第97話 磨耗
エレベーターが降下すると、不意に視界が開けた。
吹き抜けの広い空間に、網状の巨大な鋼鉄の板で出来た3段の棚が設置されている。
巨大ロボットがありそうな雰囲気だが、あるのは美少女フィギュアだ。
並んでいるのは高さ3~4m、2.5倍スケールの4体のめがねっ娘。
各種情報処理用のサーバなのだが、なぜか肌色の人型だ。
ミニスカート型の放熱パネルがひらひらと揺れている。
下からは地下水脈から吸い上げていると言う冷たい風が吹き込む。
たまに吹く突風が4人のスカートを派手に捲り上げる。
それでなくとも降下する毎に俺の視界はローアングルになる。
いや、人形のパンツが見えたからどうなんだって話なんだけどね。
『ゴブリンダンジョン』で何かある度にこの光景を見るのか。
戦闘前に緊張感が殺がれそうだが大丈夫かな?
いや、この4体も都市機能を支える重要なサーバだ。
俺が守るべきものであることに違いはない。
ねこ耳メイドのしましまパンツを見上げながら言う事でも無いけれど。
地下5層に付いたエレベーターは俺が降りると自動で上に戻っていく。
降りた先には幅1mほどの薄暗い通路が60mほど続いている。
直方体の岩がスライドして隠し通路の出口から明かりが入る。
そこを出れば、なつかしの最初のボス部屋だ。
念のため、隠し通路の出口はボス部屋の入り口側に設置した。
仮にエレベーターを破られたとしても、普通にボス戦闘に移行できる。
ボス部屋側から隠し通路を発見しても、岩を破壊する手間がかかる。
その間にボス部屋のリッチや固定型単機能ゴーレムの攻撃を受ける。
俺自身がここを出るときは、メインダンジョンに瞬間移動すればいい。
俺の代わりにコアルームを守るボスとしてリッチが中央にいる。
手前には大盾を装備した乙女の裸像型のゴーレムが2体。
リッチの両脇にはV字の帯のようなエロ衣装の弥生が2人。
左右の矢狭間にも同じ衣装の弥生が2人ずつ居る筈だ。
そして、同じく矢狭間にはゴブリンアーチャーが各5体
・・・・左右の矢狭間の火力を強化しとくの忘れてた。
一樹「なるみ、近くで手の空いてる忍者を10人ほど送ってくれ。配置は任せる」
なるみ「あいさー」
コアルームに入って『聖騎士』たちの様子を確認する。
若い方の騎士がゴブリンロードと対峙している。
『聖騎士』は積極的に戦闘に参加する気は無いようだ。
そういえば、若い3人のクエストだったか。
俺の派遣したゴブリンメイジがうまく援護している。
しかし、その間隙を突いて女の魔道師がゴブリンメイジを倒す。
魔法の援護を失ったゴブリンロードを若い騎士が切り伏せた。
ロードとはいえゴブリンではこんなものか。
続いて一行はオーク部屋に突入する。
『聖騎士』は突進して片方のオークを一撃で倒した。
もう片方は若い騎士に任せ、盾をかざして後衛の2人を守る。
若い騎士は苦労しつつも自分が致命打を受ける事は防いでいる。
『聖騎士』の盾と女の魔道防壁の影で、もう一人の女が魔力を練る。
放たれた魔法は矢狭間の奥のゴブリンの一群を一掃した。
同じ事を3回繰り返され、3方向から援護していたゴブリンは全滅。
矢と魔法の援護を失ったオークを、若い騎士はようやく倒した。
『聖騎士』はともかく、他の3人は加護なしのはずだ。
ゴブリンとオークでは上位の冒険者を止めるのは難しいのかな。
若い騎士に少しばかりのダメージは与えられたみたいだけどね。
傷を回復し、2人の女たちがマジックポーションを飲む。
『聖騎士』一行は地下3層へと続く扉を開いた。
地下3層は各種ゴブリン型ガーディアンとの連戦の階層だ。
壁のあちこちには固定型単機能ゴーレムも埋め込まれている。
体力と魔力を消耗しつつも、危なげなく進んでいく。
『聖騎士』一行は地下3層のボス部屋へと突入した。
トールヴート「くっ!ここは遠距離特化構成か?」
入って早々、リッチと固定型ゴーレムの遠距離攻撃の歓迎を受ける。
一行は『聖騎士』の大盾と魔道防壁でこれを受け止めた。
女1「エルフ?なんて破廉恥な!」
女2「あれは誘拐された娘でしょうか?」
トールヴート「いや、あれはエルフに似せただけの魔物だろう」
騎士「ええ、俺もダンジョンで人型の魔物と戦った事があります」
トールヴート「突貫する!離れるなよ!」
遠距離では分が悪いと悟った『聖騎士』一行が突撃する。
リッチと弥生2人の魔道防壁はダメージを大きく軽減する。
しかし、一行の連続攻撃に対応し切れず、一人また一人と倒れて行く。
くそっ!雪風に続いて弥生までも!
