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梅本は前回と同じ自販機の横にバイクを停めて、トコトコと公園のフェンス沿いに歩いていった。
被害者宅前に、あきらかにそれとわかる車両が一台と、覆面パトカーが一台停まっている。電気は点いているものの、その周囲も含めて静かなものだった。
野次馬の数は少ない。早朝の四時すぎ。こんな時刻なので納得がいく。他に家の中から覗いている者もいるだろうが、外に出てきてまでして見物しているのは、中高生くらいの男子が四人。
あれから四十分しか経っていないのに。
梅本は捜査の知識に明るくない。なので、鑑識係が調べ終わって引き上げたにしては早すぎる。バイク窃盗未遂と、器物破損だけで捜査が進められているのか、と考えた。それならそれで都合がいいのだが……。
梅本はフェンスの切れ目から公園に入り、暗がりにもかかわらず難なくスコップを見つけた。まったくの手付かずにホッと胸をなで下ろした。しかし、ブランコに揺られながらボソボソと喋っていた二人が、侵入者へ怪訝な視線を投げているので、梅本は回収しづらかった。
梅本は警戒を解こうと思い、野次馬の一人として二人に話しかけた。
「おぉ警察かぁ。何か事件でもあったの? もしかして強盗とか?」
ブランコの二人が互いに視線を交わし、一人が答えた。
「バイク泥棒らしいっすよ」
「へえ、バイクをパクられるなんて、そいつ最悪だな」
二人の表情がフッと緩んだ。
「なんか、未遂に終わったらしぃんすけど、倒されたとか、壊されたとかって……」
「へぇそうなの」
「あそこに住んでる兄弟が、両方ともちょっとしたヤンキーで、ヤバい友達とかが多いんすよ」
少年たちはあの家の住人を嫌っているのか、嬉しそうに話す。制服警官は毎日のように見かけるが、刑事に会えると少年の心はワクワクするとか?
「そうそう、夜中でもしょっちゅう騒いでることがあるし……。それで、たぶん敵対してるチームとかの仕業だろって」
「へぇ」
梅本自身が、そういう展開になっていれば楽だな、と思っていたストーリーを彼らの口から聞く。面白いと思った。
梅本はもう少し近くで見ようという素振りで、フェンス際まで行く。その際、ちょっとしゃがんでスコップを拾った。慌てず焦らず、何気ない仕草で彼らからの死角のうちにそれをウエストポーチへ入れ、そのまま被害者宅を正面にして、フェンスへ指をかけた。
しばらくそうしてから、少年たちに振り返った。
「ここからじゃ、何やってんだかわかんないなぁ」
ブランコに立ち上がっていた一人が答える。
「でも、あんま近づかないほうがいいっすよ。さっき俺らもポリに怒られたし、な?」
「そうそう。明日も学校だろとか、帰って寝ろとか言われた」
梅本はプッと噴いてうなずいた。
「まぁこんな時間だしね。――それにしてもわからないんじゃ面白くも何ともないな」
言いながら、道路に落ちているはずの空薬莢を、フェンス越しに捜しながら移動していった。が、暗すぎる。見つけられなかった。公園から出て、道路に這いつくばって探せば見つかるだろうか。
――まさかこいつらの前で、そんな目立つことをするわけにはいかないか。
「ふ~ん、物騒なこった」
別の位置から、熱心に動画を撮っている二人にも一瞥をくれ、梅本はバイクへ戻っていった。
それからバイクで五分ほど走った所に、公衆電話を見つけた。ちゃんとスマホのナビに従ったのだから当然だ。飲み屋街通りと大通りが交差する角の店舗。電話は本体だけを覆うケースのタイプだった。
場所的に、あたりは無人というわけではないが、みな車道を駆け抜けていくだけだ。誰も梅本など気にしていない。
「あ~もしもし警察ですか? じつは〇〇二丁目の公園近くで、バイクを盗んでいる三人組を見かけたんですけど。えっと、そいつらの乗っていた車はですね。黒色で日産のキャラバンだったと思います。ナンバーも見ました。〇〇です。――それと、たぶん拳銃を所持しています」
聞き返されないように、ハッキリとした口調でそれだけを伝え、梅本はオペレーターからの質問を無視して、受話器を置いた。
これですべて終了。
もう何にもかかわりたくない。すぐにバイクを発進させた。
走行中は帰って寝ることだけを考えようとしていたが、早くも後悔し始めている。
連続窃盗事件に使われたキャラバンが当然のごとく押収され、車内を調べたら拳銃まで出てきた――。
これは拳銃をあの車に放り込むと決めた時点で思い描いていた流れだが、わざわざこちらから言うべきことではなかった。
現場に戻って、少年たちから状況を聞いた。それなのに何ら参考にもできていない。行動を変更できなかった。
「それくらいのこと、臨機応変に対応しろよ。この役立たず!」
蝦夷松部長の叱咤が呼び起こされた。
――あのぉ、さっき通報した者ですけど、拳銃の件はやっぱりナシでお願いします。……フフッ馬鹿馬鹿しい。蛇足感が半端ない。
仕事でも何でもいいから、とにかく忙しく過ごして平穏な日常を取り戻したい、と思った。
梅本は自宅近くの交差点まで帰ってくると、カップ麺を補充しておこうか、とコンビニに寄った。
エンジンを切り、ヘルメットを脱いだ耳に何やら騒々しさが飛び込んでくる。アパートの方角か。
すぐまたバイクにまたがり、家路を急ぐ。
すると、近所の住民らしき人垣ができていて、その向こうにパトカーの赤色灯が回転していた。
梅本の脳裏に、三十歳の派遣社員が逮捕、と新聞の記事が浮かんだ。
兄、兄、姉、兄……順々に出てきて、梅本を睨んでは消えていく。
「――あぁ」




