第50話:星の主電源(マスター・オブ・ワールド)
地上十キロメートル、成層圏を貫く【星の柱(軌道エレベーター)】の最上層展望デッキ。
ガラス張りのテラスからは、丸みを帯びた惑星の青い地平線と、無限に広がる漆黒の宇宙、そして満天の銀河が見渡せた。
手すりに寄りかかり、心地よい空調の風を受けながら、エドガーは冷えた魔導ビールを一口喉へと流し込んだ。
「ぷはぁ……。宇宙を見ながら飲むビールも、オツなもんだな」
眼下を見下ろすと、そこにはエドガーが敷き詰めたインフラの光が、網の目のように輝いていた。
大地を爆走する超伝導リニア鉄道『ライトニング・エクスプレス』の光の矢。
深海数千メートルの底でエメラルド色に輝く海底都市ルルイエの灯火。
外海を安全に行き交う数千隻の交易船団。
そして、この天空都市アガルタを優しく支える、黄金の重力結界。
すべてが、エドガーの体内の《生体リアクター》から生み出された、無尽蔵のクリーンエネルギーによって呼吸していた。
かつて、帝国の薄暗い地下室で「座っているだけの無能」と見下され、理不尽に捨てられた男。
だが、彼がプラグを抜いたあの日から始まった旅は――。
気づけば、この星のすべての生命と大地、深海、天空の三界すべてを救い、結びつける「世界の心臓」となっていた。
「マスター」
背後から、静かな足音が近づいてきた。
振り返ると、そこには六人の少女たちが、美しく微笑みながら立っていた。
清楚なメイド服のアイリス。
大公のドレスを誇らしげにまとったセレーナ。
緑の光を身にまとった精霊女王フロリア。
銀髪を夜風に靡かせた元皇女アステリア。
真珠の髪飾りを揺らす人魚姫コーラリア。
そして、純白の翼を優雅に広げた有翼の巫女姫フィリア。
「皆様からのご要望を取りまとめました、マスター」
アイリスが小さな銀の箱を捧げ持ってきた。
箱が開かれると、中には――六つの異なる属性の宝石が埋め込まれた、真新しい純金のコネクタプラグが収められていた。
「これは……?」
「世界の全グリッドと、私たちの魂を永遠にあなた様へと直結するための――【星の主電源プラグ】です」
セレーナがエドガーの手を取り、慈愛に満ちた瞳で見つめた。
「エドガーさん。あなたが世界を照らしてくださったように、私たちは生涯をかけて、あなたに愛と安らぎを捧げ続けます」
「エドガー、もう二度と、あなたを一人の暗闇になんて戻しませんわ」
「マスター、我が全回路は、あなたとの永久接続を要求しております」
六人の少女たちの温かい手が、エドガーの手の上に重なり合う。
胸の奥から湧き上がる、言葉にできない温もり。
エドガーは深く息を吸い込み、澄み渡る宇宙の星々を見上げた。
「……ありがとう、みんな」
エドガーはプラグを胸ポケットへと仕舞い、最高の笑顔を浮かべた。
「俺は、世界を支配する王様にも、崇められる神様にもなる気はないよ。ただの技術者として、みんなと美味い飯を食って、温かい風呂に入って、のんびり昼寝ができればそれでいい」
エドガーは少女たちを抱き寄せ、高らかに宣言した。
「さあ、地上へ戻ろう! 今夜は――世界一の楽園で、最高の大宴会だ!」
「「「「「「はいっ、エドガー様!!」」」」」」
少女たちの弾けるような笑い声が、成層圏の星空へと吸い込まれていく。
世界を救った最強のインフラ屋の、最高に痛快で、最高に気ままで、最高に愛された有給休暇は――。
これからも光り輝く未来へと、どこまでも永遠に続いていくのだった。
(第3部・完)




