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fruitFRUIT  作者: チル
6章 命奪う
22/26

fruitFRUIT6章 命奪う

アヤカシを追い詰めた!

fruitFRUIT6章


11話【壮大な自殺】


 老人とはタートルが引き続き状況説明を任して他の3人と4匹はやたらただっぴろい部屋でそれぞれ羽を休めていた。

ずっと独立された世界のため敵という概念そのものがないかのように村の人は迎えてくれた。

 激戦の後にさらに不安定な足場を登ってきた彼等は落ち着いた場所にたどり着いて疲労が一気にのしかかった。

冒険慣れしてきているとはいえ限界を越えた戦い、精神的な疲労も強かった。

 幸い各々がゆっくりとしている間久々の客人には村人たちは優しかった。

身体と心を癒す不思議な水を分けてくれたり、村の中の事を色々と教えてくれたり、謎の目撃情報の噂を教えてくれたり。

 食べ物も地上でみるものとは完全に別で雲の上に住むのに特化した魚や獣、野菜なんかもある。

翼の有無に関わらず殆どが空を飛べる独自の進化を遂げていてタートルは多くの発見に目を皿のようにして喜んだ。

 小さなちいさな空の村は4人と5匹を優しくもてなし、そして夜が過ぎていく。

全員で20人もいないこの村、それぞれの家の中がとても広いのは気分によってその日過ごす場所を変えるからとのことだった。

さらに眠るのは一月に一回、20時間ほどというかなり変わった生活をしているそうだ。

忙しい地上から隔離されて住んでいる人々ならではの特別な時間感覚だ。

 だがここに来た一行は当然そのように過ごすのは厳しい。

選び放題なほどの多くの部屋のうち5つを借りて眠りにつく。

 フィーネはいくつもある部屋の比較的清楚な雰囲気の部屋、ふかふかのベッドの中、眠りの中で不思議な夢を見ていた。


 そこは見慣れない場所だが場所は記憶にあった。

正確にはロケットの記憶であった場所。

山に囲まれた木も生えていない厳しい環境の山奥。

山の頂上付近人の立ち入らないような絶壁の上。

フィーネはそんなところに一人立っていた。

 直ぐにフィーネはこれが夢だと気づく。

夢の中特有の鈍った思考もなく、身体も自由に動くが飛んだりはできない。

ただなぜかそれでも夢の中だと把握出来たのは恐らく目の前で淡く光る紺色の羽根が原因だった。

夢そのものも羽根が見せている事はフィーネも推測で判断する。

 精霊融合した時にフィーネとロケットの記憶は共有化されロケットのわかっている範囲での過去もフィーネの中に他者の記憶として残ったままだ。

当然この紺色の羽根の記憶も会ったのでフィーネはそう推測出来た。

 何をするでなく宙に浮いていた羽根にフィーネが話しかけようとすると、一瞬強く光る。

同時に目の前にロケットがどこからか落とされてきた。

『いたっ!?何で落とし穴!?』

 夢の中でもちゃんと痛いらしい。

フィーネは一瞬、ロケットを再現した人格かと思ったが、羽根は相変わらずひらひらとしているし、ロケットがわざわざ落ちて来たのもそれを理解させるためだろう、と判断した。

