キリシマ・タカノ-6 決着とミラの気持ち
タカノと並行世界からやってきたキリシマ・タカノは互いの戦い方を理解していたので、一進一退の殴り合いを続けていた。
怒鳴り合いながら互いの攻撃は互いに当たったり外れたりを繰り返していた。
しかし、技と身体能力はあったとしてもそれは戦闘のプロがしてる感情剥き出しの喧嘩と言えるものだった。
タカノの放ったモーションの小さい左フックがキリシマの顔面を捉えたと思ったら、キリシマはそれを上体を沈めて交わしタカノに組み付こうとしたがタカノはそれを膝蹴りで牽制した。
キリシマはそれを受けても、タカノの組み付きそのまま押し倒して上になった。
タカノは咄嗟に判断で、キリシマの手を押さえてブリッジをして上下を入れ替えた。
拳を打ち下ろそうとしたがキリシマはうまい具合に足を使ってタカノの顔面を蹴り、その勢いで距離を取って立ち上がった。
顔面に蹴りを食らったタカノだったが、そこまでのダメージにはなっていなかった。
タカノはゆっくりと立ち上がってこう言った。
「埒が開かねーな!」
そう言った瞬間、膝の力が抜けてふらっとバランスを崩したのを感じ瞬時に構え直したが...
キリシマはその瞬間を見逃していなかった、距離を測る左ジャブからの渾身の右ストレートとがタカノの顎を捕らえていた。
タカノが出そうとした攻撃は間に合うことなく、プツッと糸が切れたかのように地面に膝をついた。
視線が地面に落ちるが次の瞬間、キリシマのブーツが視線の中に入ってきたーーーー
『これ貰うと....まずい』
タカノはそう思った瞬間に、その蹴りを前のめりになるようにかわして逆にその足を掴んだ。
そのまま倒れ込むように、
キリシマの両足を抱き抱えて押し倒した。
そして、
上になってキリシマの顔面に向かって拳を振り下ろした。
するとさっきタカノ自身が行った技で上下をひっくり返らされた。
タカノも同じように、足を使って顔面を蹴り距離を取って立ち上がった。
「考えることは同じか...」
キリシマはそう言ってゆっくりと立ち上がりガードを構えた。
互いに体力の限界に達しているのは見てとることができた。
しかし、
塔の下から、焔帝国の大きな太鼓の音と勝鬨の叫び声が聞こえてきて。
治療を終え完全復帰した、アルスとショウタ。
シンが剣を構えてタカノの横に並んだ。
そして、エミリに手を掴まれて下を俯くミラが上階から降りてきた。
そして、ホッとした顔をするアデルがその後ろについてきていた。
シンが剣をキリシマに向けこう言った。
「喧嘩はそこまでだぜ。タカ兄...達」
それを見た、キリシマは舌打ちをしならも鋭い眼光で一団を睨みつけて息を整えて戦闘態勢に入った。
すると一団を大きな光が包み込んだ。
光が収まると、
タカノの目の前に白い羽衣を身に纏ったイズミが現れていた。それを見たシンは目を丸くしてこう叫んだ。
「あれ、姉貴久々の本編登場じゃん!!」
「うっさい黙っとけや」
天女のイズミはそう弟のシンに向かってそういうなり、キリシマの方へゆっくりと足を進めていった。
「あなたの召喚者は、この世界を壊すためにあなたを利用しました。
その契約はこの世界の理から外れたらもので、存在し得ないものでした。
よって、
管理者の代行である私天女のイズミの名の下に白紙としました。
これ以上の戦いに意味はありません。その拳を下ろしてください」
キリシマはそれを聞くなり、イズミの顔を見るなり素直に拳を下ろした。
「そうか...ようは俺がここに存在する意味は失ったわけかーーー」
そして膝を落として俯いてた。
「こっちの世界でも多くを奪った。自分のためにな...
でも、それは全部無駄だになったのか。
悲しいものだな。
なぁ、タカノ・ウル・ラシュト?」
キリシマはそう言って、タカノの方に目線を向けた。タカノも彼に目を合わせた。
キリシマの目からはさっきまでの殺気はなく、悲しみと何か羨ましそうな表情を浮かべていた。
「お前は....
俺自身なのにどうして、
そう幸せな表情をしてられるんだ?
仲間にも家族にもその温かい目を向けるんだろ。
昔、目の前で、
俺と同じくイズミを...最愛の人を殺されたのにーーー
強さを求め続けて高みに登り続けてたのに...
どうして、イズミを諦められたんだ?
俺にはお前は眩しく見える。
同じ思いをしているはずなのに。
俺はお前なのに...
何かが違う気がしてならない、どうしてだ?」
タカノはそれを聞いて
仲間たちを見てゆっくりと口を開いた。
「失ったものは戻らない...俺はそれを受け入れたーー
初めて人を殺した時に俺は、仇を討っても何もなかったことに気がついていたーー
今でも覚えてる。
初めて人を殺した日のことを...
でもその時に俺は何も無いことを知り、イズミが帰ってこないことを実感して腑に落ちた。
そして、
この世界に来て新しい愛する人達ができた。
掛け替えにない人達だ。
二度と同じ過ちは繰り返したくない、失いたくもないと思ってる。
だからこそ、
イズミのことは忘れてない。
だが、
過去に囚われっぱなしきっとイズミも喜ばないそう感じた。
ただそれだけだーーー」
タカノはそういうと、
「そうか...どうやら、俺とお前の分岐点はそこみたいだな。
教えてやる。
俺は初めて人を殺した時に確かに戻らない事は知っていたーーー
でも、埋まらない穴が心の中にあった。
そのあとずっとその穴を埋めるために戦い続けた...
国のためにたくさん殺した...
悪人だけじゃない、罪のない子供もだ。
それでも埋まることなく、逆にその穴は広がってたーーー
そんな時にはこの世界に来た。幸せを手に入れるためにだーーー
俺はイズミとの日々を忘れられなかったーーー」
キリシマ・タカノはそう言って俯いた。
それを見たイズミはゆっくりと近づいていってそっと、彼を抱きしめた。
「タカノ...ありがとう。もーなんも言わんでいいから」
「イズミ...イズミなのか?」
キリシマ・タカノの表情に少しばかり笑みが見えたのをタカノは見ることができた。
イズミはそっと、キリシマから離れて両手を広げこう言った。
「あなたを元いた世界に返します。
ぼろぼろになった心と身体で辛い人生になると思いまが生きてください。それがあなたが罪を許され救われる道です」
キリシマはそういうとゆっくり立ち上がった。
「そうか...わかった」
キリシマがそう言った瞬間、エミリの待ってっていう声が聞こえてきた。
ミラがエミリの手を振り払い、駆け出して地面に落ちてある銃剣を手に取って言葉にならない声を出しながらキリシマに突っ込んでいった。
「許さない。私は!許さない!!!」
タカノ達はミラ止めようと走り出したがすでに遅く、銃剣の刃は深々とキリシマ・タカノに突き刺さっていた。
「お前には...こっちの世界に来て欲しくなかったのに」
ミラはその言葉を聞くなり、怒りに満ちた目でキリシマを睨みつけ剣を刺したまま捻り動かした。
「お前が教えた人の殺し方よ。私の仲間の仇受けなさい」
近くにいたイズミはいきなり起こったことに驚いて固まっていた。
タカノはその横をすり抜けてミラをキリシマから引き離して銃剣を奪い地面に押さえつけた。
シンが慌ててキリシマに近寄りアデルとエミリが固まったイズミの側に寄り添った。
ミラは地面に抑えられたまま崩れるように倒れ込んだキリシマに向かってこう叫んでいた。
「仲間の思い、ユウキの気持ち、私の思いを思い知れ!!」
シンはキリシマを見るなり首を振った。
「ダメだ....今ある魔力もう、これじゃ治癒が間に合わない」
イズミはそれを聞いて落ち着いた口調でこう言った。
「シン。もうダメ。治療もムリ。
魂が私の管理下じゃないところに行っちゃったみたい...」
イズミはそう言って大きなため息をついた。
タカノはミラを抑えながら、並行世界からやっていた自分をただ見つけていた。
タカノ「これで、とりあえずこの騒動は終わりなのか?アルス、ショウタ。手を貸して欲しい」
アルス「あ、はい。わかりました。ミラを義禁の牢までですよね」
タカノ「ああ、それで頼む。で、イズミ。一つ聞きたいことががあるんだが...」
イズミ「何かしら?」
タカノ「彼...並行世界の俺はどうなるんだ?」
イズミ「分からないわ...私の管理下から完全に外れてしまったし。本来この世界にいてはならない存在だから...」
タカノ「分かった。ならいい...奴は多くを奪いすぎた。
自分の私利私欲に溺れて周りが見えない暗闇を進んでいたように感じる。
同じ存在の俺を羨んでたことも納得できる。
俺でもそう思うと思う...」
シン「でも、タカ兄はそうならないよ。守るべきものがあるじゃん。
一度奪われて、それを今でも覚えてる。だから、そうはならないよ」
タカノ「ああ。そうかもな...ありがとう。シン」
アルス「えーまだ、この章続くらしいから次のスタンバイしてって作者が言ってましたよ!!」
タカノ「ああ、わかった!さ、みんな次の準備に移ろう」
ミミ「あの...タカノ様。私の出番が...
私、この物語のヒロインですのよ。この扱いはヒドインじゃなくて?」
シン「ミミの姉御は...ヤンデレ的なタカ兄ゾッコンのヒドインじゃねーのかよ...」
ミミ「あら、シン。何か言いましたかしら?」
シン「うんうんうんうん。何でもないよ!!ねータカ兄」
イズミ「うちの弟しばいていいですよ」
ミミ「(にっこり)」
シン「やべー!!!戦いの後だから、助けて!!タカ兄。魔力がもうないから、防御も回復出来ねぇぇぇぇ!!あぁぁぁぁぁ」