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第12話「俺はワーカーホリックだったらしい」

今回の投稿は【第9回二ツ樹五輪プロジェクト】その無限の先へ 第4巻出版(*´∀`*)の「二ツ樹五輪 次回Web投稿作品選定コース(限定7名)」に支援頂いた月神さんへのリターンとなります。(*´∀`*)




 それは、言ってしまえば幼少期の環境と体験が性根を歪ませたというだけの話でしかない。

 形や大小の差こそあれど、誰もがどこかで抱えるようなコンプレックスが解消も爆発もせず内側で燻ぶり続けているだけの事なのだ。

 そのコンプレックスの対象が、俺の場合は家族、引いては唯一の無二の才能を持ち、それを活かせる者だった。

 単純に実力を持つ者、用量を掴むのが上手い者、あるいは努力を怠らない者でも、それを血肉とする事に秀でている者でもない。ましてや複数分野で活躍するような者でもない。そんなものはどこまでいっても程度の違いでしかないというのが俺の持論で、どれだけ秀でていても対象に含まれたりはしない。

 俺とってのコンプレックスの対象は、どう考えても理屈に合わない突出した才覚を示す者。だった一人でも時代を変え、ブレイクスルーをもたらす者。いろんな意味で煮詰まり切ったこの現代社会において尚、各分野で天才と呼ばれるような本物が嫌いだった。

 持たざる者の嫉妬というのとはちょっと違う。自分がそう在りたいという願望すら抱かない。抱くのは単なる嫌悪感だ。


 人類の中でもトップクラスの怪物である柳良正。最年少で官僚になったらしい才媛十和田遙。胡散臭い面接官山岸道。ここ最近、一般的に見れば飛び抜けて優秀な人たちと相対してきたが、そういう人に思うところはないし、俺のコンプレックスセンサーは反応しない。

 伊藤美柑、東堂ユウリなど、普通にカテゴライズされる者も同じ。そこに人生の中で優秀……自分には絶対にできないと感じるような差を感じる者を含めても同様。

 ならば、現在の地球文明圏最強である滝沢コウはどうなのかと聞かれても同じだ。おそらく、他のシンについても。

 ここまで無数に弾丸を叩き込んできた対戦相手だって例外はない。ついでに、あの狂犬ガランもだ。

 唯一判断できないのは、あまりに存在の格が違い過ぎて測れないりんごくらいで、そうそう引っ掛かる相手はいないのが俺の嫌いなタイプである。

 極端に狭い範囲のカテゴライズだ。大半の人はそれを認識できず、存在に気付きもしない。幼少期からその傍に在り、比較され、打ちのめされた者だからこそ分かるセンサーのようなものだ。


 今回戦った相手、片仮名変換されてペイザータという名らしいあいつはその類だった。極小の範囲に含まれる嫌悪の対象。

 試合後に情報を購入して確認した限り、現時点ではその片鱗が見えるだけで、周囲の評価すら芳しくないらしい。本人も気付いているかどうかは怪しい。しかし、直接対峙した俺にははっきりと分かる。アレは俺の嫌いなタイプだと。

 たった一度、死闘を演じただけで分かってしまうほどに俺のセンサーは鋭敏で、容赦なくトラウマを抉ってくる。久しぶりにそれを実感させられてしまった。


 こんな事になった原因は俺の置かれた環境にある。家を出るまでの幼少期に記憶された中、それはいつも存在していた。

 不世出の神童。いろんな意味で煮詰まり切ったこの現代にあってさえそう呼ばれるほどの傑物が俺の兄だった。目に見えるものではなく、どこでも何かしらの結果を出す。結果以上を示し続ける。ついていけば何かをやってくれそうな気にさせる。集団の中にあって、誰が見ても惹きつけられる。そんな存在だ。

 そんな怪物の弟となれば誰もが期待し、比較するが、どう足掻いて一般人カテゴリからは逸脱しない者には荷が重い。無数の侮蔑、軽蔑、嘲笑の視線を受けながら、俺は早々に折れた。

 それだけなら途方もない才能を見上げるだけの凡人というだけで済んだ。コンプレックスを抱きつつも特別でないだけで済み、どこかで折り合いも付けられただろう。照りつける巨大な太陽の影は巨大で、隠れるのには最適だったから。

 しかし、方向性こそ違えど同じような才能……妹に下からも突き上げられるとなれば話は別だ。二つの太陽に照らされた俺は居場所も逃げ場所も失った。

 結果、上を見ても下を見ても光しかないならと、俺は横に逃げ出した。現代の社会制度を活用し、齢一桁にして家族から逃げ、一人で生きていく事を決めたのだ。

 俺に現実を突き付けた二人の怪物はどちらも人格者だ。この時点に至っても家族として振る舞い、心配し、理解などできるはずのない原因について追求した。

 周りから見れば俺は身勝手だったろう。自分勝手に振る舞い、家から出ようとする俺とそれを止める二人の構図は、傍から見ればどこに原因があるのかなんて一目瞭然で、その推察は当たっている。

