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恋ってなぁに? ~3~

 悶々と過ごす朝陽は、目に痛い。まして夏の陽射しは目を開けているのがやっとの状況。


「なぁ、なぁ、ハルト」

 それでもユウリはいつもと変わらず、はしゃいだ声で呼びかけてくる。

 昨日はあんなに泣きそうになっていたのに、一晩で機嫌が直っている。もちろん、その屈託のなさにハルトはずいぶん救われているのだけれど。


「洗濯もん、気持ち良さそうやなぁ」

 夏の風に吹かれてなびくシーツを指さして、ユウリが言う。

 確かに、冬生まれの彼にとって夏は眩しくて、楽しいのかもしれない。そんなことを思いながら、もう挨拶という意味を果たしていないキスをする。


「あっ、そうや。ハルト。俺、聞きたいことあってん」

 キスの余韻もなにもなく、ユウリは部屋の中に戻っていくと、宝箱に似た木の箱を持ってくる。

「これって、何?」

「あぁ」

 それが何かわかって、ハルトがふんわりと微笑む。

「中、見たんか?」

「うん。へへ」

 勝手に開けてしまったことを謝るように、ユウリが首をすくめてみせる。


 木箱の中身は、ハルトのたったひとつのアウトドア趣味でもある、釣りの道具だった。

 場所を取ってしまう釣り竿や保冷バックなんかは地下に有る納戸にしまってあったけれど、定期的に水洗いした方が良いと言われているルアーは、リビングのキャビネットに入れておいた。

 最近、朝の掃除を日課にしているユウリが、掃除機を出す時に見つけたんだろうなんて思いながら、パチンと蓋を開ける。


「これって、魚やろ?」

「そう、擬似餌(ぎじえ)いうてな、魚を騙して捕まえるんよ」

「だまして?」

「そう。魚がな、餌と勘違いして喰いつくんよ」


 言いながら、スライド式のボックスを横に引っ張って、ひな壇状に開いて見せる。

「わぁ」

 陽射しがあふれるベランダで、よく磨かれた色とりどりのルアーたちが、きらきらと光を弾く。



 他人との係わりが苦手だったハルトに、釣りを教えたのは父の部下の坂崎だった。


 姉妹みたいに仲の良かった母と姉は、休日に連れだって出かけてしまうことが多かった。なので、いつもひとりぽつんと家に取り残されているハルトを可哀想に思ったのか、ある日突然釣り道具一式を持って遊びに来た。

「ハルトくん。今日これから、なんか予定ある?」


 大きなヘッドホンをして音楽を聴きながら本を読んでいたハルトに、ちょっと遠慮気味に問いかける坂崎は、ハルトがまだ小学生だった頃から父と一緒に家に来ることが多かった。上司と部下という間柄からか、ハルトの家族にも気を使う坂崎は、年の離れたハルトにでさえ決して横柄(おうへい)な態度を取ることはなかった。人見知りが過ぎるハルトも、坂崎の気づかいはよく知っていた。なので、ヘッドホンをずらしてにっこりと笑って応える。


「特には、ないですよ」

「だったら、僕と一緒に、釣り、行かない?」

「釣り?」

「うん。そこの河原で、ルアー釣り、やってみない?」


 釣りなんて、まったくもって興味を持ったことがないハルトだった。でも、その日はとんでもなく良い天気で、出不精のハルトでさえ、じっと家にこもっているのがもったいないような気分でいた。

 それでも、初めてのことには二の足を踏んでしまう。


「でも、僕、釣りって、全然知りませんよ」

「誰だって最初はそうじゃない。嫌だったら無理強いはできないけど……」

「嫌ってわけじゃないです」

「じゃ、行こうよ」


 そんなこんなで連れ出された河原は、風が気持ちよく流れていた。

 その場所は有名な釣りスポットらしく、釣り人は他にもいたけれど、誰もが自分の釣り糸に夢中で他人には無関心だった。

 人がいるのに気にならない場所なんて初めてで、寂しがりやなくせに人付き合いが苦手なハルトは、そのたった一回で釣りが好きになってしまった。


 海に連れて行ってもらったこともあったけれど、ハルトが気に入ったのは近場の川で気軽に出来るルアーフィッシングだった。

 もともと外に出ることを億劫(おっくう)に思ってしまうハルトは、何日も前から予定を組んで釣りに出かけることはめったになく、その日の気分で決めていた。だから、朝早くから出かけなければいけないような海釣りにはほとんど行かなかったけれど、川釣りだけは細く長く気ままに続いていた。

 そして、色んな種類があるルアーは眺めているだけでも楽しくて、ついつい集めてしまっていた。

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