ケルさんのご飯係④
夜の公園で一人の少女が走っていた。
何も体力を作る為に走っているわけではない。
後ろから追いかけてくる男から逃げる為に走っているのだ。
「あ……いや……いやぁ!……あっ!!」
息を切らせながら走っていた少女の足に運悪く枝が絡み付き転んでしまった。
「…痛……」
膝に少し擦り傷が出来た。
何とか体を起こそうとした時、背後に寒気がした。
恐る恐る振り返ると男が立っていた。
しかも片手には鋭利な刃物が月明かりに照らされ鋭く光る。
「(誰か………助けてぇ……)」
恐怖のあまり声が出なくなった少女。
そんな少女を見て不気味な笑みを浮かべた男。
男は笑みを浮かべたまま少女に向かってナイフを切りつけようとした。
少女は反射的に目を閉じた。
「(…あ……れ?……)」
何時まで経っても痛みがこない。
ゆっくり目を開くと、そこにはナイフを持っている男の姿は居なかった。
かわりに居たのが、自分と同じ歳位の男の子が一人と真っ黒の犬が一匹。
ショウとケルだ。
「(…だ……誰?)」
しゃがみこんでいる少女にショウは話しかけた。
「ケガは……膝だけだね」
よいしょ…っとショウは少女を立たせて自分と同じ目線に合わせた。
「大丈夫。落ち着いて。ちょっと僕の目を見て」
言われるがままに少女はショウの瞳を見た。
不思議な事に、さっきまで追い掛けられていた恐怖心が徐々に無くなっていく。
「あとから面倒な事になるから、この記憶は消すね。君はこれから何時も通る道で家に帰る。9時から始まるドラマに間に合う。そして明日も普通に楽しい学校生活が送れる……解った?」
「…あ……そうだ…ドラマ見ないと………」
落ちていた鞄を拾い、少女は少しふらつきながらも家に向かい歩き始めた。
ショウに言われた通り、少女が家に着く頃には男に追いかけられた事も忘れ、9時からのドラマを見ていたのであった……
そして転んだ時に出来た膝の傷も消えていた………




