仲間の絆と嫉妬-5 後悔、戻らない時
「御用改である!バードン辺境伯!謀反の疑いで捕縛する!!開門せよ!」
そう完全武装で鎧兜を身につけたタカノと義禁の兵士たちはバードン辺境伯が宿泊する貴族の屋敷に押し入ろうとしていた。
驚いて出てきた家主の貴族は門を開けて目の前で隊列を組み銃を構える義禁庁の兵士たちを見て、恐怖で震えがって門の前で腰を抜かした。
タカノはその彼に近づいて、立ち上がらせてこう言った。
「あなたも幇助の疑いがある。分かってるよな...」
「鬼の義禁大尉っ!?、わ、わかりましたから!全て包み隠さず言いますから!殺さないでください!!」
貴族はそう言って、タカノが連れてきた他の兵士たちに縄で括られて連れて行かれた。
タカノはそれを見送った後、門から槍を持った一団が出てきて列を作り槍衾を作った。
どうやらバードン辺境伯の兵隊達のようだった。
タカノは目の前にいるのがただのチンピラ集団ではなくよく訓練された兵士だと言うのを感じこう言った。
「屋敷は包囲した。我ら禁軍に刃を向けるとは皇帝陛下に対して刃を向けると同じ。意味はわかるよな...」
タカノはそう言うと合図を送った。
するとタカノのが率いていた隊列から2門の大砲が先頭に出てきた。
流石に大砲を見たバードン兵達が動揺したのは感じ取れた。
「そっちの兵員と武器は把握している。お前達は投降すれば刃を向けたことは罪には問わない」
兵士達はそれを聞いて、槍を置いて両手を上げて門の外に出てきた。
騒ぎを聞きつけたのかその後、やってきたのは
遊牧民族風の鎧を身に纏った弓を持つ大男で、その背後には同じような格好をした男たちが現れて、文官束帯姿の男も驚いた顔をして出てきた。
「これはこれはラシュト卿ではありませんか。
そんな戦装束に身を包んで戦でもするつもりですか?」
文官束帯の男はバードン辺境伯のようで、大男はドウジのようだった。
バードンは貴族の序列ではタカノのよりも上なので少しばかり余裕を見せた上で義禁庁の軍団を下に見ているようだった。
タカノはそれを聞いて大きくため息をついてこう言った。
「おっと、辺境にお住まいのバードン辺境伯はご存じではないのでしょうか?皇帝陛下をより藩王を承りましてね。ご存じないのでしょうか?」
タカノはそうどこか皮肉をこめて言い返した。
藩王は一応は辺境伯よりは同等又は上の地位であり、礼を欠き恥を晒すことを嫌う焔帝国の文官に取ってはある意味挑発になるからだ。
相手が仕掛ければ、義禁としても楽に捕縛できるからこそタカノはそう選択した。
だいたいの結果は....
「何が、藩王だ?異世界の蛮民が蛮族の王名乗ったごときで私を貶すとは、許せん。皆のものやってしまいなさい!」
少々タカノにとっては腹が立つ返答ではあるが、そこは堪えてこう言った。
「放て!」
そう合図を送ると爆発音と共に貴族屋敷の塀に大きな穴が空いた。それを見たバードンと護衛の男たちは驚いた様子だった。
バードン辺境伯のクーデター計画では槍と弓の大量の持ち込みは確認はしていたが...
タカノが用意した武器よりは数も遥かに劣っていた。
「次はそこの謀反者共に向けるが...あの壁のように無駄に体にでかい穴を開けたくないなら、武器を捨てて投降しろ」
タカノの後ろには銃を構えた隊列と大砲2門が控えていた。
壁に穴を開けた大砲は煙を出して次弾装填の準備に掛かっていたが、それ以外の銃と砲の照準はバードン辺境伯と傭兵達に向いていた。
「くそぉ!こんなの話に聞いてない!!!傭兵契約は破棄だ!こんやろ!」
そう言って、
ドウジは屋敷の中へと走り去っていった。
それを追うように手下達も逃げるようにさって言った。
それを見て呆気に取られているバードンにタカノゆっくりと近づいて縄をかけた。
逃げたドウジを追おうとする部下を見てタカノはこう言った。
「あいつらは、城衛の山だ。あいつらに任せておけ。俺たちは、バードン辺境伯に用があるだけだ。
家宅を調べ、武器を探せ!」
ドウジはその言葉を聞いて少しばかり疑問には感じていたが...
今はとにかく急いでこの場を離れる必要がある事で頭がいっぱいになっていた。
ルルのいる部屋の扉を乱暴に開けて、
「おい、ルル。都を出るぞ!持てるものだけ持って出るぞ!」
ドウジはそうのんびりとしていたルルに声をかけた。
ドドドドと廊下を駆ける足音が屋敷の中に響いてた。
「バードンが謀反の罪で捕まった。義禁庁が来てる...
捕まって巻き添えでも食らったら冗談じゃ済まないんだよ」
ルルはそれを聞いて、驚いた表情をして急いで手もことにある物を近くの袋に入れ始めた。
「謀反って何よ!何も聞いてないわよ!」
ルルはそう言いながらも、荷物をまとめてすぐに屋敷を出る準備ができた。
それを見たドウジは口笛を鳴らして合図を送り、ドウジに連れられて屋敷の外に出た。
屋敷の庭ではドウジの手下達が馬を用意しており逃げる準備万端と言った感じだった。
「西門からなら逃げられる。市街地は散り散りになって行け。陽都の外で集合だ、いいな」
ドウジがそう言って、
馬に跨りその後ろにルルを乗せて走り始めた。
しかし屋敷の外では....
「城衛将ルウ・オン!御用改めてである。
蜜餅屋の強盗殺人の容疑でドウジとその手下共及びルル!捕縛する!」
城衛庁の一団が屋敷の外で待ち構えていた。
ドウジの手下達は西域の商人から貰った薬を飲んで口々にこう言った。
「兄貴と姉御だけでも!逃げてください!」
ドウジはそれを聞いて頷いて、馬を駆けさせたーーーー
しかしその時、
ドウジの右腕に矢が刺さったのがルルの目に入ってきた。
そして連続して右腕に目がけて矢がもう2本刺さるのが目に入った。
ドウジは弓を手から滑り落として刺さった矢を見てこう言った。
「ゲルガ族の矢!どうしてっ!?」
その矢を放ったのは、見たことがないが騎乗するゲルガ族の少女だったようで次の矢も放つ用意をしながらこう言ってきた。
「ボクの名前はシュリム。ラシュトスタン藩王が配下。我が主人の大切な友人を殺めた罪の報いだ!
そして、これは一族の名を汚した分だ!」
そう言って放たれた矢はドウジの右肩に刺さり、そのまま意識を失うように馬から落ちていった。
ルルは咄嗟に手綱を取って馬を走らせた。
城衛の兵士達と手伝いで来ているかつて一緒に仕事をしていた冒険者達と目が合う。
B級のファン・イーロンが薬で狂人化したドウジの手下達と戦っていたり、今ではかなり有名になったアルスとエミリの二人のその混戦の中でふと目があったーーーー
そして、
手下達はS級冒険者である魔女アデルが召喚した炎の犬にことごとく倒されて、勇者ショウタにあっけなく取り押さえられたのが目に入った。
今自分が置かれた状況が果たして自分が望んだことなのか...
本当だったら、ルル自身は冒険者側に立って悪と戦っているはずなのに...
逃げるように選択していた自分の人生をふと思い出し...
ルルは馬を止めた。そして馬から降りた。
「もう、ダメ...もう、ダメ、耐えきれない。
私が私じゃない...こんなの私は望んでない....どうして、何が行けなかったの...?」
ルルそう呟き、
どうしようもできない自分の望んでいない方向に何もかもがなってしまったことに落胆して
心にポッカリと空いていた穴を自らで直視したようだった。
二度と埋まらないあな。
取り戻せない、時間、そして、仲間ーーーー
ルルは抵抗することなく、城衛の兵士によって捕縛された。
ーーーーー
蜜餅屋強盗殺人事件の城衛で行う手続きを済ませた、
ルウ・オンはタカノがよく足を運ぶ茶屋に足を向けていた。
茶屋の店先でタカノとその付き人であるシンがお菓子を食べながらお茶をしていた。
オンはその横に座り話を始めた。
「ドウジとその手下達への沙汰は、
殺人と強盗の実行犯ということですぐに断罪された。
陽都の治安を著しく乱したということで、お上も重く見ているよですよ」
「そうか...
俺の方はバードンに対しては領地の没収と爵位の剥奪、その上で南方の遠島に島流しってことになったな。
流石に皇族に関連者はいるだけあって、命だけは取らなかったって話だ。ところで、ルルはどうなったんだ?」
タカノはそう聞いてきたのも、
ルルの兄ルロイのこともあってだろう....
オンはこう正直に答えた。
「今回のこともそうだが、
それ以外でも余罪も多いようで、
反省の色はあるので命こそは取らないだろうが...よくて、臣民権の剥奪と10年は投獄だろうなと」
「辛いな。後悔の念に溺れるのかもしれないが...
失った仲間や家族とは二度と会えないって事かーーー」
タカノはそう言ってため息をつき。口に菓子を入れてお茶を啜った。
「ルロイは、
徐々に回復の兆しは見えているようですが、失った物が多すぎて立ち直れない気がします....」
「そうか...ありがとう、ルウ・オン。
俺は今回のバードン辺境伯の背後にいたヴァレンという魔王軍関係者らしい人物を追うのに忙しいのさ。
悲しい事だが友人の悲しみに同調してやれないんだ。
オンには感謝してる。俺の仇を打ってもらって」
オンはそれを聞いて鼻で笑った。
理由はとても簡単だ、今回のドウジとその手下とルルを捕まえられたのはタカノが配下のシュリムを遣したり、
ラシュトスタン藩王名義で冒険者ギルドに城衛庁の補助を依頼していたからだ。
「ラシュトスタン藩王のところの冒険者達がいなかったら、あの薬で狂人化したドウジの手下達は抑えきれませんでしたよ」
タカノはそれを聞いてこう答えた。
「そうか、都を守護する義禁大尉としては口を挟めないが...って話さ。話をありがとう。俺は仕事に戻る」
タカノはそう言って席を離れて行った。その背中を見てルウ・オンはニコッと笑みを浮かべてお茶を啜った。
「お互い様ですよ。困った人を放っておけませんし...」
ルロイ「そうなんですね。妹が申し訳ありませんでした...」
ルウ・オン「ルルから一言もらってます。どうしてもあなたに伝えたかったらしいです」
ルロイ「何ですか?」
ルウ・オン「ごめんなさい。ってただその一言だけでした」
ルロイ「そうですか...反省しているなら、私はそれは大丈夫です。でも、ルルを放っていた私にも責任があると感じます....」
ルウ・オン「でも、ルルは手段はどうであれ私情と私欲のために人を殺めて、財を奪った。
そのことに関しては責任を取ってもらう必要があります。
これだけは私が城衛将という立場からいう言葉です...」
ルロイ「はい。そうですよね...
でも、ロゼッタもきっとルルがああなった理由を知ればきっと彼女のことは赦すと思います....絶対そうです」
ルウ・オン「うん...。ルロイさんは優しいんですね」
ルロイ「そうなんですかね。ルルとは血の繋がった家族でもあり、一緒に冒険してきた仲間です。
反省してるならそれを赦して信じてあげるのも仲間として当然だと私は思ってるだけです。ロゼッタもきっと同じだと思います
だから、ルルが罪を償って戻ってきた時に迎えれてやろうと思ってます」
ルウ・オン「なるほど、立派な冒険者だ...
では私はここで失礼します」
ルロイ「ええ」




