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就業ルイン  作者: ゆぞぅ
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 バイパス通りを走り、途中のコンビニに落ち着いた。ここで菓子パンと、胸ポケットの缶コーヒーとは別に、カップのカフェオレを買った。ここは大型トラックの駐車枠が四台もある、大きなコンビニ店だ。深夜三時すぎでも、そこかしこに客の車が停車している。


 人を撃ったことについては、自分でも不思議なくらい冷めている。頭のどこかで、悪党を退治してやったにすぎない、と思う自分がいる。今はまだ麻痺しているだけなのかもしれない。

 それよりも今、胸中に充満している不安は、自分のところまで警察の捜査が及ぶかどうかだ。

 バイクの盗難に発砲事件が加われば、結構な騒ぎになるのは当たり前だが、一部始終を誰かに見られていたのならともかく、あの状況から何がわかるだろう? と考えを巡らせた。

 倒れたバイクに、割れた門柱灯。

 これらから、バイク泥棒が運搬中に誤って門柱灯を割ってしまい、大きな音を立てたことで計画を急遽中止して逃げた、というストーリーが描かれるのではないだろうか。

 まさかとは思うが、あの拍子抜けするほど軽い音を聞いて「銃声がした」なんて証言する住民が現れるだろうか。

 もしそうなれば弾丸探しが始まり、同時に空薬莢(やっきょう)探し、そして近くにアイツの血痕。それで、仲間割れなんて推理がなされるかもしれない。

――この展開はヤバいか。


 梅本はしきりに左頬を擦りながら、顎を横方向にカクカクさせた。まだ痛い。そもそも、発砲後の空薬莢から指紋なんて取れるものだろうか? と少々楽観的な思考に逃れてみる。

 ヤバい~マズい~。そう繰り返し唱えると腹も痛くなってくるというものだ。


 コンビニでトイレを借りて店から出ると、黒のワンボックスカーが駐車場に入ってくるところだった。

 スマホの画像ファイルを確認するまでもなく、梅本がパンクさせた日産のキャラバンだ。追ってきたとは思わなかったが、それでも心臓の鼓動は跳ね上がった。

 キャラバンの運転手は窓から片肘を出して運転していた。梅本はサッと視線を外して、店舗沿いに歩いていった。車は梅本を追い越し、トラックの駐車枠近辺にまで行って、前から突っ込むようにして駐車した。Z125が同じ方面に停めてある。


 梅本は顔を隠すようにヘルメットを被った。

 バイクの調子をみているような素振りで、スモークシールド越しに視線だけをキャラバンに向けた。

 ブレーキランプが消えてすぐに、車から男二人が降りてきて、一人が後ろのハッチドアを開き、もう一人はパンクした後輪の前でしゃがんだ。

 バイクを運んでいた男二人の顔はよく見えなかったので、この男たちが、あれ一味だとは断定できないが、まず間違いない。梅本にはそう思えてならない。

――先に逃げた二人か……。対峙したあの大柄な男は今どうしてんだ? 後部座席で呻いているのか、それともあの場に置き去りにされたか。


 やがて男たちは長い棒ハンドルとジャッキを出してきて、それぞれに作業を始めた。キャラバンのスペアタイヤは車底にチェーンで吊るしてある。ここでスペアタイヤに換装していくようだ。

 一刻も早くあの場から遠ざかりたいと思うのは当然だ。梅本も同じだったので、その心情は想像するに難くない。しかし、まさかあのタイヤで、レース場と化した深夜のバイパス通りを走ってきたわけではないだろう、と思う。彼らがどこを走ってきたにせよ、梅本は「あの状態でよく走って来れたな」と感動すらおぼえていた。


 梅本がだいたいの背恰好や雰囲気で決めつけたように、この位置にいては、向こうもこちらに気づくかもしれない。梅本はバイクを押して、彼らの死角へ回っていった。そこで、男たちに背を向けた恰好で、スマホを操作する。地図アプリで現在地からたどっていって、あの公園の住所を知った。キャラバンのナンバーを今一度記憶し、警察に通報しようかという段になって、また長考にふけった。


 通報してやるにしても、このスマホではマズい。

 たとえ非通知でかけたとしても、警察や消防には即座に番号が知れると聞いたことがある。警察から後でいろいろと聞かれるのは面倒だ。目撃者で通報者……いや、当事者なのだ。

 となると、また公衆電話を探さなければならない。前回と違うのはスマホの有無……その点だけは解決したも同然だ。さっそく公衆電話の設置場所を検索する。一番近くは、飲み屋通りの端に一台。


 しかし……と梅本は指を止めた。迷っている。

 通報してあいつらが捕まれば、拳銃を持った男の話が必ず出るだろう。一人は実際に撃たれているのだから、これ以上の証はない。すると、拳銃所持と傷害のほうに、捜査の重点が置かれるのではなかろうか。

 左目の下がズキッと痛んだ。

 あの場に残してきた空薬莢二つとスコップが脳裏を走る。

 そんな暇はなかったと言い訳しても、悔やまれた。

 スコップに関しては、落ちている場所が公園だけに見逃される可能性は高い、と良い方向に考えなければやってられない。

――今から回収しに行くか?


 公園に戻るという選択……。

 それがいかに危険かということは承知している。犯人は犯行現場に戻る、なんて話はあまりにも有名だ。

 自分のやったことを確認したい放火魔。

 不安に駆られて捜査の進捗状況を知りたい小心者。

 口臭を気にする人が、他人から指摘される前に「さっき焼肉を食ってきたんだ」と告白するように。

 こういうのを、防衛的な露出行動というらしい。警察はそんな犯人の心情を熟知しているから、周囲の野次馬にも目を光らせているとか……。

 梅本は微かに唸った。

 そんな知識を持ちながら、空薬莢とスコップを探しに行こうと思っている。まさかそこに拳銃を持っていくわけにはいかないので、とりあえずの隠し場所を求めて周囲を見渡した。


 そこでふと思いついて、梅本は屈みながらバイクグローブをはめた。その手で大胆にも拳銃を取り出し、ウエスで丁寧に拭った。それから一旦ヘルメットを脱いで、フェンス沿いに進み、駐車している大型トラックの背後へ回ると、男たちを覗く。

 だいぶ無茶をして走って来たせいか、まだタイヤホイールが外れないでいるようだった。


 梅本はそっとキャラバンに近づいて、窓の開いている運転席に手を差し入れた。背もたれの裏側へポトリと拳銃を落とすと、またトラックの背後を通って、バイクへ戻った。


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