弥生の胸が切り裂かれ、魔石が取り出される。
いや、あれはコピー人形!本体は無事だから大丈夫だ。
ここで『聖騎士』一行が帰ればそれで終わる。
コピー人形はまた作り直せばいい。
引き返そうとした『聖騎士』一行に油入りの壷が投下される。
地下3層の通路は炎に包まれた。
だが、『聖騎士』には炎耐性付の鎧がある、
他のメンバーも優秀な人材らしい。
この程度の事態はどうとでもなるだろう。
コピー人形とはいえ弥生を2人も殺したのだ。
これくらいの意地悪はしたっていいだろ?
それに、これはもともと設置してあった防衛設備だ。
別にやつらへの意地悪の為にわざわざ用意したわけじゃない。
他人の施設に侵入するなら反撃を受けるのは想定内のはずだ。
魔法使いは『賢者』候補と言われるくらいの秀才らしい。
消火に使えそうな魔法の1つや2つは覚えているだろう。
お手前拝見といこうか。
ところが、どういう訳か『聖騎士』一行は地下4層へと向かう。
炎に追い立てられながら、ゴブリンを次々と切り伏せていく。
どうしたんだ?前に進むほど状況が悪化するのは分かるだろう?
さっさと消火魔法を使って撤退すればいいものを。
それだけの量の油を集めるにはけっこう金もかかったんだぞ?
とうとう『聖騎士』一行は地下4層のボス部屋へと突入する。
そしてまたしても、2人の弥生を殺した。
弥生の胸が切り裂かれ、魔石が取り出される。
俺は『プライベート・ブラック』の仮面を外してテーブルに置いた。
ゴブリンダガーの攻撃に対応し切れず、後衛の2人が負傷する。
魔法の援護を失った若い騎士が、単機能ゴーレムの矢に貫かれる。
油壺が投下され、些か気の早過ぎる火葬を始める。
『聖騎士』は若い3人に見切りをつけ、そのまま奥へと進んでいく。
どういうことだ?『聖騎士』一人なら炎の中を平気で進めるはずだ。
『聖騎士』の誓いはどこへ行ったのだ?
気の遠くなるような連戦を潜り抜け、『聖騎士』が扉を開く。
トールヴート「おやおや、領主殿。奇妙な所でお会いしましたな」
一樹「全くだ。『聖騎士』様ともあろう御方が他人の住居に無断で押し入るとはね」
トールヴート「それは失礼した。だが、このような歓迎を受けたのは初めてだよ」
一樹「そういってもらえると頑張って用意した甲斐があるね。ご感想は如何かな?」
地球の発明品を使ったアイデアチートはなかなかできない世界だ。
だが、ようやく驚いてもらえたようだな。
トールヴート「有効であることは認めざるを得ないな。おかげで部下を3人とも失ったよ」
一樹「それはどうも。おかげでこの戦略の効果を確認できた」
トールヴート「貴様は命をなんだと思っているのだ」
一樹「侵入者に質される謂れはないな。武器を掲げて押し入るのなら、せめて死ぬ覚悟くらいはしておけ」
トールヴート「言われるまでもない。ダンジョンに挑むからには部下達も死ぬ覚悟はできていた」
どうにも噛み合わないな。
少しは道理の分かる男かと思っていたが、『聖騎士』など所詮は狂信者か?