 最終的に俺は自分を押し通し、すでに次男を見限っていた父親を利用すらして家を出た。兄妹にとって、俺が理解できない侮蔑の対象と化したのはその瞬間だったろう。

 以来、長い間実家に寄る事はなく、連絡すらも最小限。少しずつ離れた距離は断絶の溝から底の見えない崖になった。

 幸い、怪物ほどでなくとも、優秀と評価される程度に才能を発揮した俺は、一般人カテゴリの中ではそこそこの結果を出し、問題を起こす事もなく社会に羽ばたこうとしていた。

 ……なんの因果か今はこんな事になっているわけだが、それはまあ置いておく。


 凡人でも努力すれば天才を超えられる。しかし、努力する天才にはどう足掻いても追いつけない。本物に至っては競う以前の問題。幼少期にその真理を刻みつけられた。

 現代の社会構造はその歪みをそのまま飲み込み、人道から踏み外さずに済むよう整備されていたが、冷凍みかんが語る過去の社会なら確実に病んでいただろう。ひょっとしたら盗んだバイクで走り出していたかもしれない。現代では実現できそうにない過去の不良漫画は、反面教師に最適だった。

 俺の家族環境を聞いた美柑は、ネグレクトに近い在り方に憤ってくれた。

 しかし、見誤っている。当の本人にしてみれば、そんな表面上のものは瑣末事にしか過ぎない。本質的なところにあるのは、あんな才能が存在する事そのものなのだから。

 どこまでいっても負け犬の在り方。俺を形成している大部分はそれでしかないのだ。




-1-




「反省点がねえな」


 例の試合の動画を滝沢に見せた際の感想がそれだった。俺としては反省点があって欲しかったというのが本音で、なんらかのミスがあったから負けたという結果が望ましかった。

 今の俺にできる限界を超えた死闘。それを演じ、それでも超えられなかった壁。久しぶりに味わう、どうしようもない現実とコンプレックスの発露がそこにあった。

 滝沢よりも先に確認したりんごからも似たような回答をもらっている。


「そりゃもちろん、駄目な部分を上げりゃキリがないほどあるけど、この試合に限った話じゃないしな。極論、俺がやったら勝てるわけだし」

「そりゃそうだ」


 そんなのは、もっと強化すれば、もっと強ければ勝てると言っているようなものだ。

 事前準備が足りていない。育成環境が足りていない。装備が足りていない。文明差のある中での勝負なのだからそれは当然で、俺はさんざんその差に甘んじてきた。

 だから、語るべきは本番の前までに築けた先にあるもので、用意できたモノの中でどう戦ったかだ。

 試合の中でああしていれば、こうしていれば展開が違ったという反省点を求めている。それならば改善すればいいだけなのだから。それが見当たらない。


 体験して肌で感じたのはあいつの未完成度。おそらくだが、あいつはシンとして俺と似たような段階にある。ランク云々の話じゃなく、駆け出しという意味だ。

 未熟と未熟がぶつかり、負けたというのが事実。そこに、ならどうすれば勝てたのか、理由が存在しないのが厳しい。


「この試合時点での実力を前提として、試合中の判断力や決断力、即応性やそれを実行する胆力。むしろ褒めるところしかねえ」

「でも負けた」

「問題はそこだな。ようするに、実力を限界まで発揮しても勝てないくらい相手が強かったって事だ。割り切るしかないな」


 結局はそういう話になってしまう。極めてシンプルで、覆しようのなく苛立たしい事実。

 何か明確な反省点があるなら改善できるのに、それがない。むしろ、限界を超えて実力を発揮した上で完膚なきまでに負けた。……そう、完膚なきまでにだ。

 あの試合の最後、俺は自爆覚悟の一撃を決め、そこまでのダメージ差で負けた。主観的にはそう見えたが、結果を確認してみれば相手が負ったダメージは死に至るほどのものではなかったのだ。

 一方で、俺はその前の時点、上空からの強襲時点でほぼ失血死が確定していた。そこから動けたロスタイムは自動投与された薬やスーツの止血効果によるもので、本当の意味で最後っ屁にしかなっていなかったのだ。

 そんな状態で動き、結構な痛手となるダメージを叩き出した事に相手は驚いたかもしれないが、俺としては何も嬉しくない。


「気分が悪い」

「何を憤ってるのか分からないんだが。明確に狙ったりしない限り、コレと今後カチ遭う可能性なんて、ほぼゼロだろ?」

「そりゃそうなんだが」


 相手に粘着して再戦を挑む事もシステム上は可能だが、それをする気はなかった。どちらかといえば触れずに遠ざかりたいというのが本音だ。なのに憤るのは意味が分からないだろう。滝沢の言い分はもっともだ。

