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雪月花の物語  作者: 冴條玲
第三章 死霊術師
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3-3e. 闇色の獣【教育的指導?】

「んっ……!」


 肌を這う舌が熱い気がして、息を詰めたゼルダには、もう、わからなかった。

 何をされているのか。

 恐怖と、甘い痺れに思考を麻痺させられていた。


「どう、愛しい兄上様に組み敷かれて快楽か?」

「だ、黙れ! こんなの、屈辱でしかない!」


 くすくす笑ったヴァン・ガーディナが、その長い指で、首筋から胸にかけての稜線を示した。


「え……?」

「支配印を外してやっただけだよ。組み敷かれる側がどんな気持ちかわかったな? おまえ、年若い女性に無理強いするのは控えなさい。綺麗ならいいってものじゃないだろう」

「えぇえぇ!!」


 この兄皇子、何という教育的指導!? 痛恨の一撃だし!


「あ、あ、兄上様! 貴方に何か言おうとしたら、全部、自分に跳ね返ってくるじゃないですか!?」

「言わなくていいよ。その代わり、愛しの兄上様に愛玩してもらえる麗容に感謝しておくんだな」


 苦渋の表情で両手を突いて、くぅ、とかゼルダが泣く。丸め込まれて、面白い。


「夜半を過ぎたな」


 さめざめと泣きながら、着衣を直すゼルダにヴァン・ガーディナが言った。


「ゼルダ、帰邸しなさい、私も、もう床に就くよ」

「あっ……。はい、わかりました」


 夜も遅いと思い出すと、ゼルダは急に、強烈な眠気に襲われて、霞む目をこすった。兄皇子にさんざ振り回されたし、泣き疲れたせいかもしれない。


「なんだ、眠いのか? 帰邸するのがつらいようなら、泊めてやろうか」

「――……」


 帰邸って、徒歩……もう、魅惑の眠り妖精に誘惑されそうかも……きっと、眠り妖精に抱かれたら、とっても気持ちがいい……ああ、もう駄目かもしれない――

 ゼルダはこくと頷くと、眠くてたまらなくなって、ほんのちょっと目を伏せた。

 兄皇子の声を聞いたような、聞かないような。やっぱり、温かくて心地好いなと、それだけ思った。

 


  **――*――**


 

「ヴァン・ガーディナ殿下?」

「湯殿と夜食の用意を。『これ』は起こしても起こさなくてもいい、湯浴みさせて寝かせてやれ」


 家令に言いつけると、抱き上げて運び込んだゼルダをソファに寝かせて、ヴァン・ガーディナは呆れながら息を吐いた。

 いきなり熟睡するとか、ゼルダの命を狙う悪の皇妃の忠実なる皇子の隣で、心を許すにも程があるだろう。


「おまえ、死ぬぞ。私は母上におまえを殺せと命ぜられたら、殺すからな?」


 頼みもしないのに、彼を信じて疑わないゼルダが腹立たしかった。

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