オアシスの白猫-1 砂漠の月夜盗賊団
「ラシュト卿。砂漠の月夜という厄介な賊は入り込みましてねぇ」
タカノはそう街で情報収集中にそう茶屋の亭主がそうお茶と団子を出してきて話しかけてきた。
タカノは懐から小銭を出すと亭主に握らせた。
「すまない、今日は持ち合わせがないんだ。これで勘弁して欲しい」
亭主はそれを聞いて、タカノから受け取った小銭を見て笑みを浮かべてこう言った。
「めっそうもございませんよ。
ラシュト卿。ご贔屓にされていただいてることですし...」
亭主はそう言って、タカノの耳元で小さな声で一言こう言った。
ーー我々は関わってませんーー
タカノはそれを聞いて無言で頷いて出されたお茶を啜った。
タカノが今捜査しているには、
先日起こった交易を担当する官庁の貴族邸に押し込み強盗があった件であった。
その家族、召使い合わせて8名を殺害し屋敷の金品と国家機密にあたるとある文書を盗まれたというモノだった。
その事件の重要性から義禁庁が主体となって捜査を行っているわけだ。
もちろん城衛庁も捜査に参加はしているが、どうもそこまで本腰を入れていないようだった。
「亭主。すまないが、その砂漠の月夜って初めて聞くんだが...いったいそれはなんだ?」
タカノはそう言って奥に行こうとした亭主を呼び止めた。亭主は笑みを見せて、こう言った。
「私も詳しいことはわかりませんが...極西や西域にいる盗賊団と聞いてます。私の古い友人からそのことを聞きましてね」
そういうなり、店に他の客がやってきたのでそちらの方へ向かって行った。
タカノは団子を口にしてからお茶を飲み街行く人に目をやった。
ーー3日前ーー
「これはなかなか悲惨だな...」
「旦那...すいません...退室させていただきやすよーー」
シュンテイはそう言ってそそくさと、とある屋敷にある母屋から飛び出して行った、同行していたシンもそれに続いて外に出て行ったーー
部屋の中に残ったのは城衛のトップであるオンと捜査をする城衛の役人数名とタカノが連れてきた部下数名だけだった。
アルスとエミリも来てはいるが、一応ここが事件現場ということで関係者以外は見せないようにするため屋敷の外で待機させていた。
タカノの鼻にはツンと刺すような血の匂いが突き刺さり、
見渡す限り血塗れになった壁が目に入っていた。
そして、折り重なって横たわるようにこの屋敷の住民たちが縛られたまま殺された後が残っていた。
人数は今数えただけでは、不明だが....
人の形を残していない遺体もあり人数は分からなかった。
「こんな、畜生働見たことありません...
長いこと各地で城衛や緑旗で賊を捜査してましたがここまでやるのは」
オンはそう言って、重たい口を開いたーーー
昨日、
この貴族屋敷に強盗が入ったのだ。
第一報はこの屋敷をたまたま留守にしていた使用人でこの大惨事を見て度肝を抜かしたらしく、
恐怖のあまり叫んで市中を巡回中の城衛の役人が見つけて今に至るらしい。
現場の惨事を見る限り...
この規模の屋敷に使える使用人全てをここに集めて、身を拘束してから剣で殺害に及んだようだ。
抵抗する隙もなく、切り刻まれていた。辛うじて逃げようとした人は手や脚を切断されていた。
腹を裂かれて、内臓を文字通りぶちまけている遺体も目に入ったーーー
「人定はともかくだが、捜査の漏れはないだろうか?」
そうタカノがオンに聞くと彼は無言で動き始めてタカノに奥の部屋を案内した。
そこには身なりの綺麗な服を纏った、
貴族らしき遺体が血塗れになってうつ伏せ倒れているのが目に入った。
綺麗な服は血で真っ赤に染まり、
部屋の片隅には剣を握ったの手が持ち主から離れて落ちていた。
その横には仰向けになって大の字になって倒れる若い女性がいた。服は肌蹴ていて胸部には短刀が刺さっており、顔には涙を流していた後があった。
「ウン・ジウ。貿易省の検疫を担当しているもので...元緑旗衛将校です。彼は抵抗したようですが手首を切り落とされて喉を一突きで...
彼の妻はここで賊に乱暴された上で殺されたようです。
ウンは元と言えど、武官経験もあって強かった手練れでした...
それを仕留めるなんてな...賊もただの賊じゃないです」
オンはそういうと歯を食いしばって悔しそうな顔をしていた。タカノはそれを見てふとこのウンとオンには何かしらの関係があるのだろうと感じられた。
そしてこう付け足すように、オンは口を開いた。
「ウンとはかつて、バターミン国境で緑旗の一員として共に戦った仲です...彼は決して弱くはなかったです」
オンはそう言って肩を落とした。
タカノはそれを聞いて、
二人の亡骸を見てそっと手を合わせてこう言った。
「必ず捕まえる。このような悪事を許しては置けない」
タカノはそう言うと扉の開いていた隣の部屋に亡骸となって倒れている少女が目に入った。
年齢はきっと自分の子供と同じぐらいだろう。
首から血を流していて苦悶の表情すらないように見えた...
タカノはすぐに目を逸らしてた。
直視が出来なかったからだ、悲しみよりも先に憤りと怒りがこみ上げてくる。
リン、メイ、マオと重ねてしまい、余計にその怒りは増してくるが...
タカノは深呼吸をしてその気持ちを押さえつけた。
「ラシュト卿、これを」
城衛の役人がそう声をかけてきたので、タカノは彼の方に視線を向けると...
血で汚れた木札が目に入った。
その木札には独特な模様の物が描かれており、
焔帝国の文字ではない文字が書かれていた。
「砂漠の月夜」
タカノはそう書かれていた文字を読むと、オンは目を丸くして驚いたかと思えば険しい顔をしてこう言った。
「彼らがついに陽都へ来たんですね...」
ーー現在ーー
「先輩、砂漠の月夜って東ロムルス帝国とか極西地域ではめちゃくちゃなので有名ですよ。俺も何回か関わりました」
極西事情に詳しいであろう、
仲間の冒険者であるアデルかショウタに話を聞こうと思いお土産のダンゴを片手にショウタの長屋にタカノは足を運んでいた。
ショウタは、タカノが買ってきたダンゴを啄みながら話をしていた。
「反魔王勢力と反人間を訴える半獣人族の過激派集団だったはずです。
キャラバン隊交易の陰に隠れて、色々やってる人たちだって聞きます。
時折、極西世界だとフロント組織が冒険者ギルドに依頼を出したりしてますよ。
一部の地域では義賊として英雄視されてるとかで...」
タカノはショウタのその言葉を聞いて、頭の中にこの前見た惨事を思い浮かべてこう言った。
「英雄視か...ま、二枚の顔があるわけか。厄介なのが陽都に入って来たな」
「でも、先輩は警察みたいなのが仕事なんでっすよね。なんなら、捕まえないとっすよーーー
俺も、アルスから聞きました....
あの屋敷には一回、一緒にクエストを受けた冒険者がいたんですよ。
彼は無惨な殺され方してるって聞きました...」
ショウタはそう言って。
少しばかり悲しそうな顔をしたがすぐに表情を変えて笑みを見せた。
「でもきっと、先輩ならきっと捕まえてくれますよね?」
タカノはそれを聞いて、ショウタのタカをポンと叩いてウィンクをしてこう言った。
「もちろんだ。ショウタの協力も頼みたい」
「よろこんでですよ!先輩」
ショウタは運と頷いて、
力強い眼差しでタカノを見つめてそう言った。
タカノは話を終えて、自室に戻りシュンテイとその手下が調べ上げてた資料に目を通し始めたーーー
そして、エミリが調べた現場に残された魔術に関する情報資料に目を通した。
「砂漠の月夜...大元はラシュトスタンの近辺を拠点にするキャラバン隊か...
構成の多くは半獣人族。中には他の亜人族も含まれて、魔王軍とは敵対している組織か」
タカノは資料を読み進める中で、
あるところで目を止めた。その資料はシュンテイが持ってきた裏社会からの情報だった。
今回の強盗団にいるであろう人物の情報が入ってきた。
「コシュカ族の女剣士、
ブラッディー・マリー...ラシュトスタン人の暗殺者...王家の使用人の家系にいた人物と噂されているかーーー」
コシュカ族と王家でという言葉で、ある事を浮かび上がってきたのだーー
ラシュトシュタン国の王女であったミミがもしかすると、彼女を知っているかもしれないと....
タカノ「新章が始まったな...」
シン「今回は過去回想でもなければ、ギャグ回でもないし...久々のシリアスな展開か。
ミミの姉御めちゃくちゃ張り切ってるけど...」
タカノ「あ...一応、この章はミミがキーキャラクターだからな」
アルス「あの〜。血糊掃除するの手伝って欲しいんだけど...こんなスプラッターハウスみたいになってるし...」
シン「わかったよ...って、あおっとと」
タカノ「血糊で滑って、転んだか....おい大丈夫かシン?って...」
シン「また、ベトベトだよぉぉ」
イズミ「えぃ!」
シン「姉さん!こんな時だからって、思いっきり余った血糊かけないでしょ!!!」
アルス「じゃあ...俺もーー」
シン「お前にはさせねーよ!って...あ、」
タカノ「勢い余って、柱を壊すなよ〜...次回、ミミの親友。お楽しみに...って...おいおい、セットの屋根が崩れてきてないか!?」