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池  <第1部>  作者: M:SW
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光と影

人と話がしたい、なんて今まで思った事がなかった。独りでいる事の方が好きだったし、何より人との関わりが面倒だと思っていた。

なのに、なぜ、なみと話がしたいと思ったのか、自分でも分からなかった。

会えば、分かるんだろうか?

“思ってる事は、言わなきゃ伝わらないよ”

そう言われた事を思い出し、続けてメッセージを送る。


<話がしたいんだ。>


話したい事がある、とはちょっと違う。

何をどう話そうか、なんて考えてはいない。

何か、何か話したい。何だろう?

仕事の事は、伝えようかとは思うが、それだけじゃない。

口下手なくせに、話したいなんて言って、上手く話が出来なかったらどうすんだ?


また余計な不安が先行し、踏み出した1歩を戻しそうになる。今までの俺。

だから全く前に進めない。同じ場所で燻っている。

歯車は動き出している。周りばかりが動いていても意味がない。オレ自身が動く番だ。


送ったメッセージの返事を待つだけだ。

メッセージを取り消してしまわないよう、携帯を閉じ、ポケットに入れた。


入れて直ぐ、携帯が振動する。

画面を確認すると、なみからの返信だった。

多分、頭の中に音符のマークが浮き上がっていた。

顔はニヤけていたかも知れない。

周りに誰も居ない事を確認し、安心する。


返信を確認する。

<私は、いつでも大丈夫です!>

<今日でも!!>

<あ、3月30日には、引っ越しますが。>

喜びと悲しみのスタンプが各々のメッセージに付けられていて、オレの心も写し出しているようだった。

いや、なみも同じ気持ちなんだと、嬉しく思う。


<じゃあ、今日だな。>

引っ越しまで、もう時間がない。躊躇なんかしていられない。

引っ越したらもう会えなくなる訳でもない。そんな事にはしたくはなかったが“今”を逃したくなかった。

少し気持ちを押さえつつ、直ぐに返信した。


<!!やったぁ!!>

なみからの返事に

“よっしゃ”

心の中でガッツポーズがでる。


女ひとり、デートに誘う事で、こんなにも力が入ったことはなかったな、と何だか恥ずかしくなる。


時間と場所を決める。

片付いた仕事を確認し、早々と帰り支度をする。

少し早いが、もう帰ろうと思った所に、外回りから田島が戻ってきた。

そうだ!田島の結婚!

報告だけして、直ぐにいなくなったため、忘れていたが、顔を見て思い出す。

『お前、結婚って。』

『シーっ。』

聞こうとした俺を制し、瞬間移動でもしたかのように、素早くオレの間合いに入り、首もとから腕を回し、口を手で覆われる。

『何すんだよ。』

覆われた手のなかで、もがきながら喋って言葉にならなかった。

『まだ、皆には言わないで。』


田島の腕を振りほどく。

『分かった、分かった。ごめん、ごめん。つーか、誰もいねーだろ。』

『いや、どこで誰が聞いてるか、分かんないじゃん。』

『はいはい。で?どういう事?』

『ん?』

『だから、急じゃん。』

『急でもないんだよ。ずっと、考えてた。その過程を言ってなかっただけだよ。』

『あぁ、そうか。まぁ、言わねーか。過程の話なんて。』

『そゆこと。』


29歳って、脱皮の年なのかな?

変化を求めてる。


『じゃ、聞きたい事はいっぱいあるけど、オレはオレで色々あるんで、帰るわ。』

『えー、何があんの?』

『オレにはオレの過程があんの。』

『ふーん。』


田島は俺から後ろ向きで離れつつ、

『なーんか、楽しそう。』

と言う。


そうか、俺は楽しそうか。そりゃー良かった、と客観的に自分を確認する。

『まぁな。てか、お前もな。』


『じゃ、お疲れ。グッドラック!』

ふざけたグッドラックで田島が俺を送り出す。

『おー。』


表面上は何事もないように、でも心ではもの凄く急いで約束の場所に向かう。


あの本屋。まだ時間に余裕はあった。余裕はあるのに急ぐ。

“まだ早いのに。きっとまだ来ていない”

と思っていたのに、本屋の入口になみの姿が見えた。

まだ少し、距離があった。

そこからゆっくり歩きながら、なみの様子を伺う。

本屋の中を見たり、通りを歩く人を見たり、キョロキョロしている。

いかにも、待ち合わせしています、という雰囲気を出しながら、楽しそうに見える。

俺もあんな感じなの?自分の楽しそうな姿を想像し、笑えた。


なみに近づくと、声をかける前にオレに気が付いた。

『早いですね。』

満面の笑みにつられ、オレまで顔が笑う。

『そっちもね。』


次の言葉を切り出せずにいると、

『この時間だと、また晩ご飯ですけど、今日はどうします?』

なみが聞く。

『そうだな。じゃ、今日はオレが。』

女の子と行けそうな店を思い出し、進む方向を指差し、歩き始める。

だいぶ前に彼女とよく行っていた店たが、それ以外では、気の効いた店は思い浮かばなかった。元カノとよく行った店、なんて女の人が聞いたら嫌なんだろうが、別に大した思い出も思い入れもない。

味は確かだから、良しとしてもらいたい所だ。


小さな洋食屋たが、平日の為、並ぶほど混んではいなかった。

それでも、オレ達がテーブルについて、ちょうど満席となった。


中学生の時の初デート位、緊張しているんじゃないかと思えた。

あの頃は、好きという気持ちが分かっていた気がするが、今はもう、何か“好き”ということなのか、分からなくなっていた。

“好き”って、どういう事だろう?

何故だか相手の事を考えてしまう事?

相手の笑顔を見て、こっちまで笑顔になってしまう事?

メールの返信が、自分の思いと一緒だった時に、心の中でガッツポーズしちゃう事?

何をもって“好き”と言えるのか、考えても考えても分からない。

側に居て欲しいと思った。話がしたいと思った。

これは紛れもない事実だ。


もっと、なみの事が知りたい。

なみは、オレを照らす。照らし出されたと同時に影も出来るが、それさえも自分自身で受け入れることが出来るような気がしていた。そして、そんなオレをなみは受け入れてくれるんじゃないか、オレの影さえも。


“好き”について考える前に、もっと感覚を大事にした方がいいのかもしれない。

細胞レベルの反応を確かめるべく、今日は向かい合ったテーブルで、なみを正面から見つめてみる。




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