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聖女スキルは「鍋奉行」!?  作者: 肉じゃが男爵


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8/8

第8話 凍てつく大地と雪見鍋


 ――雪の音が、静かに世界を包んでいた。


 空も地も真っ白で、吐く息まで凍りそう。

 王都から北へ三日。私とレオンは“氷原地帯フリュネ”に辿り着いた。

 目的は、北境を襲う“氷狼アイスウルフ”の討伐と、

 凍える村人たちを救うこと。


「……寒い……っ! 鼻の中まで凍るぅ!」

「マフラー、もっと巻け」

「マフラーより、火をください火を……!」


 雪の上を歩くたびに、きゅっ、きゅっ、と小さな音が響く。

 それがやけに静かで、逆に心細い。

 白銀の世界の中で、レオンのマントだけが黒く際立っていた。


「この辺りで氷狼の群れが出るらしい。結月、後ろに」

「りょ、了解っ……!」


 その瞬間――風が止まった。

 雪の向こうに、青く光る瞳が十……いや、二十。

 氷のような毛並み、鋭い牙。吐く息すら凍気を帯びている。


「出た……っ!」


 次の瞬間、群れが一斉に飛びかかる。

 レオンが剣を抜いた。

 ――その動きが、速すぎて見えない。


「《蒼刃連閃》」


 風が鳴る。

 青い閃光が雪原を走り、氷狼の牙を弾き飛ばす。

 斬撃が舞うたび、雪が弾け、白い世界に蒼い線が描かれた。


 レオンの剣筋は、まるで氷上を舞う狼そのもの。

 力強く、でも美しい。

 ……うん、ちょっと惚れる。


「レオンさん! 右から二体、残ってます!」

「任せろ!」


 彼が踏み込んだ瞬間、雪煙が舞い上がり、

 残りの氷狼が悲鳴を上げて倒れた。

 静寂が戻る。息が白く、ゆっくりと溶けていく。


「……ふぅ。怪我は?」

「だいじょぶです! ただ、体が冷えました……すごく」

「なら、火を起こそう」

「……ってことは、あれですね。出番ですね」


 私は背負っていた鍋をどん、と雪の上に置いた。


【本日のミッション】


氷原救済:寒さで弱った村人たちを“鍋”で温めよ!


メニュー名:《雪見チーズ鍋 ~とろける冬の白~》


食材リスト:

《雪兎の乳チーズ》:濃厚Lv95/とろけLv100/癒し+40

《霜鳥のささみ》:柔らかLv80/高たんぱく/体温上昇+30

氷菜こおりな》:シャキシャキLv85/ミネラル豊富/疲労回復+20

《北芋》:甘みLv90/粘度+50/幸福感+15

《火精酒》:発熱Lv100/香り増幅+25


 私は焚き火を起こし、鍋に火精酒を垂らした。

 ぱちん、と火花が散ると、雪の中にオレンジの灯が広がる。

 その熱だけで、凍りついた空気が一気にゆるんだ。


 霜鳥の肉を鍋に入れると、じゅわっ……と音が響く。

 焼けた脂の香りが甘く漂い、レオンの喉が小さく鳴ったのを聞き逃さない。


「レオンさん、今、喉鳴りましたね?」

「……気のせいだ」

「ふふ、正直でいいんですよ。これは、冬の飯テロですから!」


 私は笑って、北芋を切り入れる。

 白い芋が煮えるたび、スープが少しずつとろみを帯びていく。

 そこに雪兎チーズを投入――。


 とろぉぉぉ……。


 チーズがスープの熱で溶けて、黄金色に変わっていく。

 その香りが、もう反則級。

 ミルクの甘さとチーズのコクが混ざって、空腹に直撃してくる。


「これは……罪の匂いだな」

「ふふ、冬限定の合法罪です!」


 仕上げに氷菜を加えると、チーズの白に緑が映えて、

 見た目まで美味しそう。

 雪原の真ん中で湯気が立ちのぼる鍋――

 その光景は、まるで暖かい夢の中みたいだった。


「できました! 雪見チーズ鍋、召し上がれ~!」


 スープをすくって、レオンの手に差し出す。

 彼は一口飲んで、目を見開いた。


「……これは……体の芯から温まる」

「でしょ! 冷気を溶かす魔法の味です!」

「チーズのまろやかさと、火精酒の香りが……絶妙だ」


 彼がもう一口、もう一口と飲むたび、

 頬がほんのり赤く染まっていく。

 寒さだけじゃない、これは――鍋の魔力だ。


 私もスプーンを口に運ぶ。

 あつっ、でも美味しい……!

 チーズのとろみが舌にまとわりついて、

 芋の甘みと合わさって、ふわっと幸福が広がる。


 雪が降りしきる中、二人の間だけがあたたかかった。

 その静けさを破るように、村の方から足音が近づく。


 弱った村人たちが、雪を踏みしめながらこちらへやって来た。

 青ざめた顔、凍った指先。

 私は急いで鍋を差し出した。


「どうぞ! これを飲んでください!」

「こ、こんな温かいもの……何年ぶりだろう……」

「おいしい……涙が出る……」


 村人の顔に笑みが戻る。

 レオンが焚き火のそばで子どもに毛布をかけながら言った。


「結月。お前の鍋は、本当に……命を救う」

「へへ、レオンさんの剣があってこそですよ。

 あの狼たち、私一人じゃ絶対無理でした」

「……だが、俺の剣では、人の心までは温められない」


 レオンの横顔が、焔の明かりで照らされる。

 雪が光を受けて、髪に落ちる。

 その姿が、やけに優しく見えた。


「……レオンさん」

「ん?」

「いつか、“二人の鍋”を作りましょうね」

「……どういう意味だ?」

「意味は……そのときまでのお楽しみです」


 彼が苦笑し、頭をかすかに振る。

 けれど、どこか照れくさそうで――私はそれを見逃さなかった。


 夜が更ける。

 焚き火の火がゆっくりと小さくなっていく。

 雪の中、村人たちは眠り、レオンは見張りを続けていた。

 私は空を見上げる。

 白い世界に、星が静かに降っている。


 鍋の底には、まだ少しだけスープが残っていた。

 湯気はもう薄いけれど、味はあたたかいままだ。


 ――鍋って、すごい。

 誰かの心を溶かすほどの力を持ってる。


 私は木さじを握りしめ、そっとつぶやいた。


「次は、どんな味で世界を救おうかな」


 その声が雪に吸い込まれて、夜空へ溶けていった。


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