表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

第9話「汚泥の底」

今回の投稿は某所で開催した

【第6回二ツ樹五輪プロジェクト】 引き籠もりヒーロー 第4巻出版(*■∀■*)

「二ツ樹五輪 次回Web投稿作品選定コース(限定5名)」に支援頂いた月神さんへのリターンとなります。(*´∀`*)




-1-




「滝沢って結婚とかしないのか?」

「は?」


 とある日、訓練名目の見学で珍しく地上に来ていた滝沢に質問を投げつけてみた。

 資料を取りに行った柳さんを待つ間、二人きりでなんとなく話題に困ったからというのもあるが、りんごの件について俺の中でまったく整理が付かず、手当り次第に話を聞いているというのが大きい。

 そんな雑談程度の認識だったのだが、滝沢が妙な反応を見せた。


「……ひょっとしてあんた、まだ俺の経歴見てないとか?」

「ん? ああ、あんまり踏み込まないほうがいいって言われたからな。……あ、まずい質問だったら引っ込めるけど。悪い、なんか踏み抜いたか? ……ひょっとして、既婚者とか?」


 なんか変な質問だっただろうか。滝沢から奇妙な圧を感じる。これまでにない妙な反応で、俺としてはちょっと気が気じゃない。

 実は結婚自体がタブーで、それで怒っているだけなら謝って終わらせる話なのだが、圧が強くなったり萎んだりとせわしない空気だ。これでは俺も反応に困る。


「マジかよ。あんたの性格的に、そこら辺は取りこぼさないって判断してたのに……」

「触れるなって警告されたら極力触れないほうがいいだろ」

「真面目は真面目でも、そっち方面か……」


 天を仰がれた。……それほどか。

 単に危険だとかそういうリスクのみなら好奇心に負けるかもしれないが、人が嫌がりそうな事、しかもそれが身近な人間となればありそうな話だと思うぞ。


「いや、えーとな、俺はそういうのはしない主義なんだ」


 一瞬で乱高下を繰り返した圧が雲散霧消した。随分と忙しいが、結局これはどういう反応なんだ?


「無理しなくていいぞ。雑談みたいなもんだし、お前のトラウマに掠ってるなら謝るし引っ込める」

「微妙に遠いが掠ってるんだよな。……いや、相棒って言ってるのに何も知らないのはアレだ。俺の口から言いたくないが、あとで十和田さんか柳さんに聞いておいてくれ。なんなら自分で調べてもいい。まあいいや。……悪いけど帰る」

「あ、ああ。……ごめん」


 滝沢はそのまま手をヒラヒラさせて、振り返る事もせずに去って行った。

 冷凍みかんをどうするかについての流れで軽く聞いてみたんだが、めずらしく上に来たのに悪い事したかな。

 ……確かに家族に関して突っ込まないほうがいいって話ではあったが、俺なりにある程度予想はした上でそれっぽい話題は避けていたのだ。……滝沢がここに来た時期から考えるに、さすがに本人の結婚に関しては外れてると思ったんだが。


「あれ、滝沢君は?」


 そんな事情など露も知らない柳さんが、訓練資料を持って戻ってきた。滝沢は気まぐれだが、さっき来たばかりなのに唐突にいなくなったのはさすがに不自然だろう。

 なので、本人から指名もあった事だし、柳さんに聞いてみる事にした。


「あー、その話か。本来ならタブーに近いけど、君の立場なら知っておくべきか。とはいえ……うーん、なんと説明したものやら」

「そんなに言い難い話なんですか? まさか、国家機密的な……」

「いや、そっち方面の話じゃない。なかった事にされたって意味じゃ機密ではあるんだが……私では脚色なく説明できる気がしないな」


 どんだけ重い話なんだよ。なんで、ただの雑談からこんな展開してるんだ。


「やっぱり、十和田さんに聞くのが一番だろうな。シンの管理は彼女の仕事だしね」

「一応、聞ける範囲で聞いておきたいんですが、今後シンとして活動するために知っておいたほうがいいと思います?」

「シンかどうかに関わらず、普通なら一切触れないほうがいいと思うけど、君に限っては知るべきだろうね」

「うーん」


 そこまで重い話なら、必要ないならスルーしたいんだが、立場的に得策じゃないっぽいな。というか、むしろ必須事項かもしれない。

 というわけで、柳さんとの訓練……といっても、過去の自分を撮影した動画を材料にミーティングだけだが……それが終わったあと、十和田さんにアポをとって話を聞いてみる事にした。

