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予報によると、天気は今夜あたりから崩れるらしい。今のところその気配すら感じないが、降ればじつに十三日ぶりとなる。そんな空模様とは関係なく、梅本は部屋でゴロゴロしていた。
座布団を二つ折りにして枕にしている。テレビはあるが、今は点いていない。木目の天井をただ見つめている。
天井の端にできたシミは、上の住人が排水管を詰まらせたときの名残りだ。見ようによっては、少年の泣き顔に見えないこともない。漏れじたいは、とうに修繕されていた。ちなみに、そのシミが日々大きくなってきている……なんてオカルトめいた話はなかった。
この三日間、梅本の携帯は鳴らなかった。
こうなると、前のトラブルが尾を引いているのでは、と疑ってしまう自分が出てくる。ただ思い返してみれば、今までも三、四日連絡がなかったことは、いくらでもあった。やはり独り部屋で暇をしていることが、思考をマイナスへマイナスへと誘うのだ、と思う。
梅本は、いろんな会社へ派遣されるうちに「うちで正社員としてやってみないか」と、スカウトしてくる社長が現れたら、どう答えようか……と想像することがある。実際に、長期派遣の者の中に前例がないわけではない。(原則として引き抜きは禁じられているが)
しかし、梅本は所詮ド短期。その可能性は極めて薄いと思われる。今までもそんな場面を想像しては、消してきた。
――これを機会に、そろそろハローワーク通いを再開させるか。
やはり自分から積極的に動かなければ、誰もお金など持ってきてくれないのだ。
時刻は十五時を過ぎようとしている。
ハローワークは、たしか十七時十五分までだったはず。窓口が混雑していれば、自分の番なんて回ってこないだろう。とりあえず行くだけ行って雰囲気を味わい、今日から通い始めるぞ、という意思確認をする。たとえ端末を操作して、求人情報を眺めるだけに終わったとしても、そこに前進はある、と自分の考えに酔ってみた。梅本は身支度をパッと済ませて、部屋を出た。
ハローワークまでは市街地より、遠回りして農道をかっ飛ばして行ったほうが早い。
しかし、それはあくまでエイプがあったら、の話。せめて自転車くらいは買おうかと考えながら、アーケードの商店街を歩いた。
そこを抜け、国道とは逆へ折れる。後はまっすぐ、まっすぐ、ガソリンスタンドがあり、板金修理のチェーン店があり、塗料の店があり……。梅本は三十分ほど歩いて挫折した。
そこからまた戻ってアーケード街へ。
カツオ出汁の深い香りに誘われて、うどん屋へ入った。てんぷらうどんの付いた定食を注文して、先に割り箸を準備しておく。今朝に、お茶漬けをさらさらっといただいてから、八時間ぶりの食事だった。ハローワークは、バイクか自転車を手に入れてからにしようと決意するのだった。
そうして、帰宅したときには全身から汗が噴き出ていた。
シャワーを浴びてから、コーヒーを淹れる。スマホをチェックすると、留守電が一件入っていた。着信は登録されていない番号だ。
――誰だ? 仕事の依頼か?
兎にも角にも留守電を聞く。
警察からだった。
梅本は、ローテーブルの上にポンッと投げたように置いてある、エイプのキーをつかんでいた。スマホを耳に当てながら立ち上がった。
(……それでですね。自走は困難な状態ですので……)
ガスコンロの前でガクッと膝が折れた。
(身分証明書が……。とりあえず、取りに来られる前にこちらへご一報ください……)
梅本はパンツを履いてから、留守電をもう一度聞いた。




