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タイムスリップの謎

「えっ、変な感じって、どんな?」

「う~ん・・・もやもやするって言うか、ウズウズするって言うか・・・

なんか落ち着かない感じ。

ここ以外じゃあんまり感じることのないような、変な感じなんだ・・・」

シモーヌが突然姿を消した最上階で康之はロランを見つめたまま自分の身体の奥底に探りを入れた。

しかし、ロランが言うような妙な感じは無いようだ。

「・・・今、それ感じるか?」

ロランは康之を見上げて首を左右に振った。

「いつも必ず、ってわけじゃないみたい・・・」

首を捻った康之が低く唸って宙を睨む。

「あっ、そうだ。すっごく大事なこと言うの忘れてたっ。」

ロランの声が康之の思考を中断させた。

「あのね、向こうとこっちじゃ時間の進む早さが違うんだ。」

「時間の進む早さが違う・・・っ?」

「そう。向こうの時間はこっちよりも、うんと遅いの。

・・・最初に行った時、なんだか怖くなっちゃって、すぐに帰ってきたんだ。だから向こうにいた時間は三十分くらいかな。

それがこっちに帰ってきたら、もう夜になってて・・・ちょうど晩ご飯だって言ってエマが僕たちを探しに来たとこだったんだ。」

「ちょっと待って。それって実際にはどのくらいの時間が経ってたんだ?」

身を乗り出す康之にロランが思案げな顔で答える。

「向こうに行ったのがお昼ご飯の後だから、だいたい二時くらいかな・・・。

それで帰ってきたら、すぐ晩ご飯・・・う~ん、五時間くらいじゃないかな?」

それを聞いて康之が宙をにらむ。

〝三十分が五時間・・・一時間が六十分だから五時間ってのは三百分だろ・・・

「なにーっ、十倍?」

康之が〝うそだろ〟と言いたげにロランに顔を向ける。

ロランは心外だと言わんばかりに康之を見返した。

〝・・・ホントかよ。じゃ、なに、俺がこっちに来たのが確か十月十六日。

それで今日が二月の十七日か・・・ということは、ほぼ四ヶ月・・・。四ヶ月の十分の1は・・・? え~と、ひと月を三十日として、それが四ケ月だから百二十日。 

百二十の十分の一・・・十二。

えっ! 十二日! 

計算違ってないよな・・・ちょっと待てっ。じゃ、向こうはまだ十二日しか経ってないってこと?〟

康之がすがるような目をロランに向ける。

「・・・でも、その次に行った時も同じだったよ。お昼食べてから向こうに行って、向こうにいたのやっぱり三十分くらい。

それで帰ったら、晩ご飯の少し前だった。」

康之はロランを見つめたまま 〝ふ~ッ〟とため息を漏らした。


バーの一番奥のテーブルで恭一たちは康之を囲んで三人揃って首を捻った。

「身体の奥の痺れ?」

「そう。

ロランの話によれば、あの建物の最上階へ行くと身体の奥が痺れたような感じになって、そうなった時にタイムスリップできるようなことを言ってた・・・」

康之の話を聞いてクラウスが首を捻る。

「痺れねえ・・・よく覚えてないな。みんなは感じたのかい?}

「いや僕は無かったと思う。

それにあの日は酔ってたしな・・・ヤンはどうだった?」

恭一に問われた康之が半信半疑で口を開いた。

「確か、こっちへ来ることになった日の朝、身体の奥に疼くようなイヤな感じがあったのは覚えてる・・・てっきり時差ボケだと思っていたんだけど。」

「僕ははっきりと覚えてる。」

そう言ったギルバートに三人の目が集中した。

「確かにヤンの言ったように、痺れって言うよりは疼きに近かったと思う。

あのホテルに部屋を取って、最初に部屋に行った時からずっと感じてた。

あの最上階の部屋に行くたびにね・・・

最初のうちはたまらなくイヤな感じだったんだ。

ホテルを変わろうか思ったくらいだったからね。

でも、そのうちに少しずつ慣れてきたんだと思ってた。

不思議だったよ・・・あの階にいる時だけなんだ。

でも話を聞いていて分かったような気がする・・・」

「分かったって、何が?」

クラウスが大きく見開いた目をギルバートに向けた。

期待のこもった目で恭一がギルバートを見つめる。

二人に目を据えたギルバートが口を開いた。

「身体が共鳴したんだと思う・・・あのホテルの最上階の何かにね。」

「共鳴・・・?」

「そう。共鳴・・・共振って言ってもいいのかもしれない。

つまり、あの最上階の何かに影響を受けて、僕たちの身体が共振したんだ。

そして、その振れ幅が同じになった時、タイムスリップした・・・」

「いったい、どういうこと?」

「詳しいことは分からない・・・

分からないけど、例えばあの建物の最上階全体がタイムマシンみたいなもので、それが常に作動しているとは考えられないかな・・・

そこに入った物質はタイムマシンの振幅に影響されて振れ始める。

そしてその幅が同じになるか、それ以上に大きくなった時に弾き飛ばされる・・・

糸の切れた振り子の先みたいにね。

僕が少しずつ慣れてきたように感じたのも、僕の中の何かが最上階の振幅に同調し始めたからなんじゃないかと思う・・・」

目を点にした康之たちがじっとギルバートを見つめる。

生唾を飲み込んだ恭一がうわずった.声を出した。

「それじゃ、その疼きみたいな感じがあれば誰でもタイムスリップするのか・・・?」

「いや・・最上階に行った人間が全部タイムスリップするわけじゃないみたいだ・・・

だって、現にあそこにはロランの家で働いている人たちが何人も住み込んでいるんだろう?

でもジュリアンの他に行方不明になってる人間はいないわけだからね。

「それじゃ、僕たちはあそこの振幅に同調できる特異体質ってこと?」

テーブルに身を乗り出した康之がギルバートを見つめる。

「まあ、そう言えるのかもしれない・・・」

「特異体質か・・・」

そう呟いて天井を見上げた恭一がふ~っとため息をついた。

「身体のどの部分が反応しているのか分からないけれど、それが〝疼き〟っていう感覚になって僕たちに現れたんじゃないのかな・・・」

「疼きか・・・じゃ、僕も感じてたんだろうな。」

その時のことを思い返して、恭一が小さな声で呟いた。

「疼くような感じとは言ったけど、あくまで人の感覚だからどんなふうに感じるのかは人によってそれぞれだろうと思う。

中には感じていても、それに気付かいない場合もあるかもしれない。」

「なあ、ギル。入口は特定できないのかな?」

突然、思いつたようにクラウスが口を開いた。

「僕たち自身の例やロランの話からすると、最上階の周辺だったら、どこでタイムスリップしてもおかしくないのかも・・・

実際シモーヌだって廊下の上で透けて見えなくなったってロランは言ってるんだろう?

つまり、そいつは今でも機能してるってことだよ。」

「シモーヌは・・・僕たちの時代に行ったんだろうか?」

すがるような眼差しを自分に向ける康之に気付いてギルバートがふっと優しげな表情を浮べた。

「ヤン。

これはあくまで僕の想像だけど、行き先が変わるのはその振幅に変化があった時なんじゃないかと思うんだ。

・・・だから最上階の振幅に大きな変化がないかぎりは僕たちの時代に行ってる可能性は高いと思う。

今までの情報をもとに考えるときっとそうだ。

もっとも、その振幅が変わるのかどうかすら見当も付かないんだけどね。」

それを聞いた康之が肩を落として低い声で呟いた。

「疼きさえあれば迎えに行けるのか・・・その振幅が変わらないうちだったら。

それじゃ、早いに越したことはないってこと?」

突然顔を上げた康之が真剣な目で三人を見回す。

恭一たちは返す言葉もなく、黙って康之を見つめた。

重苦しい沈黙を破ったのはクラウスだった。

「そう慌てなくても大丈夫なんじゃないか?

だって、ここ何年もギルの言う振幅ってのは変わってないんだろう。

それにあの建物にはいつでも好きな時に入れることになったんだ。

それなら、通っているうちにきっと疼きはくるよ。

ヤンはあそこでそれを感じてるんだから心配ないって。」

そう言ったクラウスが康之に大きく頷いた。


でもさ、考えてみればすっごく好都合なんじゃないの?

だって、こっちで一番長いギルだって向こうに帰れば、三ヶ月くらしか経ってないんだろ。」

気を取り直した康之たちはそれぞれがアルコールのグラスを手にして話を続けていた。

「僕たちにしてみればそうなんだけど・・・

考えてご覧よ。

向こうには、シモーヌとジュリアンって子が二人して紛れ込んでるんだろう?」

テーブルの一点を見つめてギルバートがぽつりと呟いた。

「向こうに行っちゃった二人・・・きっと、途方にくれてるぞ。」

そして再び顔を上げ、三人をジッと見つめて話を続ける。

「だいたい、こっちの一ヶ月が向こうの三日なんだろう? 

僕たちが帰るのが一年延びたって、向こうじゃ一ヶ月とちょっとだけど、向こうで十日も経っちゃったら、戻ってきた時には三ヶ月も経ってる。

僕みたいに三年も戻れなかったら・・・・」

「こっちじゃ・・・三十年!」そう言って恭一が息を飲んだ。

「・・・しかし、その調子で時間が進んだら、あっという間に向こうを追い越しちゃうんじゃないのか?」

クラウスがギルバートを見つめる。

「それぞれが独立して流れてる二つのタイムラインだ・・・相関関係なんて分からないよ。

いずれにしても、帰ってくるのに手間取るとえらい事になりそうだ・・・」

三人の話を聞きながら、康之は全身から血の気が引いていくのを感じていた。

康之が三人にすがるような目を向ける。

口を開いたのはギルバートだった。

「すぐに誰かが向こうへ行って、シモーヌとジュリアンを保護することが先決だと思う。

それにはさっき自分でも言ってたようにヤンが適任だと思う。

だってシモーヌはヤンの恋人なわけだし、ジュリアンのことだって見れば分かるだろう。

彼ら二人のことを最優先に考えるべきだよ。

向こうじゃ、あの建物はホテルなんだから、向こうのお金を持っていなけりゃ、入り込めない。

つまり二人はあそこの最上階に近づくことができないわけだ。

それがジュリアンが帰って来れない理由なんじゃないのかな・・・

それにお金を持っていないんだから、生活するにしたって・・・」

事の重大さに康之が目を見開いた。

それに気付いたギルバートが殊更楽観的な調子で口を開く。

「でも、まあ、僕たちににしたってこうして何とかなってるわけだし、ひょっとすると、何かしら法則性みたいなものがあるのかもしれない。

ヤンが向こうへ行っている間にこっちはこっちでロランと協力してそれを調べる。」

ギルバートは康之にそう言うと、同意を求めるように恭一とクラウスに顔を向けた。

「そうだな。考える時間は向こうの十倍ある訳だし、その法則性みたいなものが見つかれば話は早いわけだ。

見つかったら今度は僕がヤンたちを迎えに行こう。」と言ってクラウスが康之に笑顔を向けた。 

「ところでヤン。ロジェはヤンが二十一世紀の未来から来たってことは知ってるのかい?」

唐突に話を変えた恭一が康之の顔をのぞき込む。

言葉の真意を図りかねて康之がプルプルと首を横に振った。

「そうか・・・ものは相談なんだが、彼のこと仲間に引っ張り込めないかな?」

突然の話に戸惑った康之が三人を見回す。

「えっ、ロジェを・・・?」

「そう、彼はロランと友達なんだろう? ヤンが向こうへ行くってことになると、僕たち三人がロランと協力しあって、法則性を探すことになる。

そうなった時、ロランにも僕たち以外に気心の知れた仲間がいた方がいいと思うんだ。

ロランは双子の兄弟があっちに行っちゃってから、ずっと今まで一人ぼっちだったんだろう?

秘密を共有する仲間がいなくなって、一人ぼっちで誰にも相談できずにいたから、こんなことになっちゃったわけで・・・。

それを考えると、やっぱり仲間がいた方がいいんじゃないかと思うんだ。

僕たち以外の同じ時代の仲間がね。

それにはロジェが最適だと僕は思う。」


「ねえ、ヤン。あのさ、ちょっと聞きたい事があるんだけど。」

店のカウンターで恭一たちとの話を思い返していた康之はロジェに話しかけられて我に返った。

いつになく真面目な顔をしたロジェが康之を見上げている。

「ん、どうしたロジェ?」

「ヤン、なにか僕に隠しごとしてない・・・?」

ロジェにそう言われて、康之はハッとしてロジェを見つめた。

〝しまった! 〟

どう話したものかと考えあぐねて、康之はロジェに話をするのを延ばし延ばしにしていたのであった。

口ごもっている康之にロジェが切り込む。

「シモーヌお姉ちゃん、最近来ないね・・・どうしたのかな?」

「ん、いや、あの・・・な、なんでもオルレアンに住んでるお婆ちゃんの具合が良くないらしくって、お見舞いに行くって言ってたけど・・・」

「ふ~ん。それでいつ帰ってくるの?」

「さ、さあ、どうだろう・・・そこまでは聞いてないけど・・・」

「おかしいな。クラリスおばちゃんの話だと、うちの店の用事でヤンと一緒にモンペリエに行ってるはずなんだけどな。」

「えっ、俺と二人でモンペリエに・・・」

ロジェのその一言で康之が硬直した。

上目遣いになったロジェが不審な目を康之に向ける。

「うん、店に行ったらクラリスおばちゃんがそう言ってた。

昨日、出かけたきり夜になっても帰ってこないから、ヤンに聞きに来ようとしたんだって。

そしたら、お店の机の引き出しに手紙が入ってるの見つけて、開けてみたらそう書いてあったって・・・。

おばさん、ニコニコしながら言ってたよ。〝ねえロジェ、あの二人結婚すると思う?

シモーヌも恥ずかしがらずに、ちゃんと言ってくれればいいのにね。〟って・・・。

僕びっくりしちゃった。だってヤンは家にいるんだもん。

あっ、心配しなくてもいいよ。ちゃんと口裏は合わせておいたから。」

たぶんシモーヌは万が一、あの建物で何かがあった時に備えて、先手を打って置き手紙を残したのだろうと康之は思った。

「・・・で、帰って来てヤンに聞くと、お婆ちゃんの具合が悪いって・・・?

ねえ、これ、なんか犯罪の匂いが・・・」

「ちが、違うって! 犯罪ってお前、なに言って・・・」

慌てて康之がロジェの言葉を遮る。

康之の動揺を見て取ったロジェの眼がすっと細くなる。

「へえ~。それじゃシモーヌお姉ちゃん、いったいどこへ行っちゃったんだろう・・・

ひょっとして、どっかのマフィアが・・・」

「だから違うって・・・・」

「じゃ、どうしたの? ねえヤン。僕だけ仲間外れなの?

・・・ヤンのこと本当の兄ちゃんみたいに思ってたのに・・・」

「えっ! な、なに、そんな・・・」

「ロランから聞いたんだ。ジュリアンと二人で違う時代に行って来たって・・・」

ロジェは康之の言葉を遮るようにそう言って、まっすぐに康之を見つめた。

「違う時代に行ったなんて、初めは信じられなかったけど、ロランはそんな変なうそ言う奴じゃないから・・・

僕、びっくりしちゃって、なにも言わないでいたらロランが言うんだ。

ジュリアンがいなくなった時、本当のことを正直に言ってれば、シモーヌお姉ちゃんまでこんなことにならなくて済んだはずだって・・・。

シモーヌお姉ちゃんのこと、ほんとにゴメンって言って泣いてた。

シモーヌお姉ちゃんがいなくなった時、ヤンに問いつめられて本当のこと、ヤンに言ったんだって?

ロラン、びっくりしてた。ヤンから聞いてないのって・・・」

ロジェがくやしそうな顔で唇を噛んでいる。

「いや、違うんだロジェ。

実はな、まだロランにも言ってないことがあって・・・

それをロランより先にロジェに伝えようと思ったんだけど、どういうふうに話そうか悩んでたとこなんだよ。」

「えっ、ロランも知らないこと・・・それってなにさ?」

ロジェが挑むような目で康之を見つめる。

「・・・今夜、俺の部屋で話す。」

康之はそう言ってロジェの頭に手のひらを載せた。

「うっそー! 百年も先の未来からやって来た? んぐぐ・・・」

康之が慌ててロジェの口を手で押さえる。

「しっ! 声がでかい。

なにも、そう驚かなくてもいいじゃないか・・・ロランたちだって違う時代に行って来たんだだろう?

それにシモーヌだって多分そうだ・・・。

ロランから聞いたんだろ、その話? だったら今さら、俺が未来から来たって言っても、そんなに不思議でもないだろう。」

口を康之に押さえられたまま、目を白黒させてロジェがコクコクと頷く。

「・・・た、確かに、ロランはお兄ちゃんが未来から来たって話はしてなかった。」

「そりゃそうさ。ロランにはまだ言ってない。

それに、さっき言ったように同じ時代から来た仲間が三人いるんだ。

ロランの話を聞いて、すぐに四人で相談したんだよ。

ロランの話によれば、ロランたちが行って来たのは、どうも俺たちのいた時代らしい。

それならシモーヌとジュリアンが行ってるのも、たぶん俺たちの時代だ。

だとすれば、俺たちのうちの誰かが向こうに行って二人を探し出して守らなきゃならないって。

それで帰ってくる方法を探して二人を連れ戻す。

そのためには、ロランに協力してもらう必要があるって。

で・・・、その話の中でロジェにも協力をお願いできないかってことになってな。

だけど、協力を頼むには、俺たちの秘密をキチンと伝えなきゃならないだろう?

ロランに俺たちの話しを納得させるのは何とかなると思うんだ。

だって実際に向こうの時代に行って来たんだから・・・。

でも、ロジェはどうだ?

俺が突然、違う時代から来たって言ったら、その話、信じたか?

さっきも言っただろう・・・どういうふうに話そうか悩んでるとこだったって・・・。

ロランから先に話しを聞いてたから、今の俺の話だって信用したんじゃないのか?

俺は・・・ロランより先にロジェに本当のことを知っておいて欲しかったのさ。

だって・・・俺たち、兄弟なんだろう?」

ロジェが目を伏せてコクコクと頷いた。

「なあロジェ、もう一つ、まだ誰にも言ってないことがあるんだ。

実は俺な、こっちにタイムスリップする前にロランの家・・・あの時代にはホテルになってるんだけど、そこでジュリアンに会ってると思う。

ロランにほんとよく似てたよ、首に赤いリボン巻いてな・・・」

それを聞いたロジェが歓声を上げた。

「赤いリボンっ!

やったー、ジュリアン無事だったんだ。

ヤン。それジュリアンに間違いない。ロランが黄色でジュリアンのは赤なんだ!」


「ロジェ、ロラン。はじめまして。

僕の名前はキョウイチ・アラカワ。みんなにはアランって呼ばれてるから君たちもそう呼んでくれ。

そしてこっちの二人はギルバート・ベイリーとクラウス・ハイマン。

もうひとりは紹介するまでもないだろう。二人とも知ってるヤン・アサカワだ。」

恭一に紹介されたギルとクラウスは初対面のロジェたち二人と交互に握手を交わした。

康之たちはレ・アールにほど近い恭一の部屋に集まっていた。

「二人ともこの会合に先立ってヤンから話は聞いてると思うけど、僕たち四人は、以前ロランが行って来たっていう二十一世紀からこの時代に紛れ込んできた。

そして、もとの時代に戻る方法を探していた矢先に今回の事件を知ることになった。

実は先日、ヤンがロランから聞いたという話をもとに四人で集まって話をしたんだ。

いろいろ話し合った結果、僕たちが向こうに行くのはなんとかなりそうなんだ。

一方で、向こうに行ってるシモーヌとジュリアンの二人が彼らだけの力で帰って来るのはどうも難しそうだということになった。

そうなると、まず、僕たちのうちの誰かが向こうに行って、向こうで困っているジュリアンとシモーヌを見つけ出して、無事にこっちの時代に連れ戻さなけりゃならない。

僕たちがいずれ向こうに帰ることになるにしても、それは二の次三の次だろってね。

二人とも、考えてみて欲しい。

突然知らない時代に、たった一人で放り出されちゃうんだよ。

知ってる人は誰もいない。お金だって持ってない。どうする・・・泊まるところは。

それに食べるものは・。

きっと二人は本当に困ってると思うよ。」

恭一は一旦話を切って、参加したメンバー全員を見回した。

「だから、時間旅行の秘密を知ってる僕たちが力を合わせて、向こうに行って帰ってこれなくなった二人を、なんとかして救出したいと思う。

そこでだ、ロジェ・・・ロラン。

今日は二人にお願いがあってここに来てもらった。

是非僕たちに力を貸して欲しい。」

恭一はそう言って、二人を静かに見つめた。

「・・・そうだよね・・・きっと困ってるよね。

今まで考えてもみなかった・・・お金持ってないんだもんね。

二人とも、お腹空かせてなきゃいいけど・・・

僕、ジュリアンとシモーヌお姉ちゃんのためなら、なんでもします。」

ロジェが恭一を見つめ返す。

「もちろん、僕も。

もとはと言えば、ジュリアンが向こうに行くって言った時にちゃんと止めなかったのは僕の責任だし、それを秘密にしてたから、シモーヌお姉ちゃんまで向こうに行って帰って来れなくなっちゃってる・・・

・・・ほんとのこと言うと、僕・・・どうしていいんだか分かんなかったんだ・・・。

二人が一日でも早く帰って来れるためだったら・・・僕、何でも協力します。

ロジェと力を合わせて何でもやります。」

ロランはそう言うと、顔を上げて目に浮かんでいた涙をぬぐった。

二人の返事を聞いた恭一が両手で膝を打って立ち上がる。

「よし、決まりだ! 

それじゃ、早速現時点で分かっている事の整理から始めよう。」 


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