 ……案の定、個別に時間を作っての応接室対応である。




「以前、触れないほうがいいと言ったのは、あなたと滝沢君の立ち位置がはっきりしてなかったからですが、どこかで触れておくべきでしたね」


 俺の分のコーヒーを目の前のテーブルに置きながら十和田さんが言う。


「とはいえ、普通の関係……たとえば、単に同じシンってだけじゃ知らないほうがいい話なんですよね?」

「それはそうです。聞いて楽しい話でもないですし」


 まあ、地雷なのは確実だろう。

 内容が内容だからか、十和田さんはわざわざ専用に時間をとってまで説明してくれた。いつもの定期面談とは違う、重い空気が感じられる。


「好奇心で調べても、普通の人なら後悔する類の内容です。少なくとも私は、重要性を加味した上で知らなければ良かったと思うくらいには」

「マジかよ……」


 とはいえ、ここまで来て聞かないという選択肢はない。俺の感情を無視すれば、知ったほうがいいのは間違いなさそうだ。

 ……ここに来るまで数時間、以前から色々想像していた分も含めたら結構な時間、滝沢のタブーについて考えていたが、未だにそれっぽい答えが出てこないんだよな。断片的な情報を組み合わせてもカタチにならない。


「実のところ、この背景は滝沢君がここに来た経緯そのものとも言えます」

「そういえば、以前本人から適正値が高くないとか聞きましたけど、つまり適性が高いから選ばれたってわけじゃないんですよね?」

「まあ、低くはないですけど、今の基準なら……候補には入らないですね。ただ、当時にそういう指標はなかったので、条件に合致した相手と取引という形で候補を確保していたんです」

「スカウトとかそういうやつですか?」

「司法取引です」


 ……おっと。ある程度は覚悟してたが、相当にヤバい話っぽいな。

 現在に至るまでの過程を見るに、少し遡るだけでも結構な闇が噴出してくるわけだから、重犯罪絡みになるのも不自然じゃない。有り得るだろうなってくらいには考えていた。

 ただ、普段滝沢と接していても、まったくそんな感じしないんだよな。多少粗雑な部分はあっても、むしろ善良な部類だろうと。周りの反応から推察するなら、むしろ俺のほうが危険人物なんじゃって思うくらいだ。


「十年前、当時七歳だった滝沢コウは殺人の罪で収監されていました。シンになる代わりにその罪の減刑……いえ、そもそもなかった事にするという取引です」

「いきなり壮絶に重いんですが」

「中身はそれ以上ですよ。なんせ、殺したのは父親と姉をはじめとする近親者多数です」

「…………」


 本気でどう受け止めるべきか分からない話になってきたぞ。……なんで結婚絡みの軽い話題でそんな事になっているのか分からんが。

 昔、年少者の犯罪について話題が挙がった時にみかんが絶句していたが、現在は少年法など存在しない。裁判で多少加味される要因ではあるものの、扱いは成年と同じで、当然、少年院なども存在しない。いや、刑務所の扱い自体が昔と違うんだが、それは置いておく。

 当人が成人資格を持っていない場合は多少マシになるとはいえ、それでも多少だ。その場合の保護者の管理責任はかなり重く、ほとんどの場合共犯に準じた罪として扱われる。

 たとえ年少者だろうが……どんな事情があろうと、ここまでの事をしでかしたら本人の極刑はまず逃れられないだろう。関係者ですら怪しい。


「その、詳細の前に確認したいんですが」

「はい、どうぞ」

「十和田さんはその事件について、滝沢やその犯罪についてどう思ってますか?」

「え? あ、はい……そうですね。あー、そういう意図ですか」


 予想していた質問と違ったのか、十和田さんが呆気にとられた表情を見せた。

 回りくどいが、事件とやらを知っている視点から見たイメージっていうのは大事だ。俺も聞く上で保険になる。

 ある程度俺の性格を把握しているからか、十和田さんも質問に合点がいったらしいのが分かる。


「まず、彼の人柄についてですが……私の印象としては、真面目な世捨て人ですね」


 そこは俺と一致するな。色んな事について距離を置いた上で、そのために上を目指している。一切干渉がない他のシンと比べて、ある程度社交的に見えるのはその範囲が限定されていて、特別な目的があるからに過ぎない。だけど多分、提示された目的がそれでなくても、あいつは似たような動きをしただろう。


「その上で、殺人の罪については正直どうしようもなかったと私は思います。彼本人がどうこうというよりも、倫理観の肥溜めのような環境が作り出した結果でしかありません」

「……事故とか?」

「いえ、その点については明確な殺意を以て殺したと証言していて、各種鑑定からも裏付けが取れています。正確に言えば最初の一人……この場合は姉ですが、彼女に関しては事故の可能性は残っていたんですが、本人は否定していますね」


 殺そうとして殺した。七歳の子供が、親と姉を。

 俺も昔から老成した子供とはさんざん言われたが、さすがに想像が及ばない。七歳じゃさすがにただのクソガキだ。

 ぶっちゃけ家族の事は嫌いだが、本気で殺したいとまで思った事はないし、もしそう思っても一人暮らしを始めた時のように距離を置くだけだ。少しでも手を伸ばせばセーフティネットに届くのが現代社会で、周りだってそこまで無関心じゃない。

 ……滝沢は逃げ場がなかった?