『! フィーネ!?』 

 ロケットがフィーネに気がついて直ぐに立ち上がり目線の高さまで宙へ飛ぶ。

「あ、やっぱりロケットさん。あの羽根に導かれて?」

 フィーネが訪ねるとロケットはうなずき、羽根の方を見た。

『何か見せたがってるみたいだったからさ。ついていったらなぜか落ちたよ。』

 ロケットが羽根を睨む。

特にロケットにはリアクションしなかったがそのかわりのように羽根は光を放ち、フェイの姿になった。

記憶から作られた人格だ。

『先へ進む道は開かれた。だけどこのままでは完全じゃない。少しでも多くの疑問は解消しよう。さあまずは記憶の始まりへ。』

 羽根のフェイがそう言うと飛んでどこかへ行こうとするがロケットに呼び止められる。

『いやその前に、結局おまえは誰なんだ!?』

 そう聞いたが、フェイの姿は消え再び羽根に戻り話さなかった。

 ロケットは釈然としないまま羽根を追いかけ、フィーネも跡を追った。


 羽根は直ぐに止まった。

明らかにこの場所にあるには違和感のあるな大きな鉄製の扉が立っている。

何かを塞いでるようには見えず裏にも回れるが何もない。

だが、羽根はその扉のスキマに入っていって消えてしまった。

「ここをあけろって事なのかな。」  ロケットは人型になって門に手をかける。

重そうで何らかの模様が刻まれた鉄の扉をぐっと力をかけて押し開こうとする。

 まるで反応がない。

後ろに引いてももしやと思って横に開いても反応はまったくない。

「ちょっとこれ重すぎじゃないか?」

「じゃあ私も。」

 フィーネが門に手をかけようと触れる。

その反動だけで軽く扉が少し開く。

「あれっ!?開いた!」

 ロケットが驚きフィーネはもう一度扉を押すと簡単に開ききった。

「もしかしたら、私は他人だから直接的に記憶を閉じられてるわけじゃないし、トラウマでもないから簡単にロケットさんの扉をひらけれたのかもしれませんね。」

 なるほど、とロケットが納得しフィーネと共に扉の奥へ入っていった。

 

 扉の奥の景色は、どこかの田舎村のようで、畑が広がる中近くに一件の大きな黒々とした不気味な屋敷がある。

羽根の飛んでいく道を辿ってその不気味な屋敷の門を通り扉を開けて中に入っていく。

屋敷の中は長い廊下と複数の部屋で構成されていたが羽根は迷わず奥の部屋へと飛んでいきロケットたちも後を追う。

 一番奥の部屋では老婆のようなものが赤ん坊と精霊の子を黒く塗られ儀式用と思われる複雑な魔法陣が刻まれた小さな祭壇に乗せていた。

二つの髑髏も共に置かれていてかなり危険な雰囲気が漂っている。

「いひひ、ついに産まれた一族の力全て継げる器……!これで奴らに!いひひ……」

 ぶつくさと何やら話しているがロケットたちには気づいていないようだ。

羽根が老婆の目の前を通っても何ら反応しないことから恐らく記憶には干渉出来ないし干渉されないのだろうとふたりは判断した。

 部屋へ入り老婆の見据える先、祭壇の上の赤ん坊をのぞき込む。

面影と状況から判断してまだ普通だったダカーポとアップルだろう。

「かわいいですねー。」

「いやあなんかもうおどろおどろしいような……。」

 羽根が飛んで行き、部屋の不自然な位置に鉄の扉が現れる。

羽根がそこへ入っていったのでまたここを通る必要があるという事なのだろう。

 フィーネが手をかけて少し押すとまた扉は簡単に開き、二人はその扉の向こう側へと歩みを進めた。


 再び外。

しかし、今度は炎の海。

畑の野菜たちも、遠くの家も、そして屋敷も。

炎の側で純粋そうな喜び飛び跳ねているのは、もうぼろぼろにすり切れているような子ども服を血で真っ赤に染めたまだ小さなダカーポと、肩にぶら下がっているアップルだった。



