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墓守るハカモリ  作者: 苦慮緑了
れべる1:お手紙配達
20/32

俺は正気だ!!

 「……ハカモリ、本当に大丈夫か?」

 「大丈夫、リロ、心配しないで」


 ……こうは言っているが、神官の治癒は万能じゃない、後遺症が残る場合もあるし、さっきのハカモリは明らかに致命傷だった、気にかけておいた方が良いだろう。


 「リロ、周囲に敵は?」

 「いない、少なくとも俺の感知範囲内では」

 「私が殺したのは百十二人、中には魔導器官を持っている奴もいた」


 ……殺し過ぎじゃないか?


 「千里眼、石化の魔眼、霊耳、獣鼻、私が確認できたのは八人、一番多いのは千里眼」

 「……数が多い割に戦闘向けの魔導器官が少ねえな、まさか本命がいるのか?」


 なんか嫌な予感がする、やばいな、ハイネライドが死ぬまであとどれぐらいだ……?あんま時間無いよなぁ……。


 「ハカモリ、帰るぞ、ハイネライドが死ぬ」

 「……帰る?合流するじゃなくて?」

 「帰る、一旦帰ってまた来りゃ良い、魔女は良いだろ、どうせ来ねえよ」

 「でも、偶然今日帰ってくるかもしれない」


 ……頑固だな、無理やり連れ帰るか。


 いや待て、それより先に敵か……。


 「ハカモリ、敵だ、一人、話は後でな」

 「……うん」


 敵……だよな?分からん、敵意が無いが……。


 「そこで止まれ、なんか用か?降伏すんなら受け入れるぜ」

 「受け入れない、絶対殺す」

 「すまん嘘だった、降伏は受けいれられねーぞ、大人しく死ね」

 「……あの、もうちょっと真面目に話してくれませんか?」


 性別は女、非力そうだな……オッドアイだが魔眼……だよな?効果までは分からない……。


 「……一つ提案をしに来ただけですよ、お互いに益のある……ね」

 「益なんか無い、異教徒との取引はしない、殺す」

 「聞くだけ聞いとけよ、ハカモリ、一応な」


 猪すぎるだろ、もうちょい冷静になってほしい。


 「……このままお互いに引きませんか?ここで殺し合っても意味がありません」

 「お前らを減らせるのが意味」

 「……まあ、魔女が死ぬからそれは無しだな」


 女が心外そうに顔を顰める。


 「危害を加える気はありませんよ」

 「お前はな、そんな古典的な手に掛かるかよ馬鹿か?」

 「我々は魔女に何かする気はありません、これは今この山にいる全員の総意です」


 ハカモリが不機嫌そうに女を睨んでいる、嘘が見つからなかったのだろう。


 今この山にいる奴らは何にもする気がない、だが山にいない奴は話に入ってない、やっぱり山を出てる奴らがいるな?コイツ馬鹿だ、もうちょい情報を探るか。


 「ハカモリさん、私達はリロさんとハイネライドさんを殺せますよ、ここは引き下がった方が良いですよ」

 「……嫌」


 短く、強い否定だ、どう言おうが諦めなさそうだな。


 「ハカモリ、もう……」


 諦めろと、そう続けようとしてそこで言葉を止めた。


 ドラゴンだ、こちらに超高速で向かってきている、二秒後に接敵……いや着弾する!


 ハカモリの腕を掴み思い切り投げる、続いて自分もその場を離れようとして……。


 「逃しませんよ」


 全身が凍りついたように静止した。


 何だこれ、石化?違う、押さえつけられてる、空気の壁?「空の眼」か……!


 最早回避は不可能、腕を無理やり動かして頭を守る。


 それと同時にドラゴンの牙をくらい、景色が一瞬で流れる。


 そのまま口に咥えられ一瞬で空に飛びあがる。


 さらにドラゴンの口から熱が発せられる、ブレスか!?殺意高すぎだろ!


