04
2話目です
翌朝、日が昇り始めた頃、ドミニクがテントから出てきた。
「おはようございます、ドミニクさん」
「ハヤトさん、おはようございます」
お互いに軽い挨拶を交わす。
「昨夜は一晩中見張りをされてたのですか?」
「ええ、まぁ」
「体の方は大丈夫でしょうか?」
「問題はないですね。旅をしていれば、この程度はいつものことですので……」
そうした他愛もない話をしながら朝食の準備をしていると、アーリアも寝ぼけ眼を擦りながら、テントの外へと出てきた。
「おはようアーリア」
「おはようにゃ。ぐっすり寝れたにゃ」
「それはよかった」
全員で朝食を済まし、野営設備を片付ける。出発の準備ができると、再び国へ向かって馬車を進めていった。
暫くは平穏な旅路だったが、太陽が頂点に昇る頃、馬車の後方から轟音を響かせて大量の馬群が押し寄せてきた。騎乗者が目視できる距離まで近づかれると、服装から昨日の盗賊たちが再び現れたことがわかったので、警戒を強めた。
「何ですかこの轟音は!」
商人が馬車を操りながら慌てたような声を出す。
「どうやら昨日の盗賊たちが現れたようです」
「なんだって! 早く逃げないと!」
「相手は馬に乗ってるんですからどの道追いつかれますよ。僕の方で何とかするので、馬車を止めてもらっていいですか?」
「わかりました。お願いします」
こちらの要望に応え、馬車はゆっくりと速度を落とす。完全に停止するのを待ち、馬車から降りた。
「アーリアはそのまま馬車の中で待っていて。すぐ終わらせてくるから」
「わかったにゃ、主様。気を付けるにゃ」
「心配ありがとう」
追ってきた盗賊たちは、馬車が完全に停止するのを見るや馬の速度を緩め、こちらへとゆっくりと向かってきた。
昨日とは違い、その数ざっと五十ほど。たった一人の護衛に対してかなり警戒していることが窺えた。一日で五十人分の馬を用意出来ることからも、やはりただの盗賊ではないことがわかる。
盗賊たちは相手の姿がある程度見えるところまで近づくと、昨日のように奇襲を受けないようにある程度距離を取って止まる。そして馬から降りると、複数人で警戒しながらも目の前の男をしっかりと見据えた。
「せっかく命も取らないであげたのに……。昨日のあれだけじゃ実力がわからなかったのかな? いくら盗賊とはいえ命は大事にしないと」
自分にとっては警戒に値しないため、剣に手をかけることもなく、相手を挑発するかのような口調で問いかけた。
「我らを盗賊だと? 盗賊はむしろその商人だ! 我々は奪われた大事なものを取り戻しに来ただけだ!」
部族のような服装をした盗賊たちの中から、昨日指揮していた主導者と思われる男が、怒りを露わにして自分たちは正しいと主張する。
やはり訳ありかと思いつつ、ドミニクの方へと視線を移す。
「わ、私はそんなことしませんよ! ただの言いがかりです。所詮盗賊の言うことですから、真に受けないでください」
あからさまに動揺し出した様子を見ると、この盗賊が言っていることは正しいのだろう。だけど……。
「あなたたちが言っていることは多分正しいのだろうね」
「ならば、なぜその商人の味方をする?」
男はハヤトへと問いかける。
「これでも一応護衛として雇われているからね。真実はどうであれ、仕事を受けた以上は果たさないと」
そう答えると、男は信じられんといった表情をした後、こちらを睨みつけてきた。
「お前には良心というものはないのか!?」
「人並みには持っているつもりだけど、それとこれは別だね。仕事は仕事だ」
全ての報酬はまだ受け取っていないが、前金は既に受け取っているため、仕事を果たす必要がある。ハヤトは商人を守るため、腰の鞘からゆっくり剣を引き抜いた。
「お前のような非道なるもの、我らが守護神様が許さないぞ」
「神を祭る部族だったか……。生憎僕は、神なんてくだらないと思ってるけどね」
必要な時に助けてくれない神など、ハヤトが信じる道理はなかった。
「我らが神を侮辱するか!」
「だってそうだろう? 君たちがいくらいようと僕には勝てない。この状況をどうやって覆すつもりなんだい?」
ハヤトが問うと、主導者の男は驚くべきことを言い出した。
「当然助けてくださるはずだ! 我らが守護神、不死鳥様はな!」
ハヤトは自分が聞き間違えたのかと思った。
「え……と。ちゃんと聞こえなかったけど、何て言ったんだい?」
「我らが守護神、不死鳥アーリア様だ。その偉大なるお力で、我が部族を幾度となく助けてくださったのだ」
どうやら聞き間違えではなかったようだ。彼が言った不死鳥という言葉が気になったので、ハヤトは少し考えて、話を聞いてみることにした。
「少し質問なんだけど、君たちが盗まれたというものはどういうものなのかな?」
「我らが崇めるアーリア様の姿が刻まれた、片手程の大きさの石だ」
剣を鞘に納めると、ドミニクの方へと振り返る。
「ドミニク、どうせ持っているんだろう? その石とやらを少し見せてくれないか?」
そうお願いするが、
「そいつらの嘘に決まっているでしょう! いいから早く倒してくださいよ!」
盗賊の言い分を嘘と断定し、大声で捲し立てた。
「いや、それが嘘かを確認するためなんだけど? 早くしてくれないと、こちらは力ずくで探すけど大丈夫?」
少し脅すように言うと、昨日のあの立ち回りを思い出したのか、観念して馬から降り、馬車の中へと入っていった。
暫くして出てくると、ドミニクの手には何かの模様が刻まれた、片手程の石があった。
それを彼から受け取り、刻まれた模様をじっくり見る。その模様はどこかで見たような――というか毎日見ている不死鳥の姿が刻まれてあった。
「アーリア、少しいいかい?」
馬車の中へ入り込み、彼女を呼ぶ。
「何かにゃ?」
「この石なんだけど、見覚えはある?」
彼女へ手に持った石を見せる。
「んー……」
「どう? 何か思い出せる?」
「――あ。そういえば、昔アタシが住んでいる山に食べ物を持ってくる人がいたにゃ! そのお供えしてくれる場所にそんな石があった気がするにゃ!」
その話を聞き、彼らがアーリアを崇めていた人たちとわかった。彼女の味方であるのなら、少し事情は違ってくる。
馬車の外へ戻り、盗賊たちに睨まれて体を竦ませている商人に石を見せる。彼女の言葉によって盗賊の言い分に信憑性が増してきたため、この石をどこで手に入れたんだと問い詰めた。
最初は珍しい石だったので前の国で購入したと言っており、一層厳しくなる盗賊たちの視線に何とか耐えていた。けれど、嘘をつくと僕も敵に回しますよと告げると、観念したのかその石はとある山の祠のような場所から取ってきたと言う。
「あなたには護衛をお願いしていたのに、何故?」
商人からすれば味方と思っていた者に急に裏切られたと感じただろう。
「悪いね。前金の分はさっきまでの護衛でおしまい、ってことで。それに、身内の仲間を害することは出来ないからね」
その説明に商人は意味がわからないといった顔をしていたが、こちらも言うつもりもないため、多分わからないままだろう。




