力士
あの路地裏の傭兵くずれどもは相当な
重罪人だったらしい
所属していたプラウダール方面軍が解散になり
強盗や殺人を繰り返しながら帰郷し、
このベーレンにおいても誘拐を行っていた
路地裏に倒れていたところを逮捕されて
結局、極刑に処されるみたいだ
ストゥーカは彼らの末路について
別段、興味もなかったが、ここ数日、
言い寄ってくる男の多さに辟易していた
「やっぱり平民の格好だと舐められるのよね。
ボケコラの人化に成功したことだし、
人間社会に溶け込みやすいように
目立たないようにとこの格好を選んだ
んだけどさ、なんだか逆効果のような気が
してきたわ」
といいつつ、ビールの大ジョッキを持ち上げて
グイグイと一気飲みする
テーブルを挟んで、目の間には少年ボケコラが
いた
「ふむ、そなたの目立つ長い赤毛と、平民の
くせに威風堂々たる長身と立ち振る舞い、
そして、平民のくせにこのような酒場に
来ることが原因なのではないか?」
両手でコップを掴んでミルクを飲むボケコラを
目を細めて見つめながらストゥーカが言った
「まあ、確かに人化魔法のアイテム集めを
やってた時は、仰々しい竜騎士の
完全武装だったけどさ。
それに...そうね、酒場に平民の女性が
居るのも珍しいかもしれないわね
あとさ、平民の格好をしてから気がついた
んだけど、清廉潔白を求められるはずの
騎士の連中のナンパのしつこさと言ったら...
あいつら、相手が平民だと本当に
上から目線でグイグイやってくるわよね
私も、ヌルーン王国の近衛騎士の家の出身
だから、今まで騎士たちの中に居て
気がつかなかった
あいつら、普段は猫を被ってて、町に
出ると平民に対して偉そうに
振舞っていたのね」
ボケコラが言った
「ウォーヘッドとして戦っていた頃は
仲間たちの出自なぞ
気にもしていなかったであろう。
勇者マックスと聖女セリスは
かつて村人だったと聞くしな。
しかし、こうして人間社会の中で
暮らしていくということは、
その者の貴賎や身なりで
判断されるということなのだよ」
目の前のストゥーカを眺めながら
ボケコラが言った
胴体をキツく縛るような革のベストと
裾の広がったフリル付きのロングスカート
ネルーン王国の首都である、
このべーレンにおける一般的な町娘の格好だ
しかし、竜騎士ストゥーカにとって
この動きを制限されるような格好は
居心地が悪いのは明らかだった
「ウォーヘッドは皆が
選ばれし者だったから...」
ボソリとつぶやいて再びビールを飲む
ストゥーカ
大きな木の梁を張り巡らしたような天井を持つ
通称「ビアハウス」と呼ばれる
このルーン北東部独特の酒場には、
大勢の男たちがタムロしていた
ふと、酒場の入口で誰かが大声で言った
「また大広場で、例の投影魔法が見れるぜ!」
一斉に酒場を出る客たち。
ストゥーカも、銀貨を一枚、店員に渡すと
ボケコラの手を引いて客たちに続いた。
片手で、ロングスカートの裾をつまんで
上にあげ、足早に歩く
メシア教の大聖堂の尖塔の上に、
使徒ルーシーが浮かんでいた
青い甲冑に全身を包み、その目の部分は
一直線に引かれた線のようになってて
赤く輝いている
ストゥーカは思った
(ウォーヘッドである私や、
人化したレッドドラゴンである
ボケコラのことをあいつは認識しているの
かしら?)
しかし、その直線のような目がどこを
見ているのか伺うことはできない
気の抜けるような陽気な音楽が流れ、
巨大なスクリーンが出現した
大広場でひしめき合う群衆が息を飲んで
見つめる中、出現したのは
メシア教の僧侶エリーだった
「ちょっと、あれはエリーじゃない!
見覚えのある砂地と岩山は
ダルクエン近辺かしら?
あ、何してんのよエリー!」
流れるようなロングヘアの立派な身なりの
僧侶が、髭面の村人に唐突に
暴力を振るっていた
「むむ、勇者マックスではないか!
