それはほんとうの、はじまり (第9話)親子鹿
そのとき17番からはエドの位置がはっきりわかるとともに、C4-C5にかけてシカがいることの予想は付いていた。なんなら、うっすらと走っている気配がするような気さえしていた。
問題はC5まで完全に自分が降りると、タイミング悪く両手がふさがってるときに折り返してC4から北西方向に行かれた場合に全く見込みがなくなることだった。
一見等高線は開いて平坦そうに見えるが、川の両脇は数メートルの崖。北と南どちらかで勝負をかけるなら北だとこれまでの経験と地形的特徴から17番は位置取りを変えていく。
エドの足に対して成獣ならシカにはかなり余裕があるはず。幼獣でも全速力ではなくて、逃げ道を検討する最低限の余裕がありそうだ。
アランも来ていることを恐れるなら南の見込みが固い。単独猟や一銃一狗なら単純に見込みが良い南に挑むところだ。でも今回はチーム猟、それも村上に経験を積ませたい練習寄りの一回だ。
24番(村上)に任せる。
もし親子混合なら足の速さの差も相まって川沿いの急斜面を登る方とあきらめる方で別れるかもしれない。そうしたら犬たちとオカモトには最大のチャンスだ・・・!
<犬1号、17番の南に回り込みつつあるようです
24番(村上)、射線アラート出てます。17番とバックストップに注意>
(あっれぇ!?みなみィ?)
オカモトの見込みは残念ながら外れたようで北に回ってくる気配はない。
一方で村上は2頭も回って来て大きなチャンスだ。
<17番頭下げて!遮蔽入って!>
<了解!!>
グループ猟でGPS、無線、追い鳴きする犬、まともに地形を把握している勢子とタツマ(射手)が揃っていて勢子や猟犬を撃つ危険性というのはある程度慣れた側にしてみれば、ほとんどあり得ないというのが正直な感覚だ。
しかし、跳弾、不慣れな射手、拘束に不規則移動する獲物と条件が揃って来ると「ほとんど」、などという生易しい前置きは全然通じない。
オカモトも危機回避の重要性を認めるとともに、ここで獲物を狙う村上から斜線を切ることは、同時に獲物から視界を切って、次のチャンスを作る好機でもあることに気づいた。
銃声に驚いたシカは、全力で折り返し、周囲の確認などおろそかになると思って間違いないだろう。
反省会ネタ・・・村上の発砲時に見えていた地形と、シカまでの距離、弾丸のドロップを推計せよ。