侵略後のひととき
番外編を書いてみました。
「いや~地球のお茶はおいしいでありますなぁ~。」
「そうですねぇ~。」
地球が宇宙連盟に登録されて知名度が上がった結果、宇宙からの観光客が多くやって来るようになった。実は今までも宇宙から観光に来る者もいたらしいのだが、宇宙法で科学力が一定水準以下の星では正体を秘匿しなければいけなかったらしい。観光に来て浮かれてしまい、ステルス迷彩を作動し忘れて地球人に見つかってしまった者もいるとかなんとか。
まぁ、今は秘匿する必要もなく、正体を隠すこと無くその辺に宇宙人が歩いている。
目の前にいるこの人達も宇宙人だ。宇宙人なのは別にいいのだが…。
「人の家でリラックスしすぎじゃないですか…。」
八将軍が2人も俺の家に来たことに驚いていたが…それにしてもくつろぎすぎじゃないだろうか?
「このお茶を飲んでいると落ち着くのでありますよ~…あ、おかわりください。」
「私はこのお饅頭をもう少しいただきたいですねぇ~。」
「あなた達何しに来たんですか…。」
連盟軍の八将軍のアリスさんは初めて会った時の凜々しさを感じられないとろけきった表情を浮かべている。家に押しかけてきた時に着ていた鎧も今は脱いでいるので、とても将軍には見えない。
横にいるストレアさんはお茶請けにと思いたくさん置いておいた饅頭をほとんど1人で食べ尽くしてなお、まだ饅頭を食べる気でいるようだ。
「私達だって来たくて来てる訳じゃないでありますよ。あ~お茶がおいしいであります。」
「あなた達兄妹が連盟軍本部に来ないから私達が来るはめになったんですよぉ~…お饅頭まだですか?」
あーそのことか。連盟に加入するとなった時に俺達の貢献度が高いこと、戦闘能力が連盟の誰よりも高いことから俺は技術開発局長、妹は大将軍という連盟の中でもかなり重要なポストに就くことになったのだが、連盟の船の技術が向上したことで連盟本部に集まり易くなったので将軍級以上の役職を持つ者は1ヶ月に一度本部に集まり会議を行うことに決まったのだが…。
「今回の会議は欠席するって伝えたと思うんだけど。」
「分かっているでありますよ!そんなことは!でも、今回は新体制になってから初めての会議!大将軍が理由も告げずに欠席だなんて困るであります!」
「上も怒っててですねぇ。何度通信しても応答しないから私達が直接迎えに来たってわけですよぉ。とりあえず何でもいいから引っ張ってきなさいって。とりあえず会議は1週間後に延期しましたからぁ。余裕を持って本部に行けますからねぇ。逃がしませんよぉ。」
はあ、妹が「欠席連絡はちゃんとしといたよ」って言うから信用していたが欠席理由も言っていなかったとは…。まぁ、妹はこの事になると周りが見えなくなるからな。
たぶんだけど欠席するってちゃんと伝えたのに、あーだこーだうるさいから着信拒否しているのだろう。確認してみると俺の通信装置も妹によって宇宙連盟からの着信が届かないようになっていた。いつもの事とはいえ妹のこの暴走癖だけは治さないといけないな。
「いや、すまない。俺ももう少し気にしていればよかった。ちゃんと会議には参加するから許してくれ。」
「困ったものでありますよ全く…ふぅ、叫んだら喉が渇きました。お茶をください。」
「お饅頭以外のお菓子はないのでしょうかぁ?」
……俺達も大概だがこの人達も自由すぎるな。
早く帰って来てくれ妹よ…。お兄ちゃんは疲れた。
「ただいまお兄ちゃん!ってアリス!どうしてここに!?」
「あなたが通信拒否をするせいで直接来るしか無かったからでありますよ!!」
「む、ストレア殿も一緒なのか。」
「はぃ~お久しぶりですねぇ。寧々さん。」
小学性だけで行動するのはあぶないと咲と実を迎えに行っていた妹が帰ってきた。
咲と実の頭には既に猫耳は無い、尻尾も同様だ。
2人はあの姿を気に入っていたようだが普段の生活に影響が出ることも考えて元の姿に戻してあげたのだ。
ただ、元の姿に戻って少し不満そうだったので、猫耳少女の姿にはいつでもなれるようにコマンドを唱えることで変身出来るようにしてあげた。ついでに変身した時に魔法少女っぽい姿になるようにしてあげたらすごく喜んでくれた。
寧々ちゃんに関してはあまり変わらずだ。ただ、会う度にしゃがんでお祈りのポーズをするのだけは本当にやめて欲しい。崇められても困る。私は神では無い。
「アリスちゃんもストレアちゃんもパーティに参加するの~?」
「パーティ楽しみだね~。」
「パーティ?なんのことでありますか?」
「なんのパーティか…ですか。ふふっ。それはこの世界で何よりも優先すべきパーティですよ。」
あーあー。妹の変なスイッチが入っちゃったよ。
妹は祝い事が好きだからなぁ。こうなると止められないんだよなぁ。
「さぁ!皆さん始めますよ!クラッカーは持ちましたか?…よし!では始めましょう!