 コレばかりは自分にしか分からないし、他人に理解してもらえるとも思っていない。言語化すら困難で、説明した途端に陳腐化してしまう。

 ようは、俺は本物の天才というやつが嫌いというだけの話でしかないのだから。


「勝敗を無視して純粋に内容だけ見れば、上々も上々。評価すべき点ばかりで、特に最後のアレで動けるシンはそういないはずだ」

「滝沢も?」

「俺? 今ならできるけど、着任半年で同じ事をできた気はしねーな。……思い返しても、無理だと思うぞ、うん」


 ふーむ。そこは褒められたと素直に受け取っておくべきか。妬ましく、湧き出る嫌悪感は俺固有のものでしかない。点数を付けるなら俺自身でも高得点だと思うのは確かだ。

 ほとんどの者が自分のベストバウトと納得し、次に向けての糧にする内容でしかない。


「俺だけじゃなく、日本所属のシンなら……阿蘇なら同じ前提条件でもできそう。というか、あいつなら更に一歩踏み込むかも」

「阿蘇……ああ、阿蘇狂歌。ランキング二位の」

「そう。あの狂人に迫ってるって言われても喜べないかもしれないが」

「……狂人?」

「狂人」


 と言われても、その人を知らんしな。名前を知っているのだって、スケジュール表で見ているからだし。

 とはいえ、名前からだけでも片鱗は伝わってくる。自分で名前の漢字を決める現代において、わざわざ狂うなんて漢字を付ける奴はあんまりいないからだ。

 ……あとで十和田さんに聞いてみるか。


「というか、他のシンの戦闘記録って見れるのか? いや、俺のはこうして見てもらってるわけだけども」


 基本、同一文明圏の情報は非開示だったはずで、そこには戦闘記録も含まれる。ポイントを使っても情報開示されない……そもそも購入対象として存在していない。

 滝沢相手にしているように直接聞けばある程度の話くらいは聞けるだろうけど、基本没交渉だしな。


「同じ国家所属ならルール次第で開示できる……と言っても他の国は知らんが、日本だと許可制だな。ただ、ランクが上に離れ過ぎてると駄目だ」

「つまり、俺が滝沢の試合動画を見たいって言っても」

「制限に引っ掛かる。俺が見せようとしても認識できない」


 逆に、トップの滝沢からなら誰の情報も開示依頼はできると。相手の許可は必要っぽいが。

 あの長いエレベーターや各種報告書で感じている情報開示制限と同じだな。


「でも、それは誰が決めたルールなんだ? 政府が決めたわけじゃないよな」


 少し前から気にはなっていたのだ。政府はここで起きている事の詳細を知らない。認識できない。そんなところのルールを制定できるはずもない。


「上に持ち出せる情報制限同様、多分ウチを担当しているセルヴァの定めたルールだろうな。ウチだけか、地球文明圏共通かすら分かんね」

「確定ではないと?」

「それらが非開示情報って事は確認済。あんたのところの端末に聞いても答えてくれないはずだよ」


 なるほど。……まあ、そういう管理体制というなら受け入れるしかない。というか、気になっただけで別段不便しているわけでもないし。

 とにかく、滝沢のランクでも開示されない情報ではあると。


「それで、初めて負けたわけだけどどうよ?」

「……どうとは?」


 さっき言ったように気分は悪いぞ。ついでに言うと、似たような怪我を負った時と比較しても体が重い。


「シンを辞めたくならないかって話」

「……ああ」


 正直、そんな事は考えてもいなかった。こうして問いとして投げかけられても同じだ。


「戦闘で負うダメージ、治るとはいえ体や心の芯に残るような疲労感、今回の場合は実力的な壁まで感じている。シンに限らず、何かに見切りをつけるには十分だろう」

「むしろ奮起してる」

「ははっ」


 シンを辞めるどころか、立ち止まる事を辞めたい。

 ここで停滞し、ランクを下げるという決断をするのは理解できるが、俺には当てはまらない。誰も選択していないような、辞める選択肢などなかった。

 改造、強化、少しずつ人間を辞めている現実だって何も気にならない。元の社会に戻れない事だって、今にして思えば当然とすら思える。

 シンとして着任する以前、あの面接からここに来るまでに抱いていた不安は綺麗さっぱりなくなっていた。

 とはいえ、コレを他人にオススメできる気もしないから、美柑の件については未だ悩みっぱなしで答えが出そうにない。……どうしようかな。


「俺は良く分からんが、それがシンの適性ってやつなんだろうな」

「適性って言ってるように、確かに向いてるとは思うな。制限に引っ掛かるかもしれないが、多分このラインで停滞しているシンって……」

「ご明察。だいたいが低適性だな。いや、一般的なそれと比べれば低くはないが、あんたみたいなの比べたらかなり低い。ほとんどが適性検査実施以前にスカウトされた連中だよ」


 そうだろうなと思う。政府がどの程度基準にしているかは分からないが、それでも選考の優先度を高くせざるを得ない程度には結果に結びついているのだろう。

 だからこそ、そこそこの適性でしかないという滝沢の異常性が際立つわけだが、それはまた別の話だ。

 ……いや、ここまではっきり結果が出てて、それでも高適性を上から放り込むような状況になっていないのは、滝沢という例外があるからなのか?


