に全てを賭けて、接近されたら即死というスタイルだから防御力は関係ない。

今でさえ布の服だからな。

しかし他のプレイヤーはそうもいくまい。

ライフルの次に射程の長い弓使いでもモンスターからの攻撃は受けるわけで、防御力ゼロは厳しいだろう。


だが俺のプレイスタイルにはベストマッチしている防具だ。

ほしい。

うむ、すごくほしい。

今の俺に必要なのはこれだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 良かった、家とドラゴンを買ったらなんとかなる!にする運営はいなかった! ほんと、ダンジョンや街まで持ち込めたら大事になりますが、家に帰ったらドラゴンの支援が得られるってそれも強すぎですね。……
[一言] お疲れ様です! ついにお家(とトラップ)が出来上がりました!いちゃつきました!祝ってやる!祝ってやる!!でもおっさんはPKだ!一緒に遊ぼうよ…という住民の皆様の声が聞こえてきそうです。 警備…
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