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掴み損ねた宝石  作者: 河野 る宇
◆掴み損ねた宝石
12/13

*エメラルドの閃光

[しかし、1人で行かせてよかったのかい?]

「え? ハッ!? そうですよね」

 私は何を素直に聞いてるんでしょうか!

 蒼は、慌ててベリルが向かった方向に駆けていった。


「私、今日は走ってばかりですね」

 荒くなってきた息でつぶやき、見えた背中を追いかける。

「ベリル!」

 呼び止められて振り返り、眉をひそめた。

「あなたは侵入者です。1人にさせてはだめです」

 もっともらしい言葉にベリルは小さく溜息を吐き出し、腰にあるポーチからベルトを取り出す。

 アーミーナイフの他に、ずらりと柄のない小型のナイフが収められたベルトを右太ももに装着し険しい表情を浮かべた。

 よくよく見てみると、彼はかなり武装していると窺えた。

 右脇が若干、浮いているのと、腰の後ろ辺りも服が少し膨らんでいる。足首にも何かありそうで、少女は彼が傭兵だという事を再認識した。

「いたぞ!」

 遠くに聞こえた声に振り向くと、何人かの見慣れない男たちがこちらに駆けてきていた。

 どの人間もミリタリー服に身を包み、手にはレーザーライフルを持っている者もいる。

「後ろへ」

 蒼はそれに従い、その背中を見つめた。小柄な彼の背中は大きい訳ではないのだが、そのきわだった存在感が姿を大きく見せていた。

 いくつかに別れて探しているのか、目の前にいるのは5人ほどだ。

 それでも、1対5ではベリルの不利である事は間違いない──しかし、彼の口元には少しの笑みが浮かんでいた。

 囲まれる間に、他の人間もライフルに手をかける。

「大人しくしろ」

 肩まで軽く手を揚げ抵抗する様子のないベリルに安心したのか、やや横柄に銃口を突きつけた。

「近い」

「え?」

 薄笑いでぼそりと発したベリルに聞き返した刹那──レーザーライフルの銃身を左手で掴まれ脇に抱えられたと同時に、右手は太ももにあるスローイングナイフ(投げ用ナイフ)を素早く抜き出し左前にいる男の肩に投げつけた。

「ぎゃっ!?」

「うっ? えっ!?」

 突然の事に、レーザーライフルを掴まれた男は驚いてベリルを凝視する。

 それに続くように他の男たちも慌ててライフルをしっかりと構えるが、ベリルは次に右手で腰の後ろからハンドガンを取り出して凝視している男の太ももに一発、お見舞いした。

 男が叫びを上げ、それに恐怖心を煽られたのか体が強ばっている残りの3人を素早く一瞥していき、右にいる男に駆け寄る。

「ヒッ!?」

 引鉄ひきがねを引けばベリルの腕か足が無くなっていただろうに、男の指は動かなかった。

 動いたところで全身の震えはライフルに伝わり、当たっていたかどうかは謎である。

 ベリルの瞳に魅入られたように足は地面に張り付き、視界の端に捉えたハンドガンから逃げる事も出来ず右太ももを銃弾が突き抜けた。

「あの武器はなんです?」

 蒼は、ベリルの持っている武器に小首をかしげた。

[またアンティークな武器を……]

「ネメシエルは知ってるんですか」

[今じゃ使ってる人間はいない]

 撃てる数に制限のある武器なんて今時、使おうと思うやつなんていないのに、あえて使っている事にネメシエルは疑問でしかなかった。

 確実に相手を倒すならレーザー銃だし、出力を調整すれば殺さずに済む。何より、数十回ほどしか撃てないものに比べれば断然、効率がいいはずだ。

 ベリルは男の手から落ちるライフルを遠くに蹴り飛ばしつつ、次の男に体勢を低く近寄る。

「わっ!? わあああ!?」

 今度は引鉄を引くつもりだ──しかし、ベリルの放ったナイフは男の腕にめり込み、あっけなくライフルを地面に落とした。

 それを視界に捉えながら、右手のハンドガンは最後の男に銃弾を放つ。

 鮮やかに流れるような闘いは、見ている者を魅了し釘付けにする──彼が狙われる理由は、不死や人工生命体以外にもあるのではないかと思うほどに美しい。


 ベリルを見つけたという報告を受けたクレアは足早にそちらに向かうが、聞こえてくる変な破裂音に嫌な予感がした。

 聞き慣れない音にクレアの恐怖心はかき立てられ、自然と運ぶ足が速くなる。

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