16. 話の関係は大体主人公で決まる。
今回は、リチ君が意識回復回です。それでは、どうぞ!
可愛らしいがかなり悲痛な叫び声によって、俺の意識が若干浮上した。
いやぁ、芸術的なお菓子って、予想を裏切らない味だったなぁ。ある程度覚悟があっても、いざ食べてみると気絶するものってあるんですね。この世界に来てそれを知るってどうよ。兄貴の作った、洗剤入りのカレーよか刺激的な味わいって...。
俺の兄貴は、何をとち狂ったのか、洗剤の付いたままのおたまを、作りかけのカレーの中へとぶち込んで、ぐーるぐーると混ぜちまったことがある。俺はその時、「あ、兄貴に料理作らせたらダメだ」と思い、放置していたが、そのときのカレーが、茶色の中に微かな虹色をしていたのを、今でも鮮明に覚えている。
あれはあれで殺傷能力ありまくりのカレーだったが、これはその時のカレーを遥かに圧倒するような、ある意味凄い代物だった。洗剤入りカレーの時でも、トイレに猛ダッシュした程度で済んでいた。だからだろう、気絶した俺が、一番このクッキーに驚いているんだよ。
ちなみに、俺が口に入れたものは、一番色がクッキーらしかった(無難な物に逃げたと言えば、俺は間違いなく最低な男になりかねんからな、だから敢えてこの表記をする)黄色だった。ガリガリと、石を噛み砕くかの如き触感、砂を食べてしまった時のような、ざらざらとした舌触り。それに加えて、口いっぱいに強烈なまでに広がる洗濯用洗剤(自然豊かな木々の香り)とトイレの芳香剤(上品なラベンダーの香り)を連想させる匂い。俺の味覚がおかしくなければ、焼き餃子にワサビとイチゴオレを加え、梅シソと焼き肉のタレを追加し、生クリームをトッピングさせたような(自分で言ってもよく分からんが)、何とも得体の知れぬ、摩訶不思議なクッキーだった。
「大丈夫、クリ?」
目の前の可愛らしい少女が、一瞬にして畏怖の対象へと変わった。...どんな作り方したらこんなんができあがる訳?ある意味尊敬の域だよ。
「...何入れた?」
俺は恐る恐るアリスに聞く。先程のクッキーの後味が、いまだ俺の口内を苦しめ続けているんだ。下手したらまた意識が遠のきそうで気が抜けない。
「先生の教える通りに作った。間違いは........ない。」
「ねぇその間は一体何!?」
レシピ通りに作れば、絶対にこんな凶器紛いな代物ができる訳ないだろう!?ちょっとアリスさん、その先生の教えたレシピとやらを、このクリお兄様に見せなさい、今すぐに!!
「あ~、食べてしまったのですね、クリ。」
哀れみの表情を浮かべ、ギルが呟く。...ということは、やはりこの男は全てを知っていた上で、俺にこのクッキーを渡すよう仕向けたことになる。何という男だ。いくらこの世界で俺の父親となろうとも、俺は断じてギルという男を許さない...!!
「お~、何か美味そうなもん食ってんじゃねーかクリ。」
「そ、その声は!?」
ギルの後ろから「よぉ」と言いながらひょこっと顔を出したのは、いつぞや俺を此処まで連れてきてくれた、グランその人だった。相変わらずの爽やかフェイスに若干の苛立ちを感じたが、いい機会だ。あの時の借りを今此処で、キッチリと返させてもらうぜ!!
「....クリ、何だか笑顔が黒い。」
アリスよ、君が怯えることは何もない。ただ、今からクリお兄ちゃんは少しだけ、このグランさんとお話しをしようとしているだけなんだからな。
「グラ~ン、はいっ、あ~ん!」
「え、何?」
男が男に「あ~ん」とかキモいだけだが、今だけは我慢して下さい。
俺のいるベッドサイドに近づいてきたグランに向かって、俺は、一番匂いが強烈な(ラベンダーの香りが一番濃い、というと伝わるかもしれないが)、青いクッキーをグランに向けた。グランは戸惑いながらも俺の差し出すクッキーを、勢いよく口に入れた。俺はにやけながらそれを眺める。視界の端にいるギルは、あちゃーと言わんばかりにため息を吐き、額に手を当てていた。
「ん?不思議な味だな。それに触感も、心なしかおかs...」
その言葉を最後に、グランは俺の視界から消えた(ベッドから落ち、倒れただけ)。
久し振りにグランさんが帰還してきましたが、早々にリチ君の罠に嵌り、意識のフェードアウトです。グランさん可哀想に。そして、クリ君が何故、借りを返す発言をしたのかにつきましては、第14話『話の痛み分け方法は大体主人公で決まる。』を見返していただけると分かるかと思います。