「問題はそこに至る経緯と根本的な環境にあります。本人の意思と実行力が招いた結果とはいえ、起こるべくして起こった事件と言えるでしょう。引き金を引いたのが彼というだけに過ぎない」

「誰でもそうなり得た?」

「同じとは限りませんが……今の私でも、同じ境遇に放り込まれたら正気を保てる自信はありません。それを子供の時に体験している事を加味すれば、彼の人格は奇跡のようなモノと言ってもいいでしょう」

「それを必然と言わしめる家庭環境ってなんですか? 想像がつかないんですが」


 ここまで切り込まれて想像がつかないってどんな事情なんだよ。

 一般的に見るなら俺もそこそこ同情されるくらいの境遇だし、冷凍みかんや東堂さんだって結構なモノだ。少し話に出ていた十和田さんの闇だって、ちょっと問題がある家庭だろう。ただ、それらを以て、家族殺しが必然と言われるほどの破綻ではない。


「簡単に言ってしまえばインブリードです。彼の家系は、過去に存在した先祖を血統で再現しようと、何代にも渡り近親交配を繰り返していた」

「……は?」


 あまりに非常識な言葉で脳に入ってこなかった。家族殺しだってそうだが、更にその上だ。


「えーと、サラブレッドみたいな?」

「やっている事は同じですね。血の厳選ではなく濃縮が目的なので、方向性は違いますけど」


 程度はともかく、人間でも似たような事は過去に行われている。古代から中世、形を変えれば近代まで。

 とはいえ、医学が発展してない時代ですら、それが危険って事は実例を以て体験知として理解されていたはずだ。


「遺伝子を濃縮しようが、本人になるわけがないんですけどね。狂気に染まった思考にそんな理屈は通用しないって事です。まあ、血統を重視する国では未だに国家規模でやっているところはありますが、アレもあくまで厳選ですし」


 それは十中八九、シンの厳選だろうな。サラブレッドもそうだが、一定以上の効果が見込める遺伝子の厳選は、シンという特別の選出に向いている。

 それどころか直接遺伝子を弄っているところだってあるかもしれない。……それでも、滝沢を上回れていないのが現状なわけだけど。


「まさか、滝沢の成績がその結果とか言い出しませんよね?」

「直接の因果関係はないはずです。その計画が求めていたのはオカルト的なモノですし、方向性がまったく噛み合いません。環境の反動でこうなった事も含めて、環境そのものが一切関係ないとはさすがに言いませんが、そこまでいくとただの偶然でしょう」

「そりゃそうですよね」


 俺自身がシンだから想像はつくが、あいつがトップを走っているのは多分モチベーションが由来だ。


「というか、数代続けての家系ぐるみなんて規模で、なんで露見しなかったんです? その時点で犯罪なのでは?」


 近親者との婚姻は認められていないし、誤魔化すのは不可能に違いだろう。現代だって事例はあると聞くが、この現代社会で隠蔽し続ける方法が思いつかない。出産時はもちろん、基礎教育校に入る以前には相応のチェックだって入るし……。

 ……そういえばあいつは滝沢"コウ"だ。卒業していないんじゃなくて、そもそも通い始めてすらいなかった?

 いや、そうじゃない。露見しなかったという事実を前提にするなら、どうすればそれが可能だったのか。そもそも出産時点で遺伝子のチェックは義務付けられてるわけで……それを回避するには……。


「まさか、近親者をまるごと箱庭に押し込んで交配実験でもしてた……?」

「正解に近いです。セルヴァ技術がもたらされる以前から巧妙に偽装・隠蔽された上で徹底的に社会から隔離してきたようです。さすがにそこまでは当時の警察も追い切れなかったという事でしょうね」


 当時の……ああ、そうか。人類が敗北してからまだ半世紀程度。人間同士の世代を越えた交配実験なんて、その程度じゃ結果は出ない。

 時期を考慮すれば、闇に紛れておかしな事をしている連中がいてもギリギリ隠せない事はない。


「医学上の問題は認識していたのか、元々はそれなりに考慮された家系図を描いていたそうです。その時点でも、見たら頭おかしくなりそうなスパゲッティ的系図ではあるんですが、程度問題という事で」

「ひょっとして、近年で方針が変わった?」

「はい。セルヴァとの接触によって急激に医療技術が発展したのが原因と思われますが、遺伝子的疾患を無視してより極端に、失敗を度外視してギリギリを攻める方針になったようです。なかなかすごいですよ。そうだと説明されなければ、それが家系図と認識できませんから。ある意味人類の限界に挑戦しています」


 とんでもない話を聞かされているな。元々なんの話をしてたか分からなくなる。


「つまり、滝沢は自分がそれに巻き込まれる前に土台ごと壊したと」

「……巻き込まれてますよ、十二分に」

「は? ……いやだって、当時七歳でしょ? さすがに……」


 いや、どうなんだ? 一般的に推奨なんてされるはずはないし、常識的にできるとも思わないけど……今の医学なら……。


「彼が殺した姉のお腹には、すでに自分の子供がいました」

「…………」


 正気の沙汰じゃないな。肉親殺しをした滝沢より、家族のほうが狂気的だ。

 むしろ、狂気の渦の中で少しだけ正気に戻ってしまったが故の犯行にすら見えてくる。

 ……そりゃ結婚がどうとか言ったらあんな顔されるわ。マジごめん。


「最終的に彼が殺したのは最低でも十二人以上。本人の精神状態が不安定で供述が曖昧だった事と、対象に戸籍を持たない者が多くいた事で、生き残りも滝沢君を除けば当時二歳にもなっていない子供が一人だけと、全容すら確認し切れなかった事件です」