 「やっぱさっさと帰るべきだったなあ、くそが!!「幻痛(ファントムペイン)」」


 ドラゴンの口先に幻覚魔術を放つ、口の中から刺し貫くような痛みを感じたドラゴンが口を開き、空に放り投げられる。


 「精霊!!契約を果たせ!!!」

 (んっんー、精霊紙無し?それってとっても不敬じゃない?最近精霊使いが荒いっていうかー、雑っていうかー)

 「うるせえくそボケ早くしろ!死ね無能!」

 (はいはい、分かりました、分かりましたよ、でも覚えておいてね、その精霊に対しての態度、いつか後悔するっていうか、後悔させるっていうか、私は忘れないから)


 くっっそうぜええ、今そういう場合じゃないんだよ!!


 魔力が大幅に減った、術の構築まできっかり十秒、それより先にドラゴンが再びこちらに突進してくる。


 「開け!「マジックポケット」!」


 空間に開いた裂け目の縁を掴み、落下を止める。


 足元のすぐ下をドラゴンが通る。


 「あと何秒だ」

 (七秒、死んじゃう?それは困るわ)

 「死なねえよ」


 さっき噛まれた時の怪我はそこまでひどくはない、体当たりは痛かったが、まあ問題ない、思ったよりも雑魚だ、七秒程度じゃ死なない、つーか見つかりもしない。


 ドラゴンがこちらに首を向けて俺を探している、だが俺の隠密、隠蔽術は見破れない、身動き一つとれないが、時間が稼げれば転移ができる。


 「それよりなによりハカモリの事だろ……どうすっかなあ、あれ」

 (転移するわ、酔わないでね?)


 視界がゆがむ、体が捻れ歪み縮小していくが、痛みは無い。


 一瞬、全ての知覚が消える、精霊界を通っているのだ。


 今度は入る時と逆に体が膨張して歪みは正され逆方向に捻れる。


 吐き気のするような感覚が消える頃に地面に足がついた、木々が生い茂っているから空から見つかる心配は無さそうだ。


 「気持ち悪い、もうちょい丁寧にやれよ」

 (うるっさいわねえ、私がガサツだって言いたいの?)

 「実際ガサツだろ、じゃあな、ありがとよ」

 (私は!ガサツじゃ!なーー)


 さて、ハカモリと合流しなければ、探知範囲内にいるな、あんましさっきの位置と離れていないようで助かった。


 ん……?いや、これは……いや、まさか……。


 俺が違和感に気付いたと同時に、ハカモリがふき飛ばされてきた、だがそんなことは重要じゃない。


 ふき飛ばされてきたハカモリが……服を着ていないのである!何でだよ……。


 大事なところも大事じゃ無いところも全て露出させた姿は控えめに言って変態だった、唯一着けている首のチョーカーが逆に痴女感を増している気がする。


 俺はとりあえず幻術を自分にかけてハカモリの姿を隠した。


 「ハカモリ!大丈夫か!?怪我は無いな?とりあえず服着ろ服!」

 「リロ……?無事で良かった、でも服は良い」


 ……?何言ってんだコイツ?


 「炎で焼かれて服は全部消し飛んだ、これから何度もあの炎に耐えるのなら服は不要」

 「……?」


 その顔に恥じらいは無く、全裸であるにもかかわらず堂々としていた、しすぎていた。


 だがそれにどうこう言う時間はあまり無い、再び敵が集まってきている。


 「あとリロ、私は死なない、私を守ろうとしなくても大丈夫」

 「……ハカモリ、口を閉じろ」

 「……?何で……?」


 幻術で俺が何もしていないように認識させる。


 ハカモリの手を引きお腹を肩に乗せ、持ち上げる。


 そのままハカモリを担ぎながら隠密、敵の包囲網から抜け出した。


***


 「リロ……?リロ……?何が起きてるの?」


 未だ幻術に囚われているハカモリを運ぶ、周囲に敵はいない、そろそろ良いか……?