「ま、今回のいい教訓だったと諦めて、何日かは休むといい。俺からすると過密過ぎて不安になるし」

「りんごにも言われたけど、普段とそこまで差があるようには思えないんだが」


 確かに多少ダルいが、その程度の差は試合ごとに負う怪我の大きさでも変わるものだ。あえて言うなら、より芯の部分で疲労を感じてはいるが、ただそれだけの事でしかない。

 実際、ポッドの診断でも明確な数値としては出ていないのだ。なのに、休めと言う。ここまではどれほど大きな怪我をしてもなかったほどに強く。


「理屈を知ってるわけじゃないが、体験した感覚上、死ぬと自覚以上にダメージが溜まる……気がする。どうしてもって言うなら止めはしないが、まず間違いなくパフォーマンスは落ちているはずだ」

「普通の怪我とは違うと?」


 腕爆散したり、胴体に刃物突き立てられたりした際も、完全に修復したあとは疲労が残るわけだが、それとは違うのだろうか。


「多分だが、違うな。なんか別物なんだよ」

「ずいぶんとあやふやな……」

「んな事言われたって、経験でそう感じてるだけだし」


 りんごも、この件については深く触れてこない。説明を求めても、軽く普段よりダメージが蓄積すると言うだけだ。

 いや、別にそれ自体はいいんだが、問題は、休みをとっても何しようって事で……。




-2-




「ずいぶん疲れてるみたいだね」


 地上に出て柳さんに会った直後、現在の身体状況を看破された。それこそ、出会い頭の挨拶のように。

 休みを持て余して……訓練に関しては問題ないという話だったので、なんとなくでここに来たのだが……。


「えーと、マジで分かるんですか?」

「そりゃまあ、そこまで顕著だとね。……気になるし、ちょっと体動かしてみて」

「は、はあ……」


 以前ここで習った、一人でもできる体操を実演する。しかし、実際に体を動かしてみても、体の重さなどはほとんど感じられない。


「どうなってるんだ、それ」

「そう言われても良く分からないんですが。何か違います?」

「全体的に微妙に鈍い。多分だけど、感覚も。多分、ここでボロボロになった次の日よりも」

「……そんなにですか?」

「理屈に合わないのがシンだけど、それにしても不可解かな。人間、普通そうはならないものだよ」


 つまり、あの戦いにおける死は通常の負傷よりも重いという事なんだろうか。今回のような死亡判定は単に大怪我を治療しているだけじゃなく、それ以上に何か負担になっていると。


「俺なら実戦は控えるレベルの状態だね。コンマ以下だけど、反応速度も全体的に遅れてる」


 気になったのでいろいろと検査をしてみたところ、確かに数字に出る程度には差が見られた。ここまで結果が出れば、言われてみればという程度には自覚も出てくる。

 実際に軽く立ち会いもしたが、柳さんのような達人相手にコンマ秒の遅延は致命的だ。それほどでなくとも、俺だって似たようなものである。


「……まあ、これまでの傾向からして一日か二日か、それくらいで元に戻るとは思うけど」

「以前提案されたレンジャー訓練でもしようかなって思ってたんですが、何日かは大人しく休暇にしておきます」

「アレも、シンに効果があるかは未知数だけどね。実際に組み込むなら、シンの身体能力を考慮したものにしたほうがいいって言われてるけど」


 美柑がいた時代でも悪夢の如き訓練だったらしい特殊教育課程は現代でも活きている。その内容が一般に公開される事はないが、より厳しく、より効率的に内容がアップデートされているそうだ。

 もちろん数週間かかる事を前提とした課程に挑む事は難しいので、今回提案されているのも、全体から一部選出し、シンに合わせて調整しつつだ。

 コレは俺の訓練だけでなく、後任のシンたちに向けた教育課程の研究の意味合いも含んだものらしい。現時点でも人間辞めているようなものとはいえ、文字通り人間辞めるような密度の訓練に耐えられる気はしないので、まずはお試しにという話である。

