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ウォーヘッド  作者: グレゴリー
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隠しカメラ

航海中、自分の荷物を整理していた

勇者マックスは、中に仕込まれていた

隠しカメラを発見した


急いで、ハイエルフのディックソンを

呼んでみた


マックスが言った



「そういえば、気球の町で、俺の荷物の中に

 サブカメラを入れてあると

 ジャーナリストのヘリントンが言っていた。

 ずっと俺の行動を記録していたのか」



ディックソンは興奮していた



「見てみろ、カメラのここ、青いランプが

 点滅しているだろ?おそらく

 使徒たちの映像通信を拾ったんだ!

 奴ら、あっちの世界の大都市で

 使われているのとまったく同じ手段で

 映像を共有しているのかもしれない。

 おそらく、このカメラはそれをすべて

 拾って記憶しているだろう。

 

 まったく、地上界も舐められたもんだな!

 奴ら、軍事用に通信を暗号化すら

 していないらしい。

 だが、奴らのこの油断が俺たちにとって

 思わぬ収穫になる」



船倉の集合ルームにウォーヘッド全員を

呼んで、ディックソンはカメラを起動させた


まさにビンゴだった


まずは、「公開映像」と名のついた

いくつかの映像を見てみる


小さなサブカメラから、皆の前に

2Dの投影映像が出現する


それは使徒たちが各国の主要都市の上空で

流す、公開映像だった


復興している東の古都プラウダール、

貿易を始める人間と魔族、

北方で人々を恐怖に陥れたアースドラゴンを

たった一体で退治する使徒、

これは使徒の力を示すデモストレーションも

兼ねているのだろう。

さらに、度々行われる

ザウドマン帝国とヌルーン王国との

トップ会談の様子、


そして、ついにエリーの破門を知らせる映像に

行き着いた


もじもじとしている僧侶エリーを見て、

聖女セリスが言った



「エリー、気を落とさないで....あなたが、

 マックスを救済するために

 あえてやったということは皆、わかってるわ

 まあ、謎のノリと勢いに飲まれている感は

 あるけど...」



魔法使いルーティーとドワーフのイルガと

エルフのリリーベルは、

グワッと効果音がなるかのように

一斉にエリーのほうを向いたものだった



戦士ティルクが言った



「まあ、使徒によって一方的に人々が

 知らされているのは、

 エリーが首謀者だということと

 俺たちが内海を逃亡中だということか。


 どの道、俺たちの行動は使徒たちに

 筒抜けだと思うが、

 とりあえずは、目的地である

 俺の故郷レイデンは、今のところ

 プラウダール体制の圏外だ。

 

 それにエリー、西海沿岸諸国では、

 かつての勇者マルスが主導した新メシア教の

 勢力が強い。

 だから、君が破門されていたとしても

 誰も気にしないだろう」



ディックソンが言った



「情報戦では使徒側にはかないっこない

 と思ってたが、これで状況が変わった


 俺たちは、奴らが相互に共有するために

 通信によって行き来させている

 映像を手に入れられる。

 つまり、奴らが把握している情報を

 知ることができるってわけだ。

 あのジャーナリストの存在がこんなところで

 役にたつとはな!

 む、待てよ、このサブカメラから、

 ジャーナリストたちに向けて通信も

 できるんじゃないか?

 あいつらが今、どこに行っているのか誰も

 知らないからな」



マックスが皆を見渡して言った



「ディックソンの言うとおり、俺たちは

 使徒側に対して

 優位に立てる要素を手に入れた。


 皆も感じているとおり、奴らは俺たちを

 あえて自由にさせておいて、

 あわよくば西海沿岸諸国を支配したり

 ウォーヘッドたちを粛清する大義名分を

 手に入れようとしているのかもしれない

 

 でも、使徒たちが俺たちを襲撃するときは

 映像をお互いやヌルーン王国に

 送るだろうから、その時、それを傍受できる。

 

 奴らは奇襲のつもりでも

 そうはならないってことだ。


 こちらは襲撃を察知して待ち構えることが

 できるんだ!

