1. 最高の信徒
「お姉ちゃーーん!! 可愛いよーー!!」
少女はペンライトを握りしめて、リビングに置かれている高画質テレビの前に座り込みながら、世界で一番可愛い自慢のお姉ちゃんを画面越しに応援している。
お姉ちゃんは今、来年の一月ニ日に行われる偶像生誕祭に参加するために、世界各国を回って演奏会を行い、信徒から票を集めている。
今のお姉ちゃんの実力なら"十二の女中"には必ず入る。だけどお姉ちゃんは、応援してくれる信徒のために、世界中を飛び回って自分の歌声を届けている。
長い黒髪を靡かせて、焼けるくらい眩しいスポットライトを浴びながら、舞台の真ん中で踊り、歌い、カメラに向かってウィンクする。
「はぁ、やっぱり最高……! 歌や踊りだけじゃなくて、舞台上での立ち位置、目線、表情の管理、全部完璧! なにより信徒のみんなへの"愛"がこれでもかってほど伝わってくる!」
演奏会が終わると、少女はリビングの机に並べておいた"祭壇"という名のお姉ちゃんグッズ諸々を自分の部屋に戻して、部屋にある勉強机の前に座り、"イドラの書"を開く。
お姉ちゃんが通っているユスティマ神学院に入学するためには、イドラ教の聖典を暗唱できるくらい通読しておく必要がある。
(あと一年後か……)
少女はお姉ちゃんの後を追って、ユスティマ神学院に入学し、そこで偶像を目指すつもりだった。少女が入学する頃にはお姉ちゃんはもう卒業しているが、「今度はわたしが応援する側だねっ!」と言って、お姉ちゃんはいつも遠隔通話で少女を励ましていた。少女もまた、お姉ちゃんのように人を笑顔にさせる存在になりたいと思い、日夜勉強とレッスンに取り組んでいた。
(そういえば、今月の仕送りがそろそろ来るかも)
少女はイドラの書を閉じて再びリビングに向かい、道路沿いの窓を開ける。
少女の住む家はアパートの一階に位置しているため、配達が来るときはいつも窓越しにやり取りをしている。
ちょうどお昼時ということもあり、街路には住民が行き交っている。この通りは茶色やオレンジ色の壁をもつ古風なアパートが隙間なく並べられており、道沿いでは多くの出店が家から出てきた主婦たちを待ち構えている。
出店の看板には当たり前だが店の名前や商品の値段が書かれているが、たまに女の子のポスターを貼り付けたものを置いている出店もある。
ポスターの女の子は皆ユスティマ神学院の候補者であり、出店の店長は自分の"推し"をああやって"布教"しているのだ。
(やっぱり今年は"オリジン家"の子が人気だよね。ポスターも一、ニ、三……うわ、ほとんど彼女。……あ! あそこのお店、お姉ちゃんのポスターだ! うんうん、わかってるねぇ〜! 今度からはあの店でお肉を買おう)
窓枠に膝をつきながらニヤニヤと笑っていると、配達員が自転車に乗って少女の前にやって来る。いつも通りの事務的な会話をして荷物を受け取り、リビングの机でさっそく中身の確認を始める。
確認といっても、入っている物はいつも同じで、日持ちする食糧やお菓子、歌や踊りの指南書に、聖典に関する論文集、そして、一通の手紙。これらは毎週、アネッロ市国に住む一人の聖職者から送られてくる。
少女たちは幼い時に両親を亡くして、孤児院で暮らしていた頃、Oと名乗る司祭の養子として迎え入れられた。Oと顔を合わせたのは一度きりであり、そのときも黒いローブを頭から被っていたため具体的な顔立ちは思い出せない。
彼は多忙な身であるらしく、少女たちのところに顔を見せることは全く無いが、住まいはちゃんと用意してくれて、銀行にもお金がたんまりと振り込まれ、毎週こうして少女たちが望む物を送ってきてくれる。
(親としてはどうかと思うし、なんか怪しいけど……悪い人じゃないんだよな〜、多分)
そう心の中で呟きながら、少女は封筒を開封し、手紙を取り出して裏返す。
いつもであれば自身の近況を短く叙述したあとに、不便なことはないかとか、何か欲しいものはないかなど、こちらを気にかけてくれる文言が続くが、今回は少し真面目な文体で、長い文章が書かれていた。
要約すると、こうだ。
「お姉ちゃんが、十二の女中に選ばれます……そのため、生誕祭の一ヶ月前に、アネッロ市国に来てください……お姉ちゃんの舞台を間近で見る権利が、私にはあります……て、え、私も、行っていいの……?」
選ばれた十二人の候補者の中から、さらに三人が選出され、生誕祭当日に合同演奏会を行い、たった一人の偶像が決まる。そのため選出期間中は限られた信徒しかアネッロ市国に入ることは許されず、十二の女中の演奏会に参加するためには超高倍率の抽選に当たる必要がある。
封筒の中にはもう一枚、細長い紙切れが入っていた。それは、一ヶ月間のアネッロ市国における滞在と、そこで行われる全ての演奏会への参加を認可する証明書だった。
「や、や、やったーーー!!! ぐへっ!?」
少女は嬉しさのあまり飛び上がり、膝を机に思いきり強打する。あまりの痛さに膝を抱えて床に横たわるが、少女は涙を流しながらも笑っていた。
「へへへっ、待っててねお姉ちゃん……お姉ちゃんの一番で、最高の信徒が……応援しに行くから……!」
一週間に一話のペースで投稿したいと思います。