 おまけ休憩所

タートル「仙竜族の人たち常識外れすぎて驚いたぎゃ……。」

イクシア「そこまで俺らと違うようには見えないけどなあ?」

タートル「まず、ここの最年長のあの出会ったおじいさん、年齢が8200歳ぎゃ。」

イクシア「え。」

タートル「人が少ないと思ったらそもそも子供は出来ない種族で……。」

イクシア「それ生き物なのか!?」

タートル「精霊術で、己の分身を100年かけてつくって子供を増やし、死ぬ時まで永遠と成長するから普段は精霊術で人のサイズまで落としてるそうぎゃ……。」

イクシア「もしかして本当に神さまとかのたぐいじゃないよな……?」

タートル「もっとも恐ろしいのは怒った時ぎゃ。その身体の真の姿を解き放って大陸ごと攻撃したりして戦争した事もあったそうぎゃ……。」

イクシア「もしかして、昔の文献ですらあまりないのって。」

タートル「その時代の生き物たちと記録資料がほとんど壊滅したからぎゃ……。」

イクシア「ダカーポより怖いじゃねーか!」


───────


「いやあ、僕がパパとママを殺したって聞いた時はびっくりしたけれど、なあんだグランマたちも簡単に殺せるんだなあ!なあアップル!」

 まだ小学生ぐらいのダカーポは陽気な声で肩のアップルに話しかける。

フィーネとロケットはその凄惨な光景に驚く。

特にロケットはこれが自分の過去だと思いたくはなかった。

だが光景と共に自身の記憶のもやも同時に晴れていくのを感じて動揺が隠せない。

 話しかけられたアップルが恐る恐るダカーポの前に移動する。

『でもご主人様、なんで殺しちゃうんですか?せっかく仲良く暮らしてたのに。』

 ダカーポはほっぺたをプクーと膨らませアップルの首をつかむ。

「うるさいなー、良いじゃん殺りたかったんだから!」

 アップルは燃えさかる屋敷へと投げ飛ばされ身体に火が移る。

『ぎゃん!』

「ぎゃあ!」

 ロケットとアップルが同時に叫ぶ。

フィーネが驚きロケットを見ると、アップルに付いている尻尾の炎と同じ位置をロケットが押さえていた。

「大丈夫、少し昔の記憶が戻っただけだから……。」

 ロケットは汗を流しながらそうフィーネに言った。

 アップルの方は引火を止められず飛び走回りダカーポは腹を抱えて笑っている。

『ごめんなさい!ご主人様ごめんなさい!助けて!』

「ははは!良いじゃん精霊は僕が死ななきゃ死なないんだから!一回灰になっておけよ!」

 アップルを的確に蹴り飛ばしまた火中へと放り込む。

その後は二人とも目をそらし、羽根が導く次の門へと急いだ。


 次の場所は意外な事に図書館のような場所だった。

恐らく中学生ぐらいのダカーポがさぞ当たり前のように勉学に勤しんでいた。

が、いわゆる図書館にしては少し景色がおかしかった。

紙は羊皮紙がメインで、本はそのため非常に重く分厚いのばかりだ。

回りの人々の服はまるで時代劇かのように中世ぐらいの姿だ。

「あ、あれ?いつの時代だこれ?」

 ロケットは見渡し、今日の日にちを書き込んである、お知らせのような書類を見つける。

「ええっ!?数百年以上昔!?」

 ロケットの言葉を受けてフィーネは推測する。

「もしかしたらダカーポはずっと過去からいる存在なのかもしれませんね。」

 ロケットは頭を掻いて悩む。

ダカーポがはるか昔からいるということは自分も同時にはるか昔の存在ということになるからだ。

 フィーネはダカーポが袋から取り出した書き出した羊皮紙をのぞき込む。

「あ、この文章。」

 個と群れに関する文。

フィーネたちがAブロックの事件解決時に見たものとまったく同じものを目の前でダカーポが書き込んで行く。

 フィーネの声に気づきロケットもその様子を見る。

じき書き終えると再び丸め袋にしまうとどこかへと歩いていく。

羽根とロケットも後を追い外への扉を開け、出る。