お兄ちゃんのバースデーパーティを!」
「いやぁ、亮さんの誕生会のために会議を欠席したのでありますか…ってそれだけでありますか!?」
「何を言うかと思えば…これ以上に優先するようなことなどないでしょう。
私はお兄ちゃんのバースデーパーティを1年で一番楽しみにしているのです。」
「えぇ…いやいや、亮さんの誕生日はここじゃなくても祝えるでありましょう?」
「分かっていませんね。祝うことには入念な準備を必要とするのです。他の事に気を回す余裕などないのです。」
「目がヤバイのであります…。」
「ねぇねぇお兄さん。妹さんのお目目がぐるぐるしてますよ?大丈夫なんですかぁ?」
「あぁ、妹は祝い事が大好きでな。こうなると止められないんだよ。」
「へぇ~祝い事が好き…それだけじゃないような気がしますけどねぇ…。」
いや本当に妹は祝い事が大好きなんだよ。俺の誕生日だけじゃなくて妹自身の誕生日も楽しみにしてるし、バレンタインとかクリスマスとかも好きみたいだな。
「俺も妹が楽しみにしてるのは分かってるからな。イベント事は全力で楽しむようにしてるんだ。祝い事に応じたセットを用意したり、プレゼントも気合いいれて用意するようにしてる。けど、俺の誕生日に関しては妹が全部用意するから祝われることだけ考えてほしいって言われてるんだよ。全部自分で用意するからだろうな、俺の誕生日の日は他の日と比べものにならないぐらいにやる気に満ちてるんだよ。」
「いや、ちょっと違う気がしますけどぉ…まぁいいです。」
「あ、お兄ちゃん。お饅頭おいしかった?お兄ちゃんはお饅頭大好きだもんね。たくさん作ったからお腹いっぱい食べれたでしょ?」
「お饅…頭……?」
「お誕生日の度にお兄ちゃんがまだまだ食べられるぞって言うから今年は絶対に食べきれない量を作ってみたんだ~。どうだった?」
「あわわわわ。」
ストレアさんが小刻みに震えてる。どうしたんだ?
しかし饅頭か…確かに俺の好物でいくらでも食べれるとは言ったけど、今年は本当に食べきれない量あったんだよな。しかし、お兄ちゃんとしては妹が丹精込めて作ったものを残すなんてことはしたくない。だから急な訪問ではあったけどストレアさん達が来てくれて本当に助かった。ものの数分で全部平らげてしまうとは思わなかったけど。
「あぁ、いつも通りとてもおいしかったよ。食べ尽くしたい気持ちはあったんだけどね?少しだけ食べきれなかったからストレアさんに残りを食べてもらったよ。」
「ストレアさんが?」
「ひっ…。」
「……どう?おいしかった?お兄ちゃんのために作ったお饅頭。」
「お、美味しかったですよぉ。」
「それはよかった。お兄ちゃんも満足してくれたみたいだし、私も満足だよ。」
妹のお饅頭は毎年どんどんおいしくなってくからな。
来年も楽しみだな。
「ストレア、大丈夫でありますか?」
「大丈夫ですよぉ。ちょっと妹さんの顔が凄まじいスピードで私を見ただけです。びびってなんていませんよぉ。」
「さぁ、お兄ちゃんのバースデーパーティは始まったばかりだよ!
料理もたくさん用意してあるからね。楽しくみんなで祝いましょう!」
「「おー!!」」
連盟本部に向かうため誕生会が終わった次の日に俺達は地球を発った。
妹の暴走状態は収まり、いつも通りになった。それを見たアリスさんとストレアさんはほっとしたような顔をしていた。少し申し訳ない気分になった。
そうして連盟本部に到着した。会議まで少し日程が空くはずだったのだが、全員集まったので到着したその日に会議をすることになった。
会議が始まると、将軍の1人が妹に対して大将軍が私情の為に欠席するなどありえないと糾弾してきた。仰るとおりで反論することも出来ずに口を閉ざしていたのだが、アリスさんとストレアさんが俺達をかばってくれたのだ。あれほど俺に文句を言っていたアリスさん達が味方してくれるとは思わなかった。どこか焦っている感じであったのが不思議ではあったが、それだけ俺達を守ろうとしてくれたのだろう。嬉しい話だ。
会議はそれ以降特に何も起ること無く終わった。
今後の会議の日程については各人の都合の悪い日程を避けて行われることになった。
最初からそうして欲しかったが、まぁいいだろう。
これから連盟のルールも柔軟に変えていけばいいことだ。
「はぁ、びっくりしたであります。本部にあらかじめ報告書は送っておいたのにあいつは読んでなかったのでありますな。寿命が縮まると思ったであります。」
「あの発言を聞いた瞬間に妹さんの目が据わったのには恐怖しましたねぇ。私達がフォローに回ったら元に戻りましたけど。」
「亮さんに対する福さんの執着は凄まじい物があるようであります。これからも注意しなければいけないでありましょう。」
「そうしましょう。…しかし妹さんの作ったお饅頭美味しかったですねぇ。また食べたいものです。」
「はぁ…命知らずでありますなぁ。」
世界の平和を守ることは大切だが、それ以上に兄が大切。