 尚、眼の前の化物でも正規のレンジャー訓練は達成できなかったらしいので、達成できそうとは欠片も思っていない。


「まあ、明日からしばらくこの島を離れるから。何かやるにしても一週間くらいは空くんだけど」

「…………」


 一瞬、何言ってんだって感じだったが、この人はシンでも住人でもないから、島から離れられるのか。もちろん、かなりの制限は受けるだろうけど。

 月並みだが、申請書類とかすごく面倒そうだ。


「えーと、軍のほうの任務とか? 一応、予備役扱いなんですよね」

「地下格闘大会」

「そんなの存在するんですか……って言いたいところですけど」

「シンには言われたくないけど、あるんだよねえ」


 シン相手なら別段隠すような事でもないのか、いろいろと説明してくれたが、決して表に出ない格闘大会が非定期で開催されているらしい。

 もちろん非合法だが、運営は国家規模。実際に国が直接関わっているところも多く、法律的な枷は実質存在しない。むしろ、どこかに訴え出ようとすれば消されるだろう。

 武器あり、殺しありの、ほとんどルールなんてない試合で、賞金も出ない。表社会の名声にも繋がらない。ただただ強い相手と戦うためだけの大会だ。

 柳さんはその大会に出場する事を条件に、ここの教官を引き受けているのだとか。真の意味での人外であるシンと戦う機会がある……かもしれないから一石二鳥だと。


「つまり、死ぬ可能性も普通にあるから、いきなりいなくなったら察してくれると助かる。代わりは来ると思うけど」

「柳さんみたいな人が他にもいるんですか」


 ここまで上には上がいると聞いてはいるし、実力的にはいるんだろうなと思うが、諸々の条件をクリアできる者がそうそういるものだろうか。

 一度ここに来るって段階で相当な制限を受ける事になると思うから、機密の塊のような軍にあってもなかなか合致する気がしない。


「普通にいるよ。たくさんとは言わないけど。というか、弟子ならこの島にもいるから、繋ぎくらいならできるかも」

「え、で、弟子ですか? ひょっとして……」

「ああいや、もちろんシンじゃないよ。たまたま会った理由アリの子になんとなく稽古つけただけなんだけど、そこそこ形にはなってるね」

「はー」


 東堂さん以外の住人と会っていないから意外だが、そういう人がいてもおかしくはないのか。何も、みんながみんな引き籠もってるわけじゃないだろうし。

 案外、生活圏が多少ズレてるだけで、いつもと違う場所をプラプラしてたら島の住人にバッタリ会ったりするのかもしれない。あえてズラしてるって線もありそうだが。


「どこかで紹介するかもしれない。今なら訓練相手として相互にちょうどいいし」

「勝てますかね?」

「訓練なんだから別に勝つ必要はないんだけど、今の段階でも見込みはある。お互いにね」


 どう捉えればいいのか困る反応だったが、それはつまり柳さんの猛攻に耐えられるようになった俺相手でも十分に戦えるという事だ。

 間違っても侮ってはいけない相手であり、あるいは今戦っている連中よりも遥かに強敵なのだろう。どうなるかは分からないが、やる事になるなら気を引き締めないといけない。


 ……それはそれとして、しばらく何しよう。訓練すら非推奨となると……。東堂さんはバイトだし。




-3-




「それで私のところに来てしまうあたり、真面目なんですね」

「性分なもんで」


 直前に連絡しても当たり前のように歓迎してくれた十和田さんの紅茶を頂く。

 シンというある意味特権階級的存在に対応するための人員って事を考慮するなら当然なのかもしれないが、この人も大概生真面目だなとは思った。


「普段使えない茶葉とお茶受けを出す機会でもあるので。もっと頻繁に来てもいいんですよ」


 そういう事にしておこう。今ならかなり高級に茶葉を使っている事が分かるし、おそらく賓客用なのだろう。


「まあ、いろいろと聞きたい事があったのも確かてすし、暇潰しも兼ねてという事で」

「もちろん構いませんが、それはそれとしてちゃんと休暇はとったほうがいいですよ。過去の資料を見る限り、特別そういう事が苦手という情報はなかったはずなんですけど」

「そうなんですが……正直、以前はどうやって休みを過ごしていたのかイマイチ思い出せない」


 もちろん、本当の意味で記憶がないわけじゃない。かつて休日に行っていた暇潰しの類は今実践する気になれないという話である。

 思い返せばいつも美柑の影があったような気がするものの、一人で時間潰すのだって得意だったはずなのに。


「シンになって価値観が変わったというのは、当然あるんでしょうね」

「そりゃまあ……」


 それこそ、あらゆる意味で塗り替えられた。特に金銭感覚なんて跡形も残っていない。別段、何か高い物を購入した覚えもないのに。

 生活が保証された上で、実際に必要なものはポイントで購入しているというのもあるが、今ある日本円をすべて失っても、もったいないとすら思わないかもしれない。


「確か、紙の本がお好きなんでしたっけ?」

「そこは変わってないんですが、今はちょっと読書の気分では……」


 東堂さんがバイトしている本屋で気になる本があったから購入はしてるんだが、正直あまり集中できそうにない。

 むしろ、負け試合がフラッシュバックして嫌な気分になりそう。


「いえ、島に図書館でも建てましょうかという提案なんですが……どんな本を収蔵したいか検討するのも楽しいかなと」


 マジかよ。さすがにそこまでスケールのでかい事は考えてなかった。

 島の外……日本本土に土地を買っても意味はないとは思っていたが、逆を言えば島内であれば問題ないわけだ。必要かどうか、活用できるかは別として。


「いくらシンが高給もらっているとはいえ、ポンと大型施設建造するほどの額はないんですが」

「島の公共施設扱いになるので、政府から予算が出ますよ。全然使ってないので、むしろ喜ばれます」

「は、はあ……」


 言われてみれば、シンの立場を考慮するならそういう事もある……のか?