 外の景色が見られるのかと思いきや次に見えたのはどこかの家の中だった。

どうやらダカーポの家までカットされたようでダカーポが家の中へと入っていく。

 古ぼけた家らしくところどころ脆くなっていて薄暗く廊下の先へと進んで行くとごちゃごちゃと何か物がたくさん置いてあるそれなりに広い部屋へとたどり着いた。

『ご主人様、ご主人様、お帰りなさい……。』

 アップルはこの部屋の中にいたらしく、なぜか元気のなさそうに床を歩いてダカーポへと尻尾を振って近づく。

フィーネははっと気づきロケットの視界を塞ぐ。

「ロケットさんあれは見てはだめ!」

 フィーネの突然の行動に驚くロケット。

だが胸騒ぎが収まらない。

「フィーネ、これは俺の記憶なんだ。俺が取り戻さなきゃいけない記憶。例えそれがどんなものでも。」

 フィーネはロケットの方を向き、ゆっくり頷く。

「ロケットさん、見るのも辛いものですが思い出すのはきっともっと辛いです。だから私にそのつらさ、分けさせてください。」

 フィーネはロケットの手を握る。

「辛くってもロケットさんが立ち向かうのなら、私はそれを助けます。だから辛くて壊れそうになったら強く握ってください。きっと気持ちが少しは安らぐから。」

 ロケットは頷いて、フィーネはロケットの視界から動く。

瞬間、ロケットは思い出す自分の記憶の表現できない感情に支配されそうになる。

 暗がりの奥から出てきたアップルは、左目は小さなナイフを刺され、右前脚は切り落とされ、ひどく痩せ細り毛は荒れ放題で腹にもナイフが刺さり貫通していた。

強く、強く、フィーネの手をつよく握り目を瞑る。

過呼吸気味になり足はふらついて立っていられなくなる。

崩れかけたロケットの手を強く握り返し、ロケットの背に回って身体を支える。

「やっぱお前じゃないと俺の殺しとしては足りなくてなー。ほんと良い子だな。俺が昨日付き合ってた奴はほんと使えない。ちょっと刺したら死んじまうんだからさ。」

『お役に立てて光栄です、ご主人様ー。』

 アップルは例えここまでされても心底ダカーポに仕える喜びを感じていた。

精霊と人間の関係は普通対等だがダカーポとアップルは特殊すぎた。

いくらでも殺せる主人に、いくらでも殺されたい下僕。

過去はここまでねじ曲がっていなかったのだが長い間ダカーポがアップルを拷問している間にアップルの心がダカーポに適するように変わっていってしまった。

絶対的なカリスマと力、異質すぎる精神と存在がもっとも近いアップルに本能的に影響され昔から主従関係があったがそれは成長につれて絶対的なものになっていた。

「さてと。今日はどれでお前を殺そうか……。」

 周囲の何か、はアップルを拷問し殺すためのありとあらゆる武器や拷問器具だった。

一瞬でミンチにするものから時間をかけて殺すもの、精神的破壊を求めるもの、狂乱させ死においやるもの……。

 精霊は宿主の死以外死なない。

なおかつなんの助けもなくとも例え粉々になってもじきに復活できる。

身体も、心も。

それでも蓄積されれば身体の健康は失われ、精神や考え方は歪み進む。

だがそれらはダカーポにとっては好都合そのものだった。

己の狂気を全てぶつける相手がいるというのはダカーポの喜び以外何でもなかった。

「あ!そうだ忘れてたな。今日の心の方のエサだ。」

『やったー!』

 ダカーポは何やら奇妙で禍々しい模様が細かく彫られている釘を懐から取り出すとアップルの頭にそっと添え、一緒にとりだした小さなハンマーを使う。

アップルの頭に釘を打ち込むために。

『あっ!あっ!あっ。』

 痛みに叩かれる度に声を出し、3回軽く打って少し入った所でハンマーをしまう。

「いつもやりすぎて簡単に殺しちまうんだよな。今度は生きてるよな?うん、よし。」

 ダカーポはアップルが息をしているのを確認すると何やら聞き取れない言葉をつぶやき出す。

『あああ!ぎゃんううう!うわあああ!!』

