放浪
...マックスはただひとり、荒野を歩いていた。
ひび割れたむき出しの地面に
太陽の光がギラギラと照りつけ、
空気が熱気でゆらゆらと揺れているようだ
もはや剣も持たず、服もボロボロだった
東の森林地帯から1000マイル以上も
離れたこの場所を、
マックスはトボトボと歩いていた
自分が今どこに居るのか知る由もなく....
目的地さえなく....
ふいに、あの時の光景が彼の頭の中を
フラッシュバックした...
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穴から飛び出してきたのは、幾本もの触手だった
そして、穴は急速に広がっていった
ウォーヘッドたちを包囲していた
ストーンゴーレムたちも、流砂のように
流れ落ちる土砂の中に飲み込まれていった
上空に浮かんだウォーヘッドたちは急いで
触手から逃れるように、穴の淵まで移動し、
地面に降りた
まるで巨大な蟻地獄だった。
想像の次元を超える伝説の怪物バジリスク
「.....逃げるぞ」
マックスの決断は速かった
自分たちがどうこうできる相手ではない....
アジテーター.デーモンは醜く平べったい
飛行モンスターに乗って、
上空でボケコラと戦っているみたいだ
マックスは念話を使って全員に退避を告げた
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...マックスは荒野をフラフラと歩いた
目の前に広がっている光景は、まさに荒野だ
乾燥しきった大地、ゴツゴツとした岩山、
植物もあまり生えていない
頭上から容赦なく照りつける太陽
「なぜだ、なぜ皆、俺だけを逃がした....」
マックスは地面に倒れ込んで、慟哭した...
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全員が一目散に、世界樹の森の焼け跡から
逃げていた
上空で戦うレッドドラゴンと、
醜く平べったい飛行モンスターの姿が
小さくなっていく
しかし、彼らの足元の地面がグラグラと揺れた
「上空へ退避だ!」
戦士ティルクが、エルフのリリーベルを抱えて、
勇者マックスは、ドワーフのイルガを抱えて
上空に飛び立った
聖女セリスと、魔法使いマリアンヌと、
魔法使いルーティーと、僧侶エリーも
上空に飛び立った
騎馬の聖騎士リックと、重騎士ドンと
弓騎士カールソンは、なんとか
揺れる地面から高速で走り去ることができた
マックスは、バジリスクの危険性を理解した
「だめだ、いつまでも追いかけてくるぞ、
こんなに高速で地中を移動できるなんてな。
これが伝説の化物、バジリスクなのか、
くそっ、こうなったら戦うしかないのか?」
リックが言った
「そうだな、戦おう!
どうだろう?世界樹の幹のところまで
戻って行ってあいつを迎え撃たないか?
さすがに、あれほどの巨木の根元に
穴をほがすのは無理だろう」
リリーベルも同意する
「そうね、世界樹の根は、
深く地中に張っているし
さすがのバジリスクでも入り込めないと思う
世界樹の根元を足場にして
あいつを迎え撃つのがいいと思う」
このまま、逃げ続けていても
地中では、バジリスクのほうが速い。
マックスは決断した
「よし、踵を返して、世界樹の根元にまで
向かおう、安全な足場を確保して
バジリスクを迎え撃つ」
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....あの時、一体どうしたらよかったのだろう?
世界樹の森から離れて逃げ続けても、いつかは
魔力と体力が切れ、追いつかれただろう
確かに、そびえ立つ焼け焦げた何本もの幹が
突き出す世界樹の森の跡地、あそこに籠城する
しかなかったのかもしれない。
しかし、それこそが敵の狙いである可能性は
考えられたはずだ、
でも、一体どうしたらよかったのだ?
乾いた地面にマックスの涙がこぼれ落ち、
あっという間に染み込んで消えていった
「俺が、俺が、世界樹の森へ行くことを
提案しなければ...全部、俺のせいだったんだ!
くそっ、なぜ、俺だけをテレポーテーションで
逃がしたんだ、
ルーティー、セリス、マリアンヌ、エリー
俺ひとりが逃げ延びても一体、
なんになるんだ!」
東方の大森林地帯とまったく異なる
乾燥しきった荒野の大地に、
ひとり、ひれ伏して泣き崩れるマックス
踵を返してたどり着いた、
焼け焦げた世界樹の幹の木立。
そこに待ち構えていたのは
ストーン.ゴーレムとは比べ物にならないほど
強力な敵の部隊だった。
結局、バジリスクが深い地中に
トンネルを掘り進み、
そのトンネルの中を、グラウンド.ゼロと
魔王軍の精鋭たちがついていったのだろう。
おそらくは、あのストーンゴーレムたちは
万が一、トンネルが崩れ落ちないように
後続の部隊が通り過ぎるまで、
トンネルの天井と両壁を支えるための
工兵部隊に過ぎなかったのだ...
こうして、世界樹の森の周囲に
トンネルを張り巡らせておいて、
ずっと地中深く隠れていたのだ。
だから、セリスの聖眼レーダーでも、
本部の広域レーダーでも、
強力な敵の存在を察知できなかったのだ
「完全に敵の計略に乗ってしまったのか...
魔王軍が、あっちの世界の怪物たちを
密輸しているとわかった時点で、
もっと慎重にならなければならなかった....
くっ、俺のせいで、俺のせいで...」
自分に対する呪詛の言葉が次々と出てくる
やがて、マックスの記憶は、仲間たちとの
最後の瞬間を辿っていった...