トールヴート「ひとつ確認したい。このダンジョンに人間族の娘を連れ込んでゴブリンに与えているというのは本当か?」
一樹「そのような事実はないな。ゴブリンの巣窟に自ら入り込んだ女については俺の知ったことではないがね」
トールブート「小金の稼げる遊技場のような施設があるときいたが、あれは何の為だ?」
一樹「ただの遊技場だよ。もっとも、最近は許可も得ずに勝手に入り込んでいる娘が多いようだがね」
女の子を楽しませるというより、俺が見て楽しむための施設だけどね。
俺が明示的に招いたなら覗かないが、勝手に入ってくる女の子は別だ。
正確には「プライベート・ブラック」として招いたか否かの違い。
トールヴート「死人も出ていると聞いている」
一樹「それはルールを守らず強引に押し入ろうとした者たちだな。表示されたルールを守っている者については、招かれざる客であってもこちらから攻撃はしていない」
トールヴート「女を誘い込み、ゴブリンの上位種を産ませるための罠ではないのか?」
一樹「ゴブリンの居住区との間には隔壁を設けている。遊技場に入った娘がゴブリンに襲われることはないはずだ」
トールヴート「このダンジョンでゴブリンの上位種の比率が異常に高いことをどう説明する?」
一樹「それは知らん。俺がやっているのは奴らが巣を守りやすい環境を整えることと、食用に獣を狩ったときに出るくず肉やはらわたを分けてやる事くらいだ。栄養状態がいいせいかもしれないな」
トールヴート「・・・・嘘を言っている目ではなさそうだな」
一樹「誤解が解けたようで何よりだ。だが残念だ。こんな所まで強引に押し入ってくるような暴漢を生かして帰す訳にもいかない。『聖騎士』の誓いとは随分と軽いのだな」
トールヴート「あのような仕掛けで追い込んでおいて何を言うか」
一樹「見苦しい言い訳はよせ。炎を恐れる『聖騎士』など見たことがないぞ?」
トールヴート「・・・最後にもう一つ確認したい。貴殿はゴブリンに住処を与え、残飯程度とはいえ食べ物まで与えている。やつらは貴殿の仲間ではないのか?」
妙なことを聞く。
それを確認してどうしようというのだ?
一樹「仲間と思ったことはないな。侵入者避けに多少は効果があるから置いているだけだ。人間族も蛇をむやみに殺したりはしないのだろう?」
人間族はネズミを殺す蛇を益獣として大切にしているらしい。
ストーンバイパー辺りは別だが、小さな蛇が人間を襲うことは少ない。
トールヴート「ではダンジョン下層のゴブリンたちはどうだ?棲家は清潔に保たれ、武装も整っていた。それなりに統率の取れた戦いをしていたようだが?」
一樹「ああ、やつらは確かに俺の配下だな。入り口付近の連中とは違うよ」
入り口付近に住み着いているのは本物の生きたゴブリン。
下層にいるのはゴブリンを模したガーディアン、魔道人形だ。
トールヴート「残念だ。貴殿とは分かり合えるかも知れないと思った事もあったが、それを聞いて戦う心が決まったよ」
一樹「おやおや、余程ゴブリンがお嫌いと見える」
トールヴート「貴様ほどではないさ」
互いに武器を構えなおす。
もはや言葉は不要か。
一樹「撃て」
リッチが雷撃を放ち、壁に埋め込まれたゴーレムが鋼の矢を放つ。
『聖騎士』は巨大な盾を正面に構え、少し角度をつけて攻撃を上に弾いている。
中央の石畳を力強く踏みしめ、押し負けずに歩を進めて来る。
見る限りでは武器は槌だけのようだ。
トネールのような隠しだまは持っていないのか?
それとも、ゴブリンとの連戦で使い果たしたか?
或いは、盾の後ろで何か準備をしているのか?
