広大でカオスな世界、だけど俺はこの場所が気に入った
「あははっ! もうこのアーマー、一生脱がねえ!」
ハジメは新スキルの喜びに浸り、小躍りしながら薄暗い通路を進んでいた。
「……おい、あいつ誰だ? バレリーナみたいに跳ね回ってるぞ」
すれ違う数人のプレイヤーたちが、ピョンピョンと跳ねるハジメを奇異の目で見ていたが、今の彼には全く気にならなかった。
やがてコロシアムのエントランス――受付のような場所に辿り着いた時のことだ。
「ガーッハッハッハ! よくやったぞ、小さき男よ! ネコ・ビリー・ボーイはお前の戦いを見ていたぞ! ネコ・ビリー・ボーイは実に気に入った!」
唐突に、ネコ・ビリー・ボーイがハジメの隣にヌッと姿を現した。
「でしょ! 俺がどれだけ強いか、見てくれたか?」
「うむ、ネコ・ビリー・ボーイはしかと見たぞ! お前は実に強い。あっという間にコロシアムの頂点に登り詰めるだろう。だがな、小さき男よ、お前はまだまだネコ・ビリー・ボーイより弱い!」
「悪いけど、戦えば俺が勝つぜ」
ハジメは自信満々に言い放った。
「ハッ! ネコ・ビリー・ボーイは二番目に強い『鬼』だぞ! お前はまだ人間の中で最強ですらないではないか!」
「二番目? なんだよそれ。自分のこと三人称で呼ぶくらい自信満々なのに、一番じゃないのか?」
「酒呑童子は遥かに強いのだ! 奴はネコ・ビリー・ボーイを打ち負かし、殺そうとした! だからネコ・ビリー・ボーイはこのゴブリンランドへ逃げてきたのだ。ここならネコ・ビリー・ボーイは最強クラスに強いからな!」
アーマーの下で、ハジメが未知のボスの気配を感じ取ってニヤリと笑ったのは明らかだった。
「で、その酒呑童子とはどこで会えるんだ?」
ハジメは腕を組んで尋ねた。
「小さき男は酒呑童子に殺されたいのか? 奴はゴブリンランドからそう遠くない森にいる。森の入り口付近、『嵐の吹き抜ける森』へと変わる手前の領域にな」
(あの森には相当なコンテンツが隠されていそうだな。後でじっくり探索してみるか)とハジメは内心で考えた。
「わかったぜ、ビリー。それじゃ――」
ハジメの言葉が遮られる。
「違う、違うぞ! 俺様の名はネコ・ビリー・ボーイだ!」
「だからビリーって言ったじゃん」
「ちーがーう! ネコ・ビリー・ボーイだ! フルネームできちんと呼ぶのだ!」
「ただのビリーじゃ駄目なのか?」
「小さき男よ、耳が遠いのか? 俺様の名はネコ・ビリー・ボーイだ、さあ一緒に復唱しろ」
「はいはい、わかったって!」
鬱陶しい鬼とのやり取りを切り上げ、ハジメはコロシアムを出た。
そしてついに、ゴブリンランドの全貌を目の当たりにする。
それは主にスチームパンクの美学で構築された街だった。無数の歯車、噴き出す蒸気、巨大な車輪。だが同時に砂漠地帯に位置しているため、建物は西部劇の荒野の町のような趣も持ち合わせている。
ゴブリン、ハーフオーク、オーク、エルフ、人間、ドワーフ、さらには動物やモンスターまで。グラン・アストリクスの闇市として名を馳せるこの『ゴブリンランド』では、ありとあらゆる種族や文化が入り乱れていた。
「間違いなく、今までプレイした中で一番脈絡のないカオスなMMORPGだな。バイクに銃器、中世の構造物、仮面ライダーに、今度はスチームパンクかよ。……最高だ、マジでこのゲーム愛してるぜ!」




