スミレさんのお漬物④
ー午後10時ー
ショウとケルは廃墟と化したホテルの前に居た。
以前からホームレスや不良のたまり場、更に心霊スポットとして色々な噂のある建物だ。
「わう!わうぅ!!」
「行こっか。ケルさん」
ー・ー・ー・ー・ー・ー・・ー・ー・ー・ー・ー・ー
薄暗い廊下の先……
奥から話声が聞こえる。
声の持主は3人の若者だった。
1人は頬に絆創膏を貼り、もう1人も手のひらにすり傷。
最後の1人は上機嫌に真珠のネックレスを眺めていた。
「今日はひどい目あったわー」
「ほんとになー。ぬか漬のタッパー投げられるとは思わなかったわー。最悪だわー」
「でも金目の物は手に入ったし問題は無いだろ。あのバーさん結構、金持っていたし」
リーダー格の男が眺めていた真珠のネックレスを無造作に、文句を言っていた1人に投げ渡した。
「まーな。思ったより持っていたし(笑)」
見事にキャッチし、不機嫌な表情から不気味な笑みを浮かべた。
3人が下品な笑い始めた瞬間だった。
「……どんなスリルだったのですか?」
突然、3人以外の声が聞こえ驚きながら辺りを見回した。
しかし姿が見えない………
「…今の声って………」
「…ハハッ!…本当に出るんだなぁ!…………やべーな!」
「気持ちわりぃ……分配は違う場所でやるか………ん?ドア開かねえぞ…」
「えー!マジかよー!勘弁してくれよぉー!!」
ガチャガチャっと音を発ててドアを開けようとしている時、ゾクッと寒気がした。
恐る恐る振り替えると、さっきまで自分達が座っていたソファに犬を抱えた少年の姿が………
「ぐるるぅぅ……ぐふぅぅ……」
「さっきの質問の答え…まだですか?」
「あ?……てめぇ何処から入ったんだよ?」
1人の若者がショウを睨み付けた。
はぁーっと大きなため息をつき、ショウは抱いていたケルを床に降ろした。
「そこのドアから入りましたよ。見えませんでした?」
「まぁよー。どっから入ったら知らねーけど、ワンちゃんのお散歩は他所でやんなよー(笑)」
「おい。クソガキ。お前がドアの鍵閉めたのか?とっとと開けろ。こっちは忙しいんだよ」
若者2人がショウに詰め寄ろうとした時……
ー・…黙れ…あと動くな……・ー
氷の様に冷たく鋭い声でショウが呟いた瞬間、3人の動きが止まった。
「(何だよ……こ……声が出ねぇし体も……動かねぇ…)」
まるで石像の様に固まってしまい困惑する3人。
気にする様子もなくショウはスマホを操作しショウコからのメールを読み始めた。
「えーっと……「タムラモトキ・ヨシダシンヤ・オオカワヒロキ。半年前からお金目当ては当たり前!&相手を脅かす事でストレス解消を目的として3人で老人や一人暮しを狙った押込み強盗が酷いから地獄行きよ♪」……って書いてあるけど?……あっ。黙れって言ったから喋れないか……でも話の内容聞いてた限り当たっているよね」
読み終えるとショウはスマホを鞄に仕舞った。
話を聞いて背筋が凍った3人の若者。
警察ですら掴めていない情報……
押込み強盗を始めた時期と目的を知っている……
「(このガキ………てか何か寒ぃな……)」
明らかにショウが現れてから部屋の空気が冷えていた。
その証拠に3人の吐く息が白くなっている。
「くぅぅ……ん…」
「ケルさん。怯えなくていいよ。ほら今からご飯の時間だよー」
足元で怯えていたケルを優しく撫でながらショウは首輪を外した。
「ぐっ!!……ぐるぅわぁ!!」
ギラギラと光る赤い瞳。
口からはナイフの様に鋭い犬歯。
首輪を外し、本来の姿を表したケル。
「(何…だよ……これ……)」
ケルの姿を見た途端、ドアの近くにいた男は歯をカチカチ鳴らした怯えた表情に。
ショウに絡んできた男は失禁。
リーダー格の男は驚愕の表情を浮かべていた。
「何だこれ?って顔してますよね。一応説明しておきます。僕の姉が作ったケルさんです。何でも食べるんですが……大好物は罪を犯した人間の心と機能です。本当なら少し食べやすくするのですが………さっき犬のダイエットで調べたら「よく噛むこと」も大切みたいで……」
ショウが若者を眺め始めると……
徐々に3人の体が氷始めた。
「(な!?…体が凍っていく!!)」
生き物の様に氷が体にまとわりつき、あっという間に三体の氷の彫刻が出来あがった。
「ぐるぅぅ………!!」
ヨダレを垂らしながら三体の氷の彫刻を眺めているケル。
目の前のご馳走に待ちきれないばかりだ。
「ケルさん。よく噛んで食べるんだよ」
「がぁぁあう!!」
ひと鳴きし、ケルはご馳走に飛び付いた。
「…………今日は悲鳴が無いから静かだなぁ……」
ケルがご飯を食べている様子を見ながらショウは小さな声で呟いた。
その2時間後。
食事が終わると倒れている3人を無視し、爆睡しているケルを抱えてショウはホテルを後にした………




