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エイプをカスタムしたショップ(藤木モータース)は、個人経営の小さなバイク屋。このアパートからはさほど遠くない所にある。
店主の藤木自らが、ライダーとしてレース活動にのめり込んでいるので、彼はしばしば店を空ける。もとい、事務兼電話番の奥さんをも伴つので、店じたいを休業日とすることが多々あった。
梅本のエイプは、そんな店主の自信作だ。
百㏄だったエンジンは百十五までボアアップされていて、他にも藤木作のワンオフパーツが随所に散りばめられている。好きな人が見れば、すぐに気づくような仕様のバイクだった。
藤木は(もちろん商売なのだが)苦労した分、エイプが盗難にあったと知ったとき、梅本同様に、いや、それ以上に憤慨していた。仕事仲間に情報提供を募り積極的に動く姿は、アフターサービスの域を出ていた。
梅本は留守電を消去した後、すぐ藤木モータースへ電話した。
「梅本です。――エイプが見つかったらしいんすよ。今、警察から電話があったんですけどね」
(おぉぉ、そうかぁ!)
「それが、自走できない状態らしいんすよ。俺もまだ見に行ってないんで、何とも言ないんすけど」
(そうかぁ……。それでバイクは警察署に?)
「らしいです。それで、今から取り行こうと思ってるんすけど、積車って出してもらえますかね?」
(大丈夫だよ。よし、わかった。とりあえず引き取りに行こうか)
梅本は少しホッとした。
「はい、お願いします」
藤木と警察署で落ち合う算段をして、すぐに部屋を出た。
梅本は警察署へ向かいながら、着信履歴から折り返した。電話では、持参してほしい物を言われたが、梅本はいつものリュックを持ってきている。中に筆記用具、免許証と印鑑が常備してあるので、引き返す必要はなかった。
そして到着すると、署の裏手にあるガレージに案内された。
カスタムカーと族車の違いがわからないのか、前を行く婦人警官は終始態度が悪かった。梅本が書類を後回しにして、先にバイクを見たいと言ったことで、拗ねているのかもしれない。
シャッターを開けて電気が点くと、けっこうな数のバイクが並んでいた。派手なバイクばかりで圧巻だった。梅本が、すべて押収品なのか、と尋ねても、婦人警官はそれを無視した。バインダーの書類をちょいちょいとめくって「そこ小さいやつね」と言った。
梅本はエイプを目の当たりにして言葉を失った。
ミラーや指示器など突起物はすでになく、ハンドルが車体にピタリと沿うように曲がっていた。フロントフォークはねじ曲がり、その先の前輪はブレーキホースだけで辛うじて繋がっていた。全体的に丸くなってしまった物体だが、タンクのカラーリングや特注のシートは、確かに梅本のエイプだった。
「梅本くん」と声かけられて、ハッとして振り返った。
藤木が男の警官と一緒に、ガレージの出入り口で立っていた。
婦人警官が一礼して戻っていき、代わって藤木の隣にいた警官が状況を話した。
発見したのは米農家の男性で、エイプは田んぼへ突き刺さすように放置されていた。通報を受けた駐在が駆け付けて調べたところ、すぐ傍を走る道路のガードレールに傷があったということだ。
転倒したエイプがガードレールの下をくぐり、ほぼ四メートルの法面を転がって、さらには用水路を飛び越え田んぼに落下した、と。
犯人はわかっていない。近場にある峠道を乗り回していることから、売り目的の窃盗グループではないようだ、と報告書にあった。
警官は、無言でエイプを見下ろしている梅本を待っているようだった。
「梅本くん、持って帰ろうか」
藤木が肩に手を置いて、言った。梅本が呆けてうなずくと「じゃあ積んでおくから、手続きを済ましちゃいなよ」と背中を叩いた。
梅本が書類に判を捺いて出てくると、少し離れた所に停まっていた軽トラのヘッドライトが点灯した。
軽トラの荷台には鉄の塊が載っていた。
おそらく廃棄処分になるだろう。それにもかかわらず、スタンドを立てて、きちんと要所をロープで縛ってあった。まるで車検の依頼車を運ぶような丁寧な扱われ方に、梅本は泣けてきた。
「徒歩だろ? 送っていくよ」
藤木が運転席から腕を出して招いている。
いつの間にか雨が降り出していた。




