焦燥
ラウラが俺に寄り掛かって眠っている。
いつもの様に行為を求めてくるのかと思ったら、煩い口を閉じて寝息を立て始めたんだ。
「……んん」
こうしていると本当にただのガキにしか見えない。
まだまだ寒い気温の中、暖炉で温められているとはいえ、肌着一枚で屋敷の中を歩き回っているのもあるだろう。
結構ズボラな所のある奴だ。
冷淡で傲慢、貴族らしいといえばらしい態度で、自分のしたい事以外には興味を示さないと思っていたが、俺の作る料理は美味い美味いと食べるし、この前はリリィの誕生日だったってんで、手製の首巻きを贈っていた。
リリィは泣きながらそいつを受け取り、嬉しそうに首へ巻いていたが、その笑顔が俺を見て曇った。誤魔化す為にラウラを抱くことになり、後になってしこたま叱られた。
眠るラウラは俺へ身を預け、心地良さげに微笑んでいる。
長寿の血が入っているせいで見た目には十二か三程度にしか見えないが、その中身が成熟した女として出来上がっていることを、俺自身が何度も味わっている。
なのにこの、無邪気な寝顔は……。
「ちっ」
苛立ちに舌打ちし、身を逸らして力を抜いた。
あとどれだけこうして居なくちゃならない。
いや、押し退ければいいんだ。
そういう風に振舞ってきただろう。
だったら、と思った所に刺青の入った腕が伸びて来て、俺の頬を撫でた。
「ふふ」
「起きたんなら退け」
「嫌よ。もうちょっと貴方の顔を見ていたいわ。ほら、隠さずこっちを向きなさい」
俺は今、どんな顔をしている。
落ちつける為に息を抜いて、仕方なくラウラを見る。
触れ合った視線に彼女は満足そうな笑みを浮かべて、じんわりと頬を染めていった。
「貴方の瞳、好きよ」
「そりゃどうも」
「でもさっきの方が好きだった。もう一度見せなさい」
「言われても分からんね」
「もう、我儘なんだから」
なんていつもの様に言って、けれど。
ラウラは俺を眺めて微笑む。
「初めて貴方に抱かせた時の、私が処女だったことを知った貴方の瞳が一番好き。はぁ……どうして処女を散らすのは一度しか出来ないのかしら。もう一度見せて欲しいわ、あの色が忘れられないの。ねえ、どうすればいい?」
「知るか、ド変態」
「こら。目を逸らすんじゃないの。もっと良く見せて…………うん、その表情も好きよ。ねえ、ロンド。好き。好き。ふふっ、凄いわロンド、言葉にする度好きになっていく気がするの。私が色に溺れるなんて思ってもみなかった。宮殿で爛れている連中の話を聞く度に軽蔑していたけど、こんなにも心が満ちたりるものなのね、ロンド」
首へしがみ付き、耳元へ顔を寄せ、
「好き」
そう囁いた彼女を強く抱き寄せた。
「あン」
後頭部へ手をやり、背中を強く抑えつける。
「んっ、痛いわ、ロンド」
手に力が入り過ぎていた。
だが緩めない。緩められない。
ラウラの声には艶が混じっている。
本当に、俺から与えられる痛みが気持ち良くて仕方ないらしい。
細身で小柄で、貧相とも言える少女の身体を掻き抱いて、歯を食いしばる。
ハッとして顔をあげる。
いつの間にかリリィがやって来ていた。
本当にどうやって、と思うが、確かラウラからの感覚が伝わるんだったな。
気配も感じ取ることが出来なかったのは、彼女が俺より数段上の実力者だからか。
隠形も出来るとは騎士ってのは凄いねぇ。
ただ。
見られたか。
思いながら一度は伏せた目を彼女へ向けると、勘違いしたらしくこちらへ歩み寄ってくる。
従順に。
穢れを知らない生娘のように。
恥ずかしさと僅かな好機が入り混じった、そんな顔で座る俺を見降ろしてくる。
「はぁ……っ、ロンド」
耳元に熱い吐息が掛かる。
火傷しそうなほどに熱くて、思わず身体が強張った。
尻を掴み、奥へ手を入れて、差し込んだ。とっくに出来上がっていたラウラを責め立てる。
そうして顔をあげると、俺の両頬を包む様に手を伸ばしてきたリリィが居て、その唇がこちらに触れる。
触れるだけだった。
だが、確かに気持ちは落ち着いた。
むしろ興奮したくらいだが。
一歩、二歩と離れていったリリィを置いて、俺はラウラを長椅子へ組み伏せる。無理矢理やったから上半身は床に落ちた。それに構わず差し込む。
嬌声をあげた。
そこでようやくリリィの存在に気付いたらしい。
「あ……あぁ……っ」
無垢なる宝石、そう称していた彼女に乱れた自分を見られるのが、最高に興奮するらしい。
涎みたいに垂らして身体を震わせる。
脚を引いて、浮かせながら責め立てた。
咄嗟に長椅子へ手をやって安定を求めようとするが、激しく振り回してそれを許さない。
乱暴に扱われ、だからこそ喜んで、泣き叫ぶみたいに喘いでいく。
それを、羞恥と興奮に顔を染めたリリィが、じっと見詰めていた。
感覚が伝わる。
なるほどな。
※ ※ ※
気絶したラウラを部屋に置いたまま、隣室でリリィに口付ける。
必死に応じてくる様はあまりにも儚げで、胸に手をやり、そこを刺激してやった時に漏れた声だけで出そうになった。
先日、たっぷりと味わった身体だ。
なのにこうして触れると、彼女はまるでそれさえも初めての行為のように恥ずかしがり、怯えて、成すが儘となる。
まるで快楽に溶かされていくような気がした。
そうして机へ押し倒したリリィへ差し込んだ途端、何かが決壊したみたいに溢れ出た。
ラウラを相手にしていた時には、一度たりとも出したことがないソレを、初めてのガキみたいに突っ込んだだけで。
「あ、あぁぁ……っ、――――!?」
情けなく声をあげると、顔を包むみたいに抱かれて口付けられた。
声も、精も、全てリリィへ注いでいく。
吸い上げられていく、と言ってもよかった。
ようやく収まった興奮に引き抜いて、膝を付いた俺へ。
リリィは何も言うことなく衣服を整えて、部屋を出ていった。
なにをやってるんだ。
なんて……今更過ぎるが。
俺はリリィに溺れかけている。
引っ掛けようとして、こっちが引っ掛けられているなんて、フィリアに話したらなんて言われるか。
今の状況も大概だが、あんなにも男を誘う女は初めてだ。
おそらくは無自覚に、どこまでも彼女の内心は穢れを持たないまま、男の望む少女を演じてみせる、天性の娼婦。
無垢なる宝石。
なるほど、確かにな。
ただ。
俺が初めて抱いた時、ラウラは処女だった。
リリィは、処女では無かった。