 詳しく聞いてみれば、島内のいくつかの施設……先日行ったスポーツセンターなども、元々はシンの要望を汲み取って建造された施設らしい。

 結局のところほとんど利用はされていないようだが、政府としてはシンのためにこんな事をやってますよという実績が欲しいわけだ。

 正直、図書館用意されてもそこまで利用するかは怪しいのだが、そういう意図ならお願いしてもいいかもしれない。


「尚、建造済の施設や店舗をあとから購入という形も推奨していますので、興味がありましたら」


 あの喫茶店のオーナーがシンなのも、そこら辺が理由なのかな。実利があるとは思えないが、何も知らない企業や団体に投資するよりは気分的にいいかもしれない。


「それで、聞きたい事とは?」

「あー、すいません。脱線しました」


 本題に入る前の軽い雑談のつもりだったのに、あまりに規格外な提案をされて呆然としてしまった。

 シンの休暇云々はついでの話で、ここを訪れたのには一応二つほど確認事項があったからだ。でなければ、こんな近くに来たから寄りました的なムーブはしない。


「阿蘇さん……ですか?」

「ええ、彼女だけじゃなく他のシンについても特筆事項があるなら聞いておきたいと思って。特に、シンとしての心構えとか」


 一つは滝沢コウが狂人と呼ぶ阿蘇狂歌の所見確認だ。参考にするかはともかく、いざ遭遇した場合の保険として、いろいろ情報を確保しておくのは悪くない。

 俺や滝沢を含めても、シンなら一癖二癖あるだろうっていう印象だって勘違いじゃないだろう。


「そうですね……いろいろと評価の難しい人ですが、簡単に言ってしまえば滝沢君の追っかけでしょうか。あるいは信者とか?」

「……は?」


 しかし、事前に聞いていた話から想像していた人物像から大きくかけ離れた所見が飛び出してきた。いや、十分に変ではあるのだが。


「シンとして着任したあとに何があったのか、すべての基準に滝沢君を置くようになってしまいました。現在の二位というランクもそれが理由の大半でしょう」

「すいません、まったく想像していなかった評価に戸惑ってるんですが」


 そうでしょうね、とでも言いたそうな十和田さんの表情に、コレはシンの中でも特異な事例……少なくとも代表例として挙げるには外れているんだろうなと思い至る。


「ある意味、政府としては扱い易い方です。こちらから特別アプローチせずとも滝沢君に合わせるように稼いでくれるので」


 シンの取り扱いに気を使っているはずの十和田さん……あるいは政府から出てくるには少々似つかわしくない言葉も違和感があった。


「つまり、滝沢に恋愛的な感情を抱いて、それをモチベーションにしていると?」

「モチベーションはそうでしょうが、アレは恋慕ではなく……信仰の類でしょうね。と言っても、神のように絶対視しているわけでもないのがまた難しいところです」

「シン同士って基本的に没交渉って言ってませんでしたっけ?」

「没交渉ですよ。滝沢君からはストーカー呼ばわりされてシャットアウトされてますし」

「…………」


 狂人って評価もそこからきているのだろうか。そりゃ、自分を信仰する奴に付き纏われたら気持ち悪いだろうが。


「聞き分けはいいので、彼女側も無理に干渉しようとはしないのが幸いですね。世間一般のストーカーよりはよっぽど理性的です」

「な、なるほど……」

「なので、滝沢君から特別扱いされているあなたを嫌っている節があります」

「なんでやねん」


 つい口に出てしまったが、理不尽に過ぎる。……そういう立ち位置の奴なら分からないでもないが。とんだとばっちりだろう。


「あなたに手を出したら滝沢君に嫌われますよと言ってあるので、危険はないと思いますが」

「それで大人しくなるもんなんですか?」

「素直なんですよ」


 ますます以て、阿蘇狂歌の評価が定まらない。……これは実際に会ってみないとはっきりしないパターンだな。でも、できれば合いたくない。


「滝沢本人に聞くべきなのかもしれませんけど、あいつが求めてる相棒役って、彼女では問題があったという事ですよね」


 信者と言うなら求めれば従うはずだ。どの程度か分からないが、心情的な嫌悪感を飲み込めばランク二位の奴なんてまさに最適だろう。

 わざわざ新しく枠を用意して外から呼び込み、一から育てる手間と時間をかけるほどのマイナスがそこにあるのか。


「あー、彼女は女性なので」

「…………」

「私のように事務的に関わるだけなら表には出ないんですがね」


 ああ、なるほど。滝沢に聞かなくて良かった。あいつのトラウマはそれくらい根深いのか。十和田さんの端的極まる説明に納得しかなかった。

 もしも女性を前面に出されたら、滝沢としては拒絶するしかない。原因を考慮するなら、安易に乗り越えろとも言えない。

 思うに、仕事上のパートナーとしてなら飲み込めるのだろうが、さすがに狂信者はライン超えって事だ。そのせいかおかげか、俺がここにいると。

 ……なんて面倒臭い。今のところはともかく、今後阿蘇狂歌と一切関わらないというのはちょっと無理があるよな。


「彼の過去や、そこからくるトラウマは我々としても悩みどころです。実は以前から悩ましい問題がありまして……」

「以前から?」