 そういえば、ディックソン、このカメラの

 動力は切れることはないのかい?」



ディックソンが答えた



「ああ、昔の空間記憶装置は使用者が

 魔力を補充してやる必要があったが、

 大都市で生産されたこいつは、

 マナ圧縮炉が生産するマナ結晶を

 組み込んでいる。

 使徒に使われている巨大なものとは違って

 砂粒ほどの大きさのマナ結晶だが、それが

 このカメラの中に入っているんだ。

 しかし、そのパワーは、毎日めいいっぱい

 使ったとしても

 おそらくは100年は持つほどのものさ」



マナ結晶の驚異的な力に驚くウォーヘッドたち

だった。


隠しカメラが傍受して記憶してあった

膨大な映像を解析したところ、

やはりウォーヘッドたちは使徒たちに

把握され監視されていることが分かった


旅をしている者、故郷で静かに暮らしている者、

酒池肉林に溺れるクローディス大公とジェネラル

の姿もあった


やがて、ディックソンが映像の解析作業を

引き受けることになった



夜も更けたころ、マックスはディックソンの

個室のドアをノックした


ロウソクの灯りのもと、机に座って

ひたすら映像の分類分け作業をしている

ディックソンの背中にむけて、

マックスが言った



「ディックソン...我々ウォーヘッドは、

 魔王の討伐を果たした後は、

 慈善活動を行う予定だったんだ。

 権力や組織にその力を利用されないために。


 ウォーヘッドよりはるかに強力な存在が

 出てきて、世界を平和に導くことになる

 なんて想定外だった


 でも、俺はついこの前までは、それで

 いいと思っていた。

 自分に与えられた強力な恩恵の力は

 全人類が望む目的のために使用するべきで

 あって、自らの為にその力を振るうことは

 エゴであると」



ディックソンは、隠しカメラをいじりながら

マックスのほうを向くことなく答えた



「でも、メシアに言われたんだろ?

 自分の心の声に従って、それを信じて進めとね。

 そして、メシアは君の側で

 共に戦ってくれている...

マックス、君はここに来て、初めて

 大いなる未知への一歩を踏み出したのさ

 そして、仲間たちもね」



ディックソンは、マックスのほうを振り向いた


少し乱れた七三分けの金髪、優しげな青い目を

こちらに向け、微笑んだ口元には魅力的な

エクボが出来ている。



マックスは何も言わずに頷いたのだった。



そして、ディックソンの個室を出たあと、

船の甲板に上っていった



高い三本のマストには全ての帆が張ってある。

幾人かの水夫が、マストを支えている

縄梯子状のシュラウドを登り降りしている。


船尾の部分には、コンパスを備えた

操舵輪があって、それを操作している水夫の

さらに後ろから、僧侶エリーが風魔法を

発動させていた



そんなエリーの元にマックスは向かった



ダークブラウンの流れるようなロングヘアの

美しい僧侶は、目を閉じて歌を歌っていた



風魔法で生み出された風の一部が、甲板上を

緩やかに流れ、その美しい歌声を運んできた



「光り輝く星が馬小屋を照らし、

 人々はメシアの誕生を知る(誕生を知るー)

 苦しみと悲しみに満ちた地上を救わんがために

 天より遣わされし尊きお方よ(尊きお方ー)

 この暗き地上に、喜びをもたらす(喜びをー)

 光り輝く星がそれを知らせる(光り輝く星ー)」



ちなみに、( )の内のコーラスは

操舵輪を操っている水夫の声だ。


水夫を無視して、マックスはエリーに話しかけた



「メシアの誕生のシーンだね。光り輝く星が

 地上を照らすらしいけど、そんな星、今の

 この世界にはないよね」



エリーは目を開けて微笑んだ



「ええ、遠い未来にはあるのでしょう。

 月や宵の明星とは違った

 メシアの星と呼ばれる光り輝く星です。

 メシア教のシンボルにもなっています」

 


マックスは夜空を見上げた。

この、満点の星空の中に、いつかメシアの星が

出現するのだろう。

それは遠い未来なのか、それとも意外と

そう遠くない未来なのかもしれない....





 

 

 



 

 


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