 いや、もう良いだろう、というか全裸で担いでいるからハカモリの素肌が直接俺に当たってしまう、嫁入り前の娘にこんなことしちゃダメだろ。


 ハカモリを降ろし、幻術を解除する、俺自身にかけた幻術はそのままだから、ハカモリの体は謎の光で覆われていて直接視認出来ない。


 マジックポケットから服を取り出してハカモリに差し出す。


 「……?場所が変わった?リロ、何をしたの?」

 「ハカモリ、服を着ろ」

 「そんなのどうでもーー」

 「服を、着ろ、殺すぞ」


 ハカモリが納得いかないと言うような表情をしながら首のチョーカーに触れる。


 チョーカーから布が生えてきてマントになった、ハカモリが着ていたやつだ、成る程あれは魔道具だったのか。


 ハカモリがそのまま俺を見る、俺もハカモリを見る、俺の手には着替えが握られたままだ。


 「……うん、よし、リロ、話の続きを」

 「俺は服を着ろと言ったんだ、ハカモリ、変態か露出狂なのかお前?それとも言葉が通じないのか?」


 ハカモリが渋々と言った様子で服を受け取る、何で嫌々なんだよ、普通に考えて全裸でいても平気なわけないだろ。


 「……リロ、着替える所を見られるのは……その、恥ずかしい」

 「……………………………?」


 俺は後ろを向いた、なぜ全裸は良くて着替えは駄目なんだ……?俺が何か間違っているのか……?


 ハカモリが服を着ている、衣擦れの音だけをしばらく聴く。


 ちなみに俺は後ろを向いた程度では普通に知覚出来る、今は意識的に無視しているが、ハカモリはどうやらそこまで頭が回っていなかったようだ。


 「……お待たせ、もう大丈夫」

 「……おう」


 振り向き、服を着ていることを確認してから、自分に掛けている幻術を解除する。


 「ハカモリ、さっきの話の続きだ、ハイネライドが死ぬから早く帰るぞ」

 「嫌」

 「何でだよ、あいつは確かにイカレバトルマニアだが、仲間だろ?見捨てんのか?」


 ハカモリは顔を顰め、口を開く。


 「……帰るのは、駄目、助けに行くだけなら良い」

 「違うね、助けに行くだけなんてのは無理だ、あいつが勝てない相手に俺ら二人が加わった所で勝てねえよ、それは分かってんだろ」

 「ハイネライドさんは索敵が苦手、リロが居れば勝てるかもしれない」

 「その場合は俺がわざわざ一人でお前のところに来ねえよ、ハイネライドを連れてくか、先に敵を倒してからお前の方に行く」


 ハカモリが口を噤む。


 「なあ、頼む!ハカモリ、俺を助けると思って!頼むからここは引いてくれ!」

 「……」


 頭を下げる、深々と、誠意が通じるように。


 ハカモリはそれを見て無言で目を逸らす。


 「……嫌」


 ……あっそ、それなら俺にも考えがあるぜ?


 俺は今までかけていた幻術を解除する、ハカモリの目には頭を下げていた俺が突然消えたように感じるだろう。


 「……これ、は……!?」


 新たに幻術を掛ける、一切の知覚、認識を消す幻術、自身の体の存在すら消え去ったように感じるだろう。


 足から力が抜け崩れ落ちるハカモリを後ろから受け止める。


 「……なに、これ?暗い……リロ……?」


 片腕を回し首を思い切り締める、次いでもう片方の手を頭に乗せる。


 帰るつもりが無いなら無理やり帰らせる、悪いが大人しくしてもらう……!


 全身を脱力させながらも呼吸をしようと反射で口をはくはくと開いている、このまま意識を飛ばせば勝ちだ……!「マインドシェイカー」!


 その瞬間、ハカモリの首が硬くなった。


 気づけば俺は地面に叩きつけられていた、力任せの背負い投げだ。


 幻術はいつの間にか消し飛んでいた、ハカモリがこちらを見下ろしている。


 「リロ、私は帰らない、ハイネライドさんと二人で帰って」

 「んなことが、出来るかよ……テメーを守るのが俺の仕事だ、馬鹿が……!」

 「……うん、ごめん」


 ハカモリが俺の腕を引く、今更隠密の術は無駄だ、こういう状況の俺は弱い、対抗策は無い。


 そしてハカモリが俺を振り回し、崖の方に投げ飛ばした。


 途中で木に当たり回転、崖を転がり落ちる。


 投げ飛ばされた勢いのままゴロゴロと転がるが……それもすぐに終わり、地面のない空中に放り出された。


 「やっば!?開け、「マジックポケーー」


 落下を止めるより先に、俺は頭から浅い川底の石に着地した。


 「いっってええ!こんのクソガキいい!!」

 「り、リロ!ごめん、思ったより飛んで……無事?大丈夫!?」


 別に大丈夫だったがここは黙っていたほうが心配されるだろう、一旦口を閉じる。


 「……」


 ……何の声かけもせず、ハカモリはそのままどこかに歩いて行った。


 「……死ね、ボケが……!」


 普通この高さから落下した人間を放置するか……!?


 これも俺への信頼の証か?くたばれ過去の俺。


 ため息を吐きながら川から立ち上がる。


 ……あのガキなんざもう見捨てれば良い。


 頭のどこかでそんな声がする、多分さっき打った所からだ、出血してるし。


 ……どうでも良い、あの人の弟子だか何だか知らないが、命までかける義理は無い。


 気合いを入れて出血を止める、適当に川の水を掛けて血を洗う。


 ……ハイネライドも良いだろ、ていうかもう死んでんじゃね?


 それはそうかもね。


 ……いや、同意すんなよ。


 頭の中に響く声を隅の方に置き、もう一度川の水を頭から被る。


 頭を冷やして考える、どうすれば良いのか。


 見捨てるのは無しだ、絶対に助ける、それは仕事だからというのもあるが……。


 ……脳裏に浮かぶのは家出した娘のことだ、ハカモリと同じ年で、ハカモリより元気で、今は遠くでオトの野郎と暮らしている。


 あの娘に何かあったらと考えると、それだけでどうにかなってしまいそうだ、それぐらい大事な大事な、俺の娘。


 ……きっとハカモリも、あの人からそう思われているだろうから。


 ハカモリもハイネライドも助ける解決策が、一つある。


 不確定要素は多いし、不安もあるが、ハカモリを納得させる方法はそれしか無い。


 「精霊、契約を果たせ」

 (……)


 何も言わないが、どうせ聞いているのだろう、契約だから。


 「お前を現出させる、今まで貯めた魔力があるな?何時間持つ?」

 (う……ま、魔力?そう、魔力ね、あるわよ)

 「あ?どうした突然話出して、もうちょい掛かると思ったが」


 何だか嫌な予感がする。


 (何でも良いでしょ!それで何?現出させるって?そんな必要なく無い?)

 「それを決めんのは俺だよ、黙っとけ、聞かれたことだけ答えろ、何時間持つ?」

 (あ……あー、その……魔力、ね、確認するわ)


 この駄目精霊との契約で、俺は毎日少なくない魔力を貢いでいる、半分は精霊の好きに使い、半分は俺が頼んで緊急用に貯蓄してもらっている。


 今まで貯めた魔力量はかなりの物、精霊を現出させる量は十二分にある、最低でも十時間は行けるだろう、戦闘等を行うのならもう少し短いだろうが……。


 「おい、まだか?早くしろ」

 (あ、あー、うん、ええと、一時間)

 「……お前……」


 なんかもう怒りすら湧かない、予想通りというか何というか、一時間残っているだけマシか……。


 (しょうがないじゃない!だって完全な保持なんてできないし!ちょっとずつ勝手に消えていくし!ちょっと使ってもバレないって思ったのよ!)

 「おい、黙れ、無駄飯喰らいの馬鹿精霊、少しは頭を働かせろよバレない訳ねーだろ」


 ……だが良い、十分だ、俺の考えた策は実行できる。


 俺が考えた策……そう、全員ぶっ殺す作戦。


 うだうだ考えるのは面倒くさい、やれるだけやれば良い、それで無理なら……諦める、それだけだ。


 「おら行くぞ馬鹿、まずはこの山にいる奴ら全員だ、全員殺せば解決だよなあ!」

 (あ、頭おかしいんじゃ無いの……?……どこか打った……?)


 打ったが、俺は正気だ、いつもの三倍は正気、正気な脳みそで弾き出した答え、それが全員ぶっ殺す作戦。


 覚悟しろよ異教徒共……!一人残らずぶっ殺してやる!!

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