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毒親転生 〜娘に嫌われたまま死んだので、異世界で学びなおします〜  作者: ちょこだいふく


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6/10

6.いやって言っていい

村の空気は、いつも柔らかい。


その日はエリナに手を引かれ、初めて同世代の子どもたちが集まる広場へと向かった。


「少しだけ広場は遠いけど、今日は冒険してみようね」


そう言って訪れた広場には太陽の光が降りそそぎ、子どもたちの笑い声が風に乗って響いてくる。


「ニア、今日はみんなと遊んでみましょうね」


「……あそぶ……?」


「ええ。ニアがしたいことを、ニアのペースでね」


手をぎゅっと握ると、エリナが優しく握り返してくれた。


⸻


広場のまんなかで


広場には同じくらいの年の子どもたちが四、五人ほど。

走り回る子、泥をこねている子、木の棒をふりまわして騎士ごっこをしている子。


「ニアちゃん?」

「この子、エリナさんの子?」

「いっしょにあそぼー!」


ニアの周りにふわっと輪ができた。


…え、どうすれば…?


ニアは、ほんの少し後ずさる。


大人になった心を持っているはずなのに、子どもたちの元気な勢いの前では、身体の方が先に固まってしまう。


それを見て、ひとりの女の子が首を傾げた。


「どうしたの?ニアちゃん、おあそびきらい?」


「え、あっ…」


違うよ、と言いたいのに、声が途中で出なくなる。


(……みんな、どうしてこんなに……

 思ったことをそのまま言えるんだろう……?)


⸻


子どもたちは泥だんごを作って遊んでいた。


「ニアちゃんもやるー?」

「これ、あげる!」


小さな手に、ぐしゃっとした泥が乗せられる。

ニアは思わず手を引いた。


(……にがて……これ、きらい……)


でも「きらい」が言えない。


嫌だと言ったら、相手が怒るかもしれない。

泣くかもしれない。

自分のせいで、誰かが嫌な気持ちになるかもしれない。


前の世界で染みついた恐れが、今更身体の奥で動きだす。


「やらないの?なんで?」


「…えっと…その…」


言葉が、のどに詰まる。


⸻


その様子を遠くから見ていたエリナが近づいてきて、そっと肩に手を置いた。


「ニア、どうしたの?」


「……おだんご……いや……」


小さな声で言うと、エリナはすぐに頷いた。


「そうなのね。嫌な時は“いや”って言っていいのよ?」


その一言に、胸がふっと揺れた。


(……いって、いいの……?)


「ニアはニアの気持ちを、言っていいの。もしそれで誰かが嫌な気持ちになっても、それはニアのせいじゃないわ」


エリナは私の手を握りながら、子どもたちに向けて明るく笑った。


「ごめんね、ニアは泥が苦手みたいなの。ほかの遊びなら一緒にできるかしら?」


「じゃあお花つみにいく?」

「そっちがいいのー?」


子どもたちの反応はあっけらかんとしていて、誰ひとり嫌な顔をしない。


…え……怒らないの……?

私、いやって言ったのに……?


世界が静かに揺れた気がした。


⸻


エリナに手を引かれ、花の咲く場所へ移動する。

子どもたちが楽しそうに走っていく。


ニアは、少し遅れて歩きながら、ぽつりとつぶやいた。


「……にあ、いって…いいの……?いや、って……」


エリナは歩みを止め、しゃがんで目線を合わせた。


「もちろんよ。ニアの“いや”は、とっても大事な気持ちよ」


その声は、風よりも優しかった。


…いや、っていってもいい…?

…きらいって…いっても……?


胸の奥で、固くしぼんでいた何かが、ゆっくり息を吸い始めたようだった。


⸻


花畑に着くと、子どもたちは自由にしゃがみこんで、好きな色の花を摘んでいた。


「みてー!これ、かわいい!」

「これニアちゃんにあげるー!」

「わたしは赤がすき!」


好き、嫌い、楽しい、嬉しい。

感情がすべてそのまま声の形になっていて、そこに嘘が一つもない。


…どうして…みんな、こんなに自由に言えるの……?


前の世界で私はずっと、息をひそめて生きてきた。

正しい顔をしていないと愛されないと思い込んでいた。


…でも、この世界では、ただのニアで…いいみたい。

もしかしたら、前の世界だって、本当はそうだったのかもしれない。

…ただ誰も教えてくれなかっただけで。


⸻


ニアはそっと手を伸ばし、小さな白い花を摘んだ。


「……えりな……ニアね……これ、すき……」


自分の“好き”を言うのが、こんなにも怖くて、

こんなにも嬉しいことだなんて。


「まあ…ニアの好き、聞けて嬉しいわ」


エリナが優しく微笑んだ。


それだけで、胸があたたかく震えた。



この世界で。

この身体で。


幼い心と、前の世界の傷を抱えながら、私はもう一度、言葉を学び直していく。

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