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慙愧

 珍しくラウラが着飾って屋敷の表へ出て来ていた。

 傍らにはリリィ。

 そして俺は、地下から出てきたソレを見上げて、心底驚かされていた。


「どうかしら?」


 得意満面のラウラへ、割と素直に頷く。


「凄いな。今の、勝手に地下から出てきたよな、コレ」


 馬車だ。

 いや、馬車だが、馬が引いていない。

 というか引くモノすら居ない。

 なのに勝手に車輪が回り、地下からの坂道を自分で登ってここまで来た。


 やや装飾的ではあるが、何らかの魔術的な意味があるものらしい。

 今の所は屋根無しの土台だけだが、そこはこれから付け加えればいいだけの事。


 馬車、あるいは牛車はどうしたって引く生き物の世話が大変だ。連中だって無限に歩ける訳でもなし、道中で垂れ流す糞尿だって街中じゃあ禁止されている場合も結構ある。

 クルアンじゃあ馬車を使う場合は必ず掃除夫を同行させる決まりがあるくらいだ。

 だがこいつにそれは必要ない。


「魔力で動いてるのか? コイツ」

「そうよ。原理としてはゴーレムと同じね。手足を動かすのと同じく、車軸を動かして車輪を回し、動き回る。とりあえずはゴーレム車、でいいかしら。何か美しい名前を付けてあげたいんだけど、案はある?」

「俺にそんなもん要求するな」


 ラウラが近寄ると車体の一部が変化して、階段を作った。

 そういうのも出来るのか。

 そして何より、体重の掛かった車体が器用に沈み込むのを見て唸る。


 車と言えば汚い路面を走る度に跳ね回るもんだ。

 今みたいに車体が揺れを吸収してくれるのなら、かなり楽になるんじゃないか?


「ほら、二人とも乗り込みなさい。試乗してみないと分からないでしょう?」

「はいっ」

「おう……」


 リリィはきびきびと。

 俺はやや警戒しながら。


「あら、ゴールドランクの冒険者が情けない」

「うるせえ。お前の作ったものって時点で警戒するわ。三人揃って事故死してみたかったの、なんて言われても納得出来るからな」

「酷い言い様ね。じゃあ、出すわよ」

「うおっ!?」


 急に動いたので姿勢を崩した。

 この車、座席も何も無いんだ。

 形としては荷車だが、縁もないので勢いに置いて行かれると普通に落ちる。


 しかも、結構な速度で動き始めた。


「ははははっ」

「おいこらリリィっ、笑ってんじゃない!」

「あはははははははっ。だって、見た事無いくらい怯えてるのがおかしくてっ」

「さあもっと速度を上げるわよ! ふふっ」

「おおおおおおおおおおおおお!?」


 目を回しそうになっている俺を二人揃って笑いながら、ゴーレム車の試乗会が始まった。

 麓までの砂利道を降り、そこから一気に戻ってくる。

 手綱も無しにどうやって操っているのかさっぱり分からん。

 細かい揺れは車体が吸収してくれるが、速度が付き過ぎたまま岩へ乗り上げた時はひっくり返るかと思った。

 どうにか屋敷の前まで戻ってきて、車が止まると、俺は一目散に飛び降りて息を整える。


 生きてる。どうにか、生きている。


 迷宮へ長期間潜った時だってここまで疲労困憊になったことはない。


「いい感じね。後はこれの外装を作っていくだけなんだけど……ロンド、ほらロンド、そんな所で遊んでないで、貴方が作るのよ」

「……俺はコレが二度と動き出さないことを願ってるが」

「駄目よ。普通の馬車みたいに外装を作って取り付けるの。椅子があって、安定して身を預けられるのなら、貴方だって安心して乗れるでしょう?」

「俺は歩く」

「馬鹿言ってないで働きなさい。完成したらようやくここから動けるわ。必要な荷物を詰め込んで、コレで南へ行くの。どれだけ引けるかの確認もしたいし、まだまだやるべきことはあるけどね」


 ………………。

 …………。


 そうか。


「どのくらいで完成するんだ」

「あら、やる気になった? そうねぇ、冬の終わりくらいにはここを出たいわ」


 ため息をついてみせた。


「もうそろそろじゃねえか。俺は大工じゃねえぞ」

「男でしょう?」

「雑に括るんじゃねえ。まあ、屋敷はもう要らなくなるってんなら、椅子とか板とかはそっから貰ってくるか。釘とか新しく必要になるものもあるから、時々ここを離れる事も増えるぞ」

「仕方ないわねぇ」


 念の為に聞いてみた。


「因みに職人を雇って作らせるんじゃ駄目なのか」

「アナタ達二人以外が私に近寄ったら、問答無用で食い殺す様に刷り込んであるんだけど、連れてこれるかしら?」

「おい、初耳だぞ。番犬でも居るのかここは」


 そんなものね、と答えてラウラはいつの間にか取り出していた本へ何かを記入していく。さっきの試乗会で得たものがあるんだろう。

 その腕から刺青が一部消えているのを確認しつつ、視線を流してリリィを見た。


「な、なんですかっ」

「いやお前が何か出来ないかと思ってな。工作は得意か?」


 無言で睨まれた。

 鼻で笑ってやる。


「なんなんですか!?」

「まあいい。釘打ちくらいはなんとかなるだろ。おいラウラ、早速道具を買い集めてくる。山を降りるぞ」


 はいはい、と本から顔を上げずにラウラが手を振った。

 それで何が起きたのかは分からないが、俺はリリィから金を受け取って買い出しへ向かった。


    ※   ※   ※


 それからしばらくの間、三人でゴーレム車作りに勤しんだ。

 ラウラは本体を、俺とリリィは車体上部を。


 これが完成したら南へ発つ。


 何も言われていないが、俺も一緒に行くことが確定しているらしい。

 クルアンの町も見てみたいと言われた。案内するよとは言ったが、人込みが好きではないラウラがあそこでやっていけるかと問われたら、当然無理だろう。

 完成の時は刻一刻と迫ってくる。


 その間も俺は時折ラウラを抱き、リリィを抱いて、歪な関係を続けた。


 気が狂いそうだ。

 それでも、もう少し。


 あと少しなんだ。


 なあ、ディトレイン。


 もう少しだから。

 お前は望んじゃいないだろうけど、俺じゃあこんなクソみたいな方法しか取れなかったけど、他の誰にも譲れないって思うから。


 俺を赦してくれ。


 すまない。






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