一樹「ストーンバレット!」
なんにしても、待ってやる義理は無いな。
『聖騎士』は更に低く構えて俺の魔法の威力を往なす。
僅かに体勢を崩すが、1歩だけ引いて踏み止まった。
廉価版の単機能ゴーレムの攻撃では歩速を少し鈍らせる程度か。
テッポウウオの酸に至っては気にする素振りすら見せない。
さすがに硬いな。
一樹「ストーンバレット!」
低く構えなおした『聖騎士』は、やはり1歩引くだけで踏み止まる。
石弾もリッチの魔法もノーダメって訳じゃなさそうだが、有効とも言い難い。
一樹「魔弾よ、あらゆる障害を越えて彼の敵を穿て。スナイプ!」
『聖騎士』の歩速が僅かに速まる。
鋼の弾丸が当たる瞬間に大きく盾を振って攻撃を往なす。
その横腹をリッチの魔法とゴーレムの矢が襲う。
『聖騎士』は盾を構えなおし、一気に距離を詰めた。
大盾を持つ乙女の裸像型のゴーレムと近距離で対峙する。
これでは味方のゴーレムが射線を遮ってしまう。
どうする?
いくら真正面からだったとはいえ、あの魔弾を往なされるとはな。
ライフル弾をイメージした魔法で、マッハ3~5位はあると思うんだが。
あれで通用しないとなると、後は何ができる?
1体目の乙女の裸像が砕け落ちる。
一樹「ストーンバレット!」
再び低く構えた『聖騎士』に攻撃を往なされる。
『聖騎士』はもう片方の乙女の裸像の影に隠れた。
間近で見た盾には魔弾で抉られた線状の跡が見えた。
石弾による凹みも見えた。
効いていない訳ではない。
腕にも相当な負担がかかっているはず。
このゴーレムが砕かれる瞬間を狙ってもう一度魔弾を撃つか?
いや、この距離では術後の隙を突かれるリスクの方が高いか?
2体目の乙女の裸像が砕かれる。
盾を前方に構えながら、槌を袈裟に振り下ろそうとする『聖騎士』が見える。
俺は振り下ろされる槌を棍棒で弾く。
『聖騎士』の上体が僅かに仰け反る。
そのまま棍棒を逆袈裟に振り下ろす。
分厚い盾が俺の棍棒を押し留める。
『聖騎士』の左薙ぎが俺を襲う。
俺はバックステップでそれをかわす。
一樹「ストーンバレット!」
低く構えた『聖騎士』に攻撃を往なされる。
その隙に距離を詰めて棍棒を振り下ろす。
文字通り鉄壁であった巨大な盾はようやく砕けた。
『聖騎士』が起き上がり様に横薙ぎの一撃を放つ。
半歩引いて避けると、お返しに袈裟に棍棒を振り下ろす。
反射的に出された『聖騎士』の左腕は確かに砕けた。
トールヴート「降参だ」
『聖騎士』が槌を落とした。
一樹「武器を拾え。言ったはずだぞ。生かして帰すつもりは無い」
トールヴート「好きにしろ。だが、少し話がしたい」
一樹「時間稼ぎか?王国の『聖騎士』は小細工が得意なようだからな」
トールヴート「生憎と俺はそんな器用な性質じゃない」
確かに今までの言動、戦い方からそういう傾向は見えない。
だが、用心はしておくに越したことはない。
一樹「いいだろう。では、その場で武具をすべて外せ」
トールヴート「酷な事を言う。腕が折れてんだぞ」
憎まれ口を叩きながらも『聖騎士』は兜を取った。
苦労しながらも鎧を脱いでいく。
石弾を受けるときに低く構える毎回の仕草。
あれが無ければ勝つのは難しかったかもしれない。
あの姿勢でなければ威力を受け止め切れないからか?
それとも連戦による疲労が奴の思考力を低下させたのか?
或いは盾役というバトルスタイル故の行動パターンか?