 文字通りの皆殺しじゃねーか。


「近くの山からはそれ以上の……想像を絶する量の人骨が発見され、彼が自宅を燃やした事で資料が紛失したのもあって、捜査はほどほどで打ち切られる形となりました。全容に関しては迷宮入りです」

「この現代で?」

「この現代で、です。セルヴァとの邂逅によってこれだけ技術が発展し、社会制度が根本から再構築されたような時代でさえ、これほどの闇が蠢いているのが人類なんですよ。当然の如く、コレだって氷山の一角に過ぎないでしょうね」


 闇が深過ぎる。尋常じゃない深さの、ヘドロみたいな地獄があるって突き付けられた気分だ。


「滝沢君の要望もあって、現在その地域は極力元のカタチを残さないよう開発されました。ついでに、まったく関係ない資料や都市伝説の流布で歴史を上書きし、偽装までする徹底ぶりです。これらに関連するすべての資金は彼から出ました」


 すげえ金の使い方してんな。俺がどこまで昇格すればそれが可能になるのやら。


「あいつには悪い事したな。思いがけず、すごい軽い気持ちで踏み込んじまった」

「とはいえ、現在のあなたの立場なら、今言った概要程度なら調べられる情報なんですがね。滝沢君も隠しているわけじゃないので」


 むしろなんで調べてないんですかと責められているようでもあるが、人にはそれぞれスタンスというものがあるのだ。

 業務上の定型文的な言い方でも、止めた十和田さんが口に出すのは難しいだろうが。


「まあ、立場的に知っておくべき事ではあったと思います。……問題は、全然関係ないところから踏み込んだ事なんですよね」

「一体、元々はどういう話だったんですか?」

「いやその……こないだのみか……伊藤の件で、滝沢は結婚しないのって」

「…………」


 あまりの温度差に十和田さんが絶句しておる。俺だってこんなの想像してないよ。

 こんな経緯を持っていて、人間辞めたいって思ってる奴が結婚なんてするわけねえ。


「迂闊だったのは反省するとして、どの道知るべきだった事を知ったって認識に挿げ替える事にします」


 滝沢の性格なら、仮にも相棒からの腫れ物扱いは嫌だろうし、そのほうがいいだろう。


「時々見せる、あなたの割り切りようはなんなんでしょうね」

「今はシンとして生きるための武器の一つって考えてますよ。前からその傾向はあったんですが、最近はちょっと意識してます」


 柳さんみたいな人類の極致が呆れるような特徴だ。今時点でさえ恩恵を感じているし、極まればきっと武器になるだろう。




-2-




「そういえば、せっかくなので報告したい事があります。先日の伊藤さんの件について」

「あ、はい。何かあったんですか?」


 ぶっちゃけると俺の中でもまだ整理が付いてないんだが、少しでも追加情報があるなら聞いておきたい。それこそ、あやふやな十和田さんの女心を基準にした意見でも。


「どこまで話していいかの切り分けがまだなので、お伝えできるのは差し障りのない部分だけですが、すぐどうこうという話はなくなりました」

「は? いやまあ、そもそもすぐにどうこうって話にはならないと思ってましたけど」

「意味が違います。……先日行われた適性検査で、彼女の適性値に急激な変化が見られました。すでに、候補入りしている状態です」

「は?」

「スカウトまではほぼ確定です。コレはあなたが要望しても揺らぐ事はないかと」


 なんだそれ、どういう事だ?


「あの、適性値ってそんなに変化があるもんなんですか?」

「いえ、微妙であればそれなりには変化が見られるようですが、大きく順位が変動するほどは例がありません。それ故に、今回の件は変化後の数値以上に変動の事実自体が重く捉えられています」

「原因は? まさか、俺と話したからとかそんな話じゃないですよね?」

「原因は不明ですけど、おそらく違います。少なくとも直接の原因ではないかと。実は、念のためという事で、あの通信前後でも適性値の調査は実施していたんですが、その時に大きな変化は見られていませんし」


 じゃあなんだ。何がどうなんってそんな事に?


「冷凍睡眠からの蘇生者だとか、生まれた年代、血統などの面を当たってはいますが、検証材料も少なく、今のところこれといった理由は見当たらないんですよね」


 それなら元々なにかしらの兆候があってもおかしくないからな。元々適性は高かったみたいだし、どうも頻繁に調査しているみたいだから、それなりに目についてただろう。そばに俺がいるんだからなおさらだ。


「むしろ、幼馴染みとして何か思いついたりしませんか?」

「さすがにちょっと……」


 というか、俺とあいつは幼馴染み……か、一応。ずっと勉強ばっかりしてたし、遊びに行った記憶もほとんどないから、クラスメイトとか学友って認識しかなかった。……そうか、良く考えなくても結構長い付き合いなんだよな。