 阿蘇狂歌の話を除けば、基本的にそういう過去があるから気をつけるというだけの話でしかないと思うのだが。

 滝沢の性格的にも、自分からそれで問題を起こすようなタイプではないし。


「今日ここを訪れた理由の一つに、伊藤さんの件がありますよね?」

「え、ええ。状況確認と、今後どうしようか相談するつもりではあったんですが」

「それとも絡んでる問題ではあるんですが……」


 何をどうしたらそうなるんだ。美柑と滝沢なんて一切絡みがないぞ。以前からの問題と言っているように、何かしら接点があったなら、ここまで触れないとも思えないし。


「実は、私では判断に困る問題を相談しようと思っていました。ちょうど良かったんですよね」


 ……何気なく来たつもりが、実は待ち構えられていのかもしれない。意外……でもないが、強かな人だ。




-4-




「とはいえ、奇妙に絡まった話なので、どこから話せばいいものか……」

「それなら、俺の要件でもある美柑の件からお願いしたいんですが」

「……そうですね」


 話題が切り替わった途端、十和田さんの纏っていた気配も変わった。ここら辺の切り替えができるのって地味にすごいスキルだと思う。


「以前お話したように、伊藤美柑さんのシン適正値が変化し、スカウト確定範囲に含まれました。現在、彼女はあなたよりも上の適性を示しています」

「原因は分かったんですか? 基本、大きく変化しないものなんですよね?」

「はっきりとは分かっていませんが、きっかけのようなものは分かったというか……それでも不可解極まるのですが」


 解析はさっぱりっぽいな。


「とりあえず、伊藤さんの件に関してはスカウト自体は確定として、そこに至るまでの対応を相談させて頂きたく」

「と言っても、そこまでいったら俺が干渉できる事ってほとんどないですよね?」


 何かしらできれば……発言権を得られればと我武者羅にランク上げもしたが、結局口を出せる領域には届いていない。どうすれば口を出せるのかすら分からない。


「具体的に言えば、スカウト時期の調整……多少前後させる事はできます」

「俺がそれを決めていいと?」

「いえ、そうして欲しいという要望を伝える事しかできません。とはいえ、ある程度……特に前倒しなら通るでしょう」


 これでも相当に譲歩……気を使ってくれているんだろうなという感はある。


「ちなみに、通常のスカウト開始時期っていつくらいなんですか? 確か、定例の着任は四月って話でしたよね?」

「ええ。先方の条件によって変わるんですが、早い人ならそろそろコンタクトをとる頃かと」


 人によって時期にズレがあるのは、その人が持つ生活環境や人間関係に依るらしい。

 シンになる事で生まれる社会との断絶をクリアするための根回し、カバーストーリーや架空存在の構築にかかる時間が異なる故だろう。

 美柑の場合はほとんど社会から孤立した状況なので、通常のケースであれば三月末までズレ込むのだとか。


 ちなみに、以前言っていたように俺の場合はかなりイレギュラーで、通常はもう少し穏便かつ緩やかな接触が行われるらしい。

 結局のところやる事は変わらず、いきなり突き付けてさあ選べと言われるのと、周りから堀を埋めつつ逃げられないようにするかの違いでしかないから、好みの差でしかないが。

 たとえば俺の場合なら、いざ就職して配属された先がこの島だったとか、そういう話だ。断るケースも考慮して、選択肢を突きつけるのは移動時のヘリの中とかになりそう。


「あとは、交渉の際にあなたの存在を明かすかどうか」

「あー」


 確かに、それは大きな差だ。政府案件なら勝手に開示すればいいという話ではなく、シン相手に気を使うならこうして事前確認はするだろう。

 過去に通信で茶番を演じたという事実もあり、俺の存在を伏せたまま交渉したら、記憶を消されても断る可能性が出てきかねない。

 未だに納得できていないが十和田さん曰く、恋愛感情云々の問題もある。本気で確保するなら、俺の存在開示は必須だ。


「それは構いません……というか、直接説明できるならしたいんですけど」

「では、交渉の際に干渉できないか確認します。さすがに直接会うのは無理だと思いますが」

「……そうですよね」


 変な嘘を混ぜてしまったから謝らないといけないし、万が一でも断るような事はないようにしないといけない。

 事、ここに至ってはシンになる以外の選択肢はアウトなのだ。あいつなら断った場合のデメリットに気付くだろうが、盲信はできない。

 直接説明できるなら、そのあたりの問題もクリアできるだろう。


「あとは情報開示する範囲と、時期についてですが」

「開示は制限なしで問題ありません。というか、全部ぶちまけたほうが納得するでしょうし」


 ただ、時期はどうだろうか。こうして条件として提示してくれる時点で誠意は感じるが、前後をズラして何か意味があるかは怪しいところだ。

 シンとして活動するなら前倒しのほうがメリットがあるように感じるものの、それだって多少だ。単位が足りない上に小笠原でも失敗している以上、高校卒業という区切りも存在しない。となると、通常通りの時期に着任というのが丸いような気もしている。政府としても対応が楽だろう。