いずれにしろ、ここまでしてようやく勝てる相手か。
やはり『聖騎士』との接近戦はできるだけ避けたいな。
剣の間合いに入る前に魔弾を数発は撃てる状態で戦闘を開始したい。
トールヴート「外したぞ。後は腕をきるなり縛るなり好きにしろ」
一樹「シャルロッテ」
横合いから飛んできた縄が、前に出された『聖騎士』の腕に巻き付く。
宙から沸いたように現れたシャルロッテがきつく縛っていく。
さすがに痛そうで直視できない。
トールヴート「ぐっ・・・容赦ねぇな」
一樹「悪いな。だが、今更添え木の必要もあるまい」
トールヴート「違いない」
とはいえ、やっぱり痛そうで見ていて辛い。
かといって、治癒魔法をかけるのは危険だし、そんな筋合いもない。
一樹「変な抵抗はするなよ?」
俺は縛られた左腕に手を当てて魔力を浸透させる。
トールヴートは素直に俺の魔力を受け入れた。
「痛み」を探り当て、その流れを強引に遮断する。
トールヴート「治癒魔法か?」
一樹「悪いが外れだ。痛みを遮断しただけだよ。左腕は二度と動かなくなるかもしれんがな」
トールヴート「そうか、ありがたい」
おや?恨み言の1つくらいは言ってくるかと思っていたがな。
一樹「ところで、『聖騎士』になれるのは6人だけらしいな。お前の四肢を捥いで生きたまま捕らえておいたらその枠はどうなるんだ?」
トールヴート「さあ、考えたこともないな。年齢などを理由に『聖騎士』の称号を自ら返上する事はある。剥奪される事もあるとは聞いたが、どういう手続きが必要かまでは知らん」
俺が試しにやってみるかも知れないとは考えないのか?
嘘でも「遠隔でも一方的に剥奪可能」と言っておけばいいものを。
手足をきるのはともかく、捕らえておくのは試す価値はあるか?
『聖騎士』の枠そのものを減らせるなら戦略的な意味は大きい。
だが、逃がしてしまった場合のリスクもかなり大きい。
こいつはいろいろと知りすぎてしまった。
ゴブリンダンジョンと『えろえろダンジョン』の主が俺である事。
そして、このダンジョンの防衛システムと俺のバトルスタイル。
それでなくとも同じ『聖騎士』と2度も3度も戦いたくはない。
特にこいつは優秀な魔道師なんかと組まれたらかなり厄介だろう。
さっきは左腕が使えなくなると言ったが、実は俺も分からない。
一時的な麻酔効果なのか、不可逆的な神経麻痺を起こすのか。
いずれにせよ、優秀な治癒術師なら回復させられるかもしれない。
こいつは殺す、そういう事でお互いに合意は得たはずだ。
だが、勝敗が決し、無抵抗な相手を殺すのは人としてどうなのか?
こんな事なら話など聞かずにさっさと殺してしまうべきだったか?
トールヴート「そちらからの質問は終わりなら、こっちの話を始めても構わないか?」
一樹「とりあえず場所を変えよう。目と鼻と耳を塞がせて貰うぞ」
トールヴート「承知した。なんなら足枷もつけるかい?」
一樹「考えておこう」
シャルロッテが手早く目隠しと耳栓、鼻栓を付けていく。
なるみに担架を用意させ、足も縛ってその上に乗せた。
歩かせて歩数や方向感覚で位置を把握されるのも面倒だからね。
たまに意味も無く担架を方向転換させて方向感覚を狂わせよう。
そうやっている間にダンジョンの改装をして専用の監獄を造る。
エレベーターの昇降感覚は分かりやすいから使うのは危険か。
勿体無いがフロア拡張してボス部屋の隣、隠し扉の奥に作ろう。
ボス部屋まで到達された訳だし、どの道防備の強化は必要だ。
教会には『聖騎士』の位置を確認する魔法はあるんだろうか?
『聖騎士』の生死を確認する方法は有るのか?
