06
そうして歩いていると、ようやく中央通りまで戻ってきた。
「城は向こうだね」
大通りの先にある小さな丘。その上にこの国の城はあった。
「もうすぐ時間的には夜になるし、さっさと用事を済ませよう」
アーリアに告げ、先へ進もうとする。
「ちょっと君たち、いいかな?」
すると、いきなり背後から声がかけられた。後ろを振り向けば、そこには金色のショートヘアの少女がいた。年頃は十代半ばだろうか。軽装な服装をしていて、唯一の持ち物といえば腰に剣が一本差されているのみ。旅人にしては、似つかわしくないような様相をしていた。
「ボクはユーリって言うんだ。その服装からして、お兄さんたちは旅人だよね? よかったら少し話をしない?」
ユーリと言った少女は元気そうな声で、さも旧知の仲であるかのように言った。
「いえ。すみませんが、僕たちは用事がありますので……」
あまり関わりたくなかったので、嫌そうな顔を出さないように気を付けつつ、丁寧にお断りをした。
「えーー! 少しぐらいいいじゃん。そんなに時間はかからないからさー、多分……」
こちらの意志などお構いなしで、無理やり誘おうとしてくる。
この調子だと、話を済ますまでは一緒についてきそうだなと感じたハヤトは、諦めた様子で彼女に付き合うことにした。
「はぁ……。わかりました。少しだけならいいですよ」
「やったー! じゃああっちに空いてるテーブルがあるから、そこに行こう」
そう言って楽しそうに先を行く彼女を見ていた。厄介な人に捕まったなと考えながら、ハヤトは観念して後をついていった。
「そういえばまだ名前を聞いてなかったね。何て言うんだい?」
名前については特に隠す理由もないので、素直に答えた。
「ハヤト……」
「アーリアにゃ」
「ハヤトさんにアーリアちゃんか。うんうん、いい名前だね。ところで二人はどうしてこの国に来たんだい?」
彼女は一人納得しながら、こちらに質問してきた。
「僕たちは旅人ですので……。太陽が沈まない国というのがあると聞いて、こうしてやってきました」
「だよねー。ボクもその噂を聞いてたんだけど、いざ実際に来てみれば曇ってるし。太陽の姿なんて全く見えないもんだからがっかりしたよ」
その様子からはがっかりしているようには見えなかった。
「でさー、曇ってるのは天気だから仕方ないじゃん。でも、国の人たちのあの対応って何なの? 元気ないしさー。一見して会話は通じてるように見えるけど、実際には噛み合っていないし。国のどこに行っても皆この調子だしさー。正直もううんざりしていて国を出ようと思ってたんだよねー」
彼女の終わらない口撃に、二人は口を挟まずに静かにしていた。
「それなら最後に、あのよく目立つ塔? みたいなとこに行ってから出ようかなーと思ったんだ。だけど、中に入ったら誰もいないし。仕方ないから自分で説明見て、一人で上まで登ったんだよね」
もしかして階段で昇ったのかと聞きたい衝動に駆られたが、藪蛇になりそうだったので、何とか抑えて静かにしていた。
「最上階まで登ったんだけど、そこには展望台があってね。いやー、そこからの眺め自体はよかったし、貴重な体験が出来たからもう満足して帰ろうと思ってたんだ。そしたら、ここから離れた場所にポツンと一軒家があって、さらにそこへ向かう二人組の姿が見えるじゃないですかー」
どうやら自分たちの行動は見られていたらしい。
「これはもしかしてと思って、そこで待ってたんですよ」
その上、監視されていたらしい。
「夕方まで待ってやっと出てきたじゃないですかー。こっちとしては待ちくたびれてたんですよねー」
彼女はこちらに文句を言いたそうにしていた。
「なのに、最初ボクのお誘いを断ろうとするなんて、すごい酷いよね。どうかしてるよ!」
「そんなこと言われましても……」
「そんなの知らないにゃ……」
二人は、彼女の自分勝手な言葉に困惑していた。
「それで、お二人はこの国をどう思う?」
「どう思うとは?」
「だからさー。会話が通じなかったりするじゃん? それってどうしてだと思う?」
ユーリの言葉に対しどう答えようかと迷ったが、少し考えた後、本当のことをそのまま話さないことに決めた。
「どうしてなんでしょうね? そういえば、昨日雨が降りましたね。この曇り空ですし、もしかしたら何か関係あるかもしれませんね」
意味ありげな含みを持たして、彼女に答えた。
「そう! 雨! 曇ってるんだし雨ぐらい降るだろうけど、何か変な感じだったんだよ! 次の日外に出てみたら、建物の中にいた人たちが外に出てたりするし。不思議だよねー」
何か違和感を感じて、疑問には思っているようだが、あれが原因だということまではわかっていないようだ。
「そういえば、あの雨大丈夫だったのかにゃ?」
アーリアが彼女にそう聞いた。
「雨? 濡れなかったのかってこと? 少し濡れちゃったけど、すぐに建物の中に避難したから、そこまでは濡れてないよ」
彼女は何でもなかったかのように答えた。
「もし気になるのでしたら、この国を調べてみるといいかもしれませんね。もしかしたら、何かわかるかもしれないですよ」
「なるほど、確かにねー。わかった。明日ちょっと調べてみるよ」
そう言って、彼女は椅子から立ち上がった。
「今日はお話に付き合ってくれてありがとうねー。ボクはまだこの国にいるから、何か用があったら探してねー。それじゃあ、また」
彼女は嵐のごとく、この場から去っていった。
「何だったんだにゃー……」
アーリアは呟いた。
「こんな気分じゃ、城に行く気にはならないね……。また明日にしよう……」
「賛成にゃ……」
二人は疲れた様子で、宿へと歩いていくのだった。