 山岸某ならともかく、十和田さんの手間をかけさせるのはちょっと心苦しいし。


「時期も通常通りでいいと思いますが……そういえば、滝沢に絡む案件っていうのは?」

「以前から、彼の姪が候補として挙がっていたんです」

「そうなんですか……ん?」


 単に親戚が対象というだけならそういう事もあるだろうと、一瞬スルーしかけたのだが。


「あいつの親戚って残ってたんですか? というか、姪って事は兄弟の子供って事で……まさか、殺したお姉さんの子供?」

「ご明察です。正確には異母妹でもありますが、滝沢君が起こしたあの惨劇で、唯一手にかけられなかった生き残りという事になります」

「…………」


 いや、ちょっとそれは無理があるだろ。滝沢がどういう感情を抱いているかは分からないが、それは自身が切り捨てて根こそぎ消去したい悪夢の残滓のようなものだ。

 直接対面どころか話に出すだけでキレるんじゃないだろうか。……それをシンにする?


「さすがにまずいという事で、少なくとも数年は様子を見る事になったのですが……」


 数年待とうが、基本的に適性の変化がない以上は先送りでしかない。この場合、先送りにする理由なんてほとんどない。

 その中で最もありそうなのは、滝沢の成績が下がって……あるいは停滞、最悪辞めでもして、発言力が下がる事だろう。それなら、多少強引でもゴリ押しできなくはない。

 しかし、あいつの成績は依然としてトップのままだ。

 あまりいいイメージは抱かないが、政府としての対応は理解できるところはある。


「察して頂けたようですが、滝沢君の心象を考慮した上での処置です」

「えーと、それなら単にそのまま引き延ばせばいいのでは。……何か、決断を迫られる時期になったとか」

「今年で基礎教育校を卒業予定ですね」

「いや、それなら単に進学させればいいでしょう。本人の意思次第だと思いますが、政府が手を回せば……」

「ええ、そうする予定でしたので、あまり関係ないですね」


 じゃあなんで言ったと返したいところだが、俺が時期の話を出したからか。

 いや、それだけじゃなく、本来であれば進学する予定だったのだ。……そうできない何かがあった?

 そもそも、この話が始まったのは美柑と滝沢との本来あるとは思えない関係性の……。


「先日、彼女……滝沢茜さんが伊藤美柑さんに接触しました。その直後から、伊藤さんの適正値に大幅な向上が確認されています」

「なんでそんな事に……って、分からないんでしたっけ?」

「適性値向上の理屈はそうですね。実は接触した理由や経緯についても、偶然としか思えず、関係者の多くが何故こんな事になったと頭を抱えている有様でして」

「はあ……直接本人に聞くのは?」

「調査した限りでは偶然としか……より深く確認するにも、シン候補の段階ではどうしても」


 何を聞こうとしているのかの説明から難しいか。開示できる範囲で調査はできるだろうが、当然それはやっていて、何も分からないと。

 そんな事になっているなら、確かに無視はできない。


「現在、政府担当者の中では、強引でもシンにしてしまえという意見が強くなってまして」

「…………」


 まあ、そうなるか。基本的に没交渉なシンの事だから、同じ島内でも最悪一切絡まないなんて事も不可能ではない。

 とはいえ、滝沢に黙ってというのは悪手だ。ここまで政府が積み上げてきた信頼関係が一発で崩れかねない。さっきの美柑の話ではないが、それならいっさ一切合切ぶち撒けて……。


「そうですか、それは大変ですね。じゃあ、美柑の件は時期も通常通りという事で……」


 猛烈に嫌な予感がして早々に立ち去るべくソファを立ち上がろうとしたが、十和田さんの超速インターセプトにより服の端を掴まれた。

 俺が察したのを悟られた。


「あ、あの……離してくれませんか」

「お、お願いします」

「嫌です」

「滝沢君への説明に協力して下さいっ!!!」

「だから嫌ですってば」

「そんな事を言わずにどうかっ!」


 そんな役回り、普通に嫌だよ。十和田さんは土下座すら辞さない勢いに呑まれそうだが、これを断り切れるのか。

 ……正直、自信はなかった。




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― 新着の感想 ―
尻拭いをさせられる人間は大変だぁ……胃が痛くなります
罰ゲームすぎるわ!! あまりにもアレすぎるから、その分政府にはなんらかの形でお礼を…っていっても要求したい事なんて別にないから面倒クセェ!!
 滝沢一族って、過去の偉人を復活させようとしてグチョグチョドロドロの近親相姦をやらかしてたよな。茜は何か変な能力を会得しちゃったのか?
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