『聖騎士』の称号を遠隔で一方的に剥奪する方法はあるのか。
有るにしろ無いにしろ、トールヴートの今回の行き先は承知している筈。
『ゴブリンダンジョン』で死んだか捕らえられたかした事は明白だ。
ならばこのダンジョンは今後更に攻め込まれる事になるだろう。
サブダンジョンではあるが、しっかりと防備を固めなければならない。
トールヴートを奪い返されると色々と面倒な事になりそうだ。
『ゴブリンダンジョン』に関する様々な情報が流出する事になる。
それに治療が可能なのであれば、戦力的にも奴の存在は大きい。
単身でもそこそこ厄介だったが、優秀な後衛と組まれると勝てる自信はない。
防備の硬いメインダンジョンに移送して拘禁するか?
だが、『聖騎士』の位置を把握出来るなら俺の関与が明白になる。
そうなれば公爵にも手の平を返され、人間族との全面戦争になりかねない。
さっさと殺してしまうべきだろうか?
出来るのか?俺に?敵とは言え既に投降し無抵抗な男を?
いや、相手はこちらの生命を脅かしたダンジョンへの侵入者だ。
処刑の理由としては充分だろう。それは互いに了解済みの事。
或いは新たなサブダンジョンを監禁用に構築するか?
それで教会が『ゴブリンダンジョン』と新ダンジョンのどちらを狙うか。
それで『聖騎士』の位置を確認出来るかを検証出来るかもしれない。
ただ、いつでも殺せる状態にしておく必要はあるな。
『聖騎士』に6人という人数制限があるなら、生死の確認は出来るだろう。
後は教会が遠隔で称号を剥奪出来るのかどうか。
その方法が無いなら、監禁する事で『聖騎士』の枠を一つ潰す事が出来る。
いや、トールヴートが自ら称号を手放す可能性もあるのか?
その場合は監禁してもリスクとデメリットしか無いな。
トールヴートに何かしらの取り引きを持ちかけるか?
だが、『聖騎士』の称号を保持しているか俺が確認する方法は有るのか?
3重に鉄格子を設けた監獄に『聖騎士』を運び込む。
槌があればともかく、さすがに素手て鉄格子を破れはしないだろう。
少なくとも3重ならそれなりに時間はかかるはずだ。
監視をつけて怪しい動きがあればすぐに対応できるようにしておく。
一樹「少し身体をいじらせてもらうぞ」
トールヴート「念入りなことだな。盾を持てなくなった時点で俺にはもう戦士としての価値はないぞ」
俺はトールヴートの右足の脹脛に手を当てる。
トールヴート「今度は右足を麻痺させるのか?」
一樹「少し違うな。シュリンク」
トールヴート「む・・・なにをした?」
一樹「麻痺と言うわけではないが、右足の動きを制限した。逃げるのは諦めることだ」
トールヴート「端からそんなつもりはない」
一樹「知っている事を全て話してもらうぞ。素直に話して楽に死ぬか、拷問されてから話すか選べ」
トールヴート「・・・知っている事は全て話そう。何を知りたい」
一樹「随分と素直だな」
トールヴート「負けた上に囚われの身とあっては選択の余地など有るまい」
一樹「違い無い。『聖騎士』ってのはもっと頭が硬いと思っていたぞ」
トールヴート「他の奴らはそうかもな。生憎と俺には忠誠心も信仰心も無いもんでね」
一樹「それでよく『聖騎士』になれたもんだ」
トールヴート「そういう振りはしていたからな。教会もどこまで信じてたか分からんが、俺がそういう態でいる限りは利用出来ると踏んだんだろう」
一樹「『聖騎士』ってには特権でもあるのか?」
トールヴート「いや、大したことはできないな。だが、前も話した通り一応名誉子爵待遇だ。国立設備の利用についてはそれなりの優遇はある」
子爵ならそれなりの権力もありそうだがな。
名誉子爵ってことなら領地もないだろうし、そういうものか?
トールヴート「俺の知っている事はなんでも話す。だから、条件を出せる立場じゃない事は承知しているが、一つ頼みを聞いて貰えないだろうか?」
侵入者であるこいつの要望に応えてやる義理はない。
だが、何を望むかも1つの情報ではあるか。
一樹「一応話だけは聞いておこうか」
トールヴート「俺の母親を殺して欲しい」