 やばいな、なんか意識しそう……。別に意識しても何も問題ないんだが、困惑はする。


「というわけで、あなたが何かを伝える以前の問題として、彼女に対してシン就任の交渉をする事はほぼ確実となりました。本来はシン相手でも事前に伝えるような段階ではないんですが、これまでの流れから判断した政府の誠意とお考え下さい」

「あ、はい。助かります」

「私の判断でもあります。実際、これであなたも動き易くなったのでは?」

「選択肢が狭まった分って事ですか? ……まあ、そうですね」


 確かにそうだ。俺が一番懸念していたのは、こちらとあちらの境界線を越えるかどうか……ようは情報を伝えるかどうかについてなのだから。

 一歩踏み込んだだけでも、ほぼこちらに引き摺られる事が確定する。

 一応、記憶処理を受ければ日常に戻れるとはいえ、それが孕む危険性を俺は無視できない。少なくとも、俺が外国の立場なら見逃さない。

 残りの選択肢にしても、シンになったら当然、シンにならず島で暮らす事も普通とは思わないが、俺がとる行動はかなりシンプルになる。


「助かる……んですかね? まさか、変な陰謀だったりしませんか?」

「誓ってありません。政府にしろ官僚にしろ、そんな危険な橋は渡るはずがありません。リスクが大き過ぎる」


 ……だよな。直接的には俺とみかんだけのだが、結局は政府とシンの関係性にも繋がる。だいたい、それならワンクッション置かずに最初から候補入りしてるって伝えるほうが遥かに無難だ。これといったメリットも思いつかないし。

 一部の人員が暴走したってケースもまずないだろう。


「それで、どうしましょうか?」

「……どうするとは?」

「このまま何もしないなら、最短で来年の四月頭に交渉開始となります。コレを前倒しする事はできなくもありません」

「俺ごときにそんな権限があると?」

「経緯が経緯なので、特例として認められました。というか、ぶん投げられました。話をする事自体、私の裁量って事になってます」

「……ご愁傷様です」


 十和田さんも大変だな。

 ……とはいえ、どうするか。俺が決めてもいいって言われても、すぐ伝える事に意味があるか?

 色々と決着付けて終わらせてすっきりしたいってのはあるが……。




-3-




 優柔不断ととられても仕方ないが、結局その場での回答はできなかった。俺の性格上、四月まで待とうが判断できる気がしない。基本的にはそれでなんの問題もなさそうだからだ。

 実際にどう交渉するかについては口を出すかもしれないが、それこそ優柔不断が生む妥協の産物でしかない。

 ……せめて、少しでも待遇が良くなるように色々考えておこうか。


「というわけで悪かった。ちょっと軽率に過ぎたと思う」

『アレを知って、今日の今日で良く本人と話す気になるな、あんた』


 通信の向こうの滝沢は呆れ返っている。


「といっても究極的に俺が何かできるモノでもないし、それで態度を変えるのも違うだろ」

『なんか、元から知ってても同じ反応しそうだよな。同情はしても憤りはしなそう』

「それはまあ確かに」


 相変わらず良く分かってるな。

 衝撃的な事実ではあったが、直接俺に関係ないといえばない。滝沢側の視点で見ても、残った問題は精神的なモノだけで、事件自体は解決しているのだ。まさか、今更遺伝子的疾患がどうたらの問題が残っているとは考え難いし。それなら、最近自覚した割り切りっぷりでスルーできる範疇だ。

 ……みかんの件に関しては割り切れそうもないんだが。問題の大きさよりも身近さのほうがよっぽど重要だって例だな。


『というか、俺のほうが割り切れない。ある程度は整理ついちゃいるが、それでも今日の今日でってのは無理だ』

「謝るなら早いほうがいいと思ったんだけど」

『限度があるだろ』


 そうかもしれない。あるいは、滝沢が普通でないからって、それに甘えているのかもしれない。実際、相手が誰でも同じ対応するわけじゃないだろう。

 でも多分一番の原因は、俺に直接関わらない事だと早めに切り分けてしまいたかったのだと思う。要するに自分勝手なのだ。


『……まあ、ある意味ちょうど良かったと言えなくもない。明日からちょっと連絡つかなくなるし』

「何かあるのか? 聞いていいのか知らんが」

『あとでそっちにも連絡が回ると思うが、ちょっと島の外に出てくる。今日上に上がったのも、本来はそれが目的』

「お前が外に出るのってかなり大事だと思うんだが……」

『前例はないし、もちろん大事だぞ。というか、日本だと初』


 日本のスタンスとして、シンが外に出る事自体そうそうある事じゃない。前例があるのかすら怪しい話だ。

 たとえトップの滝沢でも……むしろトップだからこそ制御不能になる懸念が生まれるはず。これまで聞かされてきた中で、その理由になりそうなのは一つくらいだ。


「シンの内乱か何かか。どこの国だ?」

『正解。国は一概に言えない……というか、シンの所属上は独立してても、表向き国家として独立してないところ。大雑把に言うなら中央アジア。位置的に本来日本が絡む案件じゃないんだが、対象のシンが結構ランクも高い事もあって泣きついて来たらしい』


