点と点
ルート営業と、営業先の商品管理、店の状況確認等を終え、またあの海沿いの道を帰る。
暗くなりかけ、水平線と空の境目は分からなくなっていた。
自分は、あの境目にいると思った。あの曖昧な空間。だけど、先に進めば、その先にも進む道、いや海が広がっている。ここから見える水平線は、海の終わりじゃない。暗くなると水平線まで曖昧で、怖さも感じるが、ちゃんと、その先も続いている。
今、ここからは何も見えない。進まなければ分からない事もある。
こんなにも、自分の事を考えた事はなかった。考えるのは見た目の事位で、これから先の人生の事なんて考えもしなかった。
会社に着くと、忘れていた存在の部長が、オレの帰りを待っていた。
『昨日はすいませんでした。』
呼ばれていたのに、すぐに応じられなかったことを謝った。
『あ、いや、こっちもな、呼んどいてすまん。』
怒られるような雰囲気ではなさそうで、少しほっとした。
『今な、福祉部門の事業部が立ち上がってるのは知ってるだろ?』
同じ会社とはいえ、東京にある本社での事業の変革は、地方の事業所には特に関係がないと思っていた。知っている、というだけで他の会社の事のように感じていた。
『知っては、いますけど。』
いるけど、何だ?嫌な予感しかしない。
『これから、関東と東海で事業展開していく予定になってんたが、東海地区のエリアマネージャー、お前、どうかと思ってな。人材探してるから、推薦しようかと思ってよ。』
頭が真っ白になる、と言うよりは、無数の?マークが埋め尽くしている状態だった。
『ちょ、ちょ、ちょ、っと、意味が、え?』
言葉に出しても、この程度だった。そして再び出た言葉も
『え?』『オレ?』
だった。
今の仕事はキライじゃない。ここでの人間関係も、不満はない。
このまま、このままずっと続くもんだと思ってたのに。
また違った角度から、人生を考えなきゃならないなんて。
『福祉部門って。』
最初に会社でその話が持ち上がった時、今さらかよ、と笑っていた。
福祉を専門にやってなどいない、一般の大手企業でも漏れなく参入していて、すでに飽和状態だと思われていた。しかも、箱は出来ても、働き手が集まらない、なんて事は、福祉とは無縁のオレでも知っている。そんな部門に?エリアマネージャー、なんて聞こえはいいが、オレにしてみたら、左遷同様だ。
言葉に詰まるオレを見て、部長が補足する。
『あー、いや、決定事項じゃないんだ。お前は、判断が冷静で、人との関わりも上手いからな、今の仕事とは、全く違うもんだが、やれるんじゃないかと、まぁ、思ったワケだ。考えといてくれ。今月中には、返事くれ。』
聞きたい事は山ほどあるのに、何一つ、まともに聞くこともできずに、目の前から立ち去る部長の背中を暫く見ていた。
今まで平穏すぎてマヒしていた感覚に、突然刺激を与えられても、対処することができない。あれもこれも、何をどーすりゃいい?
田島と遠藤の姿はなかった。相談すべきかも分からなかったため、居ない方が都合が良かった。必然的に、相談は出来ない。
小説なら、結末があって、それに対して伏線が張り巡らされ、様々な出来事が繋がりを持っていたりする事が面白いのに、現実は、今のこの状況がどんな出来事と繋がって、どんな結末になるのか、想像もつかない。
ただ、自分の周りに起こる出来事や、出会った物や人、歌、見かけたラッキーナンバー、些細なニュース、其々は“点”でしかないものを、自分の手で、どうやって繋ぎ合わせていくか、だ。
子供の頃よくやっていた。数字の順番に点を繋ぎ合わせていくと、何かの形になる。あれ。あれと一緒だ。ただ、決まった順番はないから、それも自分で決めなければならない。ムダな点も無数に散らばっている。どの点を選び取るのか。
この週末に、ゆっくり考えようと思った。