 アップルが苦しみ、口から泡をふき、体中が痙攣する。

「あ、あれ、は、俺に、ダカーポの、今日の記憶を、植え付けてるんだ。無理矢理……!」

 ロケットが苦しみながらフィーネに情報を伝える。

あまり一緒にいなかったアップルとダカーポはその間の出来事をアップルは欲しがった。

例えどんなものでも自分の主人のことを知りたがった。

その絶大すぎる存在に自分が少しでも近づきたかったからだ。

 一方ダカーポもアップルをあらゆる方法で苦しめたかった。

試しに拷問としてやってみたところ反応も様々で面白く、またアップルの成長にも役立つ事に気が付いた。

いくらなんでも自分の精霊。

それに見合うだけの事は身につけて貰いたかったからちょうど良かったのだ。

 記憶の送信が終わり、大きく震え跳ねているアップルから釘を引き抜く。

痛みよりも自分の方を向いてくれているダカーポに喜びを感じ笑うアップル。

「さてと、今日の本番はどれにしよーかな?」

 羽根が動き次の鉄の扉が現れる。

フィーネは倒れてしまいそうなロケットを連れ、急いで扉を身体で押し開けて進む。

後ろから不気味な機械音と悲鳴、肉が潰れる音が聞こえたがフィーネは聞こえないふりをした。


 扉の先。

正直フィーネはこれ以上進みたくはなかった。

他人の記憶とは言え、フィーネの中にも存在する記憶。

もやが晴れそれがはっきりと見えてくるたびに心痛む。

そしてそれが実際自分のものであるロケットの身を一番案じていた。

 実際もうロケットはフィーネに手を引いて貰わなければ歩くことも出来ない。

 だがロケットはそれでも最後まで行くと決めていた。

ロケットは過去の記憶とは言え自身の身体に影響を及ぼすほどのもの。

もし、今ダカーポに会ったらご主人様と尻尾を振って付いていってしまうかもしれない。

それほど当時の心は深く支配されていた。

だからこそその壊れた主従愛とも言える気持ちすら消え去った事件までいかなくてはならないと感じていた。


 そして今度の扉の先は、ダカーポが高校生くらいの年の頃。

すっかり見た目は「ロケット」の人型状態と同じになっていた。



 おまけ休憩所

ウチワ「ここ、数千年の歴史があるのにぜんぜん老朽化してないね。」

ウメ『さっきねーおじいさんがーふしぎなじゅつできれーにしてたー。』

ウチワ「地上には形として残ってない精霊術かしら。建築物を修復する術に近いのはあっても、老朽化すら直すのはまさに神業ね。これを収得すればビジネスチャンスかもね!」

ウメ『うーん、たぶんあれー、せいれいじゅつじゃーないー。なんかねー、なんだろー?か、かが、かーく?』

ウチワ「カガクね。ってまさかそんな精霊術を越えるほどの科学技術があるのここは……?」

ウメ『うん。まほーでもなかったしじんこうてきなちからをかんじたー。』

ウチワ「なんだか、禁断の領域に踏み込んだかしら…。」


───────



 ダカーポの半生は狂気に満ちていた。

産まれてから意思を持って親を殺し、何らかの想いを託したかった祖母が授けた強大な力をすんなり受け取りそして想いは受け取ることなく祖母ごと故郷を焼き払い、

そして己の強さを最大限求めるために勉学に励みその間のストレスの多くは精霊アップルに注がれた。

 アップルもその強大すぎる相手のために尽くしダカーポの相方にしかできない役割を残酷なほどにこなしていった。


 高校生ぐらいの年になると、それまでこなしてきた勉学と鍛錬、そしてそれを支える素の異常なまでの才能と精神が最も開花していた。

 ダカーポはアップルと共に旅をし獣たちを切り裂きさらなる力を求めた。

まずは、衰えという物を克服するために誰も立ち入れない火山の奥、マグマに囲まれた危険な洞穴に来ていた。

 そしてフィーネたちもその時の記憶の場所に現れた。

「記憶の中とは言え、熱いですね。」

「うん、熱い……。」

