意地
電車の到着を告げるアナウンスが鳴り響き、
間も無くして電車が到着した。
慶太はもういいや、と小さく呟き、
気を付けてとぶっきらぼうに鞄を渡した。
「ちゃんと考える、少し待って。」
私の口調も随分だったと思う。
あまり声を荒げたりしない、私も慶太も。
じゃあねと小さく言うと、
いつもはどれだけ人が多かろうが、
時間がなかろうが、欠かした事がなかった、
別れる前のキス。
はじめてキスをしなかった。
電車に乗り込み、指定席へと足を進める。
考えれば、考えるほど、
どうして分かってくれないの、と、
慶太を責めるフレーズばかりが思い浮かび、
結局学校に着くまでの3時間ほどを
それに費やしてしまった。
そして、そういう時に限って重なるもので、
下校中に生徒が交通事故に遭ったと
警察消防から連絡が入った。
幸い、擦り傷と捻挫という軽い怪我で済んだが、
地方から出てきて一人暮らしだった為、
親御さんが到着するまで病院に付き添った。
家に着いた頃には日付が変わっていて、
スマホの画面を着けても慶太からの着信はなかった。
意地をはる所ではないと思う。
私から、今朝はごめんね、実は今日、って
連絡すればいい。
だけど、それをしなかったのは、
今連絡してもまた同じ事の繰り返しだと思うと、
今日はとても疲れていて、
何よりも早く休みたかった。




