ヒンヤリオレンジのシャーベットー魔力上昇効果を添えてー
エマの付与魔法効果のおかげで珍しくやる気がみなぎっているフィンは、今ある材料で他に何が作れるだろうかと考えた。
「あまり手が込んだものは無理だな……ヒンヤリオレンジがある。シャーベットにしよう」
フィンは本日手に入れたヒンヤリオレンジを手に取った。
ヒンヤリオレンジはその名の通り、ヒンヤリしているオレンジだ。実自体が冷気を発していて、氷がなくとも冷たさを楽しめる。夏の暑い時期に重宝する果物である。
エマが背伸びをして顔を出した。
「シャーベット、大好物です! どうやって作るんですか?」
「意外に簡単だよ。まずは、シロップを作るため青砂糖と水を鍋にかける」
「焦げ付かないように、ですよね。なら、わたしがやります」
「じゃ、任せた」
「はい!」
五歳児状態のエマは身長が圧倒的に足りていないため、高めのカウンター用椅子の上に立ち、鍋の中身をかき回し始めた。
「次に、オレンジを半分にして果汁を絞る」
フィンは手当たり次第全てのヒンヤリオレンジを半分に切ると、果汁絞りの道具を引っ張り出して、果汁を絞った。
「果肉と皮は微塵切りにして、シャーベットの食感のアクセントになるようにする」
「フィンさん、シロップできました」
「じゃ、粗熱取るから火から下ろして置いておいて。こっちの微塵切り手伝えるか?」
「はい、やってみます」
包丁だとエマの手には大きすぎるので、ナイフを手渡す。
意外にもスムーズな手つきで微塵切りをこなすエマ。
「なんだ……普通にナイフも使えるし、シロップも上手くできてる。実は料理得意なんじゃないか?」
「いえ。私、こうしたものを見るとどうしてもアレンジを加えたくなる性格でして。レシピ通りに作れた試しがないんです。だから出来上がるのは、独特な味のものばかりになってしまうんです」
料理初心者にありがちな失敗だった。
ましてお菓子はきちんと計量して、レシピ通りに作ってこそ。
アレンジを加えるのはある程度の経験を積んでからにした方がいい。
単純作業ならばこなせそうなので、そういう部分をやってもらおう、とフィンは心に誓った。
「オレンジの果汁、微塵切りにした果肉と皮、シロップをバットに入れて冷やし固める」
「付与魔法・凍結!」
「……秒殺で固まった……」
道具いらずである。
「固まったら、一度フォークで崩してかき混ぜて、もう一度冷やして……」
「付与魔法・凍結!」
「……冷えたから、もう一度フォークでかき混ぜたら、完成だ」
冷やす工程をぶっ飛ばしているので、あっという間に完成してしまった。
「食べる?」
「はい!」
緑色の目を期待に輝かせているエマのために、シャーベットを器に盛ってあげた。
「いただきます!」の声と共にシャーベットを食べるエマ。
「これは……! オレンジの酸味がシロップの甘さと混じり合って、絶妙なハーモニーを奏でていますね。ヒンヤリ、シャクシャクの食感はさっきの結晶ブドウの寒天ゼリーとはまたちがって、これはこれでとても美味しい!」
「それはよかった」
「このさっぱりしたオレンジシャーベットは、前衛職よりも後方で戦う探求者向け……というわけで、付与魔法・魔力上昇!」
オレンジシャーベットがエマの魔法に照らされてぴかーと光る。
「はい、できました。名付けて『ヒンヤリオレンジのシャーベットー魔力上昇効果を添えてー』です」
「君、付与魔法のバリエーションがすごいね」
「まだまだこんなものじゃありませんよ!」
結構たくさん魔法を使ったというのに、エマはピンピンしている。
とはいえ既に時刻が明け方近い。
「いい加減、少し休んでおこう」
「そうですか? 徹夜なら得意ですよ」
「中身はともかく、見た目が五歳の子に徹夜なんてさせられない。ほら、部屋に引っ込んで」
「フィンさんがそう言うなら、まぁ……」
エマはしぶしぶといった様子であてがわれた部屋へと引っ込んでいく。
エマを送り出したフィンは、もう一仕事すべく、カウンターに並んだお菓子たちに向き合った。
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