 可能性としての話は聞いていたけど、本当にあるんだな、そんな事。


「お前が出なきゃいけないような案件って事か」

『実はそうでもない。頑張れば周辺国家所属のシンを動かせばどうにでもなりそう』

「じゃあ、なんで」

『直接泣きついてきたのと、国もシンの派遣についてのノウハウが欲しかったのが大きな理由らしい。多分、俺の力を見せつける意味合いもあるんじゃないかな。ある程度裏付けがとれているといえ、結局ランク上の実力でしかないし』


 なるほど。確かに国として対シン鎮圧の経験が欲しいのは分かる。


「お前が桁外れに強いのは分かるが、地球上の戦いで問題なく動けるものなのか? そのテストも兼ねてたり?」

『あー、国としてはそういう懸念もあるかもな。俺的には問題ないと思うよ。慣れてるし』

「あー」


 上位ランクでの経験か。シンの試合が一対一の殺し合いっていうのは、あくまでフィルターのかかった国の認識でしかない。

 滝沢が相棒を求めている事からも明白だが、上のランクで条件の異なる試合が組まれるのは簡単に予想がつく。


「ちなみに、見学したいって言って通る話?」

『何? 興味あんの?』

「ある。半分くらいは興味だが」

『さすがに無理だろうな。……色々理由はあるが、そもそも危ない。俺としてもやめておいてほしい』


 ですよね。どんな展開になるのか、他のシンも含めて興味あったんだが。そういうのは時期尚早に過ぎるか。

 多分、一緒に派遣されるシンはお勉強の意味合いもあるだろうから、せめてそれくらいのランクには到達してるのが前提か。


『興味あるなら、帰ってきたあとに話せる範囲で話してやるよ。あんまり面白い事になりそうもないけど』

「それはどういう意味で?」

『特筆するような事は何もないって意味で。基本的に秘匿存在な俺たちが、対象以外の誰かと接触するわけもないし。最終的な対外交渉も、オブザーバーとして参加する柳さんの役目になるだろうな』


 柳さんを駆り出すのかよ。……確かに、シンの扱いに実績があるのは間違いないが、比較問題でしかないぞ。

 しかし……物語になりそうな何かはないと。自惚れてるわけじゃないんだろうな。予想外の事が起きず、なんの波乱もなければそりゃ面白い話にはならない。

 所属国家や周囲がどう対応したのかのほうなら面白いかもしれないが、そっちは多分秘匿すべき内容だろう。よほどの強権を使うなら開示してもらう事も可能だろうが、そこまでの価値はないはずだ。




 というわけで、滝沢を含む数名のシンは日本における初の外部遠征に出ていく事になった。

 実は日本のシンの一人がスパイになっていて戦線が崩壊するとか、相手を甘く見過ぎた滝沢たちが返り討ちに遭うとか、遠征依頼そのものが罠で全滅させられるとか、敵のシンに共感してしまった奴が出るとか、創作物ならそういう予想外が起こりそうなモノだが、特に何もなく数日早く帰ってくる有様だった。みかん風に言うならナレ死ってやつ。


 あとで概略だけ見せてもらったが、確かにコレは何も起きないってレベルのガチガチっぷりで、不測の可能性が限界まで潰されている。

 ひょっとしたら俺には分からないような穴だってあるのかもしれないが、いわゆる専門家が作り上げた計画にそんなモノが残っているわけがないのだ。

 唯一、把握できていないシンの実力だけが穴といえば穴。たとえば滝沢一人が反旗を翻したら瓦解するような完璧さではあるものの、あいつにそんな気があるわきゃないし、コレを見る限り他の日本組のシンにしても似たようなモノらしい。

 ……多分、日本におけるシンの管理が上手くいっているって事の証拠でもあるんだろうな。計画を見る限り、その宣伝でしたと言われても驚かない。

 ちなみに、そんなガチガチの計画でなんのノウハウを得るのかって話だが、政府はノウハウ獲得よりも実績と滝沢のアピールが目的だったらしいので問題ないのだとか。


「世間では何ごともなかったように、一切情報が漏れていないと……」


 一通り、問題の起きた地域を中心に一般の情報を集めてみたが、気持ち悪いくらい何も起きてない。反旗を翻した時点で世界に向けて発信くらいしそうなモノだが、そういった類のものはすべて握り潰されている。……やらなかったのではなく、なかった事にされた。


「他の世界の連中でもこんな感じなのか?」

「いいえ、ほとんどは情報統制などせず放置です。とはいえ、ない事もありません。ここまで隔離されたケースも稀ですが」


 全体の数が多ければ、そりゃ似たようなケースはいくらでもあるんだうが、りんごの口ぶりならそれなりに例がありそうだ。多分、パーセンテージで出せるくらいは。


「……ひょっとして、そういう情報管理の基盤を作り上げたのは、現地人じゃなくセルヴァってオチか?」

「元々、この体制を作り上げる事が地球側が出した隷属の条件でしたので、情報管理の基盤構築には我々が深く関わっています」


 わざわざ現地人と言ったのに、地球に置き換えられてしまった。


「なるほどね。だから、歴史上でも何も起きてないって事になっているわけか」


 最初から疑問ではあったのだ。いくらシンを通してセルヴァ技術を得て情報統制をとったところで、過去に流出しただろう情報まで手が回るのかと。

 今ならできるとしても、黎明期の段階でそこまでの技術を得ているはずがない。いくら完成形に近い技術を渡されたところで、それを使うノウハウはまた別物だ。絶対と断言できるくらい漏れは発生する。なのに、そんな様子は一切残っていない。

