恨みを買った勇者-4 アデルとラルフ
アデルは部屋を出た後に、
しゃがみ込んで複雑な心を紐解くようにした。
まだ、決まってはないが
東ロムルス帝国の騎士と名乗ったラルフという人物が、昔自分は愛した人なのではという事
そして、彼は目の前で魔王軍幹部によって殺されたこと...
自分の力が及ばずで彼を助けられなかったこと...
再会できると思うと嬉しい反面、謝りたいと思う気持ちがあったが....
今の彼は、
バターミンの国境地域の村で冒険者たちを魔術か何かで誘導して惨殺したことの加担し、魔王軍と同じものを手にしていた痕跡があったから....
素直に喜ぶ事ができないし、
仇であるはずの魔王軍に加担しているかもしれないと思うとどう思えばいいかわからないでいた。
「この複雑な気持ちなんなのかしら....」
心配そうに近寄ってきたのは陽都から来ていた妹のエミリだった。
「お姉ちゃん大丈夫?」
「大丈夫よ....ちょっと今日は付き合ってよ。エミリ」
「うん。わかった。タカノさんのは今日はもう上がるって伝えておくね」
エミリはそういうと、部屋に入って行って取り調べを続けるタカノに話をしに行った。
アデルは大きくため息をついて、心の整理をつけることにした。
エミリが戻ってきたのを確認してアデルは立ち上がって、こう言った。
「バターミンのパブってまだ行ってないのよ。場所とか知ってる?」
「シンから教えてもらったよ。
タカノさんから報酬の前金って貰ってきたし、これで行きましょ」
エミリはそういうと手に持ってた金貨二枚をアデルに渡した。
既にこの依頼での前金はもらっているので、きっと彼が気を遣って金を渡してきたのだろうとアデルは思ったーーー
それか、追加でまだ何かして欲しいかという意味でのお金なのかなとも一瞬感じられたーーー
「きっとこの先大変になるわ。今日飲んでおかないとね」
アデルはそういうと歩きはじめエミリはそれについて行った。
エミリとアデルはシンに教えられた、バターミンの街にあるパブに足を運んでいた。
そこは静かな店で客はエミリとアデル...そして、もう1人だけだった。
服装と腰に帯びる剣を見て彼が、東ロムルス帝国の騎士団に所属しているのはわかった。
顔にはフードを深々とかぶっていてその顔は見ることができなかった。
その彼を横目にアデルとエミリは席についた。
するとすぐさまにアデルが注文を始めた。
「この子にはハニービールで。私のはラムがあればちょうだい」
それを聞いた店主は木のジョッキーにビールを注いでそれをエミリに渡して、コップを手に取ってこう言った。
「すまないね。旅の方....ラムは西域じゃあ手に入りにくくて....代わりにウォッカを出すよ」
「いいわ。とにかく何も考えたくないぐらい酔いたい気分だからいいわそれで...ボトルでちょうだい」
それを聞いた店主は驚いたが、エミリはこう言った。
「大丈夫ですよ。私が彼女を連れて帰るので...
それに深紅の魔女アデルは酒豪って聞いたことありませんか?」
それを聞いた店主は驚いた顔をしてなんだと安心して、ウォッカのボトルをアデルの前に置いてコップを横に置いた。
「お姉ちゃん...酒豪でやっぱり通ってるんだ」
「そうよ。だって好きなんだもん...今日はちょっとだけ忘れさせて欲しいな」
アデルはそう思ういうとウォッカのボトルの蓋を開けてエミリの持ったジョッキーにこつっと当て飲み始めた。
ーーーー
「あーもうダメだわ....エミリは寝ちゃったしーーー」
横で介抱してくれるはずのエミリは下戸なのに、あまりにも美味しすぎたハニービールを飲みすぎたせいで机に突っ伏して居眠りを始めていた。
アデルはウォッカの次にウィスキーのボトルを頼んでそれを飲み干そうとしていた。
クラクラしているうちに意識がぼんやりととはしていたが、記憶が飛んでいるというわけでないことを自覚していたーーー
「ちょっと、トイレ」
アデルはそう呟いて席を立つと、自分がまともに歩けないことに気がついた。
バランスを取ろうと足を運ぶがおぼつかずに足が絡まりそうになっていた。
そこにそっと身体を支えてくれたのは、あのフードを被った騎士だった。
そっと彼の顔が見えた時アデルは彼を指差して大声で笑った。
「私酔っ払いすぎたんだ....死んだラルフじゃん、あんた!くりそつなのかしら」
彼は無言で、アデルを抱き抱えて店主に何かを伝えてそのままパブを出ていった。
ゆらゆらとお姫様抱っこされながら自分自身が運ばれていることに気がついてまた大声でゲラゲラと笑いが込み上げてきたので笑った。
「ねぇ、あなた。ラルフでしょ?」
死んだはずの愛する人が目の前になんているはずないと思ってたけど気になって聞いてみた。
彼は生きていたとしても魔王軍の手先になっている可能性があるーーー
それでも、もし会えたのなら嬉しいと思う感情がアデルの心の中では溢れていた。
騎士が連れてきたのは、
宿屋の一室でアデルをそっと寝かせてフードを取ってこう言った。
「アデル。俺だ....ラルフだ」
アデルはそれを聞いて、思わず抱きついてこう言った。
「会いたかった...もう会えないと思ってたーーー」
ラルフはそれを聞いて、アデルを引き離してこう言った。
「俺もだ。でも、時間がないーーー
許された時間は少ししかない、だから聞いて欲しい」
アデルははそれを聞いて、朦朧とする意識の中で彼のまっすぐな目に焦点を当てながら頷いた。
「次会う時にはお互い敵同士だ。
だけど、俺は君に俺を止めて欲しい....