 過呼吸気味でさらに体調を大きく崩してるロケットにフィーネは積極的に話しかけ話させる。

気を紛らわせるのと、話させることが過呼吸改善に繋がるからだ。

 場面はダカーポが剣で敵にトドメの一撃を加えたところだった。

炎を身にまとう……というよりまるで全身が炎で出来ているかのような燃えるような色の羽根が綺麗な巨大な鳥の獣だ。

「幻獣め、見つけるのにも苦労したが死ぬほど強かったぞ……!」

 ダカーポはまだ多数の変身の出来るだけのただの人間。

確かにかなり強いがアップルとの共闘で獣相手にやっと勝てる程度の、まだ常識的範囲の力だ。

 あのダカーポがきっちりと防具を着込んでなお全身から血を流しふらついている姿は恐らくこの時代でしか見られないだろう。

『ご主人様、採るものとって早く休みましょう、これ以上血を流すのは危険です!』

 アップルも戦闘のために精神はともかく健康体に戻されている。

「分かってるさ!それにしてもやっぱり、命がけのゲームほど面白いものはないな……!」

 小瓶を袋から取り出し、ナイフで首筋のもっとも柔らかそうな場所を突き僅かに流れる血液を採る。

 羽根が次の扉へと導き、フィーネは両手で押し開け次へと進む。


 今度はほぼ同年代らしいどこかの実験場のような所だ。

怪しげな器材が並びダカーポが資料を確認しながら何かを作っている。

 少しロケットの体調も回復してきて自力で歩ける程度には回復した。

アップルが見守る中、蒸留させ抽出した先にほんの僅かな液体が流れ受け皿に落ちる。

「よし!これだ!伝説の秘薬、不老の幻薬!」

 受け皿に落ちた雫を慎重に口へ運ぶ。

その瞬間、ダカーポが突然苦しみ出す。

『ご、ご主人!?』

「ぐっ!身体の変化が!これに耐えれねば死ぬ、だが僕なら……!」

 ダカーポは倒れ痛みにもがき苦しみアップルはひたすら困惑してウロウロとする。

人間には強すぎる薬は毒にしかならない。

だがこの後の事を考えるとダカーポは耐えきりそして不老の力を手に入れたのだろう。

羽根が導く扉をフィーネは力いっぱい押し開けた。


 扉の先。

どこかの町の中、ダカーポとアップルは人混みに紛れ歩いていた。

ダカーポの姿は変わらないが変わったのは町の人々の服装や街並みだった。

急に現代的になり、フィーネたちに馴染みある環境になった。

「これは……時代的には現代になったのか。」

 ロケットの推測にフィーネも同意する。

ダカーポは林檎を買ってかじりながら歩く。

「もはや僕にかなう奴はいないだろうが、だが僕的にはまだ不満だ。わかるなアップル。」

『ええご主人様。長い年月の中で様々な力は手に入れましたけれどまだご主人様の目標には達してないですものね。』

 ダカーポの目標。

ロケットとフィーネはある程度予想はついていた。

「ああ、俺は神になる。せっかく生まれつきの特別、そう言うなれば特異点なんだ。僕が主人公の世界。だからこそ世界をゲームにして遊んでやる!」

 ダカーポは様々な場所を渡り歩き人間としての限界を越えた力を多く揃えてきた。

そして世界の名だたる獣や凶悪犯、そして戦場でどこにも属さず単独で強そうな国の軍を斃し自らの喜びのためだけに殺し合いを続けた。

だがそれでもまだダカーポは足りなかった。

世界そのもので“遊び”をしたい。

それがダカーポの目標だった。

 そのためには神に等しき力を手に入れる。

そのために残された手段は少なく、そしてそのための準備を既に進めていた。

『ところでこの後どこへ行くんですか?』

「ああ、今度行く所は天空の大地……と言いたいが場所が検討もつかない。先に嫌光山脈に行くぞ。」

 どこかへと歩いていくふたりを追いかけるために羽根は扉へと導く。

 フィーネが手をかけ一生懸命押すが扉は重く動かない。

「やっぱり、少しずつ重くなってる。ここまで重いとなると私でも開かない……。」

 それを見てロケットも扉に手をかける。

「でもきっと、二人なら……いや、ここにはいないけれどみんなと一緒ならこの扉もきっと開ける!」

 光がどこからともなく溢れ、光が形作り多くの姿が現れる。

仲間たち、出会った味方、そして亡くなった人たち。

記憶の夢の中なら一緒に扉を、背中を押してくれる。

 重々しく扉は開き、二人はあの場所へと進んだ。


 嫌光山脈の奥地。

まるで光がここにくるのを嫌がるかのように高い山々が複雑に影を作り濃い霧が発生しやすくまた天候も常に荒れ空を覆いまるで常に夜のように暗く、当然そんな環境ではほとんど草や木も生えない。

 フィーネとロケットはここに来た記憶があった。

ロケットがアップルとしての最後の記憶。

「戻って、来たんだな。」

 ロケットが呟いた。

ダカーポとアップルも険しい山道を登ってきた。

 ダカーポは山頂の切り立った崖、いわゆる登山ルートからは大きく外れた場所に荷物をおろす。

『そういえばここの山頂では結局何をするんですか?』

 アップルがダカーポの前で漂いながらそう話す。

「まあ、直ぐにわかる。」

 ダカーポは妖しげに笑う。

アップルは首を傾げダカーポの様子をうかがう。

 ダカーポは地面に魔法陣を描いて行き本を広げ詠唱を始める。

 かなりの長文で10分ほどの詠唱で魔法陣の地面が輝きだし、さらに10分掛けて魔法陣から黒い光があふれ出す。

 ダカーポは本を閉じ、アップルの方を見る。

「なあアップル、僕のために死ぬ事はできるよね。」

『え?もちろんですご主人様。』

「でもね、その必要もこれできっと最後だ。バイバイ!」

 魔法陣の光が形づくり、狼の顔のようになってアップルをまるごと飲み込もうと牙を剥く。

『え?』

「お前の力全部俺にくれ。そしてお前は用無し。捨て犬さ!」

 ダカーポの嘲笑いが響き、アップルは魔法の狼の口にへと飲み込まれた。


 ロケットとフィーネは一部始終を見ていたがここで景色は暗闇に包まれた。

アップルの記憶だから、飲み込まれ殺されて景色が無くなったのだろう。

 ロケットは意識を手放しかけていたが、手だけはなんとか離さなかった。

フィーネも倒れるロケットの手を両手でしっかりと握る。

「きっと後少しですロケットさん。」

「……うん。」

 暗闇の中、アップルの意思が、アップルの声がこだまする。

『用無シ?』

『捨テ犬?捨テラレタ?モウゴ主人様ハモウボクイラナイ?』

『イヤダ、イヤダ、コンナ結末!』

『頑張ッタノニ!尽クシタノニ!』

『モウミテクレナイ。コッチヲミテクレナイ。』

『ナニカノ間違イダヨ!ソウ、キット起キタラコッチヲミテクレル……。』


 視界が開け、アップルは身体を再生しているところだった。

 フィーネはアップルの身体に思わず顔を歪め、ロケットは目を離せなかった。

頭しかない。

正確には頭以外は再生の途中でバラバラ、ぐちゃぐちゃに引き裂かれ原型を留めていない。

魔法陣の片付けをしているダカーポがアップルの再生に気づく。

体毛が水色に変化しているようだ。

「やはり再生はするか……まあその準備もしてきたけれど。最後に良いもの見せてやるよ。」

 ダカーポは黒い光の繭に包まれ、妖の姿になる。

「これが特異点のみが到達できる個の限界点、アヤカシの姿。そしてこの姿なら複雑な魔術も使える。」

 ダカーポは笑いながらアップルに指を向け、何かを唱えると光だす。

 アップルの瞳の奥に光が浸透して行き、何もかも思い出を消そうとして行く。

 アップルは声は出なかったがこれがたまらなく嫌だった。

自分の主人がくれた思い出をこんな形で主人が消していく。

自分の一番の宝物を奪い去るのは例え主人が相手でも許せない。

そんな許せない感情というもはや何が大事だったかすらもわすれても刻まれた感情すらも光は飲み込み、アップルは瞳を開けたまま、まるで完全に死んでしまったかのように気を失った。