 しかし、初期段階でセルヴァ自身の手が入っているのなら話は別だ。

 ようするに、隷属を境に地球は作り変えられたのだ。情報、記憶、物理的な痕跡など、すべてをなかった事にして。


「なかなかに興味深いケースです。滝沢氏の例といい、知性とはこうあるべしという姿を体現しているようにも見えます」

「あんたらから見れば、虫の観察をしているような認識かもしれんが……」

「生物としての本能を知性で統制・凌駕する。観察するにしても、非知性体のそれとは大きく異なりますよ」

「そうですかね」


 存在の格の違いでは似たようなモノだと思うんだが……。少なくとも、観察する意味はあると思ってるわけだよな。


 先日話を聞いた滝沢の経歴について、りんごは特に情報共有する必要もなく知っていた。

 それ自体は予想できた事だからいいんだが、補足という事で追加で出された資料はちょっと頭が痛くなる内容だったのだ。

 結局のところ、十和田さんから話された部分は表面上のモノでしかなく、一部に限定するなら公表しても構わないと判断された部分でしかない。

 その奥底にはもっと深い、ヘドロというにもおぞましいモノが蠢いていたのだ。

 そして、事件を迷宮入りさせた事からも分かるように、少なくとも滝沢自身は把握している。なんせ、例の穀潰しが滝沢に開示したという履歴が残っているのだ。それを知った上であの態度を貫いているとなると、俺には理解できないレベルの異常性だ。十和田さんの言っていた奇跡的な性格などではなく、れっきとした異常であると断言できるほどに。


 ……もっとも、会話で弾んだりんごがおまけで出してきた観察日誌……もとい地球の類似例の数々が、更に闇深過ぎて頭が痛い。

 そんなモノは極一部に発現された異常例であって、本質ではないとは分かっていても、人間そのものが嫌いになりそうだ。

 そして、虫以下の比較存在であるはずの俺にも分かるくらい興奮した様子でそれを提示してきたりんごは、一体どういうつもりなのか。俺を絶望させたいのならもっといい手はあるだろうし、まさかコレがりんごの本質なのか。人間的な尺度に直しても普通に怖いんだけど。




-4-




 そんな非日常が日常になりつつある中、月日は流れ年末。

 地上に出るとそれなりに寒い事から、やはりここは太平洋のどこかなのだろうと思うようになってきた。

 人工の光と人工の知性で形作られた街は、一見するとそこら辺の賑やかな街に見えなくもない。

 アンドロイドたちが運営する商店街はデコレーションで彩られ、クリスマスセールまでやっている有様だ。人間の客などほぼ皆無なのに、果たしてどこ向けのサービスなのかさっぱり分からない。そのサンタ服はまさか趣味なのか?


「できるだけ普通の光景にするって目的で、環境省から指示されているみたいですよ」

「ほー」


 防御力が高そうなほど着込んだ東堂さんは合流するなりそう言った。多分、周囲を見渡す俺の視線が物珍しそうなのだったのだろう。


「東堂さん、寒いの苦手? ずいぶん着込んでるけど」

「え? そうでもないですけど……むしろ、そっちはそんな格好で寒くないんですか? コートもないし、アウターも薄手っぽいし」

「あんまり寒くないんだよな。……とはいえ、並ぶと変だから気をつける」

「見ただけで寒そうですしね」


 何度か行った肉体改造のおかげか、鍛えた結果か、寒さに強くなっているらしい。

 とはいえ、今回のコレはミスだ。感覚が少しおかしくなっているのに加え、外に出な過ぎて認識にズレが生まれている。

 実は、それで大丈夫だから着込むのが面倒というのもあった。……あんまり良くない兆候だよな、コレ。


「東堂さんと会わなくなると、完全な引き籠もりになるな。悪いけど、しばらく付き合って」

「それは構いませんけど……本当に興味なくなるんですね。でも、あたしも似たようなモノかも」

「人間、目的がないと堕落するって事だな。東堂さんのバイトは正解だと思うよ」


 実際、その懸念があるからこそ、定期的に東堂さんと会うようにしているのだ。デート的な認識もない事はないが、こっちのほうが本題。

 多少罪悪感も感じているので、当然の如くかかる費用はすべて俺持ちだ。なんなら金払ったっていいんだが、さすがにそれは止められた。


「そういえば、東堂さんに友達紹介できるかも」

「え? まさかシンの人ですか? ちょっと覚悟がいりそうな……」

「シンはシンだが、四月に着任予定だから現時点では一般人」

「そ、それ……あたしが聞いてもいいんでしょうか?」

「むやみに広めなきゃ大丈夫だろ」


 実際問題はないだろうし、無理なら俺の権限でゴリ押しする。そもそも広める先もない。


「経歴も似てるから話も合うと思うぞ。同じ古代人として」

「スリーパー? ひょっとして前に言っていた人ですか? フリーズドライ的な」

「冷凍みかんな。あいつ、なんかシンの適性があったらしくてさ、妙な流れでそんな事になりそう」


 現時点ではまだ宙ぶらりんなままだが、まずそうなるだろう。記憶処理して社会に戻るっていうのはさすがに俺が止めるし。

 なお、結婚するかどうかまで検討していたのは、東堂さんには秘密。……浮気じゃないよ、どっちもそんな段階じゃないし。


「友達になれそうならあたしとしてもありがたいですけど、それだけならこんなに早く言う必要ないですよね?」

「絶対にそうなるわけでもないしね。……俺も気をつけちゃいるんだが、できる限りこっちに引っ張ってほしいんだよな」

「こっち? 地上って意味です?」

「どっちかというと人間社会。そろそろ、俺も不安になってきた。気をつけないと別の何かになりそうなんだ」

「それはまた深刻な……」


 多分だけど、環境省の定期面談っていうのは報告以上にその点も警戒しているような気がする。

 何度かやってみて分かったが、内容だけ見るなら別にレポート提出や遠隔の面談でもいいのだ。それが、直接会うという体勢を崩そうとしない。

 俺たちは関わりがなくなると一気に人間性を失う。多分、そういうモノなのだ。……例外は多分滝沢で、だからこそあの立ち位置にいる。


「シンとして上を目指すにしても、そのほうがいいと思うんだよね」

「そういう兆候があるとか?」

「いや、勘。だけど、バカにしたもんでもないと思うよ」


 これに関しては他のシンによる前例もセルヴァの知見もない、俺の中から生まれ出たモノだ。だけど、多分合ってる。

 ……きっと、原因はりんごだ。あいつのスタンスや物言いから、なんとなくそうするべきだと感じさせられている。人間を捨てるべきではないと。

 事あるごとに聞かされる、人類は敗北し隷属してなお興味深い知性体であるという言葉が、俺の中の何かを揺さぶっているのだ。


「仲良くなれますかねー? 万年友達いない東堂さんでも」

「大丈夫だと思うけど。というか、俺は友達のつもりなんだが」

「あ、すいません。同性のって意味です、はい」


 冗談で妾云々の話は今でも出るし、こうして定期的に会ってはいるけど、それで色恋的な問題は起きないだろう。

 あいつが俺に恋愛感情を抱いているって話は未だに信じ切れていないが、それを前提にしても、周囲の女の影をすべて排除するような性格でもないと思うし。


「うーん、なんかあたし、同性相手だと無闇矢鱈に干渉して引かれる気がする。頻繁に呼び出しちゃいそう」

「ちょっと迷惑に感じるくらいの過干渉でちょうどいいと思うぞ。なんなら、そのまま引退させたっていいくらい」

「いいんですか? 国として推進しているような話なのに」

「全然構わん。環境省がどう考えても表には出さないし、その分俺が活躍するさ」

「どんな事やってるか想像つかないけど、そんなに活躍してるんですか?」

「とりあえず、そろそろ日本の最下位は脱出しそう」

「また判断の難しい話を……言葉の意味だけ聞いたら大した事なさそうだけど、絶対にそんなはずないだろうし」


 東堂さんにはそれがどれくらいかは分からないだろうが、ランクアップの速度的には間違いなく歴代でも抜けているはずだ。

 十和田さんと話していても実感する……というか、それとなく探りを入れられているが、まだランクが低かろうが、すでに政府も俺を無視できなくなっているのが分かる。少なくとも期待の新人以上の認識にはなっているはずだ。

 できれば、何か問題があった時のために、みかんが着任するまでにもう少し発言力が欲しいところだ。


 ある意味、日本所属の最下位というのは目安でもある。

 それは、日本の全面バックアップを受けた上で、明確なモチベーションを持たずに問題なく維持できるラインがそこにあるという事だから。

 特に引退する必要性はないが、その先に進むと惰性で続けるのが困難になる。そういう境界を俺は踏み越えようとしているのだ。



詳しく書くとホラーになりそうな設定が片付いたぜ。(*´∀`*)

次回から通常営業予定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ニワトリみたいに促成栽培して種付けしたら即潰すの繰り返しなんだろうな… 一族皆殺しにする以外生き残る方法もなかったんだろうな
[良い点] 設定がやはり引き込まれる、どんどんおもしろくなる [一言] とある中世キングスなゲームでは叔母−姪−娘−妹−従姉妹な嫁と子づくりなんてよくあること
[良い点] 昨日の今日かと思ったら、今日の今日かw これには滝沢も苦笑い。 [一言] なんというヨスガノソラ牧場··· いや、近親チョメチョメは置いといても、人間牧場ってところでヤバい。 俺屍ってレベ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