終
美羽が目覚めてから2か月後、夏樹と美羽は鏡の神殿を訪れた。出迎えた神官長は、ふたりを鏡の間に通してくれた。
美羽と一緒に鏡に触れると、夏樹にも鏡の声が聞こえた。
『久しぶりだな』
「ええ。もうここには来たくなかったのだけど、一応お礼を言っておこうと思って。お世話になりました」
『こちらこそ、と言うべきか?』
「それはそうでしょう。夏樹さまに代理をさせるなんて」
『おかげで上手くいって良かったが、そなたたちはさっさと結婚せぬのか? のんびりしておると、また皇帝が何かしてくるかも知れぬぞ』
「色々と事情があるんだ」
夏樹と美羽の結婚は、半年後と決まった。ふたりはすぐにでもと思ったのだが、美羽の両親がもうしばらく美羽を手元に置きたいと望んだためだ。
夏樹が意外に思ったのは、美羽が夏樹の母だけでなく父ともすっかり打ち解けていたことだ。夏樹の不在の間よくしてもらったと美羽は言う。美羽が神殿に入れられてからも、何度か会いに来てくれた、と。
美羽の両親の告白によると、美羽の実の父親は進藤子爵家の嫡男だった直道という人物らしい。美羽の母である志穂の遺品の中に、直道からの手紙があったそうだ。
ふたりは恋人同士だったが、直道には親の決めた婚約者がいたために、志穂が身を引いた。直道は婚約者と結婚したものの、夫婦の間には子供ができず、そのうちに直道は若くして亡くなってしまった。
現在も直道の父が進藤子爵を名乗り、直道の妹の子が跡を継ぐことになっている。
美羽の両親は、美羽が直道の娘だと知られたら進藤家に奪われてしまうのではないかと怖れ、誰にも言わずにいたのだ。
美羽の父は、祖父母たちに会いたいなら止めるつもりはないと言ったが、美羽にその気はないようだ。
美羽の気が変わったら、夏樹は一緒に進藤家に行こうと思っている。今さら、美羽との結婚に横槍を入れられたりしないように。
『まあ、そなたはこれからも儂の巫女だ。何かあれば助けてやろう』
まるで笑っているかのように、鏡がキラと光った。
お読みいただきありがとうございました。
どうにか辿り着いたというのが、今の正直な気持ちです。