隊伍の先は
余裕の3話完結だと思ったんですけどね。これは下手すると5~7話コースかもしれません。
なにせ、取材の密度が濃い上に短期間の出来事なのでまとめて質問4への回答としたいんですよね。
師匠の軽トラがガソリンスタンドに止まる。
「ここ開くのが遅くてな」
てきぱきとセルフで給油を済ませる。
「ほらよ。だいたい、集合時間はこれで決まる。」
いつのまにか買い込んでいた缶コーヒーを僕に渡し、エンジンを噴かす。
あからさまに集落の人しか通らない、いや、通れない狭くてなんのガードもなく数メートルの崖になる小道を軽トラが気を吐いて進む。
「このスピードは、僕にはちょっと」
「慣れればこんなもんさ」
いかん。口に出てしまった。
「まあ、今日は俺の車に乗ってればいいからよ。簡単だあな。」
「はい。ありがとうございます。」
「地元のもんと一緒に走れて、やっと仲間に認められるってもんだ。」
「そうですよね」
そうだよなぁ。移動の足を引っ張れば、文字通りお荷物。
車の性能も腕も度胸も、図られてしまうというわけだ。
「ま、俺だって10年よ」
「いやいや、普段から運転はなさってたんでしょ?」
「このあと見りゃわかるさ」
あんまり見たくない。
小道が少し開けた広場に出ると、既にそこには小さな老人が座っていた。
「よお川島ぁ」
「会長、お世話になってます。よかったらこれでも」
お師匠様がコーヒーを差し出すと、どうやら現地猟友会の会長らしきその老人が「わりいな」と受け取る。
「今日はわけぇもん連れてんな」
「最近銃をとったんで巻狩りを見てえってんで連れてきました。なあ、岡本さんよ。」
「岡本です。川島さんのご紹介で参りました。本日はよろしくお願いします。」
「鉄砲は持って来とるんかい」
「すみません。今日は見学だけで。ご迷惑をおかけします。」
「なんだ撃たんのかい」
「会長、俺が貸しましょう」
「いやいやいや」
お師匠様の冗談が怖い。
「おう、礼儀正しい奴じゃないか」
「愛想ばっかよくて困った奴で」
「師匠に似たんだな」
「会長には敵いませんや」
「岡本さんよ、こいつになんでも聞けばいい。わりいことはなんでもやってるからよ。まあ、揃うまで準備でもしとけや」
なんとなく、参加してよさげな感じになったらしい。
どこまで話が付いていたのかは、正直この雰囲気では分からない。
ただ、権威主義の残り香を色濃く感じる。いや、これは権威主義の儀式そのものと言っていいかもしれない。
権威者への貢ぎ物。
謁見と、新参の紹介。権威者は名も名乗らない。
しかし、これを受け入れるのが、おそらくこの集団のイニシエーションなのだろう。
そんなことを考えながらリュックサックから手袋、オレンジベスト、オレンジキャップを取り出す。
「はは、いっちょ前だな」
なんてどちらのかよくわからない声が、エンジン音でかき消される。
「わりいな会長、ちょっと手間取った。」
そういうと、いかにもなオフロード軽自動車から降りて来た、白髪を茶髪に染めた真ん中分けが会長にコーヒーを渡す。
「おう、待ってたぞ」
「どうも、今日もたのんます。川島さんも、よろしくな」
「田中さん、今日はわけえのを一人連れて来たんだ。なんもできねえひよっこだが、よろしく頼むよ」
「おう、人が増えるのはいいけどよ、来ました消えましたじゃしょうがねえ」
「まあ、そこは頑張ってくれるよな?田中さん、こちら岡本さんだ。」
「そうかい。がんばるんだな」
「岡本です。よろしくお願いします。」
「こっちが田中さん、うちの勢子長で、足読みの名人よ」
「勢子はそれがねえとはじまらねえよ」
「勢子は分かるな?」
「追込み役の方ですね。」
「そうだ。勢子長は犬も人もまとめる。田中さん、今日は連れて来てるんかい」
「ジャックを連れてきたが、こいつはどうだかな」
ここで会長が流れを変える。
「そいじゃ神社の裏へ登るか」
「いや今日は3人しかいねえや」
「岡本さんはやらんのか」
「すまねえ会長。俺が引き連れて行きますよ。迷ったら話にならん」
「無線はねえんか」
師匠の促す視線。
「申し訳ないです。まだ取ってなくて。」
「じゃあ川島からぜってえ離れんなよ」
「全力でくいついていきます!」
「でえじょうぶさ、おりゃー足腰の弱い高齢者だからな。高齢者」
「おう、岡本さんよ、こんなこというがこいつが一番歩くからな。はぐれるんじゃねえぞ」
「気を付けます・・・。」
「川島さんよ、三角の小川の上はどうだ。最近やったか」
田中さんが切り出す。
「俺は入ってない」
「今朝見たが、まだ車も通っとらんぞ」
師匠と会長だ。
「じゃあ急げ。俺が犬と右。川島さんが真上。会長は下を頼んます。」
「河原でいいんか」
「対岸。いつもんとこで待っててください」
「わかった。降りてきたら拾うかんな」
「お願いします」
「お前ら無線は大丈夫か」
「へい」
「おうよ。会長が5番、川島さんは」
「川島が2番、田中が10番な」
<あーあー、10番取れるかい>
「でえじょうぶだ」
「じゃあ俺が先ってみてくらあ」
田中さんを先頭に、隊伍を組んで現地入りだ。
当然だけどそのすぐ手前まで、また今にも落ちそうな、集落の中を家と段々畑に挟まれた小道だ。
そして当然みんなすごく飛ばす。速度なんて出てるわけないけど、これは飛ばしてると確信した。
自分で運転するとなると、かなりおいてけぼりを食うだろう。
※本作品はフィクションです。
※実在の人物、団体、事件、地名、技術、科学的根拠を保証するものではありません。
※また、取材の過程で入手した情報が一部反映されていますが、
※別の地名・時代・人物の話を複合的に盛り込んでおり、実際の出来事や法律と一致するものではありません。
※法律・植生・科学的事実について裏取りが出来ていないものを含む「創作」「ファンタジー」であることをご理解ください。
※偶然書いてあることが何かに一致しても真実だったり嘘であっても著者は一切責任を負いません。
あと、猟師はせっかち。これはたぶんノンフィクションです。取材結果的に。




