fruitFRUIT5章過去編
fruitFRUIT5章過去編
「少しは思い出してきたか?」
妖……もといダカーポはそう言って笑う。
「どこかで……見た名前だぎゃ。」
タートルは記憶の中から情報を出そうとするがダカーポに動きがあり中断する。
宙へと横回転しながら素早く2mほど飛び上がり大きな氷の塊を作り出して地面に落とす。
「氷踊色欲Ⅲ!」
氷の塊が砕け、鋭い破片が周囲を飛び回る!
ウチワは空に飛んで避けようとするが空に飛んだ先にも追尾して行く!
出来るだけ全員回避に専念するもののしつこい追尾に身体や防具を深くはないが引き裂かれた。
「フォームフォルテッシモ!」
ロケットは素早く変身して自分にまとわりつく氷を光の繭で弾いてから獣型になり氷の破片よりも早くダカーポにたどり着く。
「おっとまずい!」
両手の剣でロケットの突進を受け止めるが速度が乗った状態の攻撃を宙に浮いていただけのダカーポは受け止めきれず地面まで吹き飛ばされる。
『氷のコントロールが止まりました。』
イベリーが言った通りダカーポがガードに専念したためか氷たちはその場に落ちて粉々になって消えた。
「みんな、あの瞬間移動に関しても少し思い出したことがある。あれも攻撃や守っているときは使えない。あと一つ何か特徴があった気がしたんだけどそれはこれから確認する!」
ロケットが全員に伝えると4人と4匹は返事する。
「やれやれ、これはなかなか困ったね!」
地面で受け身を取っていたらしくダカーポは直ぐに立ち上がり剣を持ち直すと姿が消える。
イクシアの背後に突如現れ逆さ向きで切り上げる!
強化してあるとは言えモロに入り斬り転ばされる。
「って!鱗剥げる!」
倒れるがすぐに盾を背後に向けるがまた姿が消える。
ウメが設置した雷の機雷の近くに瞬間移動しては近くから岩のエネルギー弾を撃ち込んで誘爆させて破壊している。
現れて消えて撃ち込んで消し瞬間移動するを繰り返していく。
「あいつが移動する先、どこだ?何かさっきから気になる。」
ロケットはダカーポの移動する先と移動する時の動きをみる。
特別派手な動きは無く移動するがフードが取れた事で前とは違う情報があった。
「……あ、もしかして!」
ロケットが気づいた時には最後の機雷を壊し、そしてロケットを見て消える。
「ここか!」
ロケットは後ろ脚で何かを蹴り上げる!
不意打ちをしかけたはずのダカーポだった!
「っ!?」
逆に不意打ち返しされたダカーポは追撃を避けるためにおおきく避ける。
「やっぱりか!目線の直線上にしか飛べないんだ!」
正確には視線を定めた一点のみ。
流石に他人にはどこを見定めているかまではわかりづらいがどこを見ているかはフードさえなければ十分予想できる。
ダカーポは五人が視界内に入る位置まで下がって様子を伺う。
「流石に事実上数回ガチバトルしてると手品がバレるのもはやいか……!」
あくまでダカーポは楽しむかのように笑いを込めている。
フィーネはロケットに乗り込む。
「ロケットさん乗ります。フェイ、回復強化!」
自然治癒力を高める精霊術。
フェイがロケットとフィーネに光を浴びせていき、ロケットはそれをぞうふくして他の3人にも強く光の波を届ける。
先ほど負った傷やダメージも少しずつ回復していく。
『うん、これで大丈夫!』
フェイは光が届いたのを確認してフィーネの側へと戻る。
「さてどうしたものか、もうそろそろやっちゃって良いかな?」
ダカーポは剥き出しの笑顔をつくりそして二つの剣を前へ突き出すように構える。
今までは全く構えなどないようにぶら下げていたので5人は変化に警戒する。
「本当はもうちょっとためて驚かせたかったんだけど、ちょっとしたとっておき。」
一呼吸おいて、唱える。
「フォームレボリューション!」
ダカーポは漆黒の輝きを放つ紋様、魔法陣に包まれる。
「あ、あれは!?」
ロケットは酷く驚く。
色そのものは違うがあれはまさにロケットの変身と同じだった。
ダカーポの黒の繭が消えると中からは水色の毛並みの獣。
白いたてがみが背中を通り尻尾まで通っている。
色が違うだけでロケットにそっくりな姿だ。
「フォームフォルテッシモ!どうだロケットくん、これは真似なんかじゃあないさ!」
ロケットは驚きはしたものの戦闘体勢は崩さずダカーポに向かって駆ける。
同時にダカーポもロケットの方へと走り出す。
ダカーポは一瞬で加速し飛ぶように背後まで跳ぶ!
ロケットは見えてはいたがその速度に反応して振り向けるほどは機敏では無かった。
爪がロケットの腰に突き刺さらんと振り下ろされる。
深く刺さってそのままなぎ倒されれば致命傷は避けられない。
ロケットが痛みの覚悟をしたその時。
「うおぉぉーら!」
イクシアが剣と盾ですんでの所で受け力の向きを変える。
地面へと落ちた前脚。
イクシアとロケットの追撃を避けるため強く地面を蹴って距離をとる。
「あいつの戦い方が急に変わるわけねえと直感して後ろに気をつけてたのは正解だったな!」
ロケットは驚きながらもイクシアの言葉で納得する。
「ありがとうイクシア!」
ダカーポはウチワとタートルの攻撃とフィーネのトラップ精霊術を避けるために跳ね回る。
確かにこの形態は頑丈かつ素早いが人間時と違って術が使えない。
ウチワの射撃やタートルの圧縮した威力の高い水弾も喰らえば前よりはダメージが大きい。
素早い移動で攻撃も伺うが背後は完全に警戒され、またロケットにイクシアが乗って常に追撃しようと狙っているためダカーポの自由には出来なかった。
高速で跳ね回り時にはロケットとダカーポが衝突しあいながら攻撃を重ねていく。
ロケットは、ダカーポが書き記したロケット5形態の詳細書の内容を思い出していた。
あそこには技や得意な運用方法の他にも苦手な事、相性なども書き記してあった。
「獣には確か……イクシアさん、変身するので一旦離れます!」
大きくダカーポから距離をとってイクシアを降ろす。
「よし、いいぞ!」
「フォームレボリューション!」
ロケットは光の繭に包まれ変化し巨人へと変身する。
「フォーム、グラーヴェ!」
そのままダカーポの元へ走り出す。
ダカーポはそれを確認して駆けて距離を取ろうとするが射撃を身体に撃ち込まれ怯み、後ろにウチワが陣取っているのを確認すると仕方なしにロケットの方へと走る。
その間も横ににげないようにウチワやタートルが射撃してルートを制限していく。
撃ち込まれた弾や水はダメージにはなるが頭部に当たっても獣状態の頑丈さはすぐに止血し弾もできるかぎり早く身体から排出する。
最接近しロケットは鎚を振り下ろしダカーポは高く跳んで首もとに飛びつこうとする!
「……なんてね!フォームレボリューション!」
鎚がダカーポの背中を叩く寸前、黒い繭がダカーポを包み強く弾き返される。
その影響で大きく体勢を崩し繭から水色の巨人が出てきた時何もできない。
「フォームグラーヴェ!らぁ!」
巨人となったダカーポが白と黒が渦巻き輝く大剣で左上からの一閃!
頑丈な装甲の上からとは言えかなりの衝撃がロケットへと刻まれる。
「ぐうっ……!」
体勢を戻し次の攻撃に備える。
ロケットはにらみ合いながら考える。
なぜ自分と似通った変身を相手はするのか。
さっき真似ではないと言っていた言葉の意味。
膠着状態はウチワにより解かれる。
ダカーポの足元に精霊術陣が現れ静電気がダカーポを包む。
「二人だけで戦ってるんじゃないよ!さっさと決めなさい!」
ダカーポは剣を振ろうとするが筋肉が逆に縮こまるように動いてしまい一瞬遅れる。
ロケットは強く踏み込んで真上から振り下ろし左肩から相手を鎚で殴り飛ばした!
おまけ休憩所
ロケット「フィーネって割と外に出かけたりするの多いよね。」
フィーネ「普段インドア派って思われやすいけどわりとアウトドア派なんです。やっぱりお日様の中の方が調子良いみたいで。」
ロケット「俺は割とインドア派なんだよね。なんだかんだみんなにつき合っちゃって外出多いけど、ゆっくり寝てるのとか本を読んだりするのが好きだな。」
フィーネ「無理して一緒に来てくれなくても大丈夫なんですよ?」
ロケット「いや良いんだよ、みんなと一緒にいるのもやっぱ楽しいしさ!」
────────
大きく後ろへ吹き飛び足で倒れるのを耐えるダカーポ。
地面をえぐり何とか倒れるのは防ぐ。
戦いの場は広いがロケットとダカーポも巨大なためあまり大きく後退すると落下の危険があるため踏ん張って耐えた。
もちろんダカーポは浮遊できるがそれにしても場外は恥ずかしいと感じていたからだ。
反撃のために大剣を一度振ってロケットたちに向き直る。
痺れは消えたが5人同時相手はダカーポにとっては大きく不利な条件になる。
それでもダカーポにとっては遊びの範囲を超えなかった。
一度踏み込んで大剣を地面に叩きつければ衝撃波が生まれ地上の相手を圧倒し、そのまま身体を回転させて薙払えば地上にいる者を薙払う。
ロケットたちも全力でぶつかり合いダカーポの装甲の上から叩いて行く。
激戦を広げハンマーと大剣がぶつかり合う。
力の拮抗を崩すためロケットは相手の弱めのタイプへと変わる。
「フォームコンテルネッツァ!」
毛むくじゃらへとなると巨人状態のダカーポの足元に闇を広げ足を取る沼をつくる。
「動きづらくするつもり?」
ロケットは敵の装甲を柔らかくする術も使い攻める準備を整えイクシアが切り込む!
「これはマズいか、フォームレボリューション!」
イクシアの刃が装甲に届く前に黒の繭がダカーポを包んでダカーポも毛むくじゃらへと変化する。
色はやはり水色中心でたてがみは同じ黒になっている。
「フォームコンテルネッツァ。さあそろそろ思い出せよお前の事を!」
弱体と妨害術を互いにかけていく。
弱体を妨害し妨害を弱体する応酬だ。
さらにこの状態でも攻撃は可能だというのはロケットの読んだ記載にもあった。
毒のエネルギー球をなげつけたり影のカッターで切り裂いたり。
地味めではあるが弱体や妨害がある中では大きく異なる。
フィーネがある程度予防、治療をしてじわじわと追いつめられないようにする。
ダカーポも譲らず弱体化そのものを自力で解いたり妨害術や罠を弱体化して消して対応する。
イクシアとタートルは無理に前衛にでず後ろから精霊術で応戦しダカーポに傷を増やしていく。
ダカーポも致命傷を避けつつなおかつ無尽蔵なほどの体力でそれを受けても平然と戦う。
ロケットはこの形態での体力は少ないためできるだけフィーネに回復してもらいないながら弱体を重ねる。
もはやここまで来ると最後もきっとロケットの変身全て使えるのだろう。
理由もわからず記憶もまだ封じられている。
自分の記憶の奥にどうしても開けない門があるというイメージ。
それを開けるキッカケ探しにも、現状ジリ貧状態なのも打開するために最後に残った形態に変化をする。
「フォームア・ジ・タ・ー・ト!」
精霊のような小型形態。
闇の球を相手を覆い尽くす勢いで作りぶつける!
「フォームア・ジ・タ・ー・ト!」
黒の繭が球を消し飛ばし、繭の中からは朱のたてがみ白の体毛。
やはりロケットとほぼ同じ姿た。
「何でお前が変身できるんだ!」
「違うだろ?お前が変身できるのがおかしいのさ!」
ダカーポは空中に雷で出来た巨大鎗を生みだし、地面に突き刺さる。
3mもの誰も持てることが無さそうな巨大鎗だ。
「轟蕾憤怒Ⅱ!」
サタンセカンドとダカーポが叫ぶと槍が抜け重量感もなくすっと
ロケットの方に向いて雷の速度でロケットを貫く!
「うわあっ!!」
刃があるわけではないため切り裂くことはできない。
その代わり全身が雷。
反射的に身を翻し全部喰らうのは避けたが一瞬全身を雷に焼かれる。
地面に落ちたロケットが次に見たのは真上にある今まさに落ちてこようとしている雷の鎗。
「こいつは徹底主義なんだよ。」
ダカーポの笑い声が聞こえる。
雷が自分の上に落ちんとする瞬間、何もかもがゆっくりに見えて、そしてそこで記憶が途絶えた。
ここはどこだろう。
身体の感覚があまりない。
暗闇の中かな、それにしても現実味がないや。
なんだか夢のようだ。
輝いてる、何だろう。
羽根?紺の羽根。
どこかでみたような……あ、僕の身体に入っていった奴か。
でもなんで?
……うわっ、映像だ!
この羽根が見せてるのかな。
雷の鑓が落ちてくる瞬間、フィーネが光の盾を作ってさらにイクシアが盾で守ってる。
俺を、守ってるのか。
早く戻らなきゃ。
あ、でもこれどうやって戻るんだろう。
ん?羽根が移動していく。
ああ、付いて来いって事かな、分かったよ。
しかしどこに行くんだろう。
記憶……記憶かな。
思い出たちが現れては通り過ぎていく。
出会い、別れ、そして始まり。
自分が倒れていた場所。
この前を知りたいのに進めない。いや戻れないかな。
自分が無意識に拒否してるみたいだ。
意識してもうまく探れないや。
ロケット……。
そういえば俺の名前、ロケットでもう良いって思ってるけどそういえば前の名前があるんだよな?
ちょっとごめんよ、記憶の自分。
このロケットは中には何も無かったなあ。
あれ?開いたら写真が。あ、そうかさっきダカーポに入れられたんだっけ。
夢の世界なら何でもありだなあ。
俺と、誰かの精霊が写ってる。
何だけど、変だななんだか知ってる気がする。
そういえばこの写真、もともと中に入ってなかったということははずせるんだよな?
よいしょ、爪を入れて、こう、何回かやったら、取れた!
そういえば俺は過去にこの写真見たことはあるんだろうな。
だからきっと忘れてても色々再現されたりするのかな?
こう言うのって写真裏に名前が書いてあったりするんだけどそれもあったりして、なんて。
く、くるしい、急になんで……。
見ることを拒否してるのか?視界がゆがむ。
「こわいよね。」
フィーネ!?……羽根?いややっぱりフィーネ?
「でも大丈夫。もうあなたの思い出が助けてくれる。」
この感情は、こわい、なのかな。
「貴方は自分に封をした。ただ記憶を失っただけじゃなく、未来の自分のために。」
ウチワさん?これは……。
「お前はその時はその時で最善の判断をした!」
イクシアさん!思い出を羽根が拾ってくれてるのか?
「思い出さなければ苦しむ事もないぎゃ。けれどもう先へ進むのに必要になってしまったんぎゃね。」
タートルさん。記憶の中から人格を作って語りかけさせてるのか?あの羽根が。
『越える力はもうある。そのピースも。』
フェイ。何となく言っている理解できる気がする。
頭ではちっともわからないけれど。
『それらはふかーくふういんしたんだよねー。』
ウメ。ただ忘れただけじゃなく、前の自分がわざわざ鍵かけて封じた記憶……?
『これまでの事思い出せ……ぐう。』
トマト。何か思い出せる範囲で自分へのヒントが。
『きっと最後の謎解きです。自分を思い出してくださいね。』
イベリー。写真の裏、なにか書いてあるのはわかるのに読むことを自分のどこかが拒否してて読めない。
俺の、過去のキー。
何があるんだ?いやそもそも。
そもそも良く考えれば妖も、羽根が再現した人格も何かおかしくないか?
言ってる事が何か、なにか引っかかる。
どういう事なんだまるで自分が自分じゃないみたいな。
ダカーポはまるでこちらと同じ姿形になってきた。
それにダカーポそのものの動き、まるで昔から熟知してるみたいだった。いや自分のことなんだけど。
ダカーポが言っていた事。
物真似じゃないっていうのはこちらを惑わすための言葉だったのか?
ただ惑わすだけではなく、断言する事はダカーポは基本的に嘘ではない。
こちらをコピーしているんじゃなくあれは奴そのものの技……。
あんな特殊な変身、自分とダカーポだけ使えるものなのか。
奴はこちらと同じ変身をして、思い出させるように何か言ってたなあ。
それがキーになるのだろうか。
まるで自分の方がずっと強く扱えるみたいにあてつけのように……。
なぜあんな何もかも似てて、けれどこっちはどうしても5人で対等なんだろう。
そりゃ俺は誰かの術をや技を真似たりするのが精一杯であんなにうまく扱えないけれど。
……そういえば変だな、あの精霊術、変身時の闇の精霊術、あれはなんで使えるんだ?
弱体時ダカーポも同じような術を使ってきたのが同じようなのを見た初めての時だし、俺はいつのまにオリジナルの術を?
……オリジナルなのか?過去の記憶、忘れられた中にそれらが?
技や術が見よう見まねでコピーしたものなら、変身術だってもしかしてダカーポのコピー?
名前だって、ロケットだってこのロケットからコピーした。
昔からダカーポのことを知っていて、それら全てが記憶無くとも身体に深く刻まれたものなら、ダカーポの変身術だって精霊術だって真似ているかもしれない。
ダカーポがそれの本物。
だとしたら、俺はダカーポとどんな関係を?記憶無くしてもその形づくれる……。
形。
人の時もピアニッシモという変身で
戻るんだ。
正確には、それすらも変身して成ってる。
俺は重大な勘違いをしていたのかもしれない。
この写真、写ってるの俺……じゃない……?
ダカーポの、人間としての姿はあの毛のない顔の姿。
だけどあれがダカーポの一つの姿にすぎなかったら?
あれが、“ピアニッシモ”の姿じゃなければ?
一度もダカーポは変身した後あの人に戻っていない。
あれが“ピアニッシモ”じゃなかったら、そして俺があらゆるものを真似ているのなら。
この写真に写る人間は、まさかダカーポの“ピアニッシモ”……!
そもそもこの写真、ダカーポから渡されたものだ。ダカーポが写っているものなのかもしれない。
一度もダカーポはこの写る人間をロケットと言っていない。
それが、ダカーポや羽根が映す人格が話す事の引っかかる事だとしたら。
俺は、誰だ?
キオク。
思い出。
だめだ、飲み込まれるな。
自分が何者であるにすれ、俺の思い出は俺だけの物だ。
落ち着くんだ、俺。
さっき言われたじゃないか、思い出が助けてくれるって。
俺は俺だって、その思い出たちが支えてくれている。
だけど、何だか確信に迫ってきている気がする。
俺がそこまで深くダカーポの事をコピーするのならよほど深い関係だったのかもしれない。
そういえばこれがダカーポだとすると変だな。
ダカーポはアヤカシ。アヤカシは精霊がいない存在。
そして俺にも精霊はいない……。
ダカーポはなぜここでは人間なのに精霊がいないんだ?
それとも、これがダカーポの精霊?
ダカーポに精霊がいたらアヤカシじゃあないなあ。
……それともいなくなった?それでアヤカシに?
この精霊はどこへ行ってしまったのかな。
俺にも昔いたのかな?……いや違うな、ダカーポが断言してた、最初から俺の精霊はいないって。
……どういうことだ?何かおかしい。
俺は最初から精霊がいないならなおさらここに写る人間は俺じゃない。
けれど、俺はこの写真がはまっていたロケットを握りしめていた。
写真が本当にこれだって思うのは俺がこの写真の裏を見れないことからもわかる。
この写真がそこまで大事なのか、俺は。
俺は……精霊がいない……写真の人と精霊……まさか。
ははは、いやまさか。
あまりにも、そんな。
俺は人間じゃないのか!?人間じゃなくて俺は……。
この写真の?
『精霊なのか?』
彼の全身がぐらつく感覚が襲う。
壊れそうな自分を必死に抑えながら改めて写真をみる。
自分の姿。
精霊の姿は黒い輝きを帯びた綺麗な黒長毛の犬の姿。
真っ赤な目と身体以上に長い尻尾が特徴的な姿が彼の姿だった。
彼は改め裏をめくり書かれている名前を見る。
ダカーポ
&
────
「おらあっ!」
雷の鎗を何とか弾いてロケットを守る。
二重でガードしてやっと弾き返した術、何度も繰り返させるわけにはいかなかった。
「ロケット、大丈夫か!……ロケット?」
ロケットの小型形態が黒くなっていき、ドロドロと溶けるようになくなっていく。
その中から一匹の精霊。
すくりと立ち上がり首を振って目を開ける。
尻尾を垂らしダカーポを睨む。
「やっと思い出したんだね?影の精霊アップル。空っぽの精霊!」
おまけ休憩所
ロケット「アップルらしいけど俺はこっちの方が良いなあ。」
フィーネ「アップルさん?」
アップル『はーい!』
フェイ『ひどい手の平返し!』
─────────
「えっ!?」
フィーネたちはロケットの方を見る。
黒犬の精霊が黒く輝いてその場にいる。
何となくわかりはするが誰もがまさかという反応をする。
「ほら、ロケットくんもといアップルさ、きっと記憶が今の衝撃で戻ったんじゃない?」
ダカーポの言葉を無視し、ロケットは自分の身体を改めて確認する。
『そうか、俺……。』
身体を宙に浮かべ、笑いの表情を浮かべるダカーポから目を離さないようにしつつ事情を全員に話し出す。
『まだ全部思い出せたってわけじゃない。正直まだ自分でも信じられないことの方が多いんだ。けれど俺はロケット、それは確かだ。アップルというのも事実。昔の俺の名前で、そこのダカーポの精霊だったのも。』
ダカーポはゆっくり5人から離れ地面に着地して変身する。
「フォームコーダ。」
ローブを付けた毛のあまりない顔の人間に再び戻る。
「僕はここで一気に襲うほど不粋じゃないんでね。混乱が解けるぐらい待つよぜんぜん待っちゃう。」
どこからか机と椅子ティーセットを召還し、アップルティーを注いで飲む。
「相変わらずきまぐれだけど今回は助かったね。」
油断はしないように武器は手放さずロケットの周りに集まって4人と4匹は話を聞くことにした。
『俺が新たに思い出した事は少ない。けれど大事な事ばかりだ。』
ロケットは人間時の服を持ってきてポケットから写真入れのロケットを取り出した。
写真入れを開いて貰って中の写真を改めて全員で見る。
『こっちの人間が俺が俺自身勘違いしてずっとなっていたダカーポ本来の姿。』
ロケットの解説フィーネたちは早速疑問符がつく。
「え?でもダカーポの姿ってあの顔じゃあ……。」
紅茶を飲んでいる少年と写真の少年はもはや種族からして違う。
ロケットは出来る範囲で解説していく。
『あの姿はフォームコーダ。アヤカシの姿なんだ。あれとは別に人間形態のフォームピアニッシモがある。そうだよな、ダカーポ!』
ダカーポは紅茶を置いてやれやれと言った感じで椅子から立ち上がり、変身する。
「フォームピアニッシモ。」
黒の繭がダカーポを覆って、消えた中から出てきたのは毛並みこそ水色だが写真の少年そのままの姿だった。
「あ、色やっぱり気になる?ちょっとイメチェンしてね、ほらそこの偽物と色被るのも困るしね。まあ、染毛剤はアップルだけどね?」
“アップル”はダカーポを睨んで話を続ける。
『俺は完全に思い出せたわけじゃあないけれどあいつが俺にしたことはわかる。それも順を追って説明する。』
適当な相槌を4人と4匹は打ちながらロケットの話を聞き続ける。
まず意識を失った後自身の記憶を辿り考え想像し自己補完し想像が確信へ変わっていった事を。
自分は記憶を失う事件の後、気を失う寸前に精霊である事を捨てるように人に化けてそれを起きてもたった今まで心の奥まで信じていたこと。
アップルはダカーポの精霊だったし、事実上関係性は未だ途切れていない、つまりダカーポの生死が自身の生死に深く関わる事。
これまでは人間として死んだりダメージを受けたりしたため人間として回復するためにエネルギーを多く使う必要があるが限定的不死だった事。
それほどまでに深く自身の心身に影響を及ぼすほど精霊としての自分を深く深く拒否していたこと。
そして、精霊として覚醒した今生死と残りエネルギーは関係が薄くなったがダカーポの特殊な一方的関係のせいでホライズンのようにあらゆることを自身のエネルギーで補う必要があること。
そしてダカーポがアップルにした特殊な一方的関係の事。
『はっきりとは覚えていない。一つの事柄を思い出すだけでも全身のエネルギーを使い果たしそうだから。だから今わかること。そいつは自分が限界を越えるために俺を、俺を!』
ロケットの目から自然と涙が流れる。
『俺を食ったんだ。精霊としての力、二人で積み重ねた経験、想い、能力、全て。』
ダカーポは笑顔でアップルティーを飲み干し、足を組んでロケットを見物のように見る。
「食った……そんな事できるのか。」
イクシアが訪ねるとロケットは頷く。
『詳しくは覚えていない。暗い影が牙を剥いてこちらを飲み込もうとくらいつく瞬間。ダカーポの笑顔。それだけは覚えてる。俺が次記憶ある時は身体の感覚が無くて伸ばそうとした前脚もなんか目の前に転がってて俺死ぬんだなってのとダカーポに何もかも取られて裏切られたんだなってのとが分かって。』
ロケットは涙を拭って話続ける。
『もちろん精霊だからそれでは死ななかったんだろうからちょっと途切れるけれどまだ続きがあって。その後記憶がある所は何があったかその時の自分は既に忘れてて目の前の誰かがこっちの目に変な光を浴びせてて……今振り返ればそれは入念に記憶を忘れさせる魔術を使うダカーポだったんだけどもうそれも分からなくて。』
同情か今にも崩れそうなロケットを支えるためか、自然と精霊たちがロケットの周りに集まる。
『ダカーポが消えた後それの記憶すらみんな忘れててでもどうしても生きたいって。それだけは強く思って縋る気持ちと身体に刻まれたダカーポの精霊でいる事への恐怖から逃れたい気持ち。でも唯一身体が忘れてないのは自分の生まれつき出来る事とそんな風にまでされてまでも元相方に対する根源的な思い。俺がしがみついたものは皮肉にも捨てたがっていた精霊である証の術に捨てられた相手の姿だった。』
息も絶え絶えに必死に話すロケットにかける言葉が見当たらず4人4匹は静かに聞いていた。
『あの写真入れのロケットは元々フックがついてて首輪をしていた俺の首にぶら下がっていたものだったんだ。もう壊れて無くなってるみたいだけれど。写真も中には既にないのにまるで記憶のない何も分からない自分の最後の物みたいに、人間の姿になった俺は近くに落ちていたそのロケットを腕を伸ばして掴まえ、そしてそのまま力つきて記憶が飛ぶ。おそらくその後ダカーポの言っていた“一周目”が始まった。記憶はあまり戻ってないけれどダカーポの言った通りならここで決着して次元の狭間に飲み込まれタイムループしてしまい、ダカーポが俺から全て奪う瞬間に戻された。そこからの記憶は少しあって俺は記憶が消される瞬間に深く自分自身に命じさせたんだ。二度とこの事を思い出さずに出来ることなら違う道を、それでも再び対峙する事になるなら命を賭して相手を斃す事が出来るように絶対に思い出さないようにって。』
羽根に関しても少し話すが『あれは俺も良くは分からないが悪い物ではないんだと思う』と言って軽く流す。
『そして今感じてることだけれど俺はあのダカーポからのエネルギーの相互やりとりも心のつながりも一切感じないのに一つだけ分かるんだ。ダカーポが死ぬと俺も死ぬ。その繋がりだけ残してあるんだ、あいつは。』
今まで黙って話を聞いていたダカーポが立ち上がって首を横に振る。
「いやいや、俺はまだ万能の神様じゃないんだ、出来ない事だってあるのさ。めんどくさいやりとりなしでゲームは楽しみたいしね!」
ダカーポの言葉に嘘はなさそうだと感じ取るがどちらにせよ4人と5匹にとって困った事が残った。
「つまり、ダカーポを斃すとロケットさんも斃れてしまうという事、ぎゃ?」
タートルはダカーポとロケット交互に見る。
『それはすっごくマズいような……。』
フェイが不安そうにロケットに言うがロケットは首を横に振る。
『良いんだ。俺は。覚悟は出来てる。』
少し、尻尾を股内へと巻いた。
『精霊王が言っていた生きている者の使命。それはきっと自分として正しく死ぬ事。精霊である俺なら宿主の死による死。ただそれだけ。』
強がりのような悟りのようなそんな悲しみが漂う笑顔をロケットは作る。
「ロケットさん、ちょっとごめんなさい。」
フィーネが突然ロケットを抱き上げる。
『フィーネ……?』
「今まで何度もロケットさんに私は救われてきました。そして何度も私はロケットさんに甘えて泣かさせて貰いました。だからそろそろロケットさんがそんなに頑張らなくたって良いじゃないですか。まだ私はあまりロケットさんに返せてないんですから。」
フィーネはロケットをぎゅっと抱きしめ震える。
「ロケットさんももっと泣いて良いじゃないですか。どうしてこんなロケットさんばかり大変な目にあってるのにそんな風に強く笑えるんですか!みんなに甘えてもっと泣いたって良いじゃないですか……!」
堪えきれない涙がロケットの顔に落ちる。
『大丈夫、全部終わったらきっと俺泣いちゃうからさ、その時に甘えさせてよ。』
フィーネの抱きしめる力が、温もりが、優しさの匂いがロケットには堪らなく辛かった。
本当は今すぐ声をあげて泣きたくなるほどに強く暖かいその腕と身体は優しくロケットを包んだ。
でもロケットは今それをするわけにはいかなかった。
最後の相手が待っていたから。
「おや?話し合いは終わったのかな?」
いつものまにやらダカーポはアヤカシ形態へと戻っていた。
フィーネたちは再び武器を構え、理解した上でダカーポへと立ち向かう姿勢を見せた。
フィーネは涙を拭き、ロケットフィーネの側でフェイと共に浮いている。
タートルはトマトを手の平に乗せ、イクシアの頭にイベリーは止まり、ウチワとウメはそっと手の平と前脚を合わせる。
「少し前とは違って全員良い顔になったねえ!さあ、ゲームしようか!」
ダカーポは両手に片手剣を持って笑顔を浮かべる。
『ゲームはお終いだ、ダカーポ!』
ロケットはそう言って唸り、4人と4匹は同時に叫ぶ!
「精霊覚醒!!」
おまけ休憩所
フェイ『フィーネとロケットってやっぱりわりとこう?』
ロケット『なんなんだよ器用に尻尾でハートマーク作っちゃったりして!』
フィーネ「もう、からかわないのフェイ!」
フェイ『だーよねー。フィーネって恋愛からはほど遠いもんね。』
フィーネ『何でもかんでも恋愛に結び付けようとする方が変なんだって!』
ロケット『なんだろう、何か俺すごいもやもやする!』