 真っ暗闇の中、フィーネはロケットを必死に救命していた。

 ロケットは自身の過去の記憶を、感情を知ってしまった。

そのせいで今命尽きかけるほど精神が弱まっていた。

 握っていた手は影に溶け、精霊の姿に戻る。

「ロケットさんしっかりしてください!」

 ロケットは自分とダカーポの主従の鎖は打ち破れた。

しかしその代わり手に入れたのはその思い出のために元主人すら許さないという小さな想い。

身体を支えきれない小さな想い。

『フィーネ……顔を、感覚があるところを……。』

 フィーネと違い完全に自身の事であるロケットは、今のアップルにほぼ同調しかけていた。

 身体の感覚がなく、動けない。

 ロケットの言葉にフィーネも今のロケットがどんな状態か気づく。

 ロケットの頭をそっとなで、小さな精霊の身体を、頭を胸に抱き抱える。

「大丈夫、私はあなたを捨てたりはしないですよ。みんなもあなたの事を待ってます。だから今は朝までおやすみなさい。もう悪夢は終わりました。」

 ロケットはフィーネの温もりを、良いかおりを頭の数少ない残された感覚が受け取る。

 ゆっくりと瞳を閉じて、身を任せる。

『ありがとう。おやすみ、フィーネ。』

 一筋の涙が、その赤い瞳からこぼれ落ちた。


 フィーネは気づくとベッド上にいた。

正確には夢から覚めただけなのだが、はっきりと夢の事は覚えていた。

朝日が差し込み、フェイもねむそうに顔を擦っている。

 夢で得たロケットの過去の記憶。

しっかりと見た部分が鍵となり今はもう全ての過去の記憶がはっきりと思い出せる。

 はっと気づきロケットの元へと着の身着のままベッドから飛び起きてフェイを置いてパジャマで駆ける。

 昨日の夢がロケットにも影響を与えたのなら、もしかしたらロケットに致命的な影響があるのかもしれない。

 やたらと広い部屋をいくつも、探し回りやっとロケットのいる部屋へとたどり着く。

「ロケットさん!」

 ロケットは精霊状態の格好でベッドから落ちていた。

寝相が悪かったらしいが、表情は安心仕切っている。

 ほっと胸をなで下ろし、ロケットに近づくと、ロケットもフィーネに気付いて起きた。

『あっ……フィーネ、おはよう。』

「おはようごさいます、ロケットさん。」

 ロケットは宙に浮いてフィーネの顔を見る。

『……改めて、ありがとう。』

 フィーネはロケットを手にとって抱き抱えた。

「私が出来ることはこんな事しか無いけれど、ロケットさんのお役に立てたなら良かった。」



 おまけ休憩所

ロケット『え、ええとさあ。』

フィーネ「あ、はいなんでしょう?」

ロケット『フィーネのこと、ご、ご、ご主人様って言っても、良いかな?』

フィーネ「ええっ!?そういうクセは早く抜かないと!」

フェイ『あれ?何々?朝からそういうプレイしてるの?』

ロケット『う、うわあああ!?』

フィーネ「ひゃあああ!?違う!断じて違う!」

フェイ『ほほう、お楽しみだったようで。まあ後はおふたりで……。』

フィーネ「やめて!行かないで!勘違いしたままふたりにしないでー!」

ロケット『フェイー!戻ってきてくれー!おやつあげるからー!!』



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