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第三十二話 御条律茅の贈り物

第三十二話 御条(ごじょう)律茅(りっち)の贈り物

「マケル、今日は何の日か知ってるか?」

「言うな」

「今日はな、バレンタインデーっていうらしいぞ」

「言うな」

「それでな、どんなイベントなのかって言うとな、驚いたことに女性が男性にチョコレートとかの贈り物をする日らしいぞ」

「もう何も言わなくていい、知ってる。知ってるともさ。さぁ、この話は終わりだイマイチ。もう授業は全て終わった。今日は部活もない。さぁ帰ろう、僕らのおうちに帰ろう」

「ところで、マケルは誰かからチョコもらった?」

「クラスの女子からな。ハハッ、全部義理だよ、そうに決まってんだろ畜生がっ!! ていうか、お前も同じだろイマイチィ!」

「残念! 俺は他クラスの女子からも貰ってます! しかも義理じゃない!」

「爆ぜろォオオオオ!!!!」

「これが勝ち組と負け組との差ですわぁー」

「チョコをくれた女の子の前で落としたあげく誰かに踏まれて泣かれろっ…………!!」

「まぁ、それよりも気になるのは、なんといっても我が校一のイケメン矢口のことだよな」

「矢口? ちょっと、そこの庶民。聞きたいことがあるのだけれど」

「へっ?」

「我が親愛なる矢口藍久様が今どこにいるか、五秒以内に答えなさい。五、四、三――」

「え、えっと、まだ教室にいると思いますけど……?」

「そう、わかったわ。退きなさい、庶民ども。ワタクシの通る道を開けなさい」

「すげぇ、モーゼみたいに人の波が割れていく」

「ねえ、矢口君。アタシの想いを込めたチョコ、受け取ってくれるかしら?」

「そこのオカマ退きなさい!」

「ちょっと誰よアンタ! 今はアタシが矢口君と話してるんだからあとにしなさいよ!」

「ワタクシは御条律茅。生まれも育ちも凡人とは一線を画した、正真正銘のお嬢様ですわ! 今日は見目麗しいワタクシに世界で唯一釣り合うスペックを持つ愛しの矢口藍久様のために、庶民のイベントであるバレンタインに便乗して贈り物を渡しに来たのよ!」

「(何でそんなお嬢様がこんな公立校に通ってるのかな……?)」

「(ほら、よくあるだろ、大人になってから世間ずれしないようにするために、みたいな)」

「矢口藍久! ワタクシのEverest(エベレスト) Love(ラブ)を受け取りなさい!」

「うん、ありがとう御条さん。開けてみてもいいかな?」

「ええ、もちろんですわ!」

「(流石、矢口だな。全く動揺が見られないぜ)」

「(お嬢様と言うと、やっぱり世界的に有名な店の高級チョコとかかな。ゴディバとか?)」

「これって…………ふんどし?」

「ええ、2月14日は褌の日なのでしょう? 日本一の褌職人に作らせた一級品よ! それにしても欧米では花を贈るのに、日本は褌だなんて、日本人って変わってるわよねぇ」

「「世間ずれ、してるなぁ……」」


フィクション世界ではお嬢様キャラがなぜ普通の公立校に通っているのか、その謎は紀元前から人々の間で囁かれていた。特に、親は元々庶民で一代で財を成したとかならわかりますが、代々続く名門のお嬢様的な設定で私立に通わない理由って何なんでしょうかね。そもそも学校数が少ない田舎の名家とかは除きますが。

まあ、お嬢様キャラってのはわかりやすく、伝わりやすいキャラクターですからねぇ。ある程度イメージが定着してるキャラってのは表現しやすいものです。

ところでお嬢様にはふんわりほんわかした性格のいいお嬢様と、他人を見下す傾向のある高飛車な性格の良くないお嬢様がいるわけですが、反面これが男子だった場合、大抵性格悪い奴が大半なのはなんだか釈然としないような。

まあ、お坊ちゃまで性格良かったら、何の面白みもないただのいい奴ですからね。いやでも、そういう奴が友達にいたら……と考える私は性格の良くない庶民ですね。

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