おいおい、何してんだエリーは」
ボケコラも驚いた顔で映像を見ていた
髪と髭が伸び放題で、灰色の粗末な
ローブを羽織った隠者のような
マックスに対して、ひどい暴行を加えるエリー
集まった群衆たちがブーイングしている
エリーが持っていた酒瓶を力いっぱい
マックスの頭に振り下ろしたところで
映像は切れた
淡々とした女性の声のナレーションが
使徒ルーシーから流れる
....それは、メシア教会がエリーを
破門したという宣言だった
静まり返る群衆たち
淡々としたナレーションが続く
「さらに、破門者エリーは、数人の仲間
たちとともに、救助を行おうとした使徒を
妨害したあげく、勇者マックスを
拉致して逃走、
現在は、ルーン内海を船にて依然、逃走中
とのことです。
推測によれば、破門者エリーが
数人のウォーヘッドを脅迫、もしくは
拷問による暴力によって無理やり協力させ、
このような凶行に及んでいる可能性が
あるとのことです」
ストゥーカは胸の高鳴りを感じていた
「やるじゃない!まさか、あの品行方正な
エリーがこんな思い切ったことを
しでかすとはね!」
ボケコラが言った
「ヌルーン王国側の発表だからな、
色を付けていると思ったほうがいいな。
しかし、あのひどい暴行は事実だろう。
一体、何が目的だったのか、
そして、使徒を振り切って逃げることが
本当に可能なのか?
謎は深まるばかりです」
結局、ビアハウスに戻り、急遽、作戦会議を
開くことになった
「エリーの単独凶行とはとても思えないわ。
あの使徒を妨害して逃げているって
話だけど、無理やり協力させられた
ウォーヘッドたちがそんなことが
できるとは思えない
やっぱり、強固なチームワークと
意思によって皆、動いているのよ!」
興奮して話すストゥーカ
ボケコラは冷静だった
「うむ、しかし、使徒たちが本気を出せば
彼らをすぐに捕捉できるであろう。
...あえて泳がせているのかもしれぬ」
ストゥーカが答えた
「ええ、この機会に反乱分子を炙り出す
つもりなのかもね。
そして使徒たちは、大義名分を得て、
堂々とウォーヘッド狩りを始めるでしょう。
どの道、私たちは覚悟を決めないと
いけないのかもね」
爛々と目を輝かせるストゥーカの顔を見て
ボケコラは苦笑いした
と、話し込む二人に対して
ふいに男が声をかけてきた
「いよ、久しぶり!
俺たちが誰だか分かるぅ?」
ストゥーカは不機嫌そうな顔で振り向いた
また、うっとおしいナンパかと思ったのだ
しかし、ストゥーカとボケコラが見たのは
異様な4人の男たちだった
...まるで力士とマネージャーだ...
それが2組もいる
つまり、力士が2名とマネージャーが2名
「あ、えっ?誰ですか...」
ストゥーカは狼狽していた。
丸々と太った巨大な力士に知り合いはいない
それも二人も...
しかし、ボケコラが叫んだ
「ちょっ、もしかしてフーセン先輩っすか?
先輩も人化したんすね、マジでパネェっす!」
力士の一人が微笑んで言った
「レッドドラゴンよ、久しぶりだな。
なんだか、生意気で頭の悪そうな
赤毛のチビになっちまったな!
そちらの人化魔法は、精神年齢を投影した
みたいだが、俺たちの場合は、外見を
投影してしまったみたいだ。
おかげで、この身体は動かしづらい... 」
声をかけてきたマネージャーが言った
「短い間だけでも一緒に戦った仲間の顔を
忘れてしまうとはな。
そのとおり、俺たち二人はフーセンライダーで
こちらの二人はフーセンドラゴンだ」
ストゥーカは立ち上がった
燃えるような赤い長い髪、目も赤く爛々と
輝いている
身体を締め付けるような革のベストと
フリル付きのロングスカートの平民の格好
しかし、長身で威風堂々とした振る舞いは
まさに歴戦の竜騎士だった
「久しぶりね、覚えてなくてごめんなさい。
でも、あなたたちも状況は
理解してるでしょ!
さあ、今から作戦会議を開くわよ」
さらに、振り向いたストゥーカは大声で言った
「店員さん、ビールを大ジョッキで5つと
ミルクを持ってきて!
あと、ブラッドソーセージと
ザワークラウトも。
ミルクにはハチミツを入れてあげて」




