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聖女様、それ“回復魔法”じゃなくて“時間逆行”ですよ!?  作者: 朝陽 澄
第一部:名前を忘れた聖女と、記憶を繋ぐ少年編
9/15

第9話:記憶の封印が解けるとき、彼女は神になる

 ──辺境の村・焼け跡の広場──


 


 剣がぶつかり合う音が、夜の静寂を切り裂く。


 


 「遅いぞ、カイン=アレスト。まるで、昔の落ちこぼれに戻った気分だ」


 


 そう言って剣を払ってきたのは、アルヴィス。

 魔法と剣を両立させた王国最強の騎士──その手に握られた黒銀の刃が、僕の頬をかすめる。


 


「そうかい。なら、こっちは“落ちこぼれ”らしく、勝ち筋にしか賭けない」


 


 僕は剣を引き、距離を取った。


 この戦いは正面から挑んでも勝てない。

 奴は僕より速く、魔力も多く、冷静で、何より“聖女の力”を熟知している。


 


 でも、奴が知らないことが一つある。


 


「君は、エリスを“力”としてしか見ていない。

 けど、俺は……彼女を、“人”として見てる」


「その甘さが敗因だ。力に心など不要。必要なのは制御だ」


 


 アルヴィスが詠唱を始めた。


 《雷撃陣・螺旋式ラグナヴォルト》──広域焼却魔法。

 この村ごと吹き飛ばす威力がある。


 


(――まずい、避けきれない……!)


 


 でもその瞬間だった。


 


 空気が反転する。


 


 魔力が巻き戻るような錯覚。


 視界が揺らぎ、地面に敷かれた魔法陣が、逆再生のように“未発動”の状態に戻った。


 


 「……まさか……!?」


 


 振り返ると、そこに立っていた。


 ボロボロの外套をまといながらも、まっすぐな瞳で、僕を見ていた。


 


 「カイン……私、思い出したよ」


 


 エリス=ルーナ。


 その目に宿るのは、かつて僕が一度も見たことのない――神域の光だった。


 


 「私は、時間を癒す聖女なんかじゃない。

  私は、“因果の概念”そのものを改変する存在。世界の過去すら、書き換えることができる」


 


 「……“神”……なのか、君は」


 


 「違う。私は“人間”だった。カインがいてくれたから。

  でも、もしこの力が、誰かを傷つけるだけなら──もう、これ以上は……」


 


 彼女は手を掲げ、魔力を放つ。


 


 《時間術式・絶対制限テンペラ・コントラクト》。


 


 それは、自らの“巻き戻し能力”に制限をかける魔法。

 “他人の命を救う時にしか発動できない”よう、因果律を上書きする禁術。


 


「もう、私は“全て”は救えない。……でも、“一人”をちゃんと守れる私でいたい」


 


 魔力が光に変わり、彼女の身体を包む。

 そして、次の瞬間――エリスの背後に展開された《神域陣》が、アルヴィスの魔力制御を完全に停止させた。


 


「な……この術式、そんなバカな……!」


 


 「カインを、傷つけさせない……!」


 


 エリスの声が響き、アルヴィスの剣が、まるで時間が止まったかのように“寸前で止まる”。


 彼女の力が、“攻撃そのものの因果”を否定したのだ。


 


 アルヴィスは剣を落とし、膝をついた。


「……バケモノだ……君は……世界の敵になる……!」


 


 でも、エリスは静かに首を振った。


「私は誰の敵でもない。カインの“味方”でいるって、決めたの」




 戦いが終わったあと、教会の裏に二人で座った。


 


 「……ねえ、カイン」


 「ん?」


 「ありがとう。名前だけは、ずっと覚えていたよ」


 


 僕は思わず涙が出そうになった。


 それはただの一言だった。

 でもそれは、彼女が何度も何度も巻き戻し、忘れて、また願って――ようやく守った“記憶”だった。


 


「……次、どうする?」


「王都に行こう」


「え?」


「世界に言わなきゃ。

 “聖女は神じゃない。普通の女の子で、恋をして、笑って、怒って、泣く”ってこと」


 


 その時、彼女がほんの少しだけ、頬を赤らめた。


「……“恋をして”って……いま、私のこと?」


「さあ、どうだろう?」


「もう……意地悪」


 


 そう笑った彼女の顔は、どんな神よりも美しかった。

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