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第13話 待つということ

体操を始めてから数日が経った。


最初はエドとハナだけだった参加者も、少しずつ増えている。


トーマスは気が向いた時だけ。


子供達は遊び感覚。


それぞれ自由だった。


「よし、今日は肩からいきます」


悠斗が声を掛ける。


集まった面々も慣れた様子で身体を動かし始めた。


「最近、本当に身体が軽いんだよ」


ハナが笑う。


「気のせいじゃろ」


エドが言う。


「うるさいよ」


いつものやり取りだった。


「でも前より歩くのは楽になった気がするのう」


トーマスも珍しく素直だった。


悠斗は少し嬉しくなる。


体操を始めた理由は特別なものではない。


元気な人が元気でいるため。


それだけだ。


だが、その積み重ねは確かに意味があるように思えた。


⸻


「おーい!」


遠くから子供達が走ってくる。


今日も元気だった。


「間に合った!」


「まだ始まったばかりですよ」


「やったー!」


子供達は笑いながら列に加わる。


そして体操が始まった。


肩回し。


首回し。


腕を伸ばす。


ゆっくりと身体を動かしていく。


すると。


「なあ」


子供の1人が小声で言った。


「おじちゃん何で来ないの?」


視線の先にはレオンがいた。


少し離れた木陰。


腕を組みながらこちらを見ている。


「参加しないんですか?」


悠斗が聞く。


「しない」


即答だった。


「楽しいですよ」


「見れば分かる」


「なら」


「やらん」


こちらも即答だった。


悠斗は苦笑する。


昔の自分ならもっと誘っていたかもしれない。


だが今は違う。


やるかどうかは本人が決めることだ。


「分かりました」


それだけ言う。


レオンは少し意外そうな顔をした。


⸻


体操が終わった後。


子供達はそのまま広場で遊び始めた。


その中の1人がレオンの方へ走っていく。


「あ、おい」


悠斗が止めるより早かった。


「おじちゃん!」


レオンが眉をひそめる。


「おじちゃんじゃない」


「じゃあ何?」


「レオンだ」


「レオンおじちゃん?」


「帰れ」


子供は笑う。


全く効いていなかった。


「足どうしたの?」


その言葉に周囲が少し静かになる。


だがレオンは怒らなかった。


「怪我した」


「痛かった?」


「めちゃくちゃ痛かった」


「うわぁ……」


子供は素直に驚く。


「でも今は?」


「今は平気だ」


レオンはそう答えた。


子供は納得したように頷く。


そして。


「今度一緒に遊ぼう!」


そう言い残して走っていった。


レオンは呆れた顔をしている。


「嵐みたいなやつらですね」


悠斗が笑う。


「本当にそうだ」


レオンも少し笑った。


⸻


夕方。


みんなが帰った後。


広場には誰もいなくなっていた。


悠斗は忘れ物を取りに戻る。


すると。


広場の真ん中に人影があった。


レオンだった。


1人で立っている。


肩を回す。


首を回す。


腕を伸ばす。


ゆっくりと。


ぎこちない動きだった。


そして片脚で足踏みをする。


数回だけ。


本当に数回だけだった。


悠斗は思わず声を掛けそうになる。


だがやめた。


レオンは気付いていない。


気付かなくて良い。


これは誰かに言われたからじゃない。


自分で始めたことだからだ。


(それでええんや)


悠斗は静かに笑った。


そして何も言わず、その場を離れる。


⸻


翌朝。


いつものように広場へ向かう。


すると。


エド達は既に集まっていた。


子供達もいる。


そして。


少し離れた場所。


木陰。


そこにはレオンの姿もあった。


相変わらず参加はしない。


腕も組んでいる。


だが。


昨日より少しだけ近い場所に立っていた。


悠斗は何も言わない。


ただ体操を始める。


人はそれぞれ違う。


変わる速さも違う。


だから急がなくて良い。


待つことも大切だ。


そう思いながら悠斗は声を上げた。


「それじゃあ今日も始めますよ!」


朝の広場に、みんなの声が響いた。

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