刑事アズキ 第一話。
神奈川の河川敷————
全裸で横たわる若い女性の遺体が見つかった。
遺体の傍らに立つ二人の刑事。
二十代後半、黒髪にセミロングの女性と短髪にくたびれたスーツを着た四十代の男。
男は腰をかがめ、遺体を前に手を合わせた。
「新年早々かわいそうに。寒い中、真っ裸じゃないか。」
そう言うと、隣に立つチャコールグレーのチェスターコートを着た女性に声をかけた。
「アズキ、頼めるか?」
「わかりました、石田さん。」
アズキは頷き、遺体に近づくと腰をかがめた。
「匂ってみます。」
アズキが遺体に鼻を近づけた。
冬の枯れた草とアンモニアが混じった匂いがアズキの鼻を刺激した。
アズキが暗い記憶の海へとダイブする。
かすかに見えるビジョン————
アズキがビジョンを口にし始めた。
————「LINE……。」
「性行為……。」————
アズキがふらつく。
「大丈夫か?アズキ。」
石田はアズキを抱き抱えるように支えた。
しかし、アズキは強がり石田を振り払うと、遺体へ近づこうとした。
「まだ潜れます!!」
「もういい!!今日のダイブはここまでだ。」
強がるアズキを石田は制止した。
神奈川県警、六階の端にある特殊能力課。
若い男性刑事がスチール製のドアをコンコンとノックする。
「入っていいぞ!!」
石田が大声で言うと、男性刑事はギィーと金属が軋む音をさせドアを開けた。
男性刑事は入ってくるなり、淡々と状況を説明し始めた。
「ガイシャのLINEから、最後に接触したと思われる男を呼び出しました。」
「そうか、さっそくマル被の奴のマヌケ面でも拝むとするか。行くぞ、アズキ。」
アズキは頷くと、石田と共に八階の取り調べ室へと向かった。
取り調べ室でミラー越しに参考人を見ると、石田が驚きの表情を浮かべた。
「あいつは……。」
取り調べ室の椅子には、彫りの深いイケメンが鼻をすすり座っていた。
「知ってるんですか?」
アズキは首を傾げ、石田に尋ねた。
「ああ、地元の元人気サッカー選手、霧島健吾だ。」
石田は悲しそうな顔をすると、天井を見上げた。
「詳しいんですね?」
「昔、ファンでな……。さてと、行くとしますか。」
二人は扉を開け、霧島のいる部屋に入った。
「失礼するよ。いきなりだが霧島さん、この写真の女性に見覚えあるかな?」
石田はヨレヨレのネクタイを緩めると、尋問を始めた。
「どうした、話したくないか?アズキ、どう思う?」
石田がアズキをチラリと横目で見ると、アズキが冷たく言い放った。
「匂いますね。」
「ああ、まったくだ。プンプン匂いやがる。」
二人の様子をいぶかる霧島。
石田が眉を曇らせ、アズキに申し訳なさそうに話しかけた。
「アズキ、悪いが、ダイブしてくれるか?」
「わかりました、潜ってみます。」
するとアズキは霧島に近づき、クンクンと匂いを嗅ぎ始めた。
八角を思わせるスパイシーな甘い匂い————
アズキが記憶の海へダイブすると、霧島の記憶がアズキの脳裏に流れ込んできた。
アズキは霧島の周りを歩き回ると、ビジョンを語り始めた。
ーー——「LINE……。」
「覚醒剤をキメる参考人。」
「ガイシャとの性行為。」
「興奮、そして……参考人が首を絞める。」
「首を絞められ、苦しむガイシャ。」
「苦しい……止めて……。」————
アズキはハッとし、息を飲んだ。
アズキは険しい顔をすると、再びビジョンを語り始めた。
————「行為を終え、ガイシャの死亡に気づく参考人。」
「そして……遺体は河川敷へ……。」————
ダイブから戻ると、アズキはギュッと右の拳を握りしめた。
「嫌がり、苦しむ女性を……。」
アズキが霧島を睨みつけ指差した。
「違いますか、霧島さん。私、鼻が利くんです!!」
霧島が慌て、言い返した。
「しょ、証拠はあるのか?」
すかさずバディの石田が身を乗り出すと、下から覗き込むように霧島を見た。
「証拠?だったら、お前のおちんちんにでも聞いてみようか?いいな、尿検査。」
霧島はガクッと肩を落とし、グレーの床を見つめた。
一月七日、犯人逮捕。
石田は神奈川県警の出入り口の前で、タバコに火をつけようとしていた。
通りがかりのアズキを見つけ、声をかける石田。
「お、アズキ一杯どうだ?」
アズキはキョロキョロと周りを見渡し、呆れた顔で石田に話した。
「石田さん、ここ禁煙ですよ。じゃ、お先に失礼します。」
アズキは現代っ子らしく断ると、その場を立ち去った。
ドン!!
一人、アズキを見送る石田は、若いボサボサ頭の男とぶつかった。
「ごめんよ、兄ちゃん。」
謝る石田を無視するように、ボサボサ頭の男が人混みに消えてゆく。
「チッ、返事もなしか……。まったく、最近の若い奴ときたら……。」
ため息をつく石田は、ポケットからスマホを取り出した。
スマホで霧島のニュースを見ると呟く石田。
「やれやれ、まったく嫌な時代だ。」
刑事アズキ。 第一話。 終わり。