俺は罪のない人を自分の夢を叶えるために殺した。
しかも、純粋な人達を騙してだ。
これは俺が人間として残っている心があるから言えるのかもしれないーーー
次はこの街を壊す...だからその前に
俺を探して止めてくれ」
「うん....」
アデルはそう頷くとラルフは笑みを見せてこう言った。
「ありがとう、アデル...もう時間だから、さよならだーーー」
ラルフはそう言って急足で宿を後にして行った。
アデルは彼を呼び止めることができずただただぼおっとする意識の中で彼を見送っていた。
ドドドドと大人数が宿屋に入り込む音が聞こえて、部屋の扉を蹴破って入ってきたのは赤い武官の服に身を包んだタカノだった。
「御用改である!魔王軍幹部ラルフ!お縄につけ!!」
と叫んだが、部屋の中にいるのはベロベロになったアデル1人だけだったーーー
「近くにはまだいるはずだ!包囲網を作って街から逃すな!
バターミン藩兵にも応援を依頼しろ。やつを逃すな!!」
タカノはそう言って檄を飛ばしていた。
一緒にいたシンがアデルに上位の状態異常解除の魔法を掛けたので、アデルは頭痛に襲われながらも首を振って立ち上がってこう言った。
「ラルフを止めないと...彼からは使徒の魔力を感じたわーー」
シンがそれを聞いて、アデルにこう聞いた。
「ラルフはやっぱり、あのラルフだったの?」
アデルは無言で頷いた。
タカノは窓から身を乗り出して、アデルにこう伝えた。
「俺は奴を捕まえないといけない。
わかってると思うが、魔王軍の幹部ともなれば焔帝国だと拷問にかけられた後、極刑に処されるーーーー
代金もそのままで構わない
辛いなら、この任務から降りてもいい。」
アデルはそれを聞いて、首を振ってこう言った。
「私は冒険者よ。S級を伊達の張ってないわ....
バターミンの人達から聞いたわ、罪のない人々を殺したってーー
ラルフに言われたわ...自分を止めてって
だから私、降りないわ」
アデルはそういうと、タカノはこう言った。
「わかった。俺は奴を追うーー体制が整え次第、来てくれ」
そういうなり窓から飛び降りて行ったーーー
シンもそれに続いて窓から飛び出して行った。
タカノは走って逃げる東ロムルスの騎士団の格好をした男を追い続けていた。
足止めするかのようにならず者のような人の武装した集団が食い止めようとしたが、タカノはそれを素手で蹴散らして行った。
ラルフとの距離は開いて行って、タカノは彼を見失ったーー
「大尉!奴の潜伏先の情報が出ましたよ。国境付近の遺跡を拠点にしているとのことです!」
そう部下からの声を聞いてタカノは頷いてこう言った。
「分かった。奴の計画を阻止しないといけない、すぐに出るぞ!シン。近くのギルドに緊急クエストを出してきてくれ」
アルス「なんで、旅先でお前とばったり合うんだよ」
ショウタ「いいじゃん、いいじゃん。ラシュトスタンの飯って焔帝国と違って色々と見慣れないものも多いし」
アルス「あーもー...男ばっかと飲むには辛いよぉ」
ショウタ「だな!」
アルス「あ、酔ってるな」
シン「おーい。緊急クエストになります。依頼者は義禁大尉です!」
アルス「パーティオーナーの仕事なら行くしかないな!シン!それ行くからよろしく!」
シン「お前、顔っ真っ赤かだけど大丈夫なのか?」
ショウタ「先輩の頼まれごとなら行かなきゃ!」
シン「ショウタも酔ってるな....ポーション飲んで酔いでも覚ましておけよ!酔っ払いども」
アルス「うぃ!行くぞショウタ!」
ショウタ「おいおい、お前フラフラじゃん!って告知の時間か...
次回、堕ちた騎士。
ラルフって本当はいいやつなんだよな?」
アルス「あ、うん....そうだよ。理想高き領主の息子だったけどな...酔ってるな場合じゃないな、行かなきゃ」
ショウタ「ああ!っておいおい大丈夫なのかよ...」
アルス「うん...無理、(キラキラキラ☆☆☆彡...)」
シン「お前、大人なんだから飲み方考えろよ....」