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墓守るハカモリ  作者: 苦慮緑了
れべる1:お手紙配達
22/32

必殺

 「ハカモリぃ、やるぞ、敵一人で1ポイント、魔導器官持ちで3ポイントだ……!」


 乗り気すぎて気味が悪い、どうしちゃったのだろう。


 「飛ぶぞ、気ぃつけろ」


 異教徒が放った炎の矢がハカモリ達に当たる前に景色が変わる。


 気づけばハカモリは異教徒達の只中にいた。


 「転移!?兆候は無かったはず……!」

 「おっそいなあ、カスが!」


 リロが手を向けた先にいる異教徒の首が横に()()()、転移?馬鹿げた速度だ、人間の体内で魔術を発動させたというのも信じられない、異常だ。


 「魔眼なんざ効かねえぞ、魔術払い、知らないわきゃねーよな?」

 「リロ、一旦下ろして」

 「ケケッ、良いぜ」


 景色が変わる、転移だろう、ハカモリが転移するのに少し遅れて周囲の異教徒の首が消える。


 ……強すぎる、もうリロ一人で良いのではと思わなくも無いが、それなら最初からやっていただろう、恐らく何かしらの無理をしているのだ。


 やる事は変わらない、最善を尽くす、異教徒を全員殺すのだ。


 「風風歩空(ふうふうふくう)!来い!!」


 声を張り上げる、同時に殴りかかってきた異教徒の拳を受ける、想定外の力に吹き飛ばされた。


 ……強い、通常の「身体の活性」と「肉体の堅牢」では太刀打ちできない。


 折れた腕を「万象の治癒」で繋げながら飛んできた風風歩空(ふうふうふくう)を掴む。


 鞘が無かったため異教徒のいない方に投げ捨てた。


 「鞘も取ってきて、なるべく早く」


 風風歩空(ふうふうふくう)は戸惑った様にふわふわと揺れていたが、そのうちどこかへと飛び去った。


 ハカモリに異教徒が向かってくる、身体能力が高い個体だ、対策はもちろんある、相手より強くなれば良い。


 「身体の活性」を二重で掛ける、元々掛けてあったものと合わせれば三重だ。


 効果は非常に高いがそれに反比例する様に効果時間が短い、時間は三秒程度……それだけあれば十分である。


 地面を蹴り右手を握り異教徒に突撃する、爆発したかの様な衝撃と同時にハカモリの拳は異教徒に命中していた。


 拳に「祈」を込めていたため衝撃で破砕し吹き飛ばされた手の肉片と腹を突き破った異教徒は光になって消えるだろう。


 「肉体の堅牢」を二重で掛け進行方向の先に「結界」を張る、激突して無理やり移動を止めた、掛けたばかりの「肉体の堅牢」が消滅する。


 そのまま「身体の活性」が切れる前に異教徒のいそうな方向に向かって走る、異教徒が目に映ると同時に「身体の活性」が切れた。


 異教徒がハカモリに向けて手を突き出し、握る。


 突如ハカモリの体が大きな見えない手の様なものに掴まれる、虚像の魔手だろう、大した能力ではない。


 周囲に湿り気と熱気が同時に発生する、魔術の兆候、それに伴うとてつもない嫌な予感。


 「肉体の堅牢」を二重で発動しながら口を閉じ耳を塞ぐ。


 圧倒的な量の水と火が同時に発生する、出現直後に一瞬で蒸発した水は広範囲を一気に破壊していった。


 「肉体の堅牢」が耐え切れず消滅した、熱された空気で全身を肺の中まで焼かれる。


 「肉体の堅牢」と「健康」を掛けた、それにしても大規模魔術は厄介だ……対処法を見つけなければ。


 真っ黒な炭になった服を払い「万象の治癒」で肌を治す、裸足で熱を持った地面を歩くが、「肉体の堅牢」はあらゆるダメージを無効化する、問題は無い。


 「当然の様に無事……私達の出せる最大火力なのですが」


 どこからともなく声が聞こえる、煙で周囲が見えないが、どこだろうか?


 それにしても最大火力……ハカモリには嘘が見つけられなかったが、本当の事なら朗報である。


 この先どんな不意打ちが来ても「肉体の堅牢」さえあれば無事なのだ、問題にすべきは状態異常……。


 煙が晴れる、ハカモリが見たのは数人の異教徒と……岩でできた人型だった。


 周囲の異教徒と同じ背丈の岩人形、それを見た瞬間に全身の鳥肌が立つ。


 ……あれは精霊だ、しかし、精霊であると同時に異教徒でもある。


 「……!まずい!」

 「遅いですよ」


 ハカモリはその場に落下する、精霊による大地の操作だ、回避不能、即時生成、深度無限の落とし穴だ。


 壁に手を当てて止まろうとしたが、壁がそれに応じて形を変える、どこにも触れられず落下を続ける。


 結界を張り着地する、それと同時に壁がハカモリを潰した、「肉体の堅牢」が消滅する。


 ただ埋められただけじゃない、土が固められハカモリの全身を潰し続ける、このまま擦り潰すつもりだろう。


 「肉体の堅牢」を発動する、だがこのままではすぐにまた消えるだろう、何とかしなければ。


 「肉体の堅牢」を三つ準備する、次いで「身体の活性」も三つ準備する。


 口の中に「空間」と「結界」を合わせた複合神術「自由結界」を発動して、土を押し除け結界を広げていく。


 そうして自身の周囲を結界で覆い尽くしたあと、準備しておいた「肉体の堅牢」と「身体の活性」をそれぞれ三重で掛ける。


 さっきは本気を出したら体が持たなかったが、今回は違う、今の過剰な身体能力を全力で振るっても問題は無い。


 圧倒的な力で拳を握り、天井を思い切り殴りつける。


 上にあった土を全て吹き飛ばし、その後に続く様に飛び上がった。


 地面を越え、木々を飛び越え空に打ち上がるハカモリ、地上で異教徒達が驚愕しているのが見える。


 「結界」を足元に張り一旦着地すると、「肉体の堅牢」と「身体の活性」の効果が終了した。


 空にいるハカモリの側に風風歩空(ふうふうふくう)が飛んでくる、今度は鞘付きだ。


 剣を取り腰に下げようとしたが、今は裸だからできない事に気づいた、全部燃えてしまったのだ、半端な炎だったらハカモリの修理の方が早かったのだが……。


 ……まあ服はいいか、また着てもどうせ燃えるなら着る意味もない。


 風風歩空(ふうふうふくう)の鞘の根元を思い切り握る、そして密閉された鞘の中で風を生み出す。


 圧縮する、鞘から飛び出そうとする剣を「身体の活性」を掛けて押さえつける。


 圧縮する、取り回しや速度の関係上ハカモリは剣を使うより殴った方が強い、だが今から行う攻撃は生身のハカモリでは決して出せない攻撃力を持つ。


 圧縮する、精霊なんて敵ではない、それを今証明して見せる。


 突如床にしていた結界が消えた、解呪の魔眼だろう、落下と同時に地上から複数の魔術が飛んでくる。


 続けて「身体の活性」が解除されたが、すぐさま掛け直して剣を抑え続ける。


 魔術は「肉体の堅牢」で耐え、剣を構えながら落下する。


 相手はこちらが大技を準備していると考えたのだろう、ハカモリの着地先に複数の異教徒が集まっている、だが肝心の精霊は離れたところで様子見している。


 ……問題は無い、目の届く範囲全てが射程範囲だ、「身体の活性」を重ねる様に加えて発動し、風風歩空(ふうふうふくう)に神力を込め()()()()()()()


 空を駆け距離を取る、鞘の中の空気はもう十分な量溜まった。


 地面に着地する直前に再度中空を踏み少しだけ浮く、それに少し遅れて地面が沈んでいく、やっぱり……。


 散り散りになってハカモリを囲もうとする異教徒、それに遠方にいるであろう精霊に向け、剣を抜き放つ。


 圧縮された空気に押し出され爆発的な速度で放った剣撃は、生み出した空気を操作して擬似的に刀身を伸ばす。


 剣は既に振り抜かれた、衝撃と破壊を撒き散らした剣撃、その反動も凄まじく、勢いが強すぎて関節が抜け、ハカモリ自身も剣に引っ張られて派手に吹き飛ぶ。


 地面を転がって木に頭をぶつけた、痛い。


 「万象の治癒」を掛けながら立ち上がる、反動は予想していたが、対処はできなかった、ハカモリはそういうのが苦手なのだ。


 「……いや、恐ろしいな、なんだ今の?」

 「リロ、いつの間に」


 気づかないうちにリロがハカモリの側に立っていた、転移か、あるいは隠れていただけか。


 前を見れば異教徒はほぼ全滅していた、地面は捲れ、木々は全て倒れ、かろうじて五体満足な異教徒も頭に矢を受け死んでいる、恐らくリロの仕業だろう。


 「周囲に敵は?」

 「いない、ヒヒ、つーかいたら俺が殺してるぜ」

 「精霊は生きてる?」

 「あ?あー、あっちの奴か、死んだぜ?お前に真っ二つにされてな、あれは岩の精霊か、まともに戦ってたら俺じゃ勝てなかったな」

 「その格好でも?」


 意外だ……ぱっと見リロの方が強そうなのだが。


 「このイカれた衣装はクソだ、もう魔力が半分しか無い、一応魔力消費が半分になってるが……」

 「そうなんだ」

 「つーか格好の事でお前に言われたくねえな、ほれ、服だ」


 リロが指を鳴らすとハカモリは服を着ていた、転移……?


 「ポイントは……引き分けかな、数だけなら俺の方が多いが精霊がいるからな……お前はどう思う?」

 「どうでもいい、それより私は……」


 言葉を続ける前に、突然周囲の明かりが消えた、「明」が切れたのだ、最後に掛けたのはいつだったか……。


 「明」を発動する、効果時間はできる限り長く、範囲はかなり広く、視界を取らなければハカモリは戦えない。


 しかし、発動したばかりの「明」がすぐに弱々しくなって消えていく。


 「これは……」

 「……へへ、ハカモリぃ、雨だ、雨降ってきたぞ、面白くなってきたな」


 「破雲招晴」が切れた……ハカモリの予想ではもう少し続くはずだったが……。


 ぽつりぽつりと雨が降ってきた、まずい、神術は空が見えていないと弱体化するのだ。


 「賢者の千明」を発動して明かりを確保する、初級神術は効果がほぼ無効化されるが、上級神術なら少し効果が落ちるだけで済む。


 せめて朝であればマシだが、時間帯は未だ夜のまま、日の出まで後五時間はあるだろう。


 状況は悪化した、効果の落ちた上級神術で五時間……耐えられるだろうか?


 「ハカモリ!」


 リロに突然抱き抱えられその場を離れる、少し遅れてハカモリのいた場所にドラゴンが落ちてくる。


 攻撃かと思ったがどうやら違うらしい、全身を血で濡らし羽は片方が無く、首が千切れかかっている、瀕死の様だ。


 ドラゴンが立ちあがろうとしたところに矢が放たれ、頭を貫く、ドラゴンは死んだ。


 「クク、ははは、私の、勝ちですよ……!」

 「ハイネライド!てっきり死んだと思ってたぜ!」

 「……っ!クソリロが!殺す!」


 血だらけのハイネライドが怒鳴る、見るからに死にかけだ、全身が血に濡れ、右腕と左足が無い、右脚も折れている、それから腹に穴が空いている、何で生きてるの?


 「ハイネライドさん、今治療する」

 「ありがとうございます、ハカモリさん、でもそれより先にリロを殴っておいてください、出来れば殺してください」

 「あ?何でだ?ケケッ、俺怒られる様な事したっけ?」

 「死ね」


 呆れるほど呑気なやり取りを横目に、ハイネライドに向かって歩く、だがそれをリロに止められた。


 「リロ……?」

 「何ですかリロ、このままだと死ぬんですが」

 「すまんなぁハイネライド、ヒヒッ、敵がいるんだ」

 「は……?」


 え……?


 「……血濡れの耳長(レッドエルフ)とハカモリさん、両方同時に殺すチャンスだと思ったのですが」

 「……あーなるほど、リロ、助けてください」

 「無理だね、三人以上いる」

 「はは、じゃあ無理ですね、恨みますよ、リロ」


 いつの間にかハイネライドの背後に異教徒がいた、死にかけのハイネライドの首に包丁を当てている。


 「さて……このまま殺しても良いですが……どうしますか?」

 「リロ、転移は?」

 「出来るならやってるぜ?ハカモリ、もう既に試した、魔術払いだろうな、体内でやったら具合悪くなるが」

 「それでですか、さっきから凄く気持ちが悪い」

 「……次口を開いたらハイネライドさんを殺します」


 異教徒が周囲に集まってきているのを感じる、特に大きな気配は精霊のものだろう、普通の精霊が三体、特に強い奴が一体。


 「我々の本隊……主力が戻ってきました、勝ち目はありませんよ」


 異教徒が得意げに言う、少しの間に雨は勢いを増していた。


 「……ですが、抵抗をされれば我々も少なく無い犠牲を払うでしょう、だから、交渉をしましょう、本当に最後の、交渉を」


 雨の中異教徒の声が異様に響く。


 「公平で平等で、お互いに益のある……ね」

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