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ウォーヘッド  作者: グレゴリー
68/114

赤毛の少年

箒にまたがったルーティーが上空から見たのは、

懐かしい面々


甲板上には、水夫たちに混じって

ウォーヘッドたちがいたのだ


エルフのリリーベルが、シルフを召喚して

帆船に速度を与えている


ドワーフのイルガと僧侶エリーが

こちらに手を振っていた


勇者マックスと、戦士ティルクと、

聖女セリスと、聖騎士リックと、

ハイエルフのディックソンがいた


リリーベルが言った



「チームチャーリーが揃ったね!

 私たちがいち早く、再結成を成し遂げたよ。

 ちなみに、私たちはかわりばんこで

 船を動かすからね、あなたもシフトに

 入って風魔法を使ってもらうよ」



魔法や召喚術を使える者は、こうして

風を発生させて、交代で船を

高速航行させているのだ


広げた両手を口の回りに当てて、

大声でイルガが言った



「ティルクの故郷のレイデンに向かうんだって!

 本来は、ダルクエンからは半月ほど

 かかるんだけど、

 私たちの手にかかれば半分の日数で

 到着できるからさ、

 もう後、3日ほどで到着するんだってさ!」



ルーティーは、ウォーヘッドたちの前に着地

すると、ビシっと敬礼して言った



「チームチャーリーの魔法使いルーティー

 ただいまより、部隊に復帰いたしました!

 マックス、元に戻ったようで

 何よりであります!

 皆も再会できて嬉しく思います」



マックスは、今や髭も剃って、髪も整え

皆の知っている勇者マックスに戻っていた



「ルーティー、それにリリーベルもイルガも

 別に俺たちに加わる必要もないのに

 来てくれてありがとう!

 俺たちは今、使徒たちと敵対している。

 つまり、全人類をも敵に回している状態だ、

 それでもよければ俺たちと一緒に

 戦ってくれ」



ルーティーは返答するまでもなく、

勢いよくマックスに抱きついたのだった


ルーティーは、イルガとも抱き合って

再会を喜びあった



イルガが言った



「私はリリーベルとフラフラと

 当てのない旅を続けてたんだけど、

 2日前にこの帆船に乗り込んだんだよ。

 あの日、私たちは偶然、海の側に居てさ、

 多分、ルーティーもそうだろうと

 思うけど、変な胸騒ぎがしてね。

 急いで浜辺に走って目を凝らしたら

 遠くにこの船が見えてさ、気がついたら

 海を泳いでいたんだ」



シルフの召喚をディックソンと交代した

リリーベルもやってきた


リリーベルはルーティーの肩にポンと

手を置いて言った



「マックスなんだけど、どうやら

 最終形態に進化したみたい。

 私たちはリーチマックスと呼んでいる

 んだけど、なにやら吹っ切れてる感じだね」



茶色のふんわりとした髪をなびかせて

ルーティーが答えた



「はい、マックスが全人類を敵に回すと

 発言したのにビックリしたであります!

 今まで、マックスは全人類に対する

 義務感を背負っておりましたが

 今や、重荷をかなぐり捨てて

 自分の心の声に従って動いているようで

 ありますな

 それでも、その真の目的は、やはり

 全人類のためなのであります!」



やがて、3人のところへ、僧侶エリーも

やってきた


エリーが言った



「おかえりなさい、ルーティー

 そして改めてリリーベルとイルガも。

 これから私たちは今までと違い、

 自らの自由意思で戦いを続けることに

 なるでしょう。

 この新しい戦いを、再びあなた方と

 一緒にできて誇りに思います」

 


再結成したチームチャーリーの4人は、

改めて、威風堂々たる勇者マックスを見つめる


イルガがポツリとつぶやいた



「リーチマックスの到達点を

 見届けてやろうじゃないの」

 



////////////////////////////////////////////



  

少し時間を遡るが、ルーンの内海から遠く

内陸に入ったネルーン王国の首都ベーレン

 

ネルーン王国は、プラウダール体制の盟主である

ヌルーン王国のすぐ東に位置する大国だ


ヌルーン王国の西に位置するニュルーン王国とともに

並び立つ3王国は、それぞれ自らを

ルーン帝国の後継と自称していた


しかし、今やネルーン王国とニュルーン王国は

ヌルーン王国に対して恭順の意を示していた



...ベーレンの大通りを、赤い髪の長身の女性と

赤い髪の小柄な少年が並んで歩いていた



竜騎士ストゥーカはニヤニヤした顔だ



ボケコラは隣のストゥーカのほうを見上げて

言った



「相変わらず、ニヤニヤ笑いが消えぬな

 まあ、我もこうしてそなたを見上げるという

 行為は新鮮ではあるものの

 なぜ、このようになっておるのか

 未だに納得がいかぬのだが」



ストゥーカは、ボケコラの頭にポンと手を置いて

くしゃくしゃとその赤毛を撫で回した



「だから、あなたの精神年齢が、

 そのまま人化魔法に投影されてるのよ

 確かに、あなたは実年齢で言うと

 人間の爺さんくらいかもしれないけど

 それだと、大概のドラゴンが人化したら

 とんでもない年寄りになってしまうでしょう

 あきらめなさいな」



ボケコラは、ストゥーカの手を乱暴に払った



「ううむ、なんだかこの関係性はあまり

 好みではないぞ!

 苦労してアイテムを揃えて、こうして

 人化に成功したというのに

 なんかイメージと違う」



ストゥーカよりも頭一つ以上も背が低く、

生意気そうで頭の悪そうな赤毛の少年の姿の 

ボケコラ


再び、ボケコラの頭をくしゃくしゃして

ストゥーカが言った



「私は、イメージしてたのとそのまんま一緒で

 笑ってしまったんだけどね

 もしかして、堂々としたイケメンになれると

 思ってたの?」



両手でストゥーカの手を引き剥がそうとする

ボケコラと、ニヤニヤ笑いをやめられない

ストゥーカ


平民の姿の二人は、気にすることなく

暗い裏通りに入っていく


そんな姿を、下品な笑みを浮かべて眺める

男たちがいた


華やかな大通りとはガラリと変わって

裏通りは暗く、建物も古い

所々にゴミが散乱している



まったく周囲に注意を払うことなく、ストゥーカと

ボケコラは言い争いながら歩いていた



「やあ、お姉さんと僕、迷子にでもなったか?

 このあたりでは見ない顔だな

 よそから出稼ぎにでも来たのかね?」



ふいに声を掛けられ、足を止める二人


二人を囲んでいるのは、

腰に剣をぶら下げた傭兵くずれの男たちだった


平民姿の二人は、彼らから見たら出稼ぎの姉弟に

見えたのだろう



「俺たちが仕事の世話をしてやるぜ

 いい稼ぎになる仕事をな!

 その前に俺たちとたっぷり楽しもうぜ」



男たちがドッと笑った


ボケコラが言った



「ふむ、普段は人間たちは我の姿を見たら一目散に

 逃げていたのに、こうして近寄ってこられるのも

 新鮮な体験だ」



ストゥーカが言った



「私たちは別に仕事を探してるわけじゃないんで。 

 お金ならたんまりと持っているからね

 まあ、そんなことを言ったら、

 その金をよこせとか言うんでしょうね」



まったく自分たちに動じることのない二人を見て

男たちは熱くなった



「あ?そんな舐めた態度をとってたら

 痛い目を見るよお嬢さんと僕

 その綺麗なお顔に傷はつけたくないんだがなあ」



男たちは腰から剣を抜いた



「ふむ、そちらから先に剣を抜いたので

 手加減は不要だな。

 まったく、昔は上空の我に向けて矢を放つし

 今は、剣を向けるというのか

 人間どもは恩知らずか」



ボケコラは大きく息を吸い込んだ


ストゥーカが止める前に、ボケコラは

炎を吐き出していた


破滅の炎を宿すレッドドラゴンの体内から

吐き出されるその無慈悲な炎は、

人間の姿となっても健在だった



二人の目の前に立ちふさがっていた数人が

一瞬で炎に包まれる


ストゥーカは、目にも止まらぬ速度で

くるりと振り向き、

背後の数人を手刀で気絶させた



そして、ボケコラの手を引いてダッシュした



「まったく、運よく生きていたとしても

 治療が大変よ!

 あまり目立つようなことはしないでよね、

 せっかく人化魔法に成功したんだから

 あなたも人間社会に溶け込みなさい!

 こういう場合は、私に任せておけばいいのよ」



ボケコラは反省した



(ああ、そうだった。我とストゥーカとでは

 どうしても生きる時間が違う

 だから、せめてストゥーカと一緒にいられる

 短い時間の間だけでも、我が人化して

 ずっと側にいてやりたい...

 我も人間社会に合わせる努力をするべきだな)



再び大通りに戻った二人は、

やがて大きな広場にたどり着いた


ごった返す人々に中に紛れて、

ようやく二人は落ち着いた

 

 

ボケコラは素直に謝った



「すまぬなストゥーカよ、我もこれからは

 人間の少年のように振舞う努力をいたそう」



上目使いでこちらを見つめるボケコラの

顔を見て、ストゥーカはとろけてしまった。

みるみるとその顔はゆるみ、普段は

キリリとした目尻がどんどん垂れ下がっていく



「もう~なんて可愛いのだこの少年は!

 これからは私の言うことをちゃんと

 聞くのよ、えへへへ」



人目を気にすることなく、

ボケコラを抱きしめるストゥーカ

その目立つ姿を大勢の人々が注目していた



しかし、ふいに人々の視線が上空に向けられた


メシア教の大聖堂があるこの大広場に、

使徒ルーシーが出現したのだ



大聖堂の尖塔よりも高く、青い甲冑に身を包んだ

使徒ルーシーを人々が見上げる



ストゥーカとボケコラも緊張して上空を見た


使徒ルーシーから陽気な音楽が流れた。

そして、しばらくして、巨大なスクリーンが

出現したのだった


投影魔法によって、映像は、ヌルーン王国と

ザウドマン帝国の両トップの会談を写していた



握手するグランヘルム3世とハーグ2世が

アップで映る



ストゥーカが言った



「おそらく、主要国家の首都に使徒たちが

 現れて、この映像を見せているのね。

 プラウダール体制を着々と進めている

 らしいけど、さっきの傭兵くずれのように

 かつての戦争の悪影響は未だに残ってるわ。

 彼らにとって、そんな小さな問題の解決

 よりも、巨大な2台勢力が世界を支配する

 体制を築くことのほうが重要なのね」



ボケコラが言った



「初めて魔王ハーグの顔を見たが、まあ、

 昔のマクシミリアン.シェルに

 見えなくもないな。

 顎の青々とした髭の剃り跡とか太い眉毛とか

 でも、タレ眉のせいで頼りなく見える...

 我々は、かつてこの魔王を倒そうと

 必死だったのだな。

 グランヘルム王も善良そうなんだが優柔不断な

 感じだ」



ストゥーカが静かに言った



「あの二人は、傀儡よ

 誰もが感じているけどあえて口に出さない。

 もう、この世界の人類と魔族は

 私たちの知らない上位存在に支配されている。

 だからといって、あの使徒に反抗する者は

 いない...マックスもああなってしまったし

 ジェネラルもクローディス大公も

 失脚してしまった」



しかし、ストゥーカの目には、未だに

爛々とした赤き闘志が宿り続けていたのだった